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社労士解説:部下のメンタル不調のサイン、見逃していませんか?

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社労士解説:部下のメンタル不調のサイン、見逃していませんか?

2017/11/01 (更新:2024/09/06)

舘野聡子

職場でメンタルヘルスの不調を感じている社員は少なくない。

 

2020年4月、独立行政法人 労働政策研究・研修機構が発表した「第3回日本人の就業実態に関する総合調査(2018 年調査)」では、3人に1人が、過去3年間でメンタルヘルスの不調を感じたことが「ある」と回答しています。

 

休職やその後の退職につながりかねない「部下のメンタル不調」。

 

メンタル不調のサインに気づくことで、休職・離職を未然に防ぐには? そして、メンタルで休職しそうなボーダーラインにいる社員への適切な対応とは?

 

社労士、カウンセラーとして多くの企業の現場で休職の実態を見てきた、舘野聡子先生にお話をうかがいました。

 

部下の遅刻・欠勤が増えたらメンタル「黄色信号」のサイン

 

 

部下の欠勤・遅刻、勤怠の乱れはメンタル不調のサイン

部下の「メンタル不調のサイン」はどのようにして察知すればよいのでしょうか。

 

一番気にしてほしいのは「勤怠の乱れ」です。

 

例えば、これまで定時に来ていた人が、最初は月曜日だけちょっと出社が遅れる。はじめは5分以内の短いものです。

 

それがだんだん、遅刻するのが月曜日だけではなくなります。

 

そして、5分、10分だった遅刻が伸びてきて、30分遅れるなどがしょっちゅう起こるようになってしまいます。

 

部下の本人は出社しようと思っているのだけれど、身体がどうしても言うことを聞かないという状態であり、これがいわば「黄色信号」で、メンタル不調のサインです。

 

 

部下のメンタル不調のサインは勤怠に出るのですね。

 

メンタル不調のサインとして、遅刻の次の段階では、有給休暇を突然取るようになります。

 

欠勤が増え、週5日勤務のうち3日も出社しなくなってしまう。

 

そんな状態になってしまったら、もう明らかにメンタルの不調を疑ったほうがよいのです。

 

上司として、まずはタイムカードのデータを見てみてください。そして、勤怠の乱れから部下のメンタル不調のサインを察知します。

 

 

 

勤務中の態度についてはどのようなメンタル不調のサインがありますか。

 

同時に、いつもならできていたことができなくなってきます。

 

例えば、次のようなものがメンタル不調のわかりやすいサインになります。

 

  • 取引先に仕事の電話がかけられない。
  • 定型書類なのに満足に作れない。
  • 単純なミスが増える。
  • 気づけば手が止まっていて、仕事の効率が落ちている など

 

これら勤怠の乱れや、いつもと違うミスなどはやはり最初に気づくのは同僚、上司など一緒に仕事をしている人です

 

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部下のメンタル不調サインは体調・感情・姿勢にあらわれる

 

 

体調の変化から、部下のメンタル不調を察知する

体調面にあらわれるメンタル不調のサインはどのようなものがありますか。

 

メンタル不調のサインでもある「体調の変化」についてです。

 

メンタルに不調が生じると、体調には次のような変化があらわれます。

 

  • アルコール、たばこの量が増える
  • 食欲不振でやせてしまう
  • 睡眠障害で眠れない
  • 風邪をひきやすくなったり、頭痛がしている
  • 腰痛や肩こりが悪化する
  • 胃痛が治らない など

 

これらはもちろんメンタル以外の病気の場合もありますが、メンタル不調に伴う症状であることも多いのです。

 

休みたいのに眠れないので休めず、その疲れがたまった状態で仕事をする。

 

そうなるとパフォーマンスが上がらず、仕事が間に合わなくて焦り、パフォーマンスが落ちた分を補うために長時間労働になる……という悪循環にもなります。

 

こうした体調の変化に、本人が気づいていなかったり、逆に隠そうとしたりすることもあります。

 

例えば、本人は食欲が落ちている自覚がなくても、「昨日の夜は何を食べた?」という聞き方をすると、とっさに本当のことを言ってしまうことがあります。

 

このコミュニケーションの方法によって「食べなかった」「〇〇しか食べてません」など、部下の状態に気づくことができます。

 

「食欲はありますか?」と聞くと「あります」としか返ってこないのですが、「何を食べましたか?」と聞かれると人は嘘をつくのが難しいので、正直に答えることが多いのです。

 

そうすると、部下の方が自分でも以前と違うことに気づくことができます。

 

 

メンタルが不調のサインは、どのような形で感情に出ますか

 

メンタル不調のサインは感情にあらわれることもあります。

 

部下の方から、次のようなサインが出ている場合には注意してください。

 

  • 気分の落ち込みが激しくなった
  • 何をしても楽しくなさそうに見える
  • ちょっとしたことで神経質になる
  • いらいらしている、感情の起伏が激しくなった
  • ふとしたことで泣き出してしまい、涙がとまらなくなる など

 

その他にも、家族と些細なことでけんかをしてしまうとか、普段穏やかな人が、突然声を荒げることがあったりすると、これも兆候かもしれません。

 

もちろんはっきりと自覚しなくても「何かおかしい」と感じている人もいます。

 

しかし自分でも気づかないことも多く、人に指摘されて気づくこともありますが人が気づいた時には、かなりつらい状態になってからのことが多いので、こういう状況になったらメンタルが不調だと自覚するように、日ごろから教育研修しておくことが大事ですね。

 

 

上司から見て、部下のメンタル不調がわかりやすいサインはありますか。

 

もうひとつわかりやすいポイントとして、メンタルが不調になると「姿勢」が変わります。

 

業務中、部下の姿勢からわかる、メンタル不調のサインですが、例えば次のもがあります。

 

  • うつむき加減になり、視線が下に落ちている
  • 猫背になって、縮こまるようにパソコン作業をしている
  • 休憩時間、うつむいてスマホを眺めている
  • 声が小さくなった など

 

実は姿勢が感情を作るということがあり、胸をはるようにするだけで、ちょっと前向きになれるものなのです。

 

ものごとは変わらなくても、物理的に姿勢を変えることで気分を変えることはできます。

 

 

メンタル不調のサインが出ている部下への正しい対応は?

 

 

メンタル不調の部下への対応で「OKな例」と「NGな例」

メンタル不調の部下に対して、上司や企業はどのように対応するのがよいのでしょうか。

 

大切なのは、上司が「客観的なデータをもとに」、「具体的に」指摘するということです。

 

声掛けとしてOKな例を挙げると、例として次のようなものがあります。

 

  • 「最近勤怠がこのように乱れているけれど、どうしたの」
  • 「いつもはこういうミスはしないのに、最近立て続けにこういうミスが何回もあったけれど、どうしたの」 など

 

このようにして”具体的な事実の指摘”が大切です。

 

一方で、対応としてNGな例としては、次のような声掛けになります。

 

  • 「メンタルが弱っているんじゃないの」
  • 「病気なんじゃないか」 など

 

このような声掛けをしても、部下の本人に自覚がない場合は納得性が低く、また本人が自覚していたとしても認めたがらない人が多く、余計に頑なになってしまいます。

 

客観的、具体的に指摘したうえで、「体調が悪いなら産業医やカウンセラー、主治医などのに相談してみたら、病院や相談室に行ってみたら」とすすめることが大事です。

 

また、これらの指摘はあくまで一例でありますので、人間関係やその状況等を考慮し、慎重に対応することが求められます。

 

 

不安を感じる場合には、必ず専門のカウンセラーなどに相談してください。

 

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忙しいことが原因で、部下がメンタル不調になっている場合の対応

部下が忙しすぎる場合、業務量を減らすという対応はどうでしょうか。

 

もちろん、原因がそれだけであれば、回復する人もいるのではないかと思います。

 

しかし一見、業務量だけが問題で、不調のように見えても、実は本当の原因は複合的にからみあっていることがあります

 

表面的に仕事量を減らしても、結局本人が仕事がないと不安で、抱え込んでしまったり、放っておくとまた業務量がもとに戻っているという例があります。

 

そして、仕事の量だけではなく、上司との関係、周囲との関係など様々なことから離れて、心身をゆっくり休ませること、休養そのものが必要な人の場合には、それ以外の方法では回復は難しい場合が多いです。

 

休職は主治医、産業医等の判断になりますが、早く休むことで深刻な状況にならずに済むこともあります。

 

休んでいる間に、服薬と休養をとり、仕事をするのに必要な体力を回復します。

 

また、心理療法を受けたりして考え方のくせを見直し、仕事のやり方を変えることで再休職にならないようにすることもあります。

 

早めに受診してお医者様に判断してもらうことが大事です。

 

 

部下のメンタル不調の原因が”上司”である場合、対応のポイントはありますか。

 

上司がそして上司だけがストレッサーであるか否かは、本人と話しをしてみない状態では誰にも特定できませんので難しいところです。

 

部下のメンタル不調の原因は、仕事の仕方や体制かもしれないし、本人の中にある別の原因かもしれないし、もちろん複合的な原因であることが多いものです。

 

原因はどうであれ、職場で体調不良が疑われる社員がいる場合には、その悪化を防ぐために、心の健康づくりの指針などでもラインケアとして上司が部下のメンタルヘルスについて責任をもって関わるよう位置づけられています。

 

その役割を上司が十分にはたすためには、前もって教育をしてメンタルヘルス問題への理解を深めておくことが絶対に必要です。

 

部下のメンタル不調対応は、産業医など専門家に相談を

部下のメンタル不調対応、産業医等の専門家へ相談も必要ですね。

 

メンタルヘルスについてはまだまだなかなか率直に話をできない、という職場も多いと思いますが、気になったら「大丈夫?」などとちょっとした声を掛け合うようにすることを職場全体の取り組みとして進めていけるといいですね。

 

メンタルヘルスについては偏った知識を持っている人も多く、偏見にさらされる、レッテルを貼られるということも本人にとっては不安なことです。まず職場全体として正しい知識を知ってもらう場が必要です。

 

そして、そのうえでメンタル不調にはケアが必要なのだと本人に気づいてもらう。周りもその必要性を理解する。

 

産業医、カウンセラー、相談室、主治医、病院などに行くことは、特別なことでも、罪悪感を覚えるべきことでも、恥ずかしいことでもなくて、けがの治療と同じで必要なことなんだと本人も理解し、周囲もそういう認識を持つことが大事です。

 

文/奥田由意

 

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この記事の著者

舘野聡子

舘野聡子

たての・さとこ 株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者 民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

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