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長時間労働の産業医面談は企業の義務?実施基準や罰則、記録様式...

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長時間労働の産業医面談は企業の義務?実施基準や罰則、記録様式を整理

甘中 亜耶

長時間労働の産業医面談は企業の義務か?実施基準や罰則、記録様式を整理
長時間労働の産業医面談は企業の義務か?実施基準や罰則、記録様式を整理

長時間労働者への産業医面談(面接指導)は企業の法的義務です。しかし、月80時間超の判定基準や、具体的な実施フロー、さらには産業医がいない従業員50人未満の事業場での対応など、実務上の判断に迷う担当者は多いのではないでしょうか。

 

本記事では、制度の形骸化を防ぎ安全配慮義務を果たすため、正しい対象判定から申し出がない時の対応、実務で使える案内文のテンプレートまでご紹介します。

 

長時間労働者への産業医面談とは?

 

長時間労働者に対する産業医面談のイメージ

 

長時間労働者への産業医面談とは、労働安全衛生法第66条の8に基づき、一定の時間外・休日労働を行った労働者に対して事業者に実施が義務付けられる「医師による面接指導」のことを指します。

 

本制度の主な目的は、医学的知見に基づき労働者の疲労蓄積状況や心身の健康状態を把握することにあります。

 

面接指導を通じて、過重労働による脳・心臓疾患の発症やメンタルヘルス不調を未然に防止し、必要に応じて就業場所の変更や労働時間の短縮といった適切な措置を講じることが重要です。

 

長時間労働者への面接指導は、事業場の規模に関わらずすべての事業場に義務付けられています

 

産業医の選任義務がない労働者数50人未満の事業場であっても、長時間労働に該当する対象者が発生した場合には、必ず面接指導を実施しなければならない点に注意が必要です。

 

なお、一般的に産業医面談という言葉は、健康診断後のフォローや復職支援など産業医が行う面談全般の総称として使われますが、長時間労働への対応として法律で義務付けられている制度は「面接指導」です。

 

長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

長時間労働が心身に及ぼす影響

 

長時間労働により疲労が蓄積した状態のイメージ

 

長時間労働による健康障害は、単なる「疲れ」に留まりません。身体的な不調、心理的な負担、そして職場環境という複数の要因が複雑に絡み合い、深刻なリスクを引き起こします

 

身体的な影響:脳・心臓疾患の発症、過労死のリスク

心理的な影響:うつ病などのメンタルヘルス不調、自殺のリスク

組織への影響:パフォーマンスの低下、事故の発生、職場環境の悪化

 

これら3つの側面は独立しているのではなく、互いに連鎖している点が重要です。

 

例えば、過重な業務による睡眠不足(身体的影響)がストレスを増大させて心の健康を損ない(心理的影響)、結果として集中力の欠如による事故や、周囲への配慮不足による職場環境の悪化(組織への影響)を招くといった悪循環が生じます。

 

そのため、どの側面においても初期段階でリスクを捉え、面接指導を通じて適切な措置を講じることが、働く人と組織の双方を守ることに繋がります。

 

働き方改革関連法による主な改正点

 

2019年4月の法改正により、長時間労働者への面接指導制度は以下の2点において大幅に強化されました。

 

  • 面接指導の対象要件を拡大
    面接指導の対象となる時間外・休日労働時間の基準が「月80時間超」へと引き下げられました。

 

  • 労働時間の客観的把握を義務化(労働安全衛生法第66条の8の3)
    適切な面接指導を実施するため、管理監督者や裁量労働制の適用者を含むすべての労働者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)に対し、タイムカードやPCログ等の客観的な方法で労働時間を把握することが義務付けられました

長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

適切な措置を講じなかった場合のリスク

 

企業が長時間労働者への面接指導を適切に実施しなかった場合、法的・経済的に大きなリスクを背負うことになります。

 

労働安全衛生法違反による罰則

労働安全衛生法に基づき、企業には面接指導の実施だけでなく、付随する事務作業についても厳格な義務が課せられています。違反した場合、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働安全衛生法第120条第1項)。

 

注意すべきケースの一例

  • 月80時間超の対象労働者(申出者)がいたが面接指導を実施しない
  • 面接指導の結果に基づいた医師からの意見聴取を行わない
  • 上記記録を5年経たずに破棄してしまう

 

安全配慮義務違反による損害賠償リスク

企業は労働契約法第5条に基づき、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする「安全配慮義務」を負っています。

 

適切な措置を講じず、万が一、労働者が過労死や自殺といった深刻な事態に至った場合、企業には数千万〜数億円規模の高額な損害賠償が命じられる可能性があります。

 

注意すべきケースの一例

  • 対象者への通知や面談の申し出勧奨を怠る
  • 医師の意見に基づいた就業制限や業務軽減を行わない

 

組織の生産性の低下

過重労働による疲労は、重大なミスや労働災害を招く要因です。また、面接指導などの早期介入の機会を逃してメンタル不調が悪化し、長期休職や離職が相次ぐと、組織が蓄積した貴重なノウハウを喪失させることになります。

 

欠員補充のための多額の採用・教育コストが生じるほか、法令違反によって企業イメージが悪化すると採用力の低下にもつながるなど、経営全体に甚大なダメージを与えるリスクを孕んでいます。

 

労働者からの申し出がない・拒否された場合

 

時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に対し、企業は本人の申し出を待つだけでなく、状況に応じた適切なアクションを起こす義務があります。まずは対象者へ労働時間に関する情報を速やかに通知し、面接指導を受けるよう積極的に勧奨しなければなりません

 

特に注意すべきは、労働者の属性や労働時間数によって、実施義務の性質が異なる点です。

 

「申し出なし」でも実施が必要なケース(法的義務)

  • 月100時間を超える研究開発業務従事者
  • 1週間あたりの健康管理時間が40時間を超えた場合に、その超えた時間が月100時間を超える高度プロフェッショナル制度適用者

 

※健康管理時間とは:対象労働者が事業場内にいた時間と、事業場外において労働した時間を合計した時間。

 

「申し出」を前提に実施が必要なケース(法的義務)

  • 月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる一般労働者

 

企業の定める基準に該当するケース(努力義務)

企業の定める基準に該当する労働者に対しては、本人からの申し出がない場合、医師による面接指導の実施自体は義務ではありません。

 

ただし、保健師等による保健指導やチェックリストを用いた疲労蓄積度の把握といった「面接指導に準ずる措置」を講じることが努力義務とされています。

 

もし本人が面談を拒否した場合、強制することは現実的ではありません。

対象者には受診義務があることを伝えつつも、日頃から「面談を理由とした不利益な取り扱いの禁止」を周知するなど、心理的なハードルを下げる環境整備が、安全配慮義務を果たす上でも重要となります。

長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

【一覧表】面談指導の対象者

 

面接指導の対象となる時間外・休日労働時間の要件には、「一般の労働者」「研究開発業務従業者」「高度プロフェッショナル制度適用者」の3つの区分があります。

自社の従業員がどの区分に該当するかを正確に把握することが、法令遵守の第一歩です。

 

労働者
(裁量労働制、管理監督者含む)
①義務 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者 安衛法第66条の8
安衛則第52条の2
②努力義務 事業者が自主的に定めた基準に該当する者 安衛法第66条の9
安衛則第52条の8
研究開発業務従事者
①義務

(罰則付き)

月100時間超の時間外・休日労働を行った者 安衛法第66条の8の2
安衛則第52条の7の2
②義務 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申し出た者 安衛法第66条の8
安衛則第52条の2
③努力義務 事業者が自主的に定めた基準に該当する者 安衛法第66条の9
安衛則第52条の8
高度プロフェッショナル制度適用者
①義務

(罰則付き)

1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について、月100時間超行った者 安衛法第66条の8の4
安衛則第52条の7の4
②努力義務 ①の対象者以外で面接を申し出た者 安衛法第66条の9
安衛則第52条の8

※出典:「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」(厚生労働省)

 

一般の労働者(裁量労働制、管理監督者を含む)

いわゆる一般労働者だけでなく、労働時間管理の適用除外とされる管理監督者や、裁量労働制が適用される労働者も面接指導の対象に含まれます。

 

  • 実施基準
    時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる場合

 

  • 実施の条件
    対象となる労働者本人からの申し出があった場合に、企業は実施義務を負います。

※「長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

派遣社員(派遣元・派遣先の義務)

派遣社員については、派遣先と派遣元の双方が連携して健康管理を行う必要があります。

 

  • 派遣先の義務
    労働時間の状況を適切に把握し、派遣元へ情報提供する義務があります。

 

  • 派遣元の義務
    派遣先から提供された情報に基づき、面接指導を実施する最終的な義務を負います。

※「長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

研究開発業務従事者

新商品や新技術の研究開発など、専門的な業務に従事する労働者については、より厳格な基準が適用されます。

 

  • 実施基準
    時間外・休日労働が月100時間を超えた場合

 

  • 実施の条件
    本人からの申し出の有無にかかわらず、企業は面接指導を確実に実施しなければなりません。
    月80時間超〜100時間以下の場合は、一般労働者と同様に申し出があれば実施義務が生じます。

※「長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

高度プロフェッショナル制度適用者

高度な専門知識を要する業務に就き、一定の年収要件を満たす「高度プロフェッショナル制度」の適用者は、労働時間の概念がない代わりに健康管理時間で判定します。

 

  • 実施基準
    1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合で、その越えた時間が月100時間を超えた場合

 

  • 実施の条件
    本人からの申し出がなくても
    面接指導を実施する義務があります。

※「長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

【5ステップ】産業医面談実施のながれ

 

ステップ解説のイメージ

 

長時間労働者に対する産業医面談は、適切なタイミングで適切なステップを踏むことが重要です。面談実施の流れは以下の通りです。

 

STEP1:労働時間の算定・把握

客観的な方法で労働時間の状況を把握し、毎月1回以上、一定の期日を定めて全従業員の労働時間を算定します。

 

長時間労働の計算方法

面接指導の基準となる労働時間は、「残業代の計算対象時間」とは異なります。原則として、「休憩時間を除き、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間」を基準として算定します。

 

  • 算定の頻度
    毎月1回以上、一定の期日(賃金締切日など)を定めて行わなければなりません。

 

  • 計算式
    1か月の総労働時間数-(計算期間1か月間の総暦日数/7×40)

 

  • 計算上の注意点
    裁量労働制などの「みなし労働時間」ではなく、実際に労働した「実労働時間」に基づいてカウントします。

 

STEP2:本人への通知・申出の勧奨

時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に対しては、算定後、速やかに当該労働者本人へ労働時間に関する情報を通知します。

 

対象者に対し、単に時間を伝えるだけでなく、医師による面接指導の申し出を行うよう勧奨します。産業医からも対象者に対して申し出の勧奨を行うことができます。

 

労働者が「人事評価への影響」を懸念して申し出を控えることがないよう、不利益な取り扱いをしない旨をあわせて伝えます。

 

STEP3:産業医への情報提供

月80時間を超えた労働者が確認された場合、企業は産業医に対し、以下の情報を速やかに提供しなければなりません。

 

  • 対象労働者の労働時間に関する情報

 

  • その他、産業医が健康管理を適切に行うために必要と認める業務情報(対象労働者の作業環境、深夜業の回数および時間数等)

 

STEP4:産業医面談の実施

労働者から申し出を受けた日から、概ね1か月以内に医師による面接指導を実施します。面接では、医師が問診等を通じて疲労の蓄積度や心身の状況を確認し、必要な指導を行います。

 

STEP5:記録・措置対応

面接指導の実施後は、以下の対応を行います。

 

  • 医師からの意見聴取
    面接指導後概ね1か月以内に、就業場所の変更や労働時間の短縮など、必要な措置について医師の意見を聴きます。

 

  • 事後措置の実施
    医師の意見を勘案し、必要と認める場合は適切な就業上の措置を講じます。

 

  • 記録の保存
    面接指導の結果と医師の意見を記録した書類を作成し、5年間保存なければなりません。
    企業担当者が実務で扱う書類は、次の3点です。
    面接指導の事前問診票(本人記入)
    ②面接指導の記録用紙
    ③面接指導の報告書・事後措置についての意見書
     記録は機微な個人情報を含むため、アクセス制限のあるフォルダや鍵付きのキャビネットで厳重に管理してください。

※「長時間労働者に対する面接指導等実施要領」(厚生労働省)、「長時間労働者への医師による面接指導制度について」(厚生労働省)を編集して作成

 

【テンプレート】対象労働者本人への案内文

 

時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に対し、企業は速やかにその時間数を通知し、面接指導の申し出を促す必要があります。労働者が心理的な不安を感じないよう、プライバシーの保護や不利益取り扱いの禁止を明記することが重要です

 

対象となる従業員への迅速かつ適切な対応をサポートするため、実務でそのまま活用できる案内文をまとめました。毎月の労働時間集計後、対象者へメールや書面で案内する際の参考にしてください。

 

 

件名:〇月の労働時間のお知らせと面談のご案内

 

〇〇さん、お疲れ様です。人事の〇〇です。

今月の残業・休日労働が80時間を超えたため、現在の状況をお知らせします。

 

【医師による面談のご案内】

〇月の時間外労働:〇〇時間

法令に基づき、希望される場合は産業医による面談を受けることができます。

「最近疲れが取れない」「体調が不安」といった方は、ぜひ活用してください。

 

【申し出方法】

このメールに返信するか、以下のフォームから申し込みをお願いします。

[URL:https://…]

締め切り:〇月〇日まで

 

【補足】

・面談を申し出たことで、査定や給与で不利益な扱いを受けることは一切ありません。

・相談した内容が上司や部署に伝わることはありません。

・会社に報告されるのは「今後の勤務に配慮が必要か」という医学的な判断のみです。

 

ご質問などございましたらお気軽にお申し付けください。

よろしくお願いいたします。

 

 

実務上の注意点とよくある疑問

 

実務担当者が特に迷いやすいポイントを、Q&A形式で解説します。

 

50人未満の事業場で産業医がいない場合はどうすればよいでしょうか?

産業医の選任義務がない50人未満の事業場であっても、対象となる労働者がいる場合は面接指導の実施義務があります


労働安全衛生法第66条の8では、事業場の規模にかかわらずすべての事業者に義務を課しています。産業医がいない場合は、地域産業保健センター(地産保)を活用するか、スポットで産業医の面接指導が利用できるサービス等に個別に依頼して面接指導の機会を確保しなければなりません。

 

産業医面談時間に対して従業員に賃金を支払う義務はあるのでしょうか?

企業が義務として実施する面接指導の時間は、原則として「労働時間」に該当するため、賃金の支払いが必要です

 

面接指導は法的な義務に基づき、事業者の指示によって行われる健康管理業務の一環とみなされます。そのため、所定労働時間内であれば通常の賃金を、所定時間外に実施した場合には割増賃金(残業代)を支払う必要があります。

「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます」(厚生労働省)を編集して作成

 

プライバシー保護や守秘義務を徹底するためには、どのような管理が求められますか?

面接指導の結果は、健康管理に必要な範囲を超えて第三者や上司に漏洩しないよう、厳重な情報管理が求められます

 

医師には刑法上の守秘義務があり、診断の詳細や私的な相談内容をそのまま企業へ伝えることはありません。

 

企業側も、医師から提出された「意見書」を扱う際は、人事担当者などの限定された範囲内で管理し、本人の名誉やプライバシーを傷つけないよう細心の注意を払う必要があります。

 

従業員から産業医面談の申し出があった場合、対応で注意すべき点はありますか。

面接指導の申し出や医師の意見聴取の結果を理由とした、解雇、降格、減給などの不利益な取り扱いは法律で厳格に禁止されています

 

これは労働安全衛生法(第104条)に基づく法的根拠があり、違反した場合は安全配慮義務違反を問われるだけでなく、社会的信用も大きく損なうことになります。あくまで労働者の健康を守るための制度であることを周知し、不当な査定などに繋げない運用を徹底してください。

 

長時間労働者への産業医面談を形骸化させない運用へ

 

長時間労働者に対して面接指導を行う産業医のイメージ

 

長時間労働者への面接指導は、企業の法的義務です。対象者への通知・勧奨、記録の5年間保存など、法令に則った運用でリスク管理を徹底しましょう。

 

一方で、「産業医面談が形骸化している」「産業医のリソースが足りない」といった実務の課題には、外部サポートの活用が有効です。

 

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自社の産業保健体制づくりにお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。

 

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この記事の著者

甘中 亜耶

甘中 亜耶

公認心理師・臨床心理士
大学院を卒業後、精神科クリニックや保健所でカウンセリング、心理検査を担当した経験を持つ。
現在は従業員数1万人規模の企業で、労務実務担当として働いており、主に安全衛生・休職者対応などに従事。