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〈産業医コラム〉目の前で人が倒れたら……一次救命処置、できますか?

(更新:

佐々木由希世

突然ですが、質問です。

 

通勤中、目の前で人が倒れました。

 

思わず「大丈夫ですか?」と声をかけましたが、反応がありません。

 

さてここからの対応どうすればよいか……

 

自信はありますか?

 

a)何をすればよいか分かり、正しく対応できる自信がある。
b)何をすればよいか何となく分かるが、正しく対応できる自信はあまりない。
c)何をすればよいか全く分からず、対応できる自信がない。

 

このコラムを読んでおられる多くの方が、b)かc)のいずれかではないでしょうか。

 

冬場になると、心筋梗塞などいわゆる”心臓発作”が起きやすくなります。

 

この質問のように通勤中に目の前で人が倒れ意識を失う、もしくは大切な人が目の前で倒れ意識を失う、といったことが起きるかもしれません。

 

そんな時、救急隊に引き継ぐまでに行うべき一連の処置が、一次救命処置(Basic Life Support: BLS)です。

 

心臓が止まっているにも関わらず救命処置をしなかった場合、1分経過するごとに救命率は10%ずつ下がりますので、まさに一分一秒を争って一次救命処置(BLS)にとりかかることが大切です。

 

この機会に勉強しておきましょう。

 

まずは、図1をご覧ください。一次救命処置(BLS)の流れを示したものです。

 

(図1)「JRC 蘇生ガイドライン 2020 オンライン版」より 市民用BLSアルゴリズム

 

…ちょっとこの図だけではイメージしづらい…という方は、ぜひ下記の動画もご覧ください。2本続けて視聴されると、倒れた人の発見から一次救命処置の実施までお分かりいただけると思います。

 

①「心肺蘇生ってどうやるの?(1分18秒) 東京都消防庁公式チャンネルより」

 

 

②「成人の心肺蘇生(4分23秒) 東京都消防庁公式チャンネルより」

 

 

一次救命処置の流れをイメージしていただけたでしょうか。

 

この流れのなかで一番大切なことは、絶え間なく胸骨圧迫を行うことです。

 

AEDに「心電図を解析します。体から離れてください。」とか「ショックを行います。体から離れてください。」など離れるよう指示されたとき以外は、絶え間なく胸骨圧迫を行ってください。

 

さて、図や動画を見てもやはり「ちょっと自信ないなぁ……」と思う方もおられるかもしれません。

 

その理由としてよく耳にするのは

 

1)「反応はあるか(図1の2)」や「普段どおりの呼吸はあるか(図1の4)」が、正しく判断できる自信がない。

2)人工呼吸(図1の6)をすることに抵抗がある。

3)AEDを使用してはいけない状態なのに誤って使用してしまい、致命傷を与えてしまったらどうしよう、と不安。

4)倒れている人が女性の場合、体に触ったり服を脱がせてAEDを装着したりしてよいか、ためらう。

 

の4つです。これらにお答えしてゆきます。

 

1)「反応はあるか(図1の2)」や「普段どおりの呼吸はあるか(図1の4)」が、正しく判断できる自信がない。

:正しく判断できる自信がなくても構いません。迷ったら、次のステップへ進みましょう。

 

図1を再度ご覧ください。「判断に迷う」場合は次のステップに進むように書いてありますよね。

 

1分1秒を争う状況なので、「判断に迷ったら、思考停止せず次のステップへ」と考えて処置をすすめるのです。

 

2)人工呼吸(図1の6)をすることに抵抗がある。

:人工呼吸を行うことに抵抗があれば行わなくても構いません。

 

特に新型コロナウイルスなど感染症が流行している場合は、人工呼吸は行いません。

 

そのかわり、絶え間なく胸骨圧迫することは忘れないでください。

 

3)AEDを使用してはいけない状態なのに誤って使用してしまい、致命傷を与えてしまったらどうしよう…と不安。

:AEDを使用してはいけない状態(電気ショックが致命傷になってしまう状態)の場合、電気ショックは流れない仕組みになっています。

AEDが心電図を自動解析し、電気ショックが有効か否か判断してくれるのです。

 

ですからとにかくAEDの指示に従いさえすれば大丈夫です。

 

なお、AEDが電気ショックを行わないと判断した場合は「胸骨圧迫を再開してください。」と指示がありますので、絶え間なく胸骨圧迫を行ってください。

 

4)倒れている人が女性の場合、体に触ったり服を脱がせてAEDを装着したりしてよいか、ためらう。

:不幸にも、倒れている人が女性の場合、このような懸念により救命が遅れる事例が実際に発生しています。

 

心臓が止まった場合、救命処置をしなければ1分経過するごとに救命率は10%ずつ下がりますので、性別に関わらずためらうことなく救命処置を行うことが大切です。

 

女性の救命処置を行う場合は、下記のポイントをぜひ思い出してください。

 

① AEDのパッドは肌に直接貼る必要がありますが、パッドを貼ったあとは上から服をかぶせても大丈夫。AEDは通常通り使用できます。(図2)

② ブラジャーをつけている場合は、ブラジャーを脱がせる必要はありません。ブラジャーの場所を避けてパッドを貼れば大丈夫です。(図2)

③ 金属製のネックレスなどを無理にはずす必要はありません。

④ 「女性の方、協力してください!」など、周囲の女性へ声掛けして手伝ってもらうのも良いでしょう。

⑤ 救命処置に直接携わらない方は、上着などを使い通行人の視線から患者さんを守る、興味本位でスマホ撮影などしないよう声掛けする、など周囲の人と協力して対応しましょう。

 

(図2)東京都多摩府中保健所HPより

 

なお、「もっと詳しく学びたい」という方は、総務省消防庁の一般市民向け 応急手当WEB講習 の利用もおすすめです。

※文章出典:人事・総務向け「ウェルビーイング経営」サポートメディア「ウェルナレ」専門家記事より寄稿

 

この記事の著者

佐々木由希世

佐々木由希世

(ささき・ゆきよ)労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会専門医、(一財)日本予防医学協会所属。複数企業において産業医、健診医を担当