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職場復帰支援プログラムで再発防止│復帰の判断とフォローアップ【後編】

(更新:

片桐はじめ

職場復帰支援プログラム
職場復帰支援プログラム

『せっかく職場復帰したのに、また休職してしまった…』。休職者の再発は、職場復帰支援において人事労務担当者が直面しがちな深刻な課題です。

復職の可否を判断するプロセスや、復帰後の再発予防プランまで、具体的にどう進めるべきか迷われている担当者の方も多いでしょう。

 

本記事では、休職者がスムーズに職場復帰するための可否判断のプロセスと、再発防止に効果的なフォローアップについて解説します。再発を未然に防ぐための重要なポイントを動画付きで紹介していますので、ぜひ実務の参考にしてください。

休職開始から休職期間中に人事労務担当者が行う実務のポイントについては、前編をご覧ください。

 

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再発防止の重要性

 

職場復帰をしたにもかかわらず、再び体調を崩し再休職に至るケースは後を絶ちません。

「再発・再休職」は、本人・職場・会社の三者に以下のような影響を及ぼします。

 

  • 本人:自信を失い、「また再発したらどうしよう」という不安を抱える。
  • 上司・同僚:「復職後のフォローができていなかった」と悩み、支援への不安を感じる。
  • 会社:再休職にかかるコストが発生し、再び人員配置の対応に追われる。

 

データを見ても、メンタルヘルス不調による休職者の退職率は約42.3%にのぼり、休職者1人あたりの損失コストは約422万円という試算もあります。職場復帰支援では再発リスクをいかに減らすかが重要です。

 

※「過去3年間で半数の企業に休職者が発生。復職率は約5割治療と仕事との両立の課題(独立行政法人労働政策研究・研修機構)、「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット(内閣府)を編集して作成

 

 

職場復帰後の再発理由は「判断基準のギャップ」

では、なぜ再発は起きてしまうのでしょうか。最大の要因は、主治医が判断する「復職可能ライン」と、職場で求められる「業務遂行可能ライン」との間にギャップがあることです。具体的には以下のとおりです。

 

  • 主治医の判断日常生活が安定して送れる状態を基準とすることが多い。
  • 職場復帰に必要なレベル安定した通勤、業務遂行能力、対人関係におけるストレス耐性などが求められる。

 

ギャップが埋まらないまま復帰してしまうと、再発やパフォーマンスの低下につながってしまいます。

 

 

ギャップを埋めるには「リワーク」の活用が有効

主治医の判断基準と職場の要求レベルのギャップを埋め、再発防止に有効なのが「リワーク」です。

リワークとは、ストレス対処やコミュニケーション、業務遂行能力の回復を目的とした職場復帰に向けたリハビリテーションのことです。

 

骨折のような身体的なケガの場合、ギプスが外れてもすぐに全力疾走はできません。メンタルヘルス不調からの復帰も同様で、就業に必要な業務遂行能力を取り戻すリハビリ期間が必要です。

特に、うつ病は再発を繰り返しやすい特徴があるため、早期にリワークに取り組むことが重要です。

 

リワークプログラムにより、ストレス対処方法を学んだり、模擬業務を行い業務遂行能力を回復させたりすることで、復帰後も安定した就労を目指します。

 

 

根本原因の解消には「職場環境改善」も必要

休職者が複数発生したり、復帰を希望せず退職する人が続いたりする場合、それは「復帰したくない職場」になっているサインかもしれません。個人の問題として片付けるのではなく、組織の問題として捉える視点が不可欠です。

 

休職理由を客観的に分析し、「長時間労働が常態化していないか」「ハラスメントが起きていないか」などの職場環境の課題を特定し、継続的に改善していく必要があります。

 

安全配慮義務の観点からも、従業員が心身ともに健康に働ける職場環境を整えることは、企業の重要な責務です。

 

以下の動画では、なぜ復帰後に再発が繰り返されるのか、構造的な問題をデータとともに解説しています。
再発が本人と職場に与える影響の大きさと、リワークの有効性について確認しましょう。

 

 

【復帰検討】職場復帰に向けた可否判断と準備の4ステップ

 

休職中の従業員から、復帰を希望する申し出があれば、復帰可否の判断や復帰後の準備を行う必要があります。

 

主治医の診断書は復帰に当たっての重要な判断材料ですが、最終的な復帰の可否を判断するのは「会社」です。復帰を判断するためには、客観的な情報を多角的に収集し、適切なプロセスを経て判断する必要があります。

 

休職者から復帰希望の申し出がなされた後の対応を、4つのステップで解説します。

 

STEP1 復帰判断に向けた情報収集

休職開始時に共有した復帰基準にもとづき、本人の回復状況を客観的に評価するための情報を集めます。回復状況の評価に必要な情報は以下の4つです。

 

●復職願・本人の希望

休職者本人の職場復帰の意思確認をするための書面です。口頭での申し出だけでなく、書面で提出を求めましょう。復帰にあたり、本人の希望があれば同時に確認します。

 

主治医の診断書・情報提供書

回復状況についての主治医の判断や、就業上の制限の有無を確認します。より細かな配慮事項を確認する場合は、本人の同意を得て「情報提供依頼書」を主治医に送付します。職場復帰の判断基準を主治医に共有した上で、情報提供書として配慮事項を確認できます。

 

●生活リズム表

休職者に、起床・就寝時間や日中の活動内容、服薬状況などを記録してもらうことで、生活リズムが安定しているかを評価するものです。単なる記録ではなく、回復状況を測る重要な指標となります。

 

●通勤訓練、試し出勤の実施記録

実際の通勤時間帯に通勤経路を移動できるか(通勤訓練)、図書館や会社の空きスペースなどで一定時間過ごせるか(試し出勤)を確認します。体力や集中力の回復度合いを具体的に把握できます。

 

 

STEP2 産業医面談による専門的意見の取得

収集した情報をもとに、産業医面談を実施します。産業医は、医学的な知識と職場の実情の両方を踏まえ、「現在の状態で、求められる業務を遂行できるか」という視点で評価し、意見書を作成します。意見書に記載される内容は以下のとおりです。

 

  • 復帰の可否に関する意見
  • 必要な就業上の配慮(例:業務内容の変更、時間外労働の制限など)
  • 今後のフォローアップに関する提案

 

産業医からの意見を踏まえて、次の段階で会社として復帰可否を判断します。

 

STEP3「復職判定委員会」による総合的な最終判断

産業医の意見書や試し出勤の結果など集めた情報をもとに、会社として復帰可否の最終判断を下します。

 

最終判断は、人事担当者や産業医、所属長などで構成される「復職判定委員会」のような合議体で行いましょう。複数の関係者が参画することで、判断の客観性や公平性を担保でき、関係者の納得感も高まります。

 

STEP4「職場復帰支援プラン」の作成

復帰が決定したら、関係者で共有する具体的な支援計画である「職場復帰支援プラン」を作成します。

 

職場復帰支援プランには、業務内容の調整や時間外労働の制限、定期的な面談設定など、復帰後の具体的な配慮やフォローアップ計画を盛り込みます。

従業員を支援する関係者がプランを共有することで、円滑な職場復帰の実現に向けた道しるべとなります。

 

以下の動画では、「主治医と産業医の意見が異なるときはどうすれば良い?」「『試し出勤』の正しい運用方法は?」など、判断に迷う具体的なケースを交えながら、専門家が判断のプロセスを詳細に解説しています。

 

 

 

【職場復帰後】継続的なフォローアップのポイント

 

無事に職場復帰が決定しても、支援が終わるわけではありません。むしろ職場復帰後の継続的なフォローアップこそが、再発を防ぎ安定した就労を支える上で重要です。

職場復帰後のフォローアップに関するポイントを4つ紹介します。

 

1.関係者が連携し、フォローアップ体制を築く

復帰後は、管理監督者と産業医、人事担当者がチームとして連携し、役割を明確にした上で復職者を支える体制を築きます。

 

  • 管理監督者:日々の勤務状況に目を配り、変化のサインを早期にキャッチします。
  • 産業医:定期的に面談を実施し、医学的な視点で再発の兆候や治療状況を確認します。
  • 人事:全体の調整役として、関係者間の情報共有を促します。

 

3者が情報を密に共有し、プランの見直しや追加の配慮が必要になった際に迅速に対応することが、安定した就労には重要です。

 

2.管理監督者をサポートする

職場復帰支援プランの中心的な役割を担う管理監督者は、「自分の対応のせいで再発させてしまったらどうしよう」という不安を抱えがちです。

 

「本人にどう声をかけるべきか」「どんな様子なら注意が必要か」など関わり方や再発のサインについて、人事や産業医から情報を提供したり、本人と話し合ったりする機会を設けましょう。

 

また、管理監督者が判断に迷ったときに誰に相談すればよいかを明確にしておくことも大切です。相談先がわかっているだけでも、安心して支援を行えるでしょう。

 

3.復職者をサポートする従業員の負担に配慮する

復職した従業員が短時間勤務や業務制限を行う場合、その分の業務は同僚が分担することになります。分担している状況が続くと、チーム全体の業務負担が増大し、不満や疲弊につながる可能性があります。

 

管理監督者は、復職者本人だけでなく、サポートする従業員の状況に過度な負担がかかっていないか注意を払うことが必要です。

復職者本人が安心して働き続けるためには、チーム全体で支える体制を整えることも管理監督者の役割といえます。

 

 

4.就業規則を見直してトラブルを未然に防ぐ

将来のトラブルを防ぐため、就業規則の見直しも検討しましょう。特に、メンタルヘルス不調による休職は再発のリスクも考慮する必要があるため、以下のような点をあらかじめルール化しておくことでトラブル防止につながります。

 

  • 「一度復職した後に再休職した場合、休職期間は通算するのか」
  • 「リハビリ勤務や試し出勤中の給与はどのように扱うのか」

 

判例などを参考に、専門家のアドバイスを受けながら、自社の実情に合った規定を整備しましょう。

 

以下の動画では、再発防止のための具体的なフォローアップ手法と、従業員が安心して働き続けられる職場環境づくりについて、専門家が解説しています。

 

 

職場復帰支援は継続的な仕組みづくりから

 

メンタルヘルス不調者の職場復帰支援は、休職から復帰後のフォローから職場環境改善まで、一貫した仕組みとして構築し、継続的に運用することが成功の鍵です。

人事担当者や管理監督者、産業保健スタッフが連携することで、実効性の高い復帰可否の判断や復帰後の支援につながります。

 

休職者対応における関係者の連携においては、エムステージの法人向け復職支援サービスがおすすめです。

復職支援マネジメントシステム『WellcoHR』では、従業員による日々の体調記録や診断書の提出、産業医や上司との情報共有がシステム上で一元管理が可能。客観的な状況把握にづいた円滑な復帰判断と、再発防止に向けた継続的なフォローアップに役立ちます。

資料請求は無料ですのでお気軽にお問い合わせください。

 

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この記事の著者

片桐はじめ

片桐はじめ

公認心理師・臨床心理士
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。