【産業医による職場巡視】2か月に1回でもOK?目的や頻度について解説
サンポナビ編集部


産業医による職場巡視は、50名以上の事業場において原則毎月1回、実施が義務付けられています。
しかし、「産業医にどこを見てもらえば良いか分からない」「実施する時間が限られている」など、職場巡視の実行に悩む人事・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、産業医による職場巡視について、行う頻度や罰則規定、具体的な流れについて解説します。職場巡視を効果的に行うためのチェックポイントも紹介していますので、参考にしてみてください。
\すぐに使える職場巡視チェックシート/
監修:内田 さやか (産業医/心療内科医/労働衛生コンサルタント)
【読者の皆さまへ】医師監修について
掲載されている内容は、記事公開日および更新日における一般的な医学情報に基づき医師が監修したものです。個別の症状については、必ず医療機関を受診してください。なお、この監修は医学情報の正確性のみを対象としており、本サイトが提供または紹介するサービスや商品への誘導・広告に関与するものではありません。
目次
産業医による職場巡視は法令上の義務
常時50名以上の従業員を使用し、産業医の選任義務がある事業場では、定期的な職場巡視が義務付けられています(労働安全衛生規則第15条)。
職場巡視の目的は、作業環境や作業方法、衛生状態などを直接確認し、従業員の健康障害を未然に防ぐことです。
もし問題が見つかった場合は、産業医から事業者へ改善のための指導や勧告が行われます。
職場巡視を行う主な目的
リスクの早期発見と法令遵守の確認
業務に起因する健康障害や過重労働などのリスクを早期に察知します。
また、作業環境測定の実施状況や保護具の着用など、法令遵守の状況もチェックします。
現場の理解とコミュニケーション
産業医が現場の従業員と直接言葉を交わし、実際の作業内容や環境への理解を深めます。
これにより、面接指導後の就業上の措置に関する意見 や、より実効性の高い職場環境改善の提案につなげることができます。
産業医による職場巡視の頻度は原則月1回以上

産業医による職場巡視は、「少なくとも毎月1回」行うことが義務付けられています(労働安全衛生規則第15条)。
企業は、産業医が毎月職場を巡視できるよう、日程の調整や事前の情報共有といった受け入れ体制を整えておく必要があります。
条件を満たせば「2か月に1回」に緩和が可能
平成29年6月の労働安全衛生規則改正により、特定の条件を満たした場合は、例外的に職場巡視の頻度を「2か月に1回」に延長することが認められました。
この例外措置を適用するためには、以下の2つの条件をどちらも満たす必要があります。
1.事業者の同意を得ていること
巡視頻度を下げても支障がないか、衛生委員会での調査審議や産業医の意見を踏まえた上で、事業者が同意している必要があります。
2.事業者から産業医へ「所定の情報」を毎月提供すること
巡視の回数が減る分、従業員の安全と健康を守るために、事業者は以下の情報を産業医へ定期的に提供しなければなりません。
・衛生管理者が実施した職場巡視の結果(衛生管理者は毎週1回以上の巡視義務)
・時間外・休日労働が月100時間を超えた従業員の氏名および超えた時間数
・その他、衛生委員会などで提供することを決定した情報
※「産業医制度に係る見直しについて」(厚生労働省)を編集して作成
巡視頻度の見直しは「産業医の職務軽減」ではない
職場巡視を2か月に1回へ緩和することは、「産業医の訪問回数や稼働時間そのものを減らしてよい」という意味ではないため、誤解のないよう注意が必要です。
産業医の職務は、職場巡視だけでなく以下のように多岐にわたります。
・衛生委員会への出席
・健康診断結果に基づく就業判定
・ストレスチェックの実施や、メンタルヘルス不調者への対応
・長時間労働者への面接指導
近年、メンタルヘルス対策や過重労働対応など、産業医が面談や書類確認に割くべき時間はむしろ増加傾向にあります。
そのため、巡視頻度の引き下げに合わせて産業医の契約時間や訪問回数まで減らすことは、実務上望ましくありません。
巡視を行わない月であっても、「巡視に充てていた時間を面談や衛生委員会などの他の職務に充てる」という意識で、産業医の専門性を有効に活用することが求められます。
※「労働安全衛生規則の一部を改正する省令 (産業医の職務の改正関係 – 平成29年6月1日~ 施行) の適正・適切な運用を!【健康課】」(厚生労働省)を編集して作成
産業医による職場巡視 5つのステップ
職場巡視を円滑かつ効果的に実施するためのステップを解説します。
1.年間計画の立案
2.職場巡視チェックリストの作成
3.職場巡視の実施
4.職場巡視報告書の作成
5.改善が必要な箇所への対策
産業医は限られた時間で訪問するため、社内の実態をよく知る人事労務や衛生管理者が事前に情報共有を行うなど、密に連携して進めることが形骸化を防ぐ鍵となります。
1.年間計画の立案
計画的かつ効果的な職場巡視を行うため、まずは年間計画を策定しましょう。
前年度の振り返りと「重点テーマ」の設定
新年度が始まる前に前年度の巡視結果を振り返り、その年の重点テーマを決定します。
「潜在的なリスク(ヒヤリハット)の洗い出し」「労災リスクの高い非定常業務のチェック」など、具体的に決めましょう。
巡視計画の策定と共有
次に、以下のポイントを衛生委員会などで関係者と確認したうえで、産業医に共有し効率的な巡視体制を整えます。
巡視対象: 巡視する部署、場所、対象となる作業内容
巡視メンバー: 産業医だけでなく、衛生管理者や衛生委員会のメンバーの同行・参加を促す
巡視日程: 確認したい作業内容(繁忙期や特定の作業日など)に合わせて設定
巡視経路: 巡視範囲、当日の移動順序、同行者の役割分担
2.職場巡視チェックリストの作成
大まかな巡視計画が決まったら、確認箇所を示す職場巡視チェックリストを作成しましょう。
チェックリストは、厚生労働省などが推奨する共通の書式はありません。事業場や作業環境の特性に合わせて作成する必要があります。
巡視後の改善に役立つ「4段階評価」
リストを作成する際、各項目を「1点〜4点」の4段階で評価する仕組みを取り入れるのがおすすめです。
|
4点: 完全に満たしている(問題なし・良好) 3点: おおむね満たしている(軽微な改善点はあるが運用上問題なし) 2点: やや不足している(早期の改善・指導が必要) 1点: 全く満たしていない(即時対応・運用の見直しが必要) |
各項目の合計を100点(または項目数に応じた満点)に設定しておくことで、職場の安全衛生レベルが「数字」で追えるようになります。
「前回より10点上がった」といった推移が可視化されるため、衛生委員会でも課題や成果をスムーズに共有・議論しやすくなります。
具体的には、以下のようなポイントをチェックするとよいでしょう。
【工場】
| 巡視項目 | チェック内容の例 |
| 作業環境 | ・加工時に発生する粉塵、ガス、蒸気などを排出する局所排気装置が正しく作動し、定期的にフィルター等の清掃が行われているか
・騒音が激しいエリアにおいて、適切な防音対策がされているか |
| 照明の明るさ | ・手元での微細な作業や機械操作に応じた、十分な照度が確保されているか ・切れている電球や蛍光灯、チカチカしている照明はないか |
| 4S(整理・整頓・清掃・清潔) | ・通路や床面に障害物、水・油引きなどによる転倒リスクはないか
・工具や資材の定位置管理が徹底されているか |
| 機械・設備の状況 | ・定期メンテナンスや始業前点検は実施されているか
・安全装置やカバーが正しく機能しているか |
| 重量物・危険物 | ・重量物の運搬方法(姿勢や補助具の使用)は適切か
・危険物の保管場所や表示、施錠は確実か |
| 化学物質・保護具 | ・SDS(安全データシート)が確認できる状態か
・ マスク、手袋、ゴーグル等の保護具を正しく着用しているか |
| 喫煙対策 | ・屋外喫煙所について、非喫煙者の主要な動線(更衣室や食堂への通路 )から十分な距離が保たれているか
・屋外喫煙所から流れた煙が、工場の換気扇や窓から「製造フロア内」へ吸い込まれていないか |
| 防災・安全 | ・パレット、資材、台車などが崩れて避難経路を塞いでしまわないよう配置されているか
・背の高い工具棚、スチールラック、重量のある測定機器などは、L字金具やチェーン等で壁や床に固定されているか |
【事務所・オフィス】
| 巡視項目 | チェック内容の例 |
| 作業環境 | ・ 室温(18℃〜28℃)や湿度(40%〜70%)は快適か
・ 二酸化炭素濃度を意識した換気が行われているか |
| 照明の明るさ | ・PC画面が見づらくないか、書類を読むのに十分な明るさがあるか ・不快な眩しさ(グレア)や、切れている電球・蛍光灯はないか |
| 4S(整理・整頓・清掃・清潔) | ・コード類による躓きやすい箇所はないか、埃は溜まっていないか
・給湯室は衛生的に管理されているか |
| VDT作業環境 | ・ディスプレイ、キーボード、椅子の高さは適切か
・ 画面への光の映り込み対策はされているか ・ 定期的な休憩(ストレッチ等)を促す声掛けがあるか |
| 働き方の状況確認 | ・フリーアドレスや共有スペースの実際の活用状況や、部署ごとの浸透度
・出社率と、それに対するフロアの座席密度やレイアウトのゆとり ・フロア全体の雰囲気や、メンバー間での挨拶・雑談などのコミュニケーションの様子 |
| 喫煙対策 | ・屋内の完全禁煙、または法令の技術的基準を満たした「屋内喫煙室」が正しく機能しているか
・非喫煙エリアとの間仕切り壁や天井に隙間がなく、密閉性が保たれているか |
| 防災・安全 | ・避難経路の通路に、段ボールや不要な備品が置かれていないか
・避難の支障となる配線コードが床に剥き出しになっていないか ・「救急用具」「休養室」は適切に管理されているか |
2022年施行:事務所衛生基準規則の改正
オフィスの環境基準となる「事務所衛生基準規則」は、近年のワークスタイルの変化に合わせて2022年12月に改正されました。
この改正では、「室温の管理基準の下限の引き上げ(17℃から18℃へ)」をはじめ、「独立個室型の便所の位置づけ」、「照度基準の区分変更」など、オフィスの衛生環境に関わる複数の見直しが行われています。
職場巡視の際は、こうした最新の基準が反映された環境になっているかを意識してチェックしましょう。
※ご存知ですか?職場における労働衛生基準が変わりました(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 )を編集して作成
3.職場巡視の実施
職場巡視の当日は、作成したチェックリストに沿って以下の3つのポイントを意識しながら進めます。
メンバー間での連携と見落とし防止
巡視メンバー全員でチェックリストを共有し、各自の視点(衛生管理者、産業医、労働者代表など)から多角的に確認することで、項目の見落としや確認漏れを防ぎます。
現場との積極的なコミュニケーション
作業内容や環境の目視確認にとどまらず、現場の従業員や管理監督者に直接声をかけましょう。
「やりにくい作業はないか」「普段気になっていることはないか」といった会話から、数値や見た目だけでは分からない潜在的なリスク(ヒヤリハット)を早期に発見できます。
また、従業員にとって、産業医は「どんな人か分からない」存在になりがちです。
人事労務担当者は、 職場巡視の際に「こちら、当社の産業医の〇〇先生です」と、従業員に先生を紹介して回ると良いでしょう。産業医の存在を社内に広く周知する絶好の機会になります。
その場での即時フィードバック
巡視中に明らかな危険やルール違反を発見した場合は、後回しにせずその場で直接フィードバックを行います。
例: 保護具の未着用、マニュアルを逸脱した作業、通路を塞ぐ荷物など これらを見かけたら、即座に指摘してその場で改善を促し、事故を未然に防ぎましょう。
4.職場巡視報告書の作成
職場巡視の終了後は、確認結果をすみやかに「職場巡視報告書」としてまとめます。
この報告書は、衛生委員会で結果を共有し、今後の改善策を調査審議するための重要な共通資料となります。
フォーマットは定められていませんが、一般的に以下の項目を網羅して作成します。
報告書の基本構成
・巡視日時
・巡視対象の職場名(部署・エリア)
・巡視者の氏名および役職
・指摘事項(問題点・改善の必要性がある箇所)
単に「ダメだったところ」を書き出すだけでなく、以下の要素を合わせて記載すると、より実効性の高い報告書になります。
- 改善対策案・指示内容: 指摘に対して「どう改善すべきか」の具体策
- 対応担当者および改善期限: 「誰が」「いつまでに」対応するかの明確化
- 写真(ビフォー・アフター用): 指摘箇所を撮影しておくと、衛生委員会での状況共有や、後日の改善確認がスムーズになります。
5.改善が必要な箇所への対策
職場巡視報告書に記載された指摘事項は、衛生委員会などで共有し、具体的な改善計画を審議・決定します。
問題の規模や影響範囲に応じて、以下のように柔軟かつ計画的にアプローチすることが大切です。
即座に解決可能な問題への対応
現場の意識向上や簡易な片付けなどで解決できるものは、指摘後すぐに改善を促し、速やかな解決を図ります。
全社的な対応や予算措置が必要な問題への対応
「設備の改修・入れ替え」や「大幅な作業工程の見直し」など、コストや工数がかかるケースもあります。
これらは委員会内で十分に議論を重ね、予算措置やスケジュールを含めた現実的な改善計画を立案する必要があります。
優先順位の決定
すべての指摘に一斉に対応することが難しい場合は、「緊急性」と「危険度(リスクの大きさ)」を基準に優先順位をつけ、重大なものから順に対策を実行します。
計画を立てて終わりにせず、対策実施後に「本当にリスクが解消されたか」を次回の職場巡視や委員会で必ず再確認し、安全衛生管理のPDCAサイクルを確実に回しましょう。
産業医による職場巡視に関するよくある質問

職場巡視を怠った場合、罰則はありますか?
産業医が従業員の健康管理を適切に行っていないとみなされ、50万円以下の罰金が課せられる恐れがあります。
また、労災発生時に職場巡視を怠っていたことが発覚した場合、安全配慮義務違反とされ、企業の責任が問われる可能性もあります。
従業員の健康と安全を守るため、法令に沿った職場巡視を行いましょう。
産業医の職場巡視記録の保管期間はありますか?
産業医や衛生管理者が行う「職場巡視の記録(報告書)」は、法律上の明確な保管期間の定めはありません。
しかし、実務上は「3年間(推奨5年間)」保管するのが一般的です。理由は以下の通りです。
衛生委員会議事録の保存期間に合わせる
巡視結果を審議する「衛生委員会の議事録」には3年間の保存義務(労働安全衛生規則第23条)があるため、添付資料である巡視記録も一律で3年保管するのが合理的です。
労基署への証明・監査対策のため
労働基準監督署の調査が入った際、定期的に巡視と改善を行っている「証拠」として、直近3年分ほどの提示を求められることがあります。
労災トラブルへの備え(5年推奨)
万が一の労働災害や、安全配慮義務違反による民事訴訟に備え、「会社として定期的にリスクをチェックし、対策を講じていた」という証拠を残すため、消滅時効に合わせて5年間保管する企業も増えています。
リモート・オンラインでの職場巡視は可能ですか?
原則として職場巡視は、産業医が実際に現場を訪問し、直接確認を行う必要があります。
ビデオ通話などのリモート環境だけでは、五感を通じた正確な評価が難しいため、「完全なオンラインのみでの巡視」は認められていません。
安全衛生上のリスクには、画面越しでは伝わらないものが数多く存在します。
物理的な感覚: 不快なにおい、肌で感じるほどの振動や圧迫感
動的なリスク: 従業員のリアルな作業動作、フォークリフトや機械との距離感、死角にある危険
リモートもしくはオンラインでの確認は、あくまで補助的な情報収集方法であることを理解し、 現地への訪問を中心に行うよう計画しましょう。
——————本記事の監修範囲はここまでです——————
産業医と連携して従業員が健康に働ける職場づくりを
産業医と連携した職場巡視の実施は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員の健康と安全を根本から守るために不可欠な施策です。
重要なのは、巡視を「やりっぱなし」にせず、見つかった課題に対して継続的な環境改善を重ねていくことにあります。
株式会社エムステージの健康経営トータルサポートでは、産業医や衛生管理者が職場巡視を行う際のチェック事項をまとめた「職場巡視チェックシート」を無料で提供しています。
訪問現場に応じて自由にカスタマイズが可能ですので、ぜひチェックしてみてください。
内田さやか
ビジョンデザインルーム株式会社代表 SAHANA Retreat Clinic 院長 産業医/労働衛生コンサルタント・心療内科医・公認心理師
2016年にビジョンデザインルーム株式会社を設立。2019年に心身のケアを両立できる施設としてSAHANA Retreat Clinicを開業。2022年より日本産業衛生学会代議員、NPO法人日本人材マネジメント協会 執行役員を務める。現在は、研修講師、地方自治体の健康施策にも参与している。

