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オフィスが「集中力」を低下させている!Think Labが研究するオフィスワーカーの新しい働き方

(更新:

株式会社JINSの新しいプロジェクトとしてスタートした「Think Lab(シンク・ラボ)」で行っているのは「集中力」と「働く環境」の研究。

 

この研究でわかったことは「オフィスが集中できない場所」だというショッキングな事実でした。

 

オフィスと集中力の関係、そしてこの研究が働き方にもたらす成果について、Think Labグループ事業統括リーダーの井上一鷹さんにお話をうかがいました。(取材:「サンポナビ」編集部)

 

〈プロフィール〉

 

井上一鷹(いのうえ・かずたか)

 

大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。

 

 

「目は口程に物を言う」アイウエア型デバイスで見えた集中力の正体

 

―Think Labの活動内容を教えていただけますか?

 

Think Labグループ事業統括リーダーの井上一鷹と申します。

 

Think Labは、考えることのすべてを科学し続け、人それぞれに最高なDeep Think(深い集中モード)体験を提供するために研究をしています。

 

われわれの活動は集中力の研究だけではなく、集中するために最適なこのThink Labの空間をワークスペースとして会員向けに開放しています。

 

また、企業に対しては「働く人の集中力が高まるオフィス環境」の提案・構築という事業を展開しています。

 

 

―どのような方法で集中力を研究しているのでしょうか

 

JINSは、2017年11月に「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」というメガネ型のウエアラブルデバイスを発売しました。

 

今まさに私が掛けているこのメガネが、JINS MEMEです。

 

「目は口程に物を言う」とはまさにその通りで、このJINS MEMEは、瞬きの回数、眼球や姿勢の変化などの複合的な要素から人間の「集中力のスコア」が測定できるウエアラブルデバイスなのです。

 

今ではスポーツ選手や伝統工芸の職人など技術の世界をはじめ、さまざまな分野でJINS MEMEが活用されています。

 

 

そして、労働の分野で言えば、このデバイスを用いて「どのような環境で働いている時に労働者のパフォーマンスが高まっているのか」ということを研究してきました。

 

―「集中力のスコア」をどのようにして職場の環境改善に生かすのでしょうか?

 

JINS MEMEを専用のスマートフォンのアプリと連携させることで、今まで感覚でしか捉えることができなかった集中力を「見る」ことができます。

 

 

「自分がどの時間帯にもっとも集中できているか」「どこの場所で仕事をしている時に集中が高まっているか」といったスコアを用いて、オフィスにおける集中力を診断します。

 

さらに、そのスコアを応用して、部署や企業ごとで職場環境を整備・改善することが可能です。

 

当社でも集中力についての膨大なデータを持っていますので、今まで蓄積してきたデータを元に「世界で一番集中できる場所」として作り上げたのが、このThink Labなのです。

 

集中力の促進効果については、Think Labと一般的なオフィスと比較した時に、生産性が約20%向上することが実証されています(※)。

 

※出典:平成30年度経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業

 

 

―Think Labの施設について教えてください

 

このThink Labの施設全体に集中するための仕掛けが施されています。

 

集中力を高めるためには「視覚」だけでなく「聴覚」「嗅覚」なども深くかかわってきます。

 

われわれは、それらの感覚を研究・マネジメントすることで、集中力が最大化する空間を構築しています。

 

例えば、まずエントランスにある「参道」。暗くてとても静かなこの参道を通る時、人に適度な緊張を与える設計になっています。

 

 

そして、暗い参道を抜けてオフィスに足を踏み入れると、開けた景色と緊張を和らげる植物が目に入ってきます。

 

このように、人は良質なストレスからリラックスを経ることで、集中に入りやすくなる、という研究結果に基づいて設計されています。

 

 

それだけでなく、音に関してはハイレゾ音源を使用し、自然環境の音を可聴域を超えて演出しています。

 

人にもよるのですが、「とても静かなだけ」の環境というのは、人の行動などで発せられる物音が際立ってしまうため、集中できないことが多いのです。

 

 

ワークスペースでは、下向きの姿勢になって収束思考を促進するデスクと椅子、上向きの姿勢になって発散思考でアイデアを創出するデスクと椅子、などのように業務に応じて選べるデスクと椅子を用意しています。

 

このようにして、人体が「Deep Think」になることを促す設計になっています。

 

働く人が少ないなら、個人の生産性を上げるしかない

 

―なぜ「集中力」を研究しようと考えたのでしょうか

 

実は、集中力のみを扱った専門の学問はないんです。

 

一方で、労働人口の減少や働き方改革が進む中で、働く人個人それぞれのパフォーマンスアップや生産性の向上が求められていますよね。

 

そこで、生産性を上げるために必要な「集中力」とは何か?ということを研究しようと考えました。

 

 

―JINS MEMEを開発したきっかけを教えてください

 

「定規になるもの」を作りたかったのです。

 

例えば、ストップウォッチが存在しない世界を想像してみてください。

 

ストップウォッチがなければ、きっと人類は100メートルを10秒切って走れる記録を出せていないと思います。同じように、もし世界に体重計というものが存在しなければ?世界は肥満の人で溢れかえっているでしょう。

 

つまり、集中力も数値化することが出来れば、その課題が明確になり、解決に向けてアプローチができると考えたのがきっかけです。

 

 

オフィスという環境が「集中できない場所」である事実

 

―一般的なオフィスで集中力を測定した時の数値はどうでしたか?

 

集中力を研究してみてわかったことは、多くのオフィスが「集中できない場所」だということでした。

 

その原因は、前述した職場環境だけでなく、オフィスでのコミュニケーションの多さにありです。

 

例えば「ちょっといいですか?」と話しかけられる、メールや通知が届く、会議やミーティングが多い…ホワイトワーカーの働き方は、こうした数々のイベントが断続的に発生し、これらのコミュニケーションが集中力を途切れさせる原因になっています。

 

われわれの研究でわかったことは、人が集中するために必要な時間が約23分で、コミュニケーションを取る頻度が約11分に1回。これでは集中力が続きませんよね。

 

オフィスで集中力を高めるためには、こうした社内のコミュニケーションも見直すべき対象のひとつです。

 

 

―オフィス今すぐできる集中力アップの方法はありますか?

 

すぐ出来て効果的なひとつの方法が、これです。スマートフォンの電波を切断し、裏返して机に置くこと。

 

断続的に寄せられるコミュニケーションや連絡は、集中力の敵です。

 

こうすることで集中力の向上が見込めますが、それだけではなく、スマートフォンを裏返している人には話しかけないことが大切です。「私は今集中モードです」ということをアピールし、逆に「話しかけても良いですよ」というときには表向きにしておきます。

 

また、適度な緊張と緩和が集中力を高めることもわかっていますので、コーヒーブレイクや軽い運動をすることにも効果があります。

 

 

―「集中力の向上」は、われわれの働き方にどのような変化をもたらすのでしょうか

 

集中力や生産性が向上すれば、オフィスワーカーの働き方も大きく変わります。

 

実は、自宅や自宅周辺の環境というのが集中・リラックスができる場所だということもわかっていますので、週3日はテレワークで働き、週2日は出社して会議や業務の報告をするという働き方も可能だと考えています。

 

そのためには、まずオフィスで集中できる環境の整備をするのとともに、従業員の教育が必要です。

 

具体的には、1日のうちに2時間しっかり集中して働くことができるようになることです。その他にも、上司に聞きたいことや報告を端的にまとめられる思考になるように教育することも大切です。

 

テレワークがなかなか根付かない理由として、人事や評価の観点がありますが、集中力が数値化されていれば、遠隔でも評価することも可能なのです。

 

労働人口が減少し、仕事に使える時間も限られているわが国の労働環境を考えれば、こういった働き方は決して遠い未来の話ではなく、今まさに解決すべき課題であるのです。

 

 

Think Lab公式HP https://thinklab.jins.com/jp/ja/

 

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この記事の著者

井上一鷹

井上一鷹

(いのうえ・かずたか)大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。

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