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人的資本経営の情報開示で求められる19項目とは?開示の義務化について解説!

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サンポナビ編集部

人的資本経営が新たな投資判断として重視されるなかで、有価証券報告書への人的資本の情報開示が義務化されました。

 

開示情報には人的資本経営に関する取り組みや戦略、指標などを盛り込むことが求められます。

 

この記事では、人的資本経営で情報開示が重視される理由や、情報開示が求められる19の項目について解説します。

 

 

人的資本経営とは


人的資本経営とは、人材の能力を企業の資本と考え、それを有効活用する経営手法です。人的資本を活かすためには、人材の採用や育成などを戦略的に行うことが求められます。

 

他にも従業員の健康維持やエンゲージメント向上などに対する取り組みも、人的資本経営を推進する施策として注目されています。

 

また昨今は、人的資本経営が投資判断の基準の1つとして重視される傾向にあります。企業が投資家から評価を得るためにも、人的資本に関する情報を開示してアピールすることも重要です。

 

 

人的資本については、次の記事でも解説しているので、参考にしてください。

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人的資本に関する情報開示の義務化

 

2023年3月期決算から、人的資本情報を有価証券報告書に記載することが義務付けられました。

 

有価証券報告書の人的資本情報の記載欄は、「企業の概況」と「事業の状況」の2箇所に分かれています。さらに旧様式と新様式があり、新様式には旧様式になかった多様性に関する指標やサステナビリティに関する考え方や取り組みの項目が追加されました。

 

多様性に関する指標としては、次の3つの記載欄が設けられています。

 

  • 女性管理職比率
  • 男性の育児休業取得率
  • 男女の賃金の差異

 

またサステナビリティに関連する項目には、人的資本に関する戦略やそれに関わる「指標及び目標」を記載する欄が設けられています。

 

次に有価証券報告書における人的資本の開示例を紹介します。

 

有価証券報告書における人的資本の開示例

以下は2023年1月31日に金融庁が、人的資本の情報開示の好事例として紹介した報告書の1つです。新様式が適用される前の有価証券報告書ですが、新様式における追加項目が記載されている事例ですので、参考にしてください。

 

(引用:記述情報の開示の好事例集2022|金融庁

 

上記の緑色の枠内が、人的資本関連のサステナビリティに関する考え方及び取組が記載されている項目です。

 

2-1には、新様式で記載欄が設けられている女性管理職比率や男性の育児休業取得率に関する数値を記載。さらに、男女の賃金の差異については下記の3枚目の報告書にまとめられています。

 

(引用:記述情報の開示の好事例集2022|金融庁

 

表内のオレンジ色枠内に給与が男女別に記載されていて、それぞれの違いが分かるようになっています。

 

人的資本経営において情報開示が重視される理由

 

人的資本の価値が向上している現代では、人的資本に関する情報を積極的に開示することで企業価値の向上にもつながります。

 

人的資本経営において、人的資本関連の情報開示が重視されている理由は次のとおりです。

 

  • 情報開示は人的資本投資の一助となるから
  • ESG投資が注目されているから

 

以上について詳しく解説します。

 

情報開示は人的資本投資の一助となるから

企業が人的資本投資に注力して、その情報を開示することで、さらなる人的資本投資の拡大が期待できます。なぜなら従業員が開示された情報に対して魅力を感じると、その企業で長く働こうと考えるからです。

 

長期間働いてくれる従業員に対して、企業はさらなる投資を行おうと考えます。投資を受けた従業員が企業で働く期間がさらに長くなることで、企業との信頼関係がさらに強固になり、好循環が産まれるでしょう。

 

好循環を維持するためにも企業は人的資本投資を続けることになり、その結果、人的資本経営を推し進めることにつながります。

 

また人的資本情報の開示は、求職者に対するアピールにもなるでしょう。求職者にアピールするためには、開示された人的資本情報が魅力的である必要があるため、企業は人的資本への投資を拡大しようと考えます。

 

ESG投資が注目されているから

昨今はESG投資が注目されていて、人的資本情報はその投資判断の1つとなるため、情報の開示が重視されています。ESGとは、Environment(環境)とSocial(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を取った言葉で、財務面以外で注目される投資の判断基準です。

 

人的資本に関連するESG投資は、社会分野に対する投資になります。今後、少子化などによる人手不足が予想されます。そのような社会で企業が成長を続けるためには、採用活動に力を入れながら、離職者数を減らして人材を確保する必要があります。そのためにも、従業員のワークライフバランスの適正化やダイバーシティへの対応、労働安全性の向上などが欠かせません。

 

人的資本情報を開示して、ESG投資に力を入れていることをアピールすると、持続可能な企業として投資家からの評価を得やすくなります。

 

ESGの観点から注目されているウェルネス経営についての記事も参考にしてください。

 

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人的資本経営で情報開示が求められる7分野19項目

 

 

人的資本経営では19項目の情報開示が求められていて、各項目は次の7分野に分類されます。

 

  • 人材育成
  • エンゲージメント
  • 流動性
  • ダイバーシティ
  • 健康・安全
  • コンプライアンス
  • 労働慣行

 

各分野について解説します。

 

人材育成

人材育成では具体的な項目として、「リーダーシップ」や「育成」、「スキル/経験」が挙げられます。研修の時間や費用、研修受講率といった測定可能な指標を用いた目標や進捗状況に関する情報開示も含まれます。

 

エンゲージメント

エンゲージメントとは、従業員の会社に対する愛着心を示す言葉です。この分野には「従業員満足度」が掲げられており、企業が人的資本に投資して従業員が働き方に満足すると、エンゲージメントも醸成されます。従業員の待遇や労働環境、仕事に対する満足度などの開示が求められています。

 

流動性

流動性には、「採用」や「維持」、「サクセッション」などの項目が掲げられています。離職率や定着率、採用コストなどの定量的な情報や、人材の確保・定着に向けた取り組みに関する情報の開示が必要です。

 

多様性

多様性については、「ダイバーシティ」や「非差別」、「育児休業」といった項目が挙げられます。性別などの属性別の従業員や経営層の比率や男女間の給与差、正社員と非正規社員の福利厚生の差などの情報開示が求められます。

 

健康・安全

健康・安全分野では、「精神的健康」や「身体的健康」、「安全」の項目が挙げられます。医療やヘルスケアサービスの利用促進と適用範囲の説明などの健康関連の情報や、労働災害の発生件数および割合、死亡数などの安全面に関する情報開示が求められます。

 

コンプライアンス

コンプライアンスの分野で必要な情報開示は、企業の「法令順守」に関する項目です。法令順守を基盤とした企業活動や、サプライチェーンにおける社会的リスクに関する情報開示が求められます。

 

労働慣行

労働慣行分野では「労働慣行」や「児童労働・強制労働」、「賃金の公正性」、「福利厚生」、「組合との関係」の項目があげられます。従業員が適正な賃金で働いているのか、強制的に働かされていないかなどに関連する情報を開示します。

 

企業が人的資本開示する際のポイント

 

 

企業が人的資本開示をする目的の1つはステークホルダーに企業価値をアピールすることです。その目的を達成するためにも、次のポイントを意識して情報開示するとよいでしょう。

 

  • 自社が開示すべき情報は整理した上で公開する
  • 開示情報には定量的なデータを盛り込む
  • 企業の独自性や優位性を示せるような情報を開示する
  • 企業の取り組みに関する結果とともに、内容や目標、現状との差を伝える

 

以上を開示情報に反映させると、ステークホルダーに対して効果的にアピールできます。次に具体的な開示手順を説明します。

 

人的資本を開示する手順

 

人的資本情報でステークホルダーに自社をアピールするためには、関連指標を測定したり、開示情報を改善したりするための環境整備が欠かせません。人的資本の情報開示に向けて、次の手順で環境整備を進めましょう。

 

  1. 人的資本に関連する指標を計測するための環境整備
  2. KPIや目的の策定
  3. 従業員の意見をもとにした施策への取り組み
  4. 施策の改善
  5. 施策の改善を進めつつ、人的資本情報を開示する

 

開示情報の推移や改善の傾向、目標達成の有無がわかるようにして、人的資本経営に取り組んでいることをステークホルダーにアピールすることが大切です。

 

人的資本経営には情報開示が欠かせない

 

 

昨今は人的資本経営が重視されていて、人的資本情報の開示が投資判断を下す際の基準の1つとなっています。

 

2023年3月期の有価証券報告書にも人的資本情報の開示が義務付けられており、今後はますます人的資本情報開示の重要性が拡大することが予想されます。

 

この記事では、人的資本経営で情報開示が求められる7分野19項目についても解説したので、参考にしてください。

 

この記事の著者

サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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