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【教えて!山越先生】メンタル不調社員に産業医面談を受けてもらうには?(2)

(更新:

メンタル不調気味の社員に産業医面談を勧めたけれど、あまり乗り気ではない様子……。こういう時どう対応すればいいの??

 

産業医の山越志保先生が、人事労務担当者の疑問や悩みに答える「教えて!山越先生」。

 

第2回となる今回は「メンタル不調者の産業医面談」についてのお悩みにお答えします!

 

(人事労務担当者) メンタル不調の社員に産業医面談を勧めても「会社に情報が漏れるのが嫌だから受けない」と言われてしまいます。
このような社員に対して、会社はどう対応すればいいのでしょうか?

 

 

(山越先生) こういう社員さん、いますよね。いまだに、産業医面談の結果が人事評価や給与待遇に直接関与すると思って、困っている状況を相談できない方。

 

産業医にそんな権限ありませんって!」と内心、思いますが、なかなか、そうは思ってくれないのが実情です。

 

産業医が、特に嘱託産業医の場合は、企業内の唯一の医療の専門家であることが多いです

 

まずは、産業医面談を受けてくれないと、医療の専門家に情報が直接伝わらないことになってしまいます。これは社員さんにとっても企業にとっても、好ましい状況ではありません。

 

なぜなら、メンタル不調の始まりは、特に注意していないと分かりづらく、メンタル不調の知識がないと、周囲だけでなく、本人さえもメンタル不調に陥っていると気づかないこともよくあります。

 

こうして放っておいて悪化してしまうので、医療の専門家である産業医が、社員さんの現状を把握し、症状や処置について適切に判断する必要があるのです。

 

まずは、産業医面談を受けたがらない社員さんに対して、人事担当者のアプローチが重要です。

 

今回は、人事担当者へのアドバイスと合わせて、産業医面談を受けてくれた社員さんへの産業医としての対応と、産業医面談を安心して受けられるように企業がとる対策についてお話しします。

 

 

人事担当者として「あなたの体調が心配」と伝えましょう

 

 

 

(山越先生) 基本的な姿勢として大切なことは、面談を躊躇している社員さんに「人事担当者として、あなたの体調を心配している」ということを最初に伝え、理解させることです。

 

きれいごとに聞こえるかもしれませんが、これは本当に大切。人間、健康でないといい仕事できないですから。「何となくわかってくれるであろう」と考えるより、言葉で明確に伝えるべきです。

 

そして、産業医面談を受けるにあたって、社員さんが不安に思っていることを具体的に聞き出すようにします。

 

大抵は、産業医面談が人事評価に関与したり、管理職や会社幹部に面談結果が筒抜けになったりして、不利益を被ることを心配している例が多いようです。

 

このため、社員さんには産業医面談の結果は人事評価に直接関与しないこと、面談の結果や健康情報は業務にかかわる部分のみ加工され、担当者だけで共有する旨を説明して、相手の不安の芽を摘んでいくようにします。

 

もし、細かいことを説明することが大変なときは、「会社の担当者に相談できなければ、医療者である産業医に相談してみたら?」と話し、産業医面談に誘ってみてはいかがでしょうか?

 

とにかく、人事担当者だけで情報を止めないで、産業医面談という次のステップにつなげていくことが重要です。

 

産業医面談で、産業医が社員へどのように対応すべきか?

​​​​​​​

 

 

(山越先生) 人事担当者がうまく産業医面談につなげてくれたら、産業医の出番です。面談で、困っていることや悩んでいることを率直に打ち明けてもらえるように、いろいろなお話を聴いていきます。

 

私の場合には、前置きとして、ご本人に「社員であるあなたが健康で長く働けるようにアドバイス、協力したいです」とお伝えします。

 

ただしその際、「個人情報は全く漏れない」と安請け合いしないようにしています。

 

万が一、その社員さんがメンタルの疾患で、病状によって業務上配慮が必要になった場合、本人の同意を取ったうえで、部分的に健康情報を会社に説明することもあるからです。

 

それが社員さんの利益になり、結果的に長く働くことにつながるケースもあります。

 

 

安心して産業医面談を受けられる組織を創る

 

 

(山越先生) 企業の対策としては、メンタル不調の社員さんが安心して産業医面談を受けられるように、企業の中で下記の2つの認識が根付いていくことが重要だと感じます。

 

  1. メンタル不調とお付き合いしながら働くことはできる。
  2. 原則個人情報は、業務に関わる部分を適切に加工した上で、決まった担当者で取り扱う。

  3. 不必要に他者に漏らさない。

 

①に関しては、研修等で他社の事例を紹介したり、実際に病気の社員が発生した時に、ひとつひとつの事例に対応したりすることで、事例を積み重ねていくことが必要かと思います。

 

②に関しては、個人情報保護法という法律ができましたが、まだ現場の意識は追いついていないところも見受けられます。

 

当然なのですが、業務に関係ない健康情報は会社にすべて開示する必要性はないですし、個人の健康情報、産業医面談のフィードバックについても、一部の担当者で共有するのみで、他者に漏らさないことを徹底して頂きたいと思います。

 

これが守られないと、今後も社員さんが会社への情報漏れを嫌がって産業医面談を受けないばかりか、産業医や人事担当者への信頼も損ねることになってしまいます。これから面談者となりうる社員さんも警戒して、相談に来なくなる可能性が高くなります。

 

またまた長くなってしまいました。企業の中でメンタル不調などの問題を抱える方をうまく産業医面談につなげることで、社員さんも企業もハッピーに働けるように願っております。

 

 

【プロフィール】

 

山越 志保(やまこし しほ)/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルトタント(保健衛生)

 

都内の病院で内科医として勤務しながら、日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタントを取得し、産業医としての業務を開始。これまで多岐にわたる企業で、産業医業務を担ってきた。現在は、株式会社さくら事務所を設立し、臨床と産業医活動を行っている。

 

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