【メンタルヘルス不調】初期症状のサインと原因、対応ポイントを解説
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片桐はじめ


メンタル不調による休職や離職を防ぐためにも、初期症状を早期に発見することが大切です。初期症状のみられるメンタル不調者に対しては、信頼関係を築いた人物が相談にのり、必要に応じて産業医や心理職など専門家への面談につなげましょう。
この記事では、メンタル不調による初期症状について詳しく解説します。職場で見られる具体的な行動も紹介するので、メンタル不調の初期症状を早期発見するためにも、ぜひご覧ください。
目次
メンタルヘルス不調とは
メンタルヘルス不調とは、厚生労働省の「労働者の心の健康保持増進のための指針」によると、以下のように定義されています。
精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう。
出典:労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)(厚生労働省)
つまり、医学的に診断される精神疾患だけでなく、業務に支障をきたすストレスや不安なども含む状態がメンタルヘルス不調です。
厚生労働省の調査では、1か月以上連続して休業した労働者がいる事業所の割合が上昇傾向にあります。令和2年に9.2%だったのが、令和5年には13.5%まで増加しています。
労働安全衛生調査(実態調査)令和2~5年(厚生労働省)をもとにエムステージ作成
従業員のメンタルヘルス不調は、生産性低下や離職・休職の増加につながります。企業の経営課題の一つとして避けられない状況にあり、予防や適切な対処の必要性が高まっています。
メンタルヘルス不調を疑う3つの初期症状
メンタルヘルス不調は、精神面、身体面、行動面に症状があらわれることが特徴です。3つの側面から、初期症状について詳しく説明します。
1.精神面の不調
メンタルヘルス不調の初期症状として、次のような精神面の不調があります。
精神面の症状は徐々に悪化し、周囲からも明らかな変化として気づかれることがあります。本人も「何かおかしい」と感じることが増え、日常生活にも支障をきたすようになります。
初期症状 | 具体例 |
意欲低下 |
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不安感 |
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情緒不安定 |
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集中力や判断力の低下 |
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2.身体面の不調
心と身体は密接に関連しているため、メンタルヘルス不調は身体症状としてもあらわれます。特に、初期段階では身体面の不調から気づくケースが多いでしょう。具体的には、以下のような不調があらわれます。
初期症状 |
具体例 |
睡眠障害 |
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食欲の変化 |
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疲労感 |
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痛み |
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自律神経症状 |
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消化器系の異常 |
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3.行動の変化
精神面や身体面の不調から、行動に変化が生じます。具体的には、以下のように勤怠や対人関係にあらわれます。
初期症状 |
具体例 |
勤怠の乱れ |
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社交性の低下 |
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不健康なストレス発散 |
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業務パフォーマンスの低下 |
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感情表現の変化 |
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行動の変化は、本人の意思とは無関係に生じるなど、「自分でもコントロールできない」という感覚を抱くことがあります。そのため、話を聞かずに叱責してしまうと、本人を追い詰めてしまう可能性があるでしょう。
メンタルヘルス不調は初期対応が重要!放置するとキケンな理由
メンタルヘルス不調を放置すると、うつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まり、回復にかかる時間が増大します。
例えば、うつ病は症状が落ち着くまでの「急性期」から、ある程度回復するが症状に波がある「回復期」まで、半年程度の治療が一般的です。
また、うつ病の再発率は60%とされ、再発を繰り返すごとにさらに再発率が高まります。
回復するまでの時間に加え、再発を繰り返す恐れがあるため、完全な回復まで数か月~数年単位の時間を要することもあります。企業にとっては、従業員の長期休職や生産性低下による損失が大きいといえるでしょう。
そのため、メンタルヘルス不調の早期発見と初期対応を行い、症状の悪化を防ぐ取り組みが重要です。
3 うつ病の治療と予後 |こころの耳(厚生労働省)
職場復帰のガイダンス(働く方へ)|こころの耳(厚生労働省)を編集して作成
メンタルヘルス不調を引き起こす原因
メンタルヘルス不調のサインに加えて、従業員が抱えるストレスの原因をチェックしておくことも大切です。原因がわかれば、職場環境の改善や個別のサポートを行えるでしょう。メンタルヘルス不調を引き起こす原因を、以下の3つの観点から解説します。
- 業務上のストレス
- プライベートでのストレス
- 個人的な要因
業務上のストレス
職場環境や仕事内容に関連するストレスは、メンタルヘルス不調の原因となります。具体的には、以下のようなストレスが原因になりやすいでしょう。
- 業務の量と質(多すぎる業務量や厳しい納期、高すぎる目標設定)
- 裁量や責任の範囲(責任が重いのに自分に決定権がない)
- 対人関係(上司と部下のコミュニケーション、ハラスメント)
- 物理的環境(作業場の騒音、照明、作業スペースの広さ)
2.プライベートでのストレス
業務外の出来事も、ストレス要因としてメンタルヘルス不調の原因となるケースがあります。例えば、ライフイベントや家族のトラブル、金銭的な不安などが挙げられます。
- 転居や結婚、出産などのライフイベント
- 家庭内トラブル(夫婦関係や親子関係の不和、育児、介護問題)
- 金銭的な不安(生活費や住宅ローン、教育費など)
- 持病(治療との両立が負担になる)
結婚や出産などの喜ばしい出来事でも、環境や役割の変化を伴うため、ストレスになる場合があります。
また、金銭的な不安が強いと、無理をしてでも働こうとするため、不調に気づきにくいことがあります。
業務上のストレスだけでなく、プライベートでどのような状態なのかを周囲が把握しておけるとよいでしょう。
3.個人的な要因
ストレスとなる出来事の受け止め方や対処能力などの個人的な要因も、メンタルヘルス不調の原因に影響します。
例えば、失敗した体験を「これからも失敗するだろう」と捉えるよりも、「次に生かそう」と考える方がストレスへの影響は軽いでしょう。
研究では、以下の2つの性格傾向が、うつ病や不安症、物質使用障害(依存症)と関連することが示されています。
- 神経症傾向が高い:感情が不安定で心配や不安、ネガティブな考え方になりやすい
- 誠実性が低い:衝動的な行動を取りやすく、粘り強く取り組むのが苦手
従業員個人の特性を考慮し、面談の実施やセルフケア方法の啓発などを行うとよいでしょう。
参考:Linking “big” personality traits to anxiety, depressive, and substance use disorders: a meta-analysis│Psychol Bull. 2010 Sep;136(5):768-821.(Roman Kotov 1, Wakiza Gamez, Frank Schmidt, David Watson)
職場でチェックすべきメンタルヘルス不調のサイン
職場において、同僚や部下の変化を観察する際にチェックすべき不調のサインとして、以下の3つが挙げられます。
- 勤怠の乱れと業務のパフォーマンス低下
- 外見や表情の変化
- 周囲とのコミュニケーションの悪化
1.勤怠の乱れと業務のパフォーマンス低下
メンタルヘルス不調になると、これまで問題なくできていた業務が明らかにできなくなります。特に、チェックすべき変化としては以下のようなサインに注意しましょう。
- 出勤状況の変化(遅刻や早退・欠勤の増加、特に月曜日の欠勤に注意)
- スケジュール管理の乱れ(締め切りに遅れる、アポイントを忘れる)
- パフォーマンスの低下(ケアレスミスの増加、集中力低下)
- 意思決定(判断を先送りする、「どうしましょうか」と聞くことが増える)
これらの変化は、本人の能力や意欲の問題ではなく、メンタルヘルス不調のサインである可能性が高いです。以前の仕事ぶりと比べて違いがある場合は、注意が必要です。
2.外見や表情の変化
メンタルヘルス不調による意欲の低下から、見た目や表情などの外見的な変化が生じることがあります。わかりやすいのは、次のような外見上の変化です。
- 同じ服を着回している
- 髪型が整っていない
- 無精ひげがある
- メイクが乱れている
また、表情も変わり、以前は笑顔が多かった人が無表情になったり、うつろな目つきになったりします。特に、休日を挟んでも回復する様子がみられない場合、単なる疲労ではなくメンタルヘルス不調の可能性があります。
3.周囲とのコミュニケーションの悪化
メンタルヘルス不調に陥ると、対人関係の取り方にも変化が生じます。以下のようなコミュニケーション上の変化がないか、チェックしましょう。背景にアルコールや喫煙量の増加がある場合は、特に注意が必要です。
- 上司や同僚との雑談が減った
- ミーティングであまり発言しなくなった
- 必要な報連相ができなくなった
- イライラしてささいなことで周囲と衝突する
- 不平不満など否定的な発言が増えた
- 誤解や思い込みによって一方的に怒ることが増えた
メンタルヘルス不調への3つの対応ポイント
メンタルヘルス不調のサインがみられる従業員がいたら、どのように対応すればよいのでしょうか。3つのポイントを解説します。
- メンタルヘルス不調者への声かけと面談
- 専門家との連携
- 職場環境改善による再発防止
1.メンタルヘルス不調者への声かけと面談
メンタルヘルス不調の兆候がみられる従業員には、適切な声かけを行いましょう。「最近、会議で発言が減ったね」など、相手を心配していることが伝わるような声かけが効果的です。
声かけをして、相手が話せそうであれば、個別に面談を行います。「少し話せる時間はある?」と声をかけ、業務が忙しくない時間で、静かな会議室などプライバシーが守られる環境で話しましょう。話を聞くときのポイントは以下の通りです。
- 否定や批判をせず、共感的な態度で聴く
- オープンクエスチョンで自由に話してもらう
- 「頑張って」「気にしすぎ」などの安易な励ましは避ける
面談後は、「つらかったら産業医に相談したり、負担の減らし方を一緒に考えたりできる」「来週にまた話しましょう」と見通しを示します。
以上のような関わり方を、管理職向けのラインケア研修などで周知して、現場の対応レベル向上をはかりましょう。
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2.専門家との連携
メンタルヘルス不調が疑われ、仕事に支障が生じている場合は、産業医や保健師などの専門家との連携が有効です。
症状の悪化防止と早期回復のため、産業医や保健師との面談を設定しましょう。
専門家に相談すべきタイミングは、本人からの申し出があった時点が理想です。ただ、実際には管理職や人事労務担当者から勧奨するケースも少なくありません。
勧奨する場合、「どのタイミングで連携すべきか」という判断基準に迷いやすいでしょう。企業として以下のように面談基準を事前に決めておくと、判断しやすくなります。
【産業医や保健師と連携する基準例】
- メンタルヘルス不調のサインが一定数(3つ以上など)みられる場合
- 高ストレス者や月80時間以上の長時間労働者
- 新規役職者や中途入社者の3か月後など、不調リスクが高まる時期
- 2週間以上にわたって遅刻、欠勤などの勤怠不良がみられる場合
判断基準を設けるためには、産業医などの専門家の意見を聞きつつ、衛生委員会で話し合っておくとよいでしょう。
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3.職場環境改善による再発防止
メンタルヘルス不調の原因が職場環境にあるケースでは、環境改善が必要です。
メンタルヘルス不調が発生しやすい職場には、コミュニケーション不足や業務過多、役割分担の曖昧さなどの問題が潜んでいることが少なくありません。
改善点を洗い出すためには、ストレスチェックの集団分析を活用するとよいでしょう。部署や職種ごとのストレス傾向を把握し、優先的に対策すべき課題を特定します。
例えば、営業職の業務量の負担や裁量権の少なさがストレスとなっている場合、目標設定の方法や権限範囲の見直しをするなど、原因と対策を考えます。
産業医に意見を聞きながら、組織全体で働きやすい職場づくりに努めましょう。
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メンタルヘルス不調の対応は、個別対応だけでなく、メンタルヘルス不調を防ぐ組織づくりが重要です。
不調が発生してから対応するのではなく、予防に注力することで、発生時の対応負担軽減につながります。
メンタルヘルス不調を防ぐ組織づくりには、産業医や保健師などの専門家と連携することで、実効性の高い施策が行えます。
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メンタルヘルス不調の予防から対策まで、必要なときに専門職に相談できます。
企業規模にかかわらず、相談できる体制を整えておくと、突発的に対応する必要が生じたときに安心です。ぜひ、お気軽にご相談ください。