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【2025年6月】職場の熱中症対策が義務化へ|罰則は?対応策を解説

(更新:

片桐はじめ

職場の熱中症対策義務化
職場の熱中症対策義務化

2025年6月より、職場の熱中症の早期発見を目的として、3つの対策が義務化されます。しかし、「何をどこまで整備すべきか」「発生時の対応はどうすればいい?」と悩む人事労務担当者の方も多いでしょう。

 

本記事では、熱中症対策の義務化について、法的要件と実務面のポイントを解説します。具体的な予防策や緊急時の対応フローまで説明していますので、熱中症対策として何をするか迷う場合は、参考にしてみてください。

 

熱中症対策義務化の目的と背景

 

熱中症対策義務化の背景と目的

 

回の労働安全衛生規則改正の目的は、熱中症による健康障害の早期発見重篤化の防止です。

 

近年、熱中症による労働災害は深刻化しており、2022~2024年の3年連続で、職場における熱中症による死亡者数は30人を超えています。また、熱中症による重篤な災害103件のうち100件が、初期症状の放置や対応の遅れがあったことが分かっています。

 

改正前の現行法令上でも、高温作業に対しては「健康障害防止のための措置」が以下のように義務付けられていますが、早期発見や重篤化のための防止策は定められていませんでした。

 

  • 労働安全衛生法第22条第2号

「事業者は、高温などによる健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」

 

  • 労働安全衛生規則第617条

「事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない」

 

以上のような背景から、今回の改正では労働安全衛生規則に「熱中症を生ずるおそれのある作業」が明記され、「早期発見の体制」や「重篤化防止措置の実施手順」の整備と周知が罰則付きで義務付けられました。

熱中症対策を怠った場合、労働安全衛生法第22条違反として、6か月以下の懲役拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

 

労働安全衛生規則の一部を改正する省令案について(概要)(e-Govパブリックコメント)

令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)(厚生労働省)

を編集して作成

 

熱中症対策が必要な作業条件

 

熱中症対策が必要な作業条件

 

熱中症対策が必要な作業として、以下の2つの条件が定められます。

 

  • 気温条件:WBGT値(※)28度以上または気温31度以上で行う作業
  • 作業時間:継続して1時間以上、1日当たり4時間を超えることが見込まれる作業

 

※WBGT値:気温や湿度、輻射(ふくしゃ)熱などを総合的に表した暑さの指標で、熱中症リスクの判断に用いられるもの。

 

なお、上記の条件に該当しない場合でも、作業強度や着衣状況などによっては熱中症リスクが高まります。重量物を運んだり、階段を上り下りしたりするなど、激しい身体活動を伴う作業では、注意しましょう。

 

職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)を編集して作成

 

 

義務化される3つの熱中症対策

 

それでは、職場では具体的にどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。

2025年6月より義務付けられる熱中症対策として、以下の3つが挙げられます。

 

  1. 早期発見の体制整備
  2. 重篤化防止措置の実施手順作成
  3. 関係作業者への周知

 

1.早期発見の体制整備

熱中症の自覚症状がある従業員や、熱中症の恐れがある従業員を発見した人が、スムーズに報告できるよう、早期発見の体制整備が義務付けられます。「誰に報告すればよいか」が明確になるよう、担当者や連絡先を定めることが必要です。

 

また、報告を受ける体制だけでなく、熱中症の恐れがある従業員を積極的に見つけるための措置も推奨されています。具体的には、以下のような対策が挙げられています。

 

  • 職場巡視の実施
  • バディ制の採用
  • ウェアラブルデバイスでの状態確認

 

 

2.重篤化防止措置の実施手順作成

熱中症の恐れがある作業を行う際に、重篤化防止のための措置や実施手順をあらかじめ定めておくことが求められます。熱中症発症時の混乱を防げるよう、一連のフローを明確化しておきましょう。

 

  • 作業からの離脱方法
  • 身体の冷却方法(冷たいタオルを当てる、涼しい場所に移動させるなど)
  • 医療機関の搬送までの注意点(該当従業員を一人にしない)
  • 事業場における緊急連絡網の整備
  • 最寄りの医療機関や救急搬送先の連絡先・所在地の明記

 

 

3.関係作業者への周知

熱中症の早期発見体制や重篤化防止措置の実施手順について、関係する従業員に周知することが義務付けられます。口頭での周知でも問題ありませんが、内容が複雑で伝わりにくい場合は、文書の配布や掲示が推奨されています。

 

周知をした結果の記録保存は義務ではありませんが、労働基準監督署の調査では適切に説明できるようにしておきましょう。いつ、どの従業員に、どのような方法で周知したかを記録しておくことがおすすめです。

 

職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)を編集して作成

 

 

熱中症の疑いがある従業員を早期発見するための方法

 

熱中症の疑いがある従業員を早期発見するための方法

 

実際に熱中症の疑いがある従業員を早期に発見するためには、どのような対策が求められるのでしょうか。

以下の3つの方法について解説します。

 

  • 健康状態を定期的にチェックする
  • 熱中症リスクのある従業員を把握しておく
  • 極力一人での作業は避ける

 

1.健康状態を定期的にチェックする

熱中症リスクは、体調に左右されるため、健康状態を定期的にチェックすることが大切です。

特に、次のような状態は熱中症リスクを高める可能性があります。

 

  • 睡眠不足
  • 前日の飲酒
  • 朝食の未摂取
  • 風邪症状による発熱
  • 下痢などによる脱水

 

作業開始前や休憩中に、上記のような症状がないか従業員同士で健康チェックをする仕組みをつくります。例えば、以下のような方法が挙げられます。

 

  • 健康状態のチェックシートを作成
  • 「朝食に何を食べましたか?」「昨晩は何時に寝ましたか?」と対話形式で確認
  • 従業員同士で顔色のチェックを行い、熱中症の兆候を早期発見
  • 休憩場所に体温計や体重計を設置(体重減少や体温上昇などの症状がないかチェック)

 

さらに、熱中症リスクが高まる高温多湿環境の職場では、職場巡視の頻度を増やすなど、環境に応じた対応も重要です。

従業員同士でチェックできる仕組みや、巡視頻度を増やすことで、熱中症疑いの従業員を早期に発見できます。

 

2.熱中症リスクのある従業員を把握しておく

生活習慣病など、熱中症リスクにつながる疾患のある従業員がいるか、事前に把握しておきましょう。特に注意が必要なのは、以下のような基礎疾患です。

 

  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 腎不全
  • 心疾患
  • 精神や神経関係の疾患
  • 広範囲の皮膚疾患

 

定期健康診断の結果から、該当する疾患や異常所見がないかを確認し、熱中症リスクを把握しておくことが大切です。必要に応じて、産業医に作業内容の配慮を要するレベルかの判断を仰ぎましょう。

 

職場の熱中症予防に努めましょう!(厚生労働省 熱中症予防情報サイト)を編集して作成

 

3.極力一人での作業は避ける

熱中症は、急激に症状が悪化することがあるため、極力一人での作業は避けるようにしましょう。2人以上で作業を行うことで、熱中症の症状が生じた場合も発見しやすくなります。特に、高齢者や持病のある場合など、熱中症リスクの高い従業員は2人一組で作業するようにしましょう。

 

どうしても単独作業になる場合は、定期的な連絡体制を整えましょう。ウェアラブルデバイスの装着や1時間に1回の連絡をルール化するなど、発見できる仕組みづくりが重要です。

 

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熱中症の重篤化を防止するための方法

 

熱中症の重篤化を防止するために必要な具体的な方法は、以下の3つです。

 

  • 救急隊を要請する判断基準を決めておく
  • 休憩場所で応急処置ができるよう準備する
  • 救急処置の対応フロー図を作成しておく

 

1.救急隊を要請する判断基準を決めておく

熱中症の症状に気づいた時、「救急車を呼ぶべきか」と判断に迷わないよう、要請する基準を決めておくことが大切です。現場での混乱を防ぎ、迅速な対応につながります。救急隊要請の判断基準や対応としては、以下のように決めておくとよいでしょう。

 

  • こむら返りや手足のしびれなど、軽度の症状でも医療機関に連絡する
  • 本人に自覚がない場合でも、周囲が異常を感じたら救急要請を行う
  • 判断に迷う場合は、必ず上長に報告して判断を仰ぐことをルール化する

 

熱中症は、軽度と思われる症状でも急激に悪化する場合があります。周囲が異変を感じたら作業を離れてもらい、迷いなく医療機関に連絡するよう徹底することが大切です。

 

2.休憩場所で応急処置ができるよう準備する

熱中症の疑いがある場合、医療機関に搬送するまでの応急処置が、症状の悪化を防ぎます。休憩場所には、応急処置に必要な物品をそろえておきましょう。具体的には、以下のような物品が必要です。

 

  • アイスラリー(流動状の飲料水)
  • 水分や塩分補給ができる飲料水
  • 凍らせたペットボトルやタオル

 

応急処置として、熱中症疑いのある従業員を日陰や冷房の効いた部屋などの涼しい場所へ移動させ、衣服を緩めて身体を冷やしましょう。意識がある場合は、経口補水液などで水分や塩分の摂取を促します。

 

また、排水設備がある休憩場所では、シャワー場を設置して、身体を冷却できるようにしておくことも有効です。

 

令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱(厚生労働省)を編集して作成

 

3.救急処置の対応フロー図を作成しておく

緊急時に混乱しないよう、熱中症発症時の対応手順を以下のようなフロー図にしておくとよいでしょう。

 

 

出典:職場における熱中症対策の義務化について(厚生労働省)

 

上記のフロー図は、あくまでも参考例です。現場の実情にあった内容になるよう、職場内で協議したうえで作成しましょう。

 

フロー図は、休憩所や作業場など、誰もが見やすい場所に掲示することで周知します。また、熱中症が増加し始める5月くらいから、朝礼時や安全衛生教育の場で内容を確認することも大切です。

 

熱中症対策により働きやすい職場づくりを

 

2025年6月から義務化される3つの熱中症対策は、「重篤化させないための対策」が焦点となっており、法令遵守だけでなく、従業員が働きやすい環境づくりに役立つ視点ともいえます。

 

効果的な対策には、作業環境管理や職場巡視のポイントなど、専門的な視点が重要です。

産業医に意見を聞きながら、特にリスクの高い従業員への配慮を行うことで、安全で生産性の高い職場づくりにつながるでしょう。

株式会社エムステージでは、産業医の紹介から健康診断の実施まで、健康経営推進に必要なサービスをトータルで提供しています。

熱中症対策でお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

 

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この記事の著者

片桐はじめ

片桐はじめ

(公認心理師・臨床心理士)
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。

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