【2026年施行】労働安全衛生法の改正内容と企業担当者の実務ポイント
甘中 亜耶


「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」が成立し、2025年5月に公布されました。2026年より段階的に施行が始まります。これまでは努力義務だった法令が義務化したり、対象となる企業の幅が広がったりなど、様々な変更が加わります。
本記事では、「改正内容を網羅的に確認したい」「自社に影響はあるかどうか知りたい」という人事労務担当者に向けて、2026年に施行される労働安全衛生法の改正のポイント、対象企業および具体的な対応方法を詳しく解説します。
目次
労働安全衛生法とは

労働安全衛生法は、働く人の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を目的とした法律です。
労働安全衛生法第1条において、以下の3つの柱を通じて、働く人の安全と健康を確保することを定めています。
・労働災害防止のための基準の策定
・安全衛生に携わる人の役割と責任の明確化
・事業者や労働者による自主的な安全衛生活動の促進
社会情勢や働き方の多様化に合わせて改正を繰り返しており、今回の改正はメンタルヘルス問題、労働者の高齢化、フリーランスの増加といった労働災害の複雑化に対応しています。
快適な職場環境づくりと労働条件の改善を通じて、物理的な安全だけでなく、心身両面の健康を確保することが、事業主の重要な責務となっています。
2026年(令和8年)の改正内容一覧
2026年より段階的に施行される労働安全衛生法の主な改正内容は以下の5点です。
- 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
- 50人未満の事業場におけるストレスチェックの義務化
- 化学物質による健康障害防止対策等の推進
- 機械等による労働災害防止の促進等
- 個人事業者等の安全衛生対策の推進
また、労働安全衛生法と密接に関わる関連法令についても改正され、2026年4月1日に施行されています。
- 治療と仕事の両立支援の推進(労働施策総合推進法に基づく)
それぞれの改正内容について、以下で詳しく解説します。
改正①:高年齢労働者の労働災害防止対策の推進

「高年齢労働者の労働災害防止対策」は、加齢に伴う身体機能の低下や認知機能の変化を踏まえ、高年齢者が安全かつ健康に働き続けられるように職場環境を整えることを目的としています。今回の法改正により、推奨にとどまっていた対策の実施が、法律に基づく努力義務へと引き上げられました。
これに伴い、企業が講じる取組の指標となっていた「エイジフレンドリーガイドライン」が廃止され、新たに労働安全衛生法第62条の2に基づく「高年齢労働者の労働災害防止対策指針」へと移行しました。
法的根拠を持つ「指針」へと格上げされたことで、企業にはより実効性のある対応が求められるようになりました。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第62条の2 |
| 関連指針/実施マニュアル | 高年齢者の労働災害防止のための指針(令和8年2月10日公示) |
※「高年齢労働者の安全衛生対策について」(厚生労働省)を編集して作成
改正のポイント
- 高年齢労働者の労災防止対策への取り組みが「努力義務」へ格上げ
「通達(ガイドライン)」から、「努力義務」として法的に位置づけが変わりました。
- 指針に明記された「事業者主導による労使の連携・協力」の推進
労働者が健康づくりに努められるよう、事業者が主導して連携・協力体制を整えていくことがより明確に求められるようになりました。
- 指針に明記された「治療と仕事の両立支援」に向けた体制整備
「治療と就業の両立支援指針」に基づき、病気の治療と仕事を両立させるための支援体制を整えることも求められるようになりました。
企業に求められる対応
- 安全衛生管理体制の確立
経営トップが、高年齢労働者の安全と健康確保を方針として表明し、組織全体で取り組む体制を構築します。また、安全衛生委員会等でリスクアセスメントを実施します。
- 職場の環境改善
調査や安全衛生委員会での検討結果に基づいて、設備や環境を改善します。
- 高年齢者の健康や体力の状況の把握
定期健康診断に加えて、体力チェックを実施し高年齢者の健康や体力状況を把握します。
- 高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
個々の高年齢者の健康や体力の状況に応じた就労体制を整備します。
- 安全衛生教育
高年齢者本人および管理者に対し、安全衛生教育を確実に実施します。高年齢者特有の身体的特性と、必要な安全衛生対策について理解を促します。
※「高年齢者の労働災害防止のための指針」(厚生労働省)を編集して作成
改正②:50人未満の事業場におけるストレスチェックの義務化

労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェックが義務化されます。
これまで「当分の間、努力義務」とされていた特例が終了し、すべての事業場においてメンタルヘルス不調の未然防止体制を整えることが、法的な義務へと変わります。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2028年4月1日 予定 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 附則第4条(削除による特例終了) |
| 関連指針/実施マニュアル | 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月公表) |
改正のポイント
- 対象事業場の拡大
今回の改正により、ストレスチェックの実施義務がすべての事業場へ広がります。これまでの「従業員50人以上」という適用基準が撤廃され、50人未満の小規模事業場においても実施が義務化されます。
なお、50人以上の事業場に課されている「労働基準監督署への報告書提出」については、50人未満の事業場では不要です。
企業に求められる対応
これまでストレスチェックを実施していなかった50人未満の事業場では、以下の体制整備が必要となります。
- 社内周知と実施体制の構築
まずは事業者が、従業員に対してストレスチェックを実施することを表明します。その上で、実施者や時期など社内の運用方法を策定します。
- ストレスチェックの実施
1年以内ごとに1回、定期的にストレスチェックを実施します。
- 医師の面接指導及び事後措置
ストレスチェックの結果、高いストレスを抱えていると判定された従業員から申し出があった場合、医師による面接指導を実施しなければなりません。医師の意見に基づき、必要に応じて就業場所の変更や残業の制限といった「事後措置」を講じる必要があります。
- 集団分析・職場環境改善(努力義務)
部署やチームごとのストレス傾向を分析する集団分析は努力義務ですが、職場の課題を可視化するために極めて有効です。小規模な職場で集団分析を実施する場合は、個人の特定を避けつつ、いかに環境改善に繋げるかが重要になります。
50人未満の事業場では、社内に専門スタッフを置くことが難しく、担当者が他の業務と兼務しているケースがほとんどです。また、経営層と従業員の距離が近いため「社内の人にストレスチェック結果を知られたくない」という心理的ハードルも高くなりがちです。
2026年2月に公表された「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」では、労働者のプライバシー保護の観点から、ストレスチェックの実施を外部機関に委託することが推奨されています。
\ストレスチェックの外部委託は『Co-Labo』/
※Co-Laboは、株式会社ヒューマネージが運営・開発、株式会社エムステージ等が販売する健康管理システムです。
改正③:化学物質による健康障害防止対策等の推進

化学物質の管理は、物質の多様化や国際的な潮流を受け、個別具体的な規制から事業者の自律的な管理を基軸とする制度へと移行しています。これにより、事業者自らがリスクを見積もり、対策を講じることが求められるようになっています。
2026年4月1日以降は、危険性・有害性情報の通知制度や個人ばく露測定において、実効性をより高めるためのルールが段階的に施行されます。
①危険性・有害性情報の通知制度の履行確保
化学物質を譲渡・提供する際の危険性・有害性情報の通知(SDS:安全データシートの交付)について、制度の実効性を担保するための法的措置が強化されます。
改正のポイント
- SDSによる通知義務違反に対する罰則が新設されます。
- これまで努力義務とされていた通知事項に変更が生じた場合の再通知が、義務化されます。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2030年5月13日までに施行(公布日から5年以内) |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第57条の2、第119条関係 |
| 関連指針/実施マニュアル | 化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針 |
企業に求められる対応
- メーカーや卸売業等、自社が化学物質を譲渡・提供する立場にある場合は、成分情報の変更時に速やかに相手方へ情報共有するためのフローを確立します。
- 譲渡・提供を受ける企業は、最新のSDSを点検し、危険性・有害性の調査とその結果に基づいたばく露低減措置を実施します。
②営業秘密に係る代替化学名等の通知
化学物質の成分名が企業の営業秘密に該当する場合、一定の条件下で代替化学名による通知が認められます。
改正のポイント
- 有害性が相対的に低い化学物質に限り、代替化学名等での通知が可能になります。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第57条の2第3項関係 |
| 関連指針/実施マニュアル | 通知対象物に係る代替化学名等の通知に関する指針 |
企業に求められる対応
- 営業秘密に該当し秘匿を希望する成分があるか、その有無を確認・特定し、代替化学名を設定します。
- 代替名を使用する場合、事前の相手方への明示や成分情報等の記録・保存に関する社内ルールを策定します。
- 緊急時、早急に情報を開示できるような管理体制を確立します。
③個人ばく露測定の精度担保
労働者が有害因子にさらされる程度を把握する「個人ばく露測定」を、法的に作業環境測定の一つとして位置づけ、有資格者による適切な実施の担保を図ります。
改正のポイント
- 有害性測定の際、作業環境測定士による実施が必要になります。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年10月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第65条の3第2項(改正予定)、作業環境測定法 第2条 |
企業に求められる対応
- 自社の作業場で個人ばく露測定が必要な業務があるか再点検を行います。
- 測定が必要な作業場の洗い出しと、有資格者による測定体制の整備(自社に有資格者がいない場合は外部機関への委託準備)が必要です。
改正④:機械等による労働災害防止の促進等

ボイラーやクレーン等、その使用時に特に危険な作業を必要とする機械(特定機械等)については、製造や使用の各段階で国による厳格な検査・審査が義務付けられてきました。
今回の改正では、審査・検査業務の民間登録機関の開放が拡大されるほか、特定自主検査および技能講習の不正防止に関する対策が強化されています。
①特定機械等の製造許可及び製造時等検査制度の見直し
ボイラーや移動式クレーン等の製造許可申請や、完成時の検査の実施主体が変更されます。
改正のポイント
- 従来、国が行っていた特定機械等の「設計審査」を、厚生労働大臣の登録を受けた民間機関が行えるようになります。
- 移動式クレーンおよびゴンドラについて、登録を受けた民間機関が製造時等検査を行えるようになります。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第37条、第38条関係 |
企業に求められる対応
- 新たに特定機械等を導入・製造する際は、民間企業にも依頼が可能になりました。申請・管理体制を整えることも必要です。
※「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について」(厚生労働省)を参考に作成
②特定自主検査及び技能講習の不正防止対策の強化
改正のポイント
- 一定の機械に対して義務付けられている特定自主検査の基準が定められました。
- 必要な技能講習について、技能講習修了証の不正交付等を禁止。不正発覚時の回収命令、欠格期間の延長を規定しています。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年1月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法第45条 |
企業に求められる対応
- 民間登録機関の不正事案が生じていることが背景にあります。規定を遵守するよう徹底してください。
改正⑤:個人事業者等(フリーランス等)の安全衛生対策の推進
これまでの労働安全衛生法は「労働者(雇用関係にある者)」の保護が主目的でしたが、2023年の危険有害作業の保護措置の拡大を皮切りに、「同じ場所で働くすべての人」を災害から守ることが、発注者や元方事業者の責務となっています。
①注文時の配慮義務の明確化
仕事を他人に請け負わせる注文者に対し、受注者の安全を損なうような条件を付さないよう配慮すること(配慮規定)の対象がより明確になりました。
改正のポイント
- 建設工事だけでなく、全業種の注文者に対して配慮規定が適用されることが明確化されました。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2025年5月14日 ※公布日に施行済 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第3条第3項 |
企業に求められる対応
- 個人事業者等へ仕事を発注する際も、安全・衛生的な作業を阻害するような無理な納期や工期を設定しない。
- 安全衛生経費の計上や具体的な作業条件を契約時に明確化しておくことが推奨されます。
※「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について」(厚生労働省)、「改正労働安全衛生法説明会~個人事業者等の安全衛生対策の推進について~」(厚生労働省)を参考に作成
②混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象の拡大
改正のポイント
- 元方事業者が混在作業場所で講ずべき、災害防止のための必要な指導や連絡調整等の措置(統括管理)の対象は、「自社及び関係請負人等に雇用されている労働者」に限定されていました。この対象が、一人親方などの「個人事業者等を含む作業従事者」へと拡大されました。
- また、現場の管理責任(統括管理)だけでなく、モノ(機械・建物)を貸し出す側の責任も強化されます。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠法令 | 労働安全衛生法 第15条、第30条、第31条関係 |
企業(元方事業者)に求められる対応
- 必要な指導や連絡調整などの管理体制を、個人事業者等を含めた対象者全員に確実に伝達・実施するよう構築が必要です。
- モノ(機械・建物)を貸し出す際は、相手がフリーランスであっても「プロだから説明不要だろう」という理屈は通用しません。労働者と同等の安全情報(点検結果や操作マニュアル等)を提供しなければならない点に注意してください。
※「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について」(厚生労働省)、「改正労働安全衛生法説明会~個人事業者等の安全衛生対策の推進について~」(厚生労働省)を参考に作成
③2027年(令和9年)に施行予定の内容
今後、段階的に施行される以下の3点についても、早期の準備が求められます。
- 業務上災害報告制度の創設(2027年1月1日施行)
個人事業者等の業務上災害が発生した場合には、災害発生状況などについて、厚生労働省に報告させる事ができる事となりました。
- 個人事業者等自身への義務付け(2027年4月1日施行)
個人事業者本人に対しても、安全基準の遵守や特定の機械の定期自主検査の実施、教育の受講などが義務化されます。
- 作業場所管理事業者への連絡調整措置の義務付け(2027年4月1日施行)
業種を問わず、複数の作業者が混在する場所を管理する事業者は、災害防止の観点から作業間の連絡調整等を行う義務を負います。
関連法令の改正:治療と仕事の両立支援の推進
労働施策総合推進法の改正により、病気を抱える労働者が治療を継続しながら仕事を続けられる環境整備を行うことが、すべての事業主の努力義務化となりました。
| 項目 | 内容 |
| 施行日 | 2026年4月1日 |
| 根拠法令 | 労働施策総合推進法(第8章関係) |
| 関連指針 | 治療と就業の両立支援指針 |
①職場環境の整備
改正のポイント
- 全ての事業主に対し、職場における治療と仕事の両立を促進するために必要な措置を講じることが努力義務になります。
企業に求められる対応
- 経営トップが「両立支援に取りくむ基本方針」を表明し、全従業員へ周知します。
- 管理職を含む全従業員に対して、研修を通じて意識啓発を行います。
- 人事労務部門や産業医等による相談窓口の明確化し、社内支援体制を確立します。
- 時間単位の有給休暇、時差出勤、テレワークなど、通院を支える柔軟な勤務制度を導入・整備します。
②個人に対する個別支援
改正のポイント
- 「治療と就業の両立支援指針」に基づき、主治医、労働者、産業医、職場の4者が連携して、医学的エビデンスに基づいた適切な配慮を行うことが求められます。
企業に求められる対応
- 本人の同意を得た上で、主治医から病状や「就業上の留意事項」の情報を取得します。
- 取得した情報をもとに、産業医等の専門医から「就業判定」や必要な配慮について意見を聴取します。
- 職場と本人の合意に基づく「両立支援プラン(または職場復帰支援プラン)」を作成・実施し、状況に応じて内容を更新します。
まとめ:最新法令に基づいた産業保健体制を構築しましょう
2026年から順次施行される改正労働安全衛生法では、企業に対して安全な労働環境の整備、心身の健康への対策(ストレスチェックの義務化拡大等)、多様な働き方の支援という広範な対応が求められます。
こうした法改正に確実に対応し、実効性の高い運用体制を構築するには、産業医をはじめとする産業保健の専門家との連携が欠かせません。
株式会社エムステージでは、産業医の紹介から健康診断、ストレスチェックの実施・集団分析まで、企業の産業保健をトータルサポートしています。最新の法令に対応した体制構築を通じて、健康経営の推進に貢献します。
「社内の産業保健体制に不安がある」とお悩みの際は、ぜひご相談ください。

