【意味がない?】産業医面談とは?実施基準とポイントを解説
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サンポナビ編集部


産業医面談を実施しているものの、効果を実感できないと悩む企業は少なくありません。特に、「面談後の対応方法がわからない」「従業員が面談を拒否する」などの課題がある場合、どう対応すればよいのでしょうか。
本記事では、産業医面談を行う基準と効果的に実施するためのポイントを解説します。また、産業医が対応できない場合の具体的な対策についても紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
産業医面談とは?
産業医面談とは、産業医が従業員の心身の健康状態を確認し、就業上の措置について判定するものです。産業医は企業と従業員との間に立つ中立的な立場から判断します。
メンタルヘルス不調や過重労働による健康障害を防ぐため、企業には一定の従業員に必要なタイミングでの実施が義務付けられています。
一方で、従業員には面談を受ける義務はありません。産業医面談はあくまで従業員の健康を守る目的で実施されるため、従業員本人の同意のもと行います。
また、産業医には、従業員の同意なく面談内容を他人(企業)に漏らしてはならない「守秘義務」と、働く上で従業員の健康や安全が脅かされる可能性がある場合に、企業に報告しなければならない「報告義務」があります。
安全配慮義務を果たすために、産業医が企業に面談内容を報告する場合は、まずは従業員の同意を得ること、また、必要最小限の範囲で企業に報告することが求められます。
対象者別:産業医面談の実施基準と話す内容
産業医面談は、従業員の状況に応じて実施すべき面談の種類や内容が異なります。以下の5つの産業医面談について、実施基準と話す内容を解説します。
- 健康診断後の面談
- 長時間労働者への面接指導
- 高ストレス者への面接指導
- 不調者の休職可否の判定
- 休職者の復職判定面談
健康診断後の面談
健康診断で異常所見が認められた従業員について、産業医から就業に関する意見を聴取することが求められます。意見の聴取は健康診断実施3か月以内に実施することが義務付けられています(労働安全衛生規則第51条の2)。
産業医が意見を述べるに当たって、就業上の措置を決めるため、従業員から情報を聴取するのが健康診断後の面談です。面談では、以下のような項目について確認します。
- 現在の体調や自覚症状の有無
- 医療機関の受診状況
- 業務内容と身体的な負荷のレベル
産業医は面談結果をもとに、通常勤務の継続可否や就業制限の必要性を判断し、企業に意見を提出します。必要に応じて、面談内で生活習慣の改善指導や医療機関への受診勧奨も行います。
長時間労働者への面接指導
脳・心疾患やメンタルヘルス不調などの健康障害を防ぐため、一定の労働時間を超える長時間労働者に対し、企業は面接指導実施の義務があります。面接指導の対象となるのは、月80時間超の時間外・休日労働を行った従業員のうち、疲労の蓄積があり面接指導を希望した人です(※)。
面談では、主に睡眠時間や疲労度、業務の質と量について確認を行い、健康障害のリスクを評価します。
面談の結果、時間外労働の制限や業務分担の見直しに関して産業医が助言を行います。疲労や不調の程度が強い場合は、従業員へ直接的に医療機関受診の勧奨をすることもあるでしょう。
また、高度プロフェッショナル制度の対象労働者については、事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計である「健康管理時間」をもとに面接指導の対象者が決まります。
1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間が、月100時間超の人が面接指導の対象です。
以下の表のような働き方をした場合、健康管理時間が週40時間を超過した時間の合計が月107時間のため、産業医による面接指導の対象となります。
「長時間労働者への医師による面接指導実施マニュアル」(厚生労働省)をもとに作成
高ストレス者への面接指導
ストレスチェックで高ストレス者と判定され、本人からの申し出があった従業員への面接指導が義務付けられています。メンタルヘルス不調の兆候がないかを判断するため、面談では次のような項目を確認します。
面談内容・テーマ | 具体的な確認事項 |
ストレスチェックの振り返り |
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現在の状態確認 |
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職場環境の確認 |
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産業医は面談での結果をもとに、必要な就業上の配慮や職場環境改善策を企業にアドバイスします。また、従業員に対してストレスケアの指導を行う場合もあります。
「医学的知見に基づく ストレスチェック制度の高ストレス者に対する 適切な面接指導実施のためのマニュアル」(厚生労働省)をもとに作成
不調者の休職可否の判定
休職の必要性を判断するため、産業医面談を実施するケースもあるでしょう。従業員から休職を希望されたり、休職指示の診断書が提出されたりした場合、休職が妥当かを面談により判断します。
休職時の面談は、その後の復職可否の判断にも有効です。休職時の状態を把握しておくと復職時に回復度を比較しやすくなり、復職可否の目安にもなります。
面談では、従業員の症状や業務との関連性、治療状況を確認します。面談結果から、休職の必要性や期間を判断し、企業に意見書を提出するのが一般的な流れです。その後、休職期間中も面談を行い、定期的なフォローを行います。
休職者の復職判定面談
スムーズな職場復帰と再発防止のため、主治医の診断書をもとに面談を実施します。
休職を経て十分に回復しているかを産業医に確認してもらい、復帰後に必要な配慮や制限を検討することが目的です。
具体的には、以下のような点をチェックし、業務が問題なく遂行できるレベルかを判断します。
必要に応じて、起床や就寝、食事の時間などを記録する生活記録表を従業員に付けてもらい、復職の判断材料の一つとすることもあります。
- 体調の回復レベル(服薬状況、症状の有無)
- 生活リズムの安定度(起床・就寝時刻、睡眠時間、通勤できるか)
- 働く意欲と復帰に対する不安の程度
- 業務遂行能力(集中力や記憶力など)
産業医面談がもたらす効果
産業医面談を実施することで、次のような効果が得られるでしょう。
- 不調の早期発見と休職・離職の防止
- 従業員の状態に応じた就業措置
- 職場環境の改善
不調の早期発見と休職・離職の防止
産業医面談により、従業員の心身の不調を早期に発見できるため、休職や離職の防止につながります。
例えば、長時間労働による疲労の蓄積などが、対処が必要なレベルなのかどうかを医学的見地から判断します。
必要に応じて医療機関への受診勧奨も行えるため、重症化する前に対処できます。
早めに対処することで、健康障害による休職・離職者を減らし、自社の人材流出を避けられるでしょう。
従業員の状態に応じた就業措置
職場復帰時の残業の制限や、業務内容の調整など、就業上必要な制限事項や配慮事項を、面談の内容をうけて産業医から企業に指導します。
従業員の回復レベルに応じて、企業がどのようなフォローをするべきなのかが明確化されます。
職場環境の改善
従業員から悩みや負担に感じる状況を産業医が聴取することで、職場環境の改善点が見つかることがあります。
特に、産業医は中立的な立場にあり、守秘義務も課されているため、従業員が社内では相談しにくい内容を話しやすいでしょう。
例えば、ハラスメントや長時間労働、人間関係の悩みなど、職場の本質的な課題について率直に話せます。
そのため、ふだんの職場でのコミュニケーションでは把握しにくい問題点が明確化され、効果的な職場環境改善につながります。
産業医面談は意味がない?効果的に実施するためのポイント
産業医面談を実施しても、従業員と人事担当者双方が「やっても意味がない…」と感じることがあります。例えば、以下のような理由が挙げられるでしょう。
従業員 |
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人事担当者 |
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産業医面談を効果的にするには、産業医との適切な連携やプライバシーへの配慮が求められます。
効果的な産業医面談のためには以下の3つのポイントを意識することが大切です。
- 産業医との情報伝達を密にする
- 従業員が本音を話せるよう配慮する
- 面談だけでなく具体的な改善提案ができる産業医を選ぶ
産業医との情報伝達を密にする
企業の実情や面談対象となる従業員の情報を密に伝達しておきましょう。
産業医が従業員一人ひとりの様子を直接確認する機会は限られています。
そのため、企業の実情を事前に共有することで、より正確な判断とアドバイスを受けられるでしょう。
例えば、長時間労働者の面接指導では、残業時間だけでなく、背景情報も伝えることで、改善点が明確になります。
繁閑による一時的な増加か、特定の従業員への負荷が集中した結果なのかなど、業務過多の要因を産業医へ伝えられるとよいでしょう。
対象となる従業員の働きぶりや企業の実情を産業医が具体的にイメージできるよう、情報伝達を密にすることが大切です。
従業員が本音を話せるよう配慮する
産業医面談は、従業員が本音で話せるような環境設定を行うことで、本質的な課題の発見につながります。
そのため、従業員が安心して話せる環境づくりが大切です。
面談のプライバシー確保のため、話した内容が許可なく企業に伝わらないことを従業員に説明しましょう。
効果的な職場環境改善につなげるためにも、従業員の本音を引き出せるような配慮が求められます。
面談だけでなく具体的な改善提案ができる産業医を選ぶ
働きやすい職場づくりのため、具体的な改善提案ができる産業医を選ぶことが大切です。
実務レベルの具体的な提案があると、企業としてどのように対応すればよいかが明確になります。
例えば、長時間労働による疲労がある従業員の場合、休憩や勤務間インターバルの取り方など、改善の指針がわかると対応しやすいでしょう。
就業上の配慮が必要かどうかの判断だけでなく、具体的な提案ができる産業医を選ぶことで、産業医面談の実効性が高まります。
効果的な面談ができる産業医がいないときの3つの対応策
「自社の産業医が多忙で面談時間を確保できない」
「メンタルヘルスは専門外という理由で面談対応を断られた」
など、産業医面談の実施に課題を抱えるケースが少なくありません。
また、選任義務がなく、自社に産業医がいない場合もあります。
効果的な面談ができる産業医がいないときには、次の3つの対応策を検討してみましょう。
- 地域産業保健センターへの相談
- オンライン面談の活用
- 外部の専門家相談サービスの活用
地域産業保健センターへの相談
地域産業保健センターは、従業員50人未満の事業場を対象に、無料で産業保健サービスを受けられる公的機関です。健康相談や長時間労働者の面接指導など、産業医面談と同様のサービスを必要時のみ受けられます。
ただし、担当の産業医が固定されず継続的なフォローを受けにくい点や相談回数の制限など、デメリットもあります。
オンライン面談の活用
産業医が多忙で面談時間の確保が難しい場合は、オンライン面談の活用を検討してみましょう。
コロナ禍以降のリモートワークの普及により、令和2年11月から産業医面談のオンライン実施が可能となりました。
場所を問わず実施できるため、日程を合わせやすいでしょう。
ただし、実施に当たっては、産業医面談の目的を十分に満たすため、以下のような実施環境を準備することが求められます。
- 映像・音声の双方向かつ安定した通信環境
- 情報セキュリティの確保
- プライバシーに配慮した実施環境
外部の専門家相談サービスの活用
産業医や保健師、心理職などの専門家に相談できる外部サービスを活用することもよいでしょう。メンタルヘルス不調の早期発見に効果的です。
ただし、守秘義務の関係で面談内容の詳細が企業に共有されないケースもあり、職場改善につながらない可能性があります。
どのような対応をすればよいか、具体的な情報が共有されるサービスを選ぶことが大切です。
エムステージが提供する専門職相談サービス「Sanpo保健室」では、面談報告書によるフィードバックなど、事後対応につなげるサポートが充実。
最短で面談翌日のフィードバックが可能で、スピーディーな対応ができます。
効果的な産業医面談が実施できず、お困りの方はぜひお気軽にご相談ください。
職場環境改善を含めて対応できる産業医選びが大切
産業医は、従業員の健康状態や症状を把握し、就業上の制限や配慮が必要かを判断するだけでなく、働きやすい職場づくりのために企業へ助言をする必要があります。
そのためには、従業員から本質的な組織改善のポイントを引き出し、具体的な改善提案ができる産業医が求められます。株式会社エムステージでは官公庁や大手・中小企業まで幅広くご活用いただいている、産業医紹介サービスをご提供しています。産業保健の専門知識を有するスタッフが、企業の課題に最適な産業医をマッチング。ぜひお気軽にお問い合わせください。