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<セミナーレポート>人的資本経営戦略レベルアップのチャンス -労働関連法令改正と企業の取組の方向性を解説

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セミナーレポート 人的資本経営戦略レベルアップのチャンス
セミナーレポート 人的資本経営戦略レベルアップのチャンス

2025年7月31日、株式会社エムステージと住友生命保険相互会社の共催で、オンラインセミナー「人的資本経営戦略レベルアップのチャンス-労働関連法令改正と企業の取組の方向性を解説-」が開催されました。

 

企業の経営者や人事労務担当者が知っておきたい2025年法改正のポイントと、今後の取り組みの方向性について、セミナーの内容をレポートします。

 

【第一部】労働関連法令改正のポイントと企業の対応

 

第一部では、住友生命保険相互会社で顧問を務める木暮氏が登壇し、働き方改革の現状と2025年に改正された労働関連法令のポイントについて、その背景や企業に求められる具体的な対応を解説しました。

 

 

働き方改革の深化と、これからの企業の役割

木暮氏:2018年の働き方改革関連法の成立に伴い、従来の「雇用対策法」は「労働政策総合推進法」へと名称を変え、働き方改革の基本法として位置づけられました。

この法律の大きな目的は、労働者が能力を有効に発揮できるようにすることです。

 

働き方改革というと、時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金といったテーマが注目されがちですが、これらはあくまで、改革を進める上での「土台」に過ぎません。

 

働き方改革の本質は、各企業が主体的に社員の能力発揮を支援する仕組みを作ることにあります。

今回の法改正においても、条文を読むだけでは具体的に何をすべきかが見えにくいのが実情です。法律・行政と企業の役割は、次のように整理できます。

 

法律・行政 法律は大枠を示し、行政はガイドライン策定や相談援助などで支援を行う。
企業 ガイドラインを参照しつつ、自社の状況に合わせて、実施内容と優先順位を決定する

決定にあたっては、人材確保や生産性向上といった「人的投資」戦略と結びつけ、方針を管理職まで広く周知することが求められる。

 

人事労務担当者が施策の推進を行う時、「法律で決められているから」という根拠であれば納得してもらいやすいですが、「法律で推奨されているから」という理由では上司の理解を得にくいのが実情です。しかし、私たちはまさにその時代に突入しています。

 

企業側が『この方向性が最善だ』と主体的な戦略をもって動かなければ、時代の変化に乗り遅れるだけでなく、ひいては法律の本来の趣旨に則った対応すら困難になるでしょう。

 

ここからは具体的な中身について解説していきます。

 

法改正ポイント①:ハラスメント対策の強化

・カスタマーハラスメント

今回の改正の大きな柱の一つは「カスタマーハラスメント」対策です。

 

労働施策総合推進法の中に規定が設けられ、「社会通念上相当な範囲を超えた言動で、労働者の就業環境が害されること」と法律上の定義がなされたことが非常に重要です。企業には他のハラスメントと同様、相談体制の整備など雇用管理上の措置義務が課せられます。

 

カスタマーハラスメント対策の難しい点は、業務運営そのものに関わるということです。接客や取引先など、実際の業務に詳しい担当者でなければ社内規定の策定は難しいでしょう。

自社の業務におけるリスクをどう考え、どこまで対応するか、十分な議論が必要となります。

 

・就活セクハラ

もう一つの柱が、「就活セクハラ」への対策強化です。

これは男女雇用機会均等法の改正により対策が義務づけられ、男女間の関係に限定されません。性的嗜好や性自認(LBGTQに関する事項)に対する不適切な言動もセクシャルハラスメントに該当します。

 

そのため、求職者が性的マイノリティであるかに関わらず、採用選考における言動には最新の注意が必要です。人事労務担当者の方々には、すべての方に対し、丁寧な対応をしていただきたいと考えます。

 

このほかにも、『フリーランスへのハラスメント対策を検討する』という検討条項が、国会の修正で挙げられています。

 

法改正ポイント②:女性の活躍推進と健康支援

●女性の賃金格差等の解消の推進

 

女性の賃金格差等の解消の推進として、常時雇用する労働者101人以上の企業に対し、「男女間の賃金格差の情報公表」と、「女性管理職比率の情報公表」が義務化されました。

 

厚生労働省資料によると、賃金格差の要因の第1位は「役職」、第2位は「勤続年数」となっており、企業には女性のキャリア形成を推進していくことが求められています。

 

職場における女性の健康支援の推進

 

女性活躍推進法において、新たに「職場における女性の健康支援」が加わりました。

 

「女性の健康上の特性」への配慮が追加され、これに伴い、えるぼし認定制度には「えるぼしプラス(仮称)」が創設されます。


今後、取り組み事例が事業主行動計画策定のガイドラインとして作られる予定です。具体的には以下のような取り組みです。

 

  • 職場におけるヘルスリテラシーの向上
  • 休暇制度の充実
  • 女性の健康課題にも相談しやすい体制づくり

 

特に、性別を問わず使いやすい特別休暇制度の整備など、労働者全体を対象とした取り組みの推進が求められます。

 

この議論は、当初、男性更年期も含めた企業の健康課題として検討されていました。

しかし、男性更年期に関するエビデンスがまだ少ないことなどから、今回は女性の健康問題が先行して法制化されました。

 

法律上は女性活躍推進法の枠組みですが、全従業員の健康課題として取り組むことが望まれます。

 

一般健康診断における対応

 

労働安全衛生法令上の一般健康診断について、今後「標準的問診票の改正」が行われます。

 

問診票に「女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか」という質問が追加され、「はい」と回答した従業員には、情報提供や専門医への早期受診を促します。

 

この問診票の変更は法令改正ではないため、通知やガイドラインをもって実施されますが、厚生労働省のスタンスとしては、「法定項目ではないので、できるところからやってほしい」というものです。これは、婦人科などの専門医が不足しており、全国一斉での完全実施は困難という背景があります。

 

したがって、企業としては、健診機関と相談し、どのレベルで対応するか、専門医への紹介体制をどうするかといった自社のスタンスを決めて進めることが現実的な対応となります。

 

 

法改正ポイント③:治療と仕事の両立支援

これまでも「治療と仕事の両立支援」に関するガイドラインはありましたが、今回の改正で両立支援の措置が「法律に根拠を持つ」こととなりました。

 

法律上の位置づけが明確になり、企業に求められる安全配慮義務のレベルは今後ますます上がっていくと考えられます。

「両立支援」が安全配慮義務の中身に入りつつあるという認識が重要です。

 

フェムテック活用と義務化の可能性

 

今後の方向性として、国会の議論では「フェムテックの活用」が重要視されています。

 

フレックスタイムなどの従来の制度に加え、オンライン診療などのフェムテックを活用し、女性が症状を緩和しながら積極的に活躍できるような支援が求められています。

 

国会の附帯決議でも、「施行状況を踏まえ、今後も検討すること」とされており、将来的な義務化も視野に入れたメッセージです。今のうちから社内の支援体制を強化しておくことは、やって損のない取り組みといえます。

 

その他の関連する労働安全衛生法の動向

今回の法改正とあわせて、労働安全衛生法に関する今後の改正スケジュールについても注意が必要です。特に以下の2点は、多くの企業に関わってきます。

 

ストレスチェックの実施事業場拡大

 

これまで従業員50人以上の事業場に義務付けられていたストレスチェックが、今後はすべての規模の事業場での実施が必要となります。

 

高齢者の労働災害防止対策

 

令和8年4月より高齢者の安全衛生措置に関する規定も強化されます。健康経営の観点からも、高齢従業員の健康管理や安全配慮が一層重要になります。

 

 

【第二部】対談:健康経営の視点から企業が今取り組めること

 

第二部では、第一部の木暮氏に加え、住友生命で両立支援サービス「Whodo整場(フウドセイバー)」の責任者を務める成山育宏氏が登壇。健康経営の最新トレンドや、企業が今すぐ取り組める具体的な両立支援策について、豊富な事例を交えて語られました。

 

住友生命の両立支援サービス「Whodo整場」とは

成山氏「Whodo整場」は、不妊治療と仕事の両立支援をコア事業として2020年にスタートしました。

治療と仕事を両立できずにキャリアを諦めてしまう状況をなくしたいという思いで、これまで200社を超える企業様をご支援してきました。

現在では、不妊治療だけでなく、男性更年期やプレコンセプションケア、男性育休など、より広い領域で企業の健康経営やDE&I推進をサポートしています。

 

健康経営度調査票から読み解く、これからの重要テーマ

成山氏公表された今年の健康経営度調査票の素案から、今後のトレンドが読み取れます。

 

1「性差、年齢に配慮した職場づくり」

これまであまり光が当たらなかった男性の更年期について、しっかり手当てしていくことが求められる傾向があります。

 

2「育児・介護休業法以上の支援」

男性育休は、単に取得率を上げるだけでなく、法律以上の独自の工夫をしているかが評価されるポイントになっていくでしょう。

 

3「プレコンセプションケア」の追加

将来の妊娠や出産に備え、若い頃から自身の健康リテラシーを高めるという考え方です。

弊社でも多くの企業様のご支援をさせていただいており、入社間もない20代の若手社員などを対象にプレコンセプションケアの研修を実施しています。

単にプレコンセプションケアをテーマとするだけではなく、5年後、10年後を見据えたキャリア形成とセットで研修機会を提供することで、好評を得ています。

 

健康経営のトレンドと企業の課題

成山氏:第一部のお話を聞いて、両立支援については「女性も男性も一緒に取り組む」ことが、従業員と会社の双方にとって良いことだと感じました。

 

木暮氏:そうですね。厚生労働省の審議会では、当初、男性更年期も法改正のテーマとして議論する声があったようです。

 

しかし、男性は症状の個人差が大きく、業務パフォーマンスへの影響に関するエビデンスがまだ不十分であることなどから、今回は女性の健康支援が先行した経緯があります。

実際は企業としては男女ともに取り組んだ方が、むしろ施策を導入しやすいと考えられます。

 

成山氏:おっしゃる通りです。最近、従業員の9割が男性という企業様からのご相談が増えています。

 

きっかけは「女性採用強化」ですが、従業員の半数以上が50代・60代の男性であるため、コスト対効果を考えれば、まず男性更年期のセミナーで従業員のリテラシーを上げるのが最も効果的とご提案すると、納得されるケースが少なくありません。

 

65歳までの雇用が当たり前となる中で、「まずは男性更年期のリテラシー向上から始める」ことも有効な手段の一つだと思います。

 

木暮氏:そうですね。男性の場合は日頃からの健康づくりも大切です。明確なエビデンスはありませんが、若いうちから健康を意識することが男性更年期を遅らせる可能性も指摘されています。

 

いずれにしても、健康対策は企業にとっても損のない取り組みですので、積極的に推進されると良いと考えます。

 

成山氏:「男性更年期は何科に行けばいいか分からない」という方は多く、内科や心療内科の受診を考える方も少なくありませんが、多くの場合、泌尿器科が適切です。

正しい知識を得て、必要に応じて泌尿器科への受診を促すだけで、パフォーマンスが蘇り、生産性向上につながるケースがあります。

 

このような正しい知識を社内で発信する取り組みは、リテラシー向上に大きく貢献できますので、ぜひ我々がお手伝いさせていただければと思います。

 

男性の育休取得、その「質」を高めるアプローチ

成山氏:ライフプランという点で、「男性育休」も重要です。育休給付金が手厚くなり、男性が1カ月休むのが当たり前になりつつありますが、「Whodo整場」ではその「質」を高めるお手伝いをしています。

 

例えば、産婦人科医監修の動画を本人と上司に視聴してもらい、産後の女性の心身の状態や、育休の本当の意味を理解してもらうことにより、取得率だけでなく取得日数が伸びた事例も出ています。男性育休を取るのが「当たり前」という時代の流れに乗り遅れないよう、管理職側もリテラシーを持っておく必要があります。

 

 

まとめ

  • 企業の主体性が重要:法律はあくまで大枠。自社の戦略をベースに、優先順位をつけて主体的に取り組むことが求められる。

 

  • ハラスメント対策の範囲拡大:カスタマーハラスメントや就活セクハラなど、従業員だけでなく、求職者や顧客との関係においても企業の責任が問われる。

 

  • 女性活躍推進は次のステージへ:勤務制度や休暇制度だけでなく、フェムテックの活用など具体的で実効性のある取り組みが求められている。

 

  • 両立支援は全従業員の課題:治療との両立に加え、男性育休や男性更年期など、性別や年齢を問わない健康・両立支援が企業にとっても取り組みやすい。

 

 

エムステージの「健康経営トータルサポート」は、こうした時代の変化に対応するためのソリューションを提供しています。

 

産業医の選任・サポート、健康診断の実施、メンタルヘルス対策の3つの軸で、法令対応はもちろん「起きるを防ぐ」仕組みづくりをトータルで支援します。

 

健康経営度調査票のトレンドを踏まえ、次に企業が取り組むべきテーマを具体的な施策として落とし込むお手伝いをいたします。まずはお気軽にご相談ください。

 

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