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社労士解説:LGBT、企業はどう対応する?ハラスメントの注意点とは

(更新:

舘野聡子

電通ダイバーシティ・ラボの2020年の調査では、日本全国の人口のうち、8.9%が性的マイノリティであるという結果が出ており、私たちの身近な存在としてLGBT+Q(※)は存在している。

 

2015年11月には、渋谷区と世田谷区が同性パートナー シップを認定する書類の発行を開始し、大阪市では2016年、里親制度の一つである「養育里親」として、男性同士のカップルを認めるなど、国や地方自治体でもLGBT支援の取り組みが進む中、企業としては、LGBT社員にどのように接していけばよいのか。

 

今回は「LGBT社員への理解と対応」をテーマに、社労士でカウンセラーの舘野聡子さんにお話をうかがった。

 

 

※LGBT+Qとは

 

Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者、性同一性障がいを含むこともある)、QueerQuestioning(クイアやクエスチョニング)の頭文字をつなげた単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ

 

 

企業対応として、まずは社内にLGBTの理解者「アライ」をつくってアナウンスする

 

 

企業におけるLGBT対応について、まずは何から取り組むべきでしょうか。

最初にすべきは、まず、社内に理解者を立てるということです。その理解者のことを「アライ」と言います。

 

英語で「同盟、支援」を意味するallyが語源で、LGBTの当事者ではない人が、LGBTに代表される性的マイノリティを理解し支援するという考え方、あるいはそうした立場を明確にしている人々を指す言葉です。

 

アライをつくって社内には「この人がアライです」とアナウンスします。何かあればその人がLGBTについて理解をもっていますよ、というメッセージです。

 

もちろん、意識の高い人同士が、部署横断的に結びついて、グループとして理解のための啓発の中心となるという形もあり得ます。

 

とにかく社内にLGBTについて理解している誰かが社内にいること、誰かがいると思えること、そして、LGBTの人が疎外感を感じたり、孤立していると感じないことが大切であり、LGBT対応の第一歩となります。

 

LGBTへの差別はセクハラに相当。就業規則で対応を

 

 

LGBT対応について、法的なルールはどのようになっていますか。

2017年1月1日以降、男女雇用機会均等法改正で、LGBTへの差別もセクハラと見なされることになりました。

 

男女雇用機会均等法の2条1項で「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである」と明示されています。

 

事業主の宣言として、LGBT差別禁止に関するルールを就業規則などに盛り込むことは最低限必要です。

 

差別を禁止するというルールのほかに、性別にかかわらず使用できる「パートナーシップ制度」を設け、配偶者に適用される福利厚生を同性パートナーにも適用するといった制度の整備や、採用活動のエントリーシートの性別欄の廃止なども挙げられるでしょう。

 

LGBTへの理解を深め、そしてセクハラの課題、他に職場でできることはどんなことがありますか。

たとえば、デスクの上に「アライ」であることを示す旗を立てるという方法もあります。

 

多様性や性的マイノリティーを表現する意匠である、虹色の7色をあしらった「レインボーフラッグ」が販売されています。

 

社内では、ことあるごとに、わが社でもLGBTへの理解を進めていますとアナウンスするとか、会社として受け入れますよということをアピールする。

 

あるいは例年5月のゴールデンウィークに行われる「東京レインボープライド」というイベントに協賛したり、ブースを出すという方法で、支援していることを伝える方法もあります。

 

このイベントは「『らしく、たのしく、ほこらしく』をモットーに、性的指向および性自認(SOGI=Sexual Orientation, Gender Identity)のいかんにかかわらず、すべての人が、より自分らしく誇りをもって、前向きに楽しく生きていくことができる社会の実現をめざす非営利団体が組織しています。

 

また、当事者を呼んで講演会をするのも効果的です。

 

社内に相談体制を整備し、ガイドラインによる対応も行なう

 

 

LGBTに関するセクハラ対応、社内の体制整備についてはどのようにすればよろしいでしょうか。

なによりも問題なのは、職場で差別を受けたのに、相談できないということです。

 

セクハラ相談の窓口はあるのに、性的少数者に対する差別的な発言をセクハラとして認識していないカウンセラーがいるという例も実際にあります。

 

何がだめなのか、下記のようなガイドラインも示す必要があるでしょう。

 

1.同性愛や両性愛、性自認の不一致をからかったり、誤解を招いたり差別を助長する発言をする。宴席で、女装や男装で笑いを取る。

 

2.相手がLGBTである可能性を考えずに、結婚していない人に差別的な言動をする。性的指向や性自認は趣味の問題であり治る、という誤解を助長する言動をする。

 

3.LGBTの当事者かどうかを、見かけや話し方で判断したり噂する。

 

4.LGBTの社員であることを、本人の承諾なしに、他者に伝えたり噂する(アウティング)。

日本経済団体連合会が2017 5 16 日に公表した「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」参照)

 

 

LGBTの人を貶める無自覚な差別的発言や態度には、どうやって対応していけばよいのでしょうか。

その発言はまずい、と気づいた人や言える立場の人が言わなければなりません。

 

差別的発言は、実際に対象となった人だけでなく、聞いている人をも傷つけていることになります。そうしたことが職場で度重なれば、当事者はカミングアウトなんて絶対できない、と思うことでしょう。

 

どこにでも、そういう人がいるということ、そういう人たちへの差別はどこでも起こりうるということをアナウンスし続けることが必要です。

 

言葉による暴力のほかに、たとえば、ある営業の人は、接待で性風俗に行くことが苦痛でしかたなかったと言います。そもそも職場の接待で性風俗に行くべきなのかということも問題なのですが。

 

あるいは、ゲイ、レズビアンの人より、外見的にわかりやすいMtFやFtM(※)の人が、外見を理由に攻撃されやすいという実態もあります。

 

あるMtFトランスジェンダーの人は、クライエントに「担当を変えてほしい」と言われ他の人と変わらざるを得なかったことがあったのだそうです。

 

会社は理解を示してフォローもしてくれておりそれには感謝しているが、悲しかったと。そして本人はこんなことはよくあるといいながら、「外見で判断せずに、私という人自身を知ってくれれば、そんなことは言わせないのに。」と笑っていて、私は胸が詰まる思いがしました。

 

MtF(えむてぃーえふ)とは

male to femaleの頭文字をとったもの。身体的性別は男性であるが、性自認は女性である人。

 

FtM(えふてぃーえむ)とは

female to maleの頭文字をとったもの。身体的性別は女性であるが、性自認は男性である人。

 

 

企業内でLGBTへの理解が進むのはよいことでも、カミングアウトについては配慮が必要ですよね。

カミングアウトの強制、強要も問題ですね。カミングアウトをするかしないかはあくまで自分で決めるものです。「われわれは理解しているから、カミングアウトしなさい」というのはおかしいわけです。

 

たとえば、異性愛者の人は自分がどのようなタイプの異性を好むか、どのような性行為を好むか、などということを職場で公表することが求められないのが当たり前であることを考えれば、それは自明ですよね。

 

少数派であるというだけで、ほかのすべての指向や属性と同じで、特別扱いする必要はありません。

 

ただし、誰もが完璧ではありません。私達はすでに長い歴史のなかで、LGBTに対する適切な認識がない価値観を内面化してしまっています。

 

うっかり心無い発言をしてしまうこともあるでしょう。

 

そのときに自分で「あ、間違えた」、「いまの発言は差別的でよくなかったな」ときちんとそれを反省したり、改めればよいのです。あるいは人がそういう発言をしていたら、よくなかったよ、と言えるようにする。

 

ひとりひとりのその一歩一歩の努力が職場や社会全体を変えていく力になるはずです。

 

プロフィール:舘野 聡子(たての さとこ)

 

 

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者

 

民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

 

 

文/奥田由意

 

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この記事の著者

舘野聡子

舘野聡子

たての・さとこ 株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者 民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。