産業保健の「知」を共有するメディア

総合トップ / コラムトップ / /

産業保健とは?目的や関連法令、6つの具体的活動をわかりやすく...

産業保健ニュース・コラム 産業医・保健師・企業の人事担当者など産業保健に携わるすべての人が使えるナレッジを共有できるサービスです。

産業保健とは?目的や関連法令、6つの具体的活動をわかりやすく解説

片桐はじめ

「自社の産業保健体制を整えたいが何から始めるべきか」「関連法令や実務が複雑で不安」と悩む人事労務担当者も多いでしょう。

 

産業保健とは、働く人の心身の健康と安全を守り、能力を発揮できる職場環境をつくる活動です。法令違反を防ぎ、従業員の定着率を高めるには、実務の理解と実践が欠かせません。

 

この記事では、産業保健の定義や目的、関連法令などの基本から、企業に求められる6つの具体的活動までをわかりやすく解説します。産業保健体制の構築や実践活動の参考にしてください。

 

産業保健とは?

 

カメラ目線で微笑む若い女性医師

産業保健の定義と企業が取り組む目的、関連法令について解説します。

 

産業保健の定義と目的

産業保健とは、働くすべての人が健康で安全に働ける職場環境をつくり、従業員の肉体的・精神的・社会的な健康を維持・増進するための活動全般です。

 

以前は労働災害の防止や、職業病(業務に起因して発生する疾病)の予防、業務による疾病の増悪防止が主な目的でした。

 

しかし、現代では高年齢労働者の増加や技術の進化、社会経済情勢の変化等を背景に、産業保健の対象範囲も大きく広がり、すべての従業員が心身ともに健康で、自らの能力を最大限に発揮できる「いきいきと働ける職場環境」を醸成することが求められています。

 

この目的を達成するために、以下の3つの柱を軸とした活動が推進されます。

 

・労働災害・職業病の防止

・心身の健康の保持増進

・職場環境の改善と生産性の向上

 

さらに近年では、がん等の「治療と仕事の両立支援」や、育児や介護との両立支援、女性特有の健康課題といった、多様な働き方を支える役割も重要性を増しています。だれもが安心して就業し続けられる前向きな企業風土を育むことが、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

 

 

産業保健に関する主要法令

産業保健活動の基盤となるのは、主に「労働安全衛生法」です。法の具体的な対象範囲や、現場レベルでの詳細な指示は、「労働安全衛生法施行令(政令)」や「労働安全衛生規則(省令)」によって定められています。

 

その他にも、企業に安全配慮義務を課す「労働契約法」をはじめ、労働条件にかかわる「労働基準法」、ハラスメント対策にかかわる「労働施策総合推進法」など、従業員の健康と安全を守るためのさまざまな関連法令が存在します。

 

産業保健に関する主要な法令を以下にまとめましたので、参考にしてください。

 

法令名 概要
労働安全衛生法 労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する法律
労働安全衛生法施行令

労働安全衛生規則

法の具体的な対象範囲や、現場レベルでの詳細な指示を定める政令・省令
労働契約法 企業が従業員に対して負う「安全配慮義務」を規定
労働基準法 労働条件の最低基準(法定労働時間、休憩、休日など)を定める
労働施策総合推進法 職場におけるパワーハラスメント防止措置などを義務付ける

 

従業員の健康を守る主な産業保健スタッフ

 

白衣の医者とスーツの女性

 

産業保健活動は、医師や保健師といった専門職だけでなく、以下のさまざまなスタッフが役割を分担して進めます。

 

主な役割
人事労務担当者 事務手続き、産業医との面談設定、就業規則の整備、健康教育の推進
産業医 健康診断後の就業判定、面接指導、職場巡視など医学的見地からの指導・助言
産業保健師 健康相談や保健指導、産業医と人事労務担当者・従業員の橋渡し役
衛生管理者 労働環境の衛生的改善や疾病の予防措置など、衛生全般の技術的管理
心理職 職場のメンタルヘルス対策(相談対応、復職支援など)

※規模や業種によっては、統括安全衛生管理者、安全衛生推進者、安全管理者、作業主任者なども加わります。

 

それぞれの産業保健スタッフについて、以下で詳しく解説します。

 

1. 人事労務担当者

人事労務担当者は、産業保健活動を企業内で推進する存在です。健康診断やストレスチェックの事務手続きや、産業医や産業保健師などの専門職と従業員、管理職との連絡調整役を担います。

また、就業規則の整備や、研修などの健康教育を通じた職場の環境改善を推進する役割も持っています。

労働安全衛生法などで「事業者の義務」とされている事項を実務として遂行するため、重要な立場です。

 

2. 産業医

産業医は、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、医学的な見地から指導・助言を行う医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医の選任が義務付けられています。

健康診断結果に基づく就業判定、長時間労働者や高ストレス者への面接指導、定期的な職場巡視など、医学的見地から企業や従業員へ指導・助言を行います。

 

 

3. 産業保健師

産業保健師は、医療や公衆衛生に関する知識を有し、従業員の健康管理や予防に特化した保健師です。法的な選任義務はありませんが、従業員の身近な相談窓口として健康相談や保健指導を行います。

専門知識を持ちながら現場にも近い存在として、産業医と人事労務担当者、そして従業員をつなぐ役割を担います。

 

 

4. 衛生管理者

衛生管理者は、労働環境の衛生的改善や疾病の予防措置など、事業場の衛生全般の管理業務を行う担当者です。産業医と同じく、常時使用する労働者が50人以上の事業場で選任が必要であり(※規模に応じて必要人数が異なる)、週1回以上の職場巡視が義務付けられています。

 

企業内の従業員が衛生管理者資格を取得して就任することが多く、職場の衛生状態や従業員の状況を日常的に把握できる立場にあります。

 

産業医への情報提供や事前の課題整理、衛生委員会の運営などを担い、産業保健活動を現場で動かす要として必要不可欠な役割です。

 

 

5. 心理職(公認心理師・臨床心理士など)

公認心理師や臨床心理士などの心理職は、労働者への個別面談やメンタルヘルスケア研修などの活動を行います。

復職支援において心理的サポートを行うとともに、ストレスチェックの集団分析結果から職場環境の改善方針についてアドバイスを行うことが役割の一つです。また、公認心理師は厚生労働省の指定研修を受講することで、ストレスチェックの実施者になることが可能です。

 

産業保健師と同様に法的な選任義務はありませんが、心の専門家として外部EAP(従業員支援プログラム)機関などを通じて幅広く活用されています

 

 

6. その他の専門スタッフ

上記以外にも、産業保健に関わる専門職として、企業内で働く「産業看護師」や、有害物質などを扱う事業場で歯の健康管理を行う「産業歯科医」などがいます。

また、事業場の規模や業種によっては、「統括安全衛生管理者」「安全衛生推進者」「安全管理者」「作業主任者」といった安全衛生管理体制のスタッフが加わります。

 

各役職の詳しい役割については、以下の関連記事をご覧ください。

 

あわせて読みたい関連記事

 

企業に求められる6つの産業保健活動

 

オフィスでミーティングをする人達

 

企業は法令にもとづき、従業員の健康を守る活動を行う必要があります。常時使用する労働者が50人未満の事業場では一部が努力義務にとどまりますが、安全配慮義務の観点からすべて実施することが推奨されます。

企業が実施すべき産業保健活動は以下の6つです。

 

  • 定期健康診断の実施と事後措置
  • ストレスチェックの実施
  • 高ストレス者や長時間労働者などへの面接指導
  • 職場巡視
  • メンタルヘルス不調者への対応
  • 衛生委員会の設置と運営

 

 

1. 定期健康診断の実施と事後措置

企業は、全従業員に対して定期的に健康診断を実施する義務があります(一般健康診断は年1回)。実施後は全従業員に結果を通知し、異常所見がある場合は医師(多くは産業医)から意見を聴取することも義務の一つです。

 

就業区分(「通常勤務」「就業制限」「要休業」)に沿って聴取した意見にもとづいて、事業者は適切な事後措置を決定します。さらに、必要に応じて産業医や産業保健師から保健指導や受診勧奨を行います。

 

2.ストレスチェックの実施

メンタルヘルス不調の未然防止を目的として、常時50人以上の労働者を使用する事業場では年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています(法改正により、令和10年5月までに50人未満の事業場も義務化されます)。

 

従業員自身にストレス状態への気づきを促すとともに、企業側は「集団分析」を活用して組織的な職場環境の改善につなげることも必要です。

 

集団分析により、部署等の集団単位でのストレス傾向や業務負担の偏りを可視化でき、具体的な改善策を立てやすくなります。

 

このようにストレスチェックの実施は、メンタルヘルス不調の未然防止にとどまらず、より働きやすい職場環境を構築するためにも必要な取組です。

 

3.高ストレス者や長時間労働者などへの面接指導

特定のリスクが高い労働者に対し、医師(主に産業医)が心身の状況を評価する面接指導を実施します。面接指導の対象者は以下の通りです。

 

  • 長時間労働者:月80時間を超える時間外・休日労働を行い、かつ疲労の蓄積が認められ、本人が申し出た場合に実施義務があります。
  • 高ストレス者:ストレスチェックの結果、面接指導が必要と判断された従業員が申し出た場合に実施します。

 

医師は面談結果にもとづき事業者に意見を述べ、事業者は労働時間の短縮や配置転換などの適切な措置を講じます。

 

4. 職場巡視

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、労働災害や健康障害を防ぐため、衛生管理者は毎週1回以上、産業医は毎月1回以上(所定の条件を満たせば2か月に1回以上)、の職場巡視が義務付けられています。

 

作業方法や整理整頓の状況、照明、騒音などを確認し、医学的・技術的視点から評価を行った上で、衛生委員会で審議し、改善策を実行していくことが大切です。

 

衛生管理者や産業医が定期的に職場巡視を行うことで、従業員の安全や健康の確保につながるでしょう。

 

5. メンタルヘルス不調者への対応

休職者の発生を予防するには、従業員自身が行うストレス対処(セルフケア)や、管理職が部下の異変に気づき対応する(ラインケア)といった日常的なケアが必要です。

 

それに加え、外部のEAP(従業員支援プログラム)機関を活用した社外相談窓口の設置なども効果的な方法です。

 

万が一、メンタルヘルス不調で休職者が出た場合には、主治医や産業医と情報共有を行い、厚生労働省の指針にもとづくステップに沿って、確実な職場復帰支援を実施します。

 

6. 衛生委員会の設置と運営

衛生委員会は、産業医や衛生管理者、労働者代表などで構成され、従業員の健康障害の防止や健康の保持増進活動を労使一体となって行うための社内審議の場です。

 

常時50人以上の労働者を使用する事業場において、労働災害防止や健康障害対策を審議するため、毎月1回以上の開催が義務付けられています。

 

職場巡視の結果や長時間労働者への対策、ストレスチェックの実施計画など、産業保健に関する必要事項を調査・審議します。

 

あわせて読みたい関連記事

 

産業保健活動に取り組む3つのメリット

 

 

産業保健活動に取り組むことで得られるメリットは、以下の3つです。

 

  • 従業員の休職や離職の防止
  • プレゼンティーズム改善による生産性の向上
  • 企業の法令違反リスクの回避

 

1. 従業員の休職や離職の防止

過重労働やメンタルヘルス不調への早期介入により、心身の不調を理由とした退職や休職の防止につながります。

上司には言えない悩みであっても、守秘義務のある産業医や保健師には相談しやすく、従業員が離職を決意する前に業務調整を行うことが可能です。

 

また、産業保健スタッフが連携して職場復帰支援に携わることで、支援の精度が上がり、復帰後の再休職や離職を防止できます。

現場の管理職や同僚だけではカバーできない従業員のケアを、産業保健スタッフが担うことで、企業全体の健康が守られます。

 

2. プレゼンティーズム改善による生産性の向上

従業員の心身の不調を早期に発見し、面接指導や業務調整といった適切なケアを行うことで、集中力の低下やミスを防ぎ、実質的な生産性の向上が期待できます。

 

生産性に影響する主な指標として、出勤はしているが不調で本来の力が発揮できない状態(プレゼンティーズム)があります。健康関連の総コストの約8割はプレゼンティーズムが占めており、これは医療費の約5倍に相当するという研究も発表されています。特に、メンタルヘルス不調や腰痛や首の不調・肩こりが生産性に影響しています。

 

そのため、産業保健スタッフの関わりにより、プレゼンティーズムを改善することで組織全体の生産性の向上につながるでしょう。

従業員が心身ともに良好な状態であれば、ミスが減り、コミュニケーションが活性化し、安全と健康を重視する前向きな職場風土が育まれます。

 

コラボヘルスガイドライン(厚生労働省)、わが国の労働者におけるメンタルヘルス関連疾患によるプレゼンティーイズムの生産性への影響と賃金損失の推定(和田耕治、「労働者のメンタルヘルス不調の予防と職場復帰支援のあり方に関する研究(研究代表者 堤明純)」平成24年度総括・分担研究報告書、厚生労働科学研究成果データベース)を編集して作成

 

あわせて読みたい関連記事

 

3. 企業の法令違反リスクの回避

安全配慮義務を確実に履行するため、健康診断や面接指導などの法令に基づいた措置を実施し、その実施記録を適切に作成・保管しておくことは、法令違反のリスクを回避するためにも重要です。

 

万が一、労働災害が発生した際にも、日ごろから適切な措置を講じることで、損害賠償リスクや、労働安全衛生法違反による罰則リスクを抑えることにつながります。

 

また、コンプライアンスの徹底はESG投資などの企業評価においても必要不可欠です。健康経営®の推進として社会的信用を確保することは、採用力の強化や企業イメージの向上にも直結します。

 

産業保健の推進と確実な体制構築が不可欠

 

産業保健活動を確実に実施することで、従業員の離職防止や生産性の向上、企業の法令違反リスクの回避などの経営上のメリットを得られます。

 

しかし、多岐にわたる産業保健活動を自社の人事労務担当者だけでゼロから構築し、適切に運用していくのは、多大な負担がかかります。社内外の専門家と適切に面談設定や調整を行い、継続的に運用していく体制構築が必要です。

 

エムステージでは、産業医の紹介・選任から、ストレスチェックの実施や面接指導の手配、衛生委員会の立ち上げ支援など、産業保健に関わるあらゆる業務を一貫してサポートしています。

自社の産業保健体制づくりにお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。

お問合せをする

 

※『健康経営®』は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

 

この記事の著者

片桐はじめ

片桐はじめ

公認心理師・臨床心理士
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。

関連記事