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メンタルヘルス対策とは?企業の義務と5つの施策を解説【企業事例】

片桐はじめ

メンタルヘルス対策とは
メンタルヘルス対策とは

従業員のメンタルヘルス不調による休職や離職が増加し、対応に追われる人事労務担当者の方も少なくないのではないでしょうか。

「法的にどこまで対策が必要なのか」「効果的な予防策や復職支援の進め方がわからない」などの悩みを抱えることもあるでしょう。

 

本記事では、企業に求められるメンタルヘルス対策の法的義務から、厚生労働省が推奨する「3つの予防」「4つのケア」に加えて、5つの具体的な施策と企業事例を網羅的に解説します。

自社に最適なメンタルヘルス対策を講じるための参考にしてください。

 

メンタルヘルス対策とは?

 

メンタルヘルスを気にする人物のイメージ

 

メンタルヘルス対策とは、従業員が心の健康を保ちながら意欲的に働けるよう、企業が組織的かつ計画的に実施する取組のことです。

 

企業が対策に取り組むべき理由として、法的義務との関連やメンタルヘルス対策を怠った場合のリスク、そして実施によるメリットを解説します。

 

法的義務との関連

企業には、従業員が安全に働けるよう配慮する安全配慮義務が課せられており、メンタルヘルス対策はコンプライアンスの観点からも避けて通れない取組です。

法令で定められたストレスチェックの実施はもちろん、結果にもとづいた職場環境の改善など、実効性のある措置を講じることが求められています。

 

メンタルヘルス対策を怠った場合のリスク

適切なメンタルヘルス対策を行わず、従業員のメンタルヘルス不調を放置してしまうと、企業は安全配慮義務違反に当たるリスクがあります(労働契約法第5条)。

 

安全配慮義務違反自体に罰則はありませんが、民事上の損害賠償責任を問われるおそれがあります。

さらに、法的な問題だけでなく、以下のような悪影響も招きかねません。

 

  • 社会的信用の失墜:「コンプライアンス(法令遵守)意識の低い企業」というネガティブなイメージが定着し、取引停止や株価下落、資金調達の困難を招く。

 

  • 人材確保の困難:現職者や離職者を通じて、SNSや就職口コミサイトへ書き込みのリスクが高まり、優秀な人材が集まりにくくなる。

 

  • 組織力の低下:職場環境の悪化により、他の従業員のモチベーション低下や連鎖的な離職を招く。

 

メンタルヘルス対策を適切に行わないことは、企業の存続にもかかわる経営リスクになりえます。

 

メンタルヘルス対策に取り組むことで得られるメリット

メンタルヘルス対策は、リスク回避のためだけでなく、生産性を維持・向上させるメリットもあります。

 

メンタルヘルス不調に陥ると、集中力や判断力が低下し、業務をこなすのに以前より時間を要し、重要な意思決定も困難になるなど、仕事に支障が生じます。

メンタルヘルス対策を適切に行うことで、不調による生産性の低下を防ぐ効果が見込めるでしょう。

さらに、従業員が心身ともに健康であれば、仕事に対する意欲が高まり、生産性の向上も期待できます。

 

メンタルヘルス対策を行うことで、従業員の能力を十分に発揮できる環境を整えられます。

 

メンタルヘルス対策に重要な「3つの予防」

 

メンタルヘルス対策の予防について解説する専門家のイメージ

 

メンタルヘルス対策を体系的に進めるためには、厚生労働省が推奨する「3つの予防」にもとづく段階的なアプローチが有効です。3つの予防とは、以下のとおりです。

 

  • 一次予防:メンタルヘルス不調の未然防止
  • 二次予防:メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応
  • 三次予防:メンタルヘルス不調からの職場復帰支援

 

3つの予防の目的や具体的な取組について、詳しく解説します。

 

一次予防:不調を「未然に防止」する

一次予防の目的は、メンタルヘルス不調そのものを発生させないことです。

従業員自身のストレス対処能力の向上と、ストレスの原因となる職場環境の改善を行います。具体的には、以下の取組が代表的です。

 

  • ストレスチェック:従業員個人のストレス把握や集団分析で職場環境の課題を洗い出す。
  • 職場環境改善:長時間労働の是正やコミュニケーション活性化など、働きやすい職場環境をつくる。
  • メンタルヘルス教育:従業員や管理職向けにストレス対処法などの研修を行う。

 

従業員自身のストレス状態の気づきを促したり、働きやすい職場環境を整えたりすることで、メンタルヘルス不調が起きない仕組みを整えます。

 

二次予防:不調を「早期に発見し、適切な対応」をする

二次予防は、メンタルヘルス不調の兆候をいち早く見つけ、重症化する前に適切な対応を行うことです。

 

管理監督者が日頃から部下の様子を観察して声かけを行うとともに、社内外に専門家へ相談できる窓口を設置するなどの体制づくりが求められます。また、高ストレス者や長時間労働者に対しては、速やかに産業医による面接指導を勧奨します。

 

三次予防:不調者の「職場復帰を支援」する

三次予防は、メンタルヘルス不調により休業した従業員の円滑な職場復帰を支援し、再発・再休職を防ぐ取組です。

 

具体的には、休業から復職までの手順やルールを定めた職場復帰支援プログラムを策定し、主治医や産業医と連携し、復職可否や就業上の配慮を判断します。復職後も定期的な面談でフォローアップを行い、再発防止に努めます。

 

メンタルヘルス対策を効果的に進める「4つのケア」

 

メンタルヘルスに関するケアに携わる専門職のイメージ

 

メンタルヘルス対策の実効性を高めるには、厚生労働省の指針で推奨されている「4つのケア」に沿った取組が求められます。4つのケアとは、以下の4つを指します。

 

  • セルフケア(従業員自身)
  • ラインによるケア(管理職)
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  • 事業場外資源によるケア

 

4つのケアについて、それぞれの役割と取組内容を解説します。

 

セルフケア(従業員自身)

セルフケアとは、従業員自身が自分のストレスに気づき、予防・対処することです。

企業は、メンタルヘルス不調の予防を従業員個人のみに委ねるのではなく、セルフケアの促進に向けた環境を整える必要があります。

 

例えば、eラーニングや研修を通じて、ストレスへの対処法やリラクセーション法などの学習機会を提供するとともに、ストレスチェックの結果通知で自身のストレス状態を把握してもらうことが重要です。

 

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ラインケア(管理職)

ラインケアとは、部長や課長などの管理監督者(管理職)が、部下のメンタルヘルスケアを行うことです。

 

管理職は、「遅刻が増えた」「ミスが多い」などの部下のいつもと違う様子に早期に気づく役割を担います。

また、部下から相談があった場合には、傾聴を基本として適切な対応を行うことも役割の一つです。必要に応じて、業務量の調整や配置換えなどの環境改善や、社内の産業保健スタッフへの相談勧奨を行います。

 

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事業場内産業保健スタッフによるケア

産業医や保健師、心理職、衛生管理者などの「事業場内産業保健スタッフ」によるメンタルヘルスケアです。

 

従業員や管理職への相談対応・教育や衛生委員会での助言、メンタルヘルス対策の年間計画策定と実施体制の整備を行います。

産業保健スタッフが専門的な立場にもとづき、従業員個人から組織的な対応までを担います。

 

事業場外資源によるケア

社内のリソース不足やプライバシーへの配慮が必要な場合は、外部の専門機関を活用します。

事業場外資源によるケアで活用される外部の専門機関は以下のとおりです。

 

  • 外部EAP(Employee Asistance Program:従業員支援プログラム)
  • 精神科・心療内科などの医療機関
  • 地域産業保健センター(従業員数50人未満の事業場のみ)

 

外部の専門機関を活用することで、専門的なカウンセリングや復職支援(リワーク)、社内担当者へのコンサルティングなどを受けられます。

 

企業のメンタルヘルス対策5つの具体例

 

メンタルヘルス対策が実施される職場で働くビジネスパーソンのイメージ

 

「3つの予防」と「4つのケア」の考え方に沿って行う、メンタルヘルス対策の具体例を5つ紹介します。

 

  • ストレスチェックと職場環境改善
  • メンタルヘルス研修の実施
  • 相談窓口の設置
  • 職場復帰支援プログラムにもとづく復職支援
  • 心の健康づくり計画の策定

 

ストレスチェックと職場環境改善

ストレスチェックは、実施するだけでなく結果を職場環境の改善につなげることが重要です。

集団分析を活用して高ストレス者の割合や総合健康リスクが高い部署を特定し、具体的な改善策を実行します。

 

職場環境改善を行う点は、厚生労働省のマニュアルで以下の4つのポイントで行うことが推奨されています。

 

職場環境改善のポイント 具体的な改善例
仕事のすすめ方 ・全員が参加可能なミーティングを定期的に行い、仕事の進め方を話し合う

・スケジュール表や共有ファイルを活用して、必要な情報が正しく伝わるようにする

・作業指示書や仕事の段取りを見直してミスや事故を防止する

作業場・オフィス職場環境 ・オフィスの暑さや寒さ、明るさを適切にして働きやすい作業環境を整える

・物品や資材の整理・整頓、取扱いの方法、職場レイアウトを工夫して作業をしやすくする

・騒音の出る機械にはカバーをつけたり離したりする

人間関係相互支援 ・必要なときに上司や同僚に相談したりサポートを求めたりしやすい環境を整える

・職場内で助け合う雰囲気が形成されるよう、日頃から意識的にお礼を言うなどの工夫をする

安心できる職場のしくみ ・プライバシーに配慮した相談窓口を設置する

・職場での暴言や暴力、パワハラなどの対応手順を決める

・キャリアに役立つ教育やチャンスを公平に確保する

いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き 改訂版(厚生労働省)を編集して作成

 

具体的な改善点に関して、従業員同士がどの点を改善するかを話し合いながら進めるとよいでしょう。

 

メンタルヘルス研修の実施

対象者の役割や立場に応じた研修プログラムを実施し、知識とスキルを向上させます。

 

管理職向けには、部下の変化に気づく方法や傾聴スキル、安全配慮義務への理解を深めるラインケア研修を行います。

従業員向けには、自身のストレスサインの把握やコーピング(ストレス対処)の実践方法を学ぶセルフケア研修が効果的です。

 

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相談窓口の設置

従業員が悩みを抱え込まず、早期に相談できる体制を整えます。社内と社外、それぞれの相談窓口には以下のような特徴があるため、併用するのが理想的です。

 

社内窓口(保健師、人事など)

組織風土や業務内容などの社内事情に詳しいため、実務面での円滑な連携がはかりやすい。その一方で、人事評価への影響や相談内容の秘匿性に対する不安から、相談への心理的ハードルが高くなる場合があります。

 

社外窓口(外部EAPなど)

外部EAPなどへ相談窓口を委託する方法です。匿名性や秘匿性が確保されるため、相談者は安心感を得やすい一方、社内の事情が伝わりにくい場合もあります。相談窓口の連絡先や利用方法を社内報やイントラネットなどで定期的に周知し、利用のハードルを下げることがポイントです。

 

職場復帰支援プログラムにもとづく復職支援

休職者の発生から復職後のフォローまでを標準化した「職場復帰支援プログラム」を作成し、規定します。

厚生労働省の手引きを参考に、以下の5つの段階で社内の対応として何を行うのかを定めます。

 

復職支援の段階 具体的な対応・決めておくポイント
1.病気休業開始・休業中のケア ・休職診断書の提出方法

・休職手続きの案内

・休業中の連絡頻度や窓口

2.主治医による職場復帰可能の判断 ・復職可能診断書の提出方法

・主治医との連携・情報提供方法

3.職場復帰の可否判断・職場復帰支援プランの作成 ・復帰可否判断のフロー(産業医面談や面談後の意見書などの活用方法)

・職場復帰支援プランの作成方法(業務上の措置や連携する担当者の範囲)

4.最終的な職場復帰の決定 ・職場復帰の詳細を通知する方法(復職日・就業上の配慮事項など)
5.職場復帰後のフォローアップ ・フォローアップの頻度と確認事項

・プランを見直す基準(回復度・期間)

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(独立行政法人 労働者健康安全機構(厚生労働省))を編集して作成

 

 

トラブルを防ぐため、休職期間の上限や復職の判断基準、試し出勤中の処遇などを就業規則に明文化しましょう。

職場復帰支援プログラムや就業規則を整備し、人事・現場・産業医の役割分担を明確にして連携する体制を整えます。

 

職場復帰支援プログラムの策定については、以下の記事も参考にしてみてください。

 

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心の健康づくり計画の策定

継続的かつ計画的にメンタルヘルス対策を進めるために、まず「心の健康づくり計画」を策定しましょう。

 

心の健康づくり計画とは、厚生労働省による「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で策定が推奨されているものです。

 

メンタルヘルス対策の基本方針を定め、社内で共有するために役立ちます。

心の健康づくり計画には、以下の項目を明記します。

 

  • 基本方針
  • 推進体制
  • 役割分担(産業医、保健師、人事労務担当者など)
  • 具体的な実施内容(ストレスチェック、研修、相談体制など)
  • 目標

 

衛生委員会などで定期的に実施状況を評価し、計画を見直しながら、社内の実情にあった取組内容を定めることが大切です。

 

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企業のメンタルヘルス対策事例3選

 

メンタルヘルス対策に取り組む担当者のイメージ

 

実際にメンタルヘルス対策に取り組む企業の事例を3つ紹介します。

 

オフィス環境の改善(小田急フィナンシャルセンター)

小田急グループ各社のシェアードサービスを担う同社では、本社移転を機に、オフィスレイアウトを一新して気軽に相談しやすい空間を創出しました。

 

「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の考え方を取り入れ、フリーアドレス制を採用し、個別ブースやミーティングスペースを設置。それに併せて、環境変化に対する従業員の不安を払拭するため、フリーアドレス制の成功事例や懸念点や対応策を研修を通して丁寧に伝えました。

 

オフィス移転後には、他部署のメンバーと隣り合わせで仕事をしたり、気軽に相談したりする様子が、より一層みられるようになりました。日常的な交流が増えたことで、周囲がメンタルヘルス不調の兆候にいち早く気づくきっかけにもなっています。

 

また、従業員の声を積極的に取り入れたレイアウト変更によって、「自分たちの声が会社に届き、実現された」という実感につながりました。その結果、以前よりも意見を発信しやすい雰囲気が醸成されています。

 

参考:「声が届くオフィス」で安心して働ける職場へ│小田急フィナンシャルセンターが目指す心理的安全性の向上株式会社エムステージ健康経営トータルサポート

 

ストレスチェック分析結果の活用(亀田製菓株式会社)

大手菓子メーカーである同社では、健康経営推進を目指し、グループ会社含む、3社のストレスチェック結果報告会を開催しています。

 

プレゼンティーズム(出勤しているが生産性が低下している状態)の数値も含めた細かいデータ分析にもとづいて、従業員の心の健康状態が可視化され、組織課題が明確になりました。

 

参考:「“健康”を企業文化として根付かせたい」従業員のヘルスリテラシー向上を目指す亀田製菓グループの取り組み│株式会社エムステージ健康経営トータルサポート

 

人事を介さない社内保健室の設置(AREホールディングス株式会社)

貴金属・希少金属の生産や再資源化などを展開する同社では、従業員が人事を介さずに、直接保健師へ相談を申し込める健康相談窓口「社内保健室」を設置しました。

メール・対面・オンラインなど多様な手段で相談に対応し、不調の初期段階から、気軽に専門職とつながることが可能な体制を整備しています。

 

また、ストレスチェック結果の集団分析を活用して、リスクの高い部門に個別フィードバックを行い、現場管理者との意見交換を通じて課題や取組状況を明らかにしています。

 

参考:一人ひとりの心身の健康こそが企業の財産|AREホールディングスの健康経営への想いとは│株式会社エムステージ健康経営トータルサポート

 

実効性のあるメンタルヘルス対策には産業保健体制の構築が不可欠

 

メンタルヘルス対策は、企業の安全配慮義務を果たすために不可欠であり、「3つの予防」と「4つのケア」を軸に計画的に進めることが成功の秘訣です。

 

ストレスチェックや研修、相談窓口の設置といった個別の施策をバラバラに行うのではなく、全社的な方針のもとで連動させることが欠かせません

 

しかし、人事労務担当者だけでメンタルヘルス対策の全てを推進するのは困難な場合もあります。専門的な知見を持つ産業医や保健師と密に連携し、医学的な視点を取り入れることで、対策の実効性は大きく高まります。

 

株式会社エムステージが提供する「健康経営トータルサポート」では、企業の課題に合わせてストレスチェックや研修、相談対応などのメンタルヘルス対策もワンストップでサポート可能です。自社の状況に合わせた効果的な体制づくりをお考えの方は、ぜひ一度お問い合わせください。

 

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この記事の著者

片桐はじめ

片桐はじめ

公認心理師・臨床心理士
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。

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