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「当事者同士の問題」ではない!セクハラ・パワハラ防止の根本的な対策とは

(更新:

厚生労働省が2017年4月に発表した職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書によると、過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した従業員は32.5%と、平成24年度実態調査では25.3%より増加した。

 

また、2016年3月の報告では、働く女性のセクシュアルハラスメントの経験率は 28.7%という調査結果がある。

 

これに対して企業は、「当事者同士の問題」と無視することはできない。では、「パワハラ、セクハラ防止の根本的な対策とは?」社労士でカウンセラーの舘野聡子さんにお話をうかがった。

 

 

 

基本は、「相手を尊重する、いやがることをしない、言わない」

 

――基本的な質問ですが「パワハラ・セクハラの定義」というのはあるのでしょうか?

 

パワハラの定義

パワハラは、2012年3月に厚生労働省が提言をまとめ、2016年にはパワーハラスメント対策導入マニュアル(第2版)を公開しています。その中で、パワハラを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

 

マニュアルでは

 

・上司から部下に対するものに限らない、

 

・職務上の地位や人間関係といった「職場内での優位性」を背景にする行為が該当する

 

・業務上必要な指示や注意・指導が行われている場合には該当しない

 

・「業務の適正な範囲」を超える行為が該当すること

 

とも書かれています。

 

法規制はまだありませんが、政府の推進する働き方改革の重要項目とされており、厚生労働省で検討会が開催され、法規制も視野に入れた話し合いがなされています。

 

セクハラの定義

セクハラは、男女雇用機会均等法に規定があります。「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により、労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること、と定義されています。

 

労働者が業務を遂行する場所であれば、宴会の席でも、移動の車中でもすべて「職場」の対象です。また、職場におけるセクシュアル・ハラスメントには、同性に対するものも含まれる、と明示されています。

 

――パワハラ・セクハラの基本的な対策を教えてください。

 

当たり前のように聞こえるかもしれませんが、「相手を尊重する」、「いやがることをしない、言わない」、「相手を大切に思うとはどういうことかを考える」ということを一人ひとりが意識することが対策の基本です。

 

そのうえで、パワハラやセクハラは、厚生労働省でガイドラインや提言があります。男女雇用機会均等法では、セクシュアル・ハラスメント防止のため、労働者からの相談に応じたり、適切に対応するための体制の整備をはじめ、その他の雇用管理上必要な措置を講ずることをも事業主に義務付けています。

 

会社としては最低限、職場のガイドライン、就業規則にセクハラ、パワハラについての規定を入れましょう。トップがどう考えているのかということを示し、パワハラ、セクハラは許さないということを周知徹底する必要があります。

 

社内でルールに入れるのはもちろんですが、もっと言うと、セクハラと判定するかどうかは別としても、一般的に性的発言は職場には必要ないものです。誰かが不快と感じたらセクハラになり得ます。

 

人をおとしめることで場を和ませる必要はない

 

――「からかい」は場を和ませるために必要だと捉えたり、あるいは自分を卑下することでムードメーカーになろうとしたりすること人もいると思うのですが、そのようなケースについてはどう思われますか?

 

いじり、からかいが、職場を和ませるのに絶対必要かと言われると、そうではないですよね。聞いてて気持ちがいいいものではないけれど、黙って聞いている人も多いのではないでしょうか。人をおとしめて場を盛り上げたり、自分を下げて笑いをとったりする以外の盛り上げ方をしてほしいと思います。「最近すごくがんばっているね」などのプラスのフィードバックやなら、誰も傷つかないし、職場の雰囲気もずっとよくなるはずです。

 

被害者の典型的な反応として、暴言を吐いてもいい人だと思われていることに傷つく、ということがありますね。身体的特徴や体型、たとえば薄毛だったり、太っていたりすることなどは、男女を問わず、本人は気にしていないと言っても、からかいの種にすることは問題です。

 

気づかずにしてしまう人と、あえてしている人への対策

 

――ハラスメントをする人には、どのように対応していくのがよいのでしょうか?

 

気付かずにしてしまう人には、こういうことはハラスメントに当たる、という教育をすればいいのですが、あえてしてしまう人については、もう少し踏み込んで考える必要があるでしょう。

 

わざとハラスメントをする人は、することで何かメリットを得ているのです。

 

されている人の反応を見ることで自分が力を持っていると実感できる、周りから非難されずに済むとうのもあるかもしれません。

 

ハラスメントは、する側に何かしらの自分でも気づいていない課題、不安や劣等感などの心理的な要因があることが多いのです。一度ハラスメント行為をして、それで部下が言うことを聞いてくれた、自分の力を認識できた、安心したなどのことがあると、また同様の行為を繰り返すことになります。そしてうまくいかないといら立って感情的になり言動がエスカレートします。

 

ハラスメント行為の裏にどんな気持ちがあるか、ハラスメントをしないでその気持ちを解消したり満たす方法はないか、その人をサポートしていかないと、また行為を繰り返すことになります。

 

――そのような人がハラスメントを繰り返さないためにはどうしたらよいのでしょう??

 

ハラスメントが再生産されないために、循環を断ち切る必要があると思います。

 

もちろん大前提として、ある人が誰かにハラスメント行為をしたら、その暴言なり暴力自体は絶対に許されないものですし、それを放置してはなりません。ハラスメント行為を速やかに調査し、証言を集めて厳しく対処する必要があります。

 

そのうえで、ハラスメントはいけないが、加害者の存在自体を全否定することも同じように間違ったことだと気付くことです。

 

会社はその人のハラスメントには厳格に対処するとしても、その人自体の人間としての尊厳は大事にする、たとえばハラスメント以外の仕事の業績、あるいはその人がかりにつらい過去の傷を抱えていたとしたら、そのこと自体はちゃんと頑張って生きてきたね、と認めているというメッセージを発することが必要なのです。そのうえで、行動を変えるためのカウンセリングをする必要があります。

 

――行為者ではなく、行為そのものや、行為に向かわせた状況がいけないという考え方ですね。罪を憎んで人を憎まず、のような。

 

近々ハラスメント研修をするのですが、もう、「こういう行為はいけません」というだけの研修はやめよう、と提言していこうと思っています。ハラスメントをする人をリスクとして排除するだけでは負の連鎖が続くことになります。

 

ここでも、みんなで褒め合う、尊重しあう文化を根付かせることが必要になってくるのです。プラスのフィードバックが自分にもあれば、誰かにハラスメントすることで、自分の欠落を埋める必要はなくなるでしょう。

 

コミュケーション、議論することが大切

 

――パワハラやセクハラで、新しい課題というのはありますか?

 

職場でもうひとつ問題だなと思うのは、何かというとハラスメントといわれることを恐れて、過剰な自主規制が働いていることです。たとえば不妊治療をしている人がいると、職場全体で子どもに関する話題はタブー、みたいになってしまっているところもあります。

 

言論統制、言葉狩り、タブー、自主規制などが行き過ぎるのは確かに問題です。必要なコミュニケーションまで阻害されてしまいます。また、被害者が強者になって不適切に被害を受けたことを利得として利用するというようなことも実際に多くの例があり、それはそれで新たな問題を生じています。

 

言葉は解釈次第、受け取り方次第という側面があります。誰もがなにかを解釈しながら生きているので、解釈の方向性にガイドが必要な時代かもしれません。ハラスメントと気付かずしてしまう人に教育が必要なように、通常の指導をハラスメントと取りすぎる人、傷つきやすい人にもガイドが必要です。

 

ハラスメントもそうですが、人間がストレスに感じる認識にアプローチしていく必要があるのではないかと最近強く感じています。

 

繰り返しますが、パワハラ、セクハラは許さないという法的なルールをきちんと社内で確認したうえで、職場で、更に進んだ議論ができるような文化があればいいですね。

 

プロフィール:舘野 聡子(たての さとこ)

 

 

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者

民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

 

文/奥田由意

 

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