不安全行動をなくすには?労災につながる原因と対策、企業事例を紹介
片桐はじめ


従業員をけがや事故から守るための安全配慮義務は事業者の義務とされています。労災防止策の中でも不安全行動を防ぐ対策は必要不可欠です。防止策を講じているものの、思うように効果が上がらないこともあります。
「従業員はなぜ危険な行動をとるのか」「安全教育をしても徹底されない」など、人事労務担当者として悩むことも多いでしょう。
本記事では、不安全行動の根本的な原因から、具体的な対策までを解説します。安全衛生管理体制の強化のため、労災防止の企業事例も紹介していますので、参考にしてみてください。
目次
不安全行動とは?

不安全行動とは、労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行うことです。危険性を認識しながらも効率を優先する近道行為や、「自分は大丈夫」という慣れから生じる省略行為が含まれます。
類型と具体例
厚生労働省は、不安全行動を以下の12類型に分類しています。具体的な行動例を合わせて、現場でどのような行動が不安全行動に該当するのかを確認しましょう。
| 不安全行動の分類 | 具体的な行動例 |
| 1. 防護・安全装置を無効にする | ・機械の安全カバーを取り外したまま運転する ・インターロック装置を解除して作業する |
| 2. 安全措置の不履行 | ・高所作業で安全帯やヘルメットを着用しない
・定められた手順で機械を停止させずに点検を行う |
| 3. 不安全な状態を放置 | ・床にこぼれた油や水を拭き取らずに放置する
・通路に資材が散乱しているのに片付けない |
| 4. 危険な状態を作る | ・通路や避難経路に物を置く
・不安定な場所に荷物を積み上げる |
| 5. 機械・装置等の指定外の使用 | ・脚立を足場代わりに使う
・工具を本来の目的以外で使用する |
| 6. 運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等 | ・回転している機械の清掃を行う
・運転中に可動部に手を入れて調整する |
| 7. 保護具、服装の欠陥 | ・破損した保護メガネを使用する
・緩んだ服装や滑りやすい靴を着用する |
| 8. 危険場所への接近 | ・重機の旋回範囲内や、立入禁止区域に無許可で立ち入る |
| 9. その他の不安全な行為 | ・睡眠不足でも注意せずに作業を続けた結果、不注意により転倒する |
| 10. 運転の失敗(乗物) | ・社用車運転中の速度超過や前方不注意 |
| 11. 誤った動作 | ・重量物を不適切な姿勢で持ち上げようとする
・不安定な足場で無理な体勢で作業する |
| 12. その他 | ・その他、意図的に行う不安全行動 |
※不安全行動[安全衛生キーワード](厚生労働省)を編集して作成
不安全状態との違い
不安全行動と類似した用語に「不安全状態」があります。不安全行動が人の行動によって生じる危険な状態であるのに対し、不安全状態は物や環境そのものが危険な状態を指します。具体的には、機械の安全装置の故障や整理整頓されていない作業場所などのことです。
労働災害の多くは、不安全行動と不安全状態が重なったときに発生しやすくなります。例えば、「保護具が使いにくいため(不安全状態)、従業員が着用を怠ってしまう(不安全行動)」ことがあります。
不安全行動の防止には、その前提となる不安全状態がないかを確認することが大切です。
不安全行動による労働災害の事例

厚生労働省の分析によると、労働災害の94.7%が、不安全行動と不安全状態に起因するとされています。実際に発生した労働災害の事例を業種別に紹介します。
※ 不安全行動[安全衛生キーワード](厚生労働省)を編集して作成
【製造業】圧延機の調整作業中の巻き込まれ事故
圧延機の調整作業中、作業員が動力伝達軸に巻き込まれ死亡した事例です。
原因:巻き込まれ防止用の安全カバーが取り外されていたところに、機械を停止せずに調整作業を行ったことが重なって発生しました。
対策:万が一のヒューマンエラーが発生しても事故に至らないよう、ルールや物理的な環境を設定することが大切となります。調整作業時は必ず機械を停止するよう教育を行い、安全装置が正常に機能するよう日常的に点検する体制を整える必要があります。
※圧延機の調整作業中、動力伝道回転軸(カップリング)に巻き込まれ死亡(厚生労働省)を編集して作成
【建設業】ビル屋上の開口部からの墜落
ビル屋上での足場組立作業中、作業員が開口部から墜落し死亡した事例です。
原因:開口部における手すりや覆いなどの墜落防止措置や安全な作業スペースの不備が原因です。
対策:開口部に手すりや覆いを設置し、物理的に墜落を防ぐなど、不安全状態を解消することが求められます。さらに、危険箇所を「見える化」して立入禁止区域を明確にし、作業員にその危険性を周知徹底する安全教育も不可欠です。
※6階建てのビル屋上での足場組み立て作業で、被災者が屋上の床スラブ上を移動中、開口部から23.5m下の地上まで墜落して死亡した。(厚生労働省)を編集して作成
【卸売業】保冷車の冷蔵庫内での酸素欠乏症
保冷車の荷降ろし作業で、作業員が酸素欠乏症にかかった事例です。
原因:液体窒素が噴出している冷凍庫内に換気や濃度測定をせずに入った、不安全行動が原因でした。庫内が窒素で満たされ酸素欠乏状態であったことも影響していました。
対策:酸素欠乏の危険性に関する教育を徹底し、マニュアルを整備するなど、不安全行動を防ぐ意識付けが求められます。個人の判断に頼らず、組織的な安全管理体制を構築することが大切です。
※液体窒素が噴出している保冷車の冷凍庫に入り荷下ろし作業中、酸素欠乏症に罹る(厚生労働省)を編集して作成
不安全行動が起きてしまう3つの原因

従業員はなぜ危険とわかっていながら、不安全行動をとってしまうのでしょうか。主な3つの原因を解説します。
- 個人的要因:慣れや近道行為
- 組織的要因:管理体制の不備
- 心理的要因:認知バイアス
個人的要因:慣れや近道行為
不安全行動の直接的な原因は、作業者自身の判断や行動です。例えば、正しい作業手順を知らない「知識不足」や長年の経験からくる「過信」、効率を優先する「近道・省略行為」などが挙げられます。
特に経験豊富なベテランほど、「自分は大丈夫」という油断から不安全行動を誘発しやすい傾向があります。
組織的要因:管理体制の不備
従業員の不安全行動は、背景にある管理体制によって生じることも少なくありません。安全よりも生産性が優先される文化や、不安全行動が黙認されるような職場風土は、不安全行動の原因となります。
また、不十分な安全衛生教育や管理者による監督不足によっても、従業員が作業手順を守る意識が低くなりがちです。さらに、過度な業務量や長時間労働も、従業員の疲労や集中力低下を招き、不安全行動を引き起こすことがあります。
心理的要因:認知バイアス
心理的要因として、認知バイアスにより判断の偏りが生じて不安全行動を引き起こすことがあります。認知バイアスとは、人が物事を認識したり判断したりするときに、経験や先入観などにもとづいて非合理的な偏りが生じる現象です。危険性を低く見積もってしまい、不安全行動につながってしまう可能性があります。
不安全行動につながる認知バイアスとして以下のようなものがあります。
- 正常性バイアス:危険な兆候に気づいても「自分は大丈夫」と問題を過小評価してしまう
- 確証バイアス:「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫」と先入観にもとづいて判断する
認知バイアスは無意識に働くため、単に注意を促すだけでは防ぐことが難しい特徴があります。認知バイアスに従業員が気付けるよう、管理者側から促していく対策が必要です。
不安全行動をなくすための5つの対策

不安全行動をなくすためには、原因に応じたアプローチが求められます。企業が取り組むべき対策は、主に以下の5つです。
- KYT(危険予知訓練)を行う
- ヒヤリハット報告で潜在的なリスクを把握する
- 職場巡視で不安全状態を改善する
- 安全教育で知識や技能の向上をはかる
- 衛生委員会で対策の議論を深める
KYT(危険予知訓練)を行う
KYT(危険予知訓練)は、作業に潜む危険を事前に予測し、対策を講じる能力を高める訓練です。従業員同士の話し合いを通じて危険への感受性を高め、チームで安全への意欲を強化することを目的とします。
実際の話し合いは、「基礎4ラウンド法」という方法で段階的に行うのが一般的です。以下のように、職場の危険性や具体的な対策を話し合います。
| ラウンド | 話し合う内容 |
| 第1ラウンド:現状把握 | 具体的な事例のイラストを見て、「どんな危険が潜んでいるか?」を話し合う。 |
| 第2ラウンド:本質追究 | 話し合って挙げられた複数の危険性を絞り込み、重要な「危険のポイント」を追究して決める。 |
| 第3ラウンド:対策樹立 | 「危険のポイント」を解決するにはどうするとよいかを話し合う。 |
| 第4ラウンド:目標設定 | 第3ラウンドで出した対策案の中から重点実施項目を決定し、チームの行動目標として具体化する。 |
KYTを形骸化させないためには、実際のヒヤリハット事例など、現場に即したテーマを選ぶことが重要です。また、進行役を持ち回りにするなどの運営に変化を加えると、マンネリ化を防げます。
※社会福祉施設における安全衛生対策~腰痛対策・KY活動~(厚生労働省)を編集して作成
ヒヤリハット報告で潜在的なリスクを把握する
ヒヤリハットとは、業務中に「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりするような事故の一歩手前の出来事です。職場の安全対策で重視される「ハインリッヒの法則」によると、1件の重大労働災害の背景には、29件の軽微な災害と300件のヒヤリハットが存在するとされています。
そのため、ヒヤリハットの段階で事故の潜在的リスクを把握し、防止対策を講じることが必要です。ヒヤリハットを報告しやすい体制づくりを目指しましょう。
報告によって個人の責任を追及しないことを明確に伝え、報告書フォーマットを簡素化するなど、報告が上がりやすい仕組みを整えましょう。
※ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)[安全衛生キーワード](厚生労働省)を編集して作成
職場巡視で不安全状態を改善する
職場巡視は、不安全行動を誘発させる可能性のある「不安全状態」を早期に発見し、改善するために重要です。5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底や、保護具の適切な着用状況などを定期的に確認します。
職場巡視を行う際には、安全管理者や衛生管理者だけでなく、産業医に同行してもらうことも効果的です。医学的な専門家の視点が加わることで、自社だけでは気づきにくい潜在的なリスクの発見につながります。指摘事項は確実に改善し、フォローアップする体制を整えましょう。
職場巡視でチェックすべきポイントについては、株式会社エムステージが提供する職場巡視チェックシートや関連記事も参考にしてみてください。
\職場巡視チェックシート/
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安全教育で知識や技能の向上をはかる
知識や技能の不足は不安全行動の原因の一つです。そのため、従業員に対する継続的な安全教育が欠かせません。特に、新規雇入れ時や作業内容の変更時は、新たな危険に直面する可能性が高いため、教育が法律で義務付けられています(労働安全衛生法第59条1項、2項)。
近年では、VR技術を活用した体感型の安全教育も実施されています。労働災害を疑似体験することで、行動変容や安全意識向上の効果が期待できます。
また、産業医に衛生講話を依頼し、専門的な視点から健康と安全に関する知識を深めることも一つの方法です。
知識や技能を伝えるだけでなく、安全意識の向上を目的とした教育内容の設定が求められます。
参考:白石彩花・庄司卓郎「VRを用いた安全教育の効果に関する研究」│日本人間工学65回大会
衛生委員会で対策の議論を深める
衛生委員会は、収集されたヒヤリハット事例の分析や具体的な再発防止策を議論する場として必要不可欠です。不安全行動対策を議題として取り上げることで、取り組みの形骸化を防ぎます。
産業医にもメンバーとして参加してもらうことで、専門的な知見にもとづいた、より実効性のある議論が期待できます。
Sanpo Navi Channelでは、産業保健活動に関連するさまざまなテーマの衛生講話動画を配信していますのでぜひ参考にしてみてください。
【業種別】不安全行動対策の企業事例

不安全行動は、業種や自社の業務特性に合わせた対策も必要不可欠です。不安全行動対策の企業事例を業種別に紹介します。
【製造業】SWS東日本株式会社
自動車部品製造会社のSWS東日本株式会社では、日常生活や業務時の自身の行動パターンをチェックリストで確認する「KKマッピング」を活用して不安全行動対策をしています。
自身の行動特性を把握することで、危険や事故を予期し、未然に防ぐことを目的としています。
また、フォークリフトと歩行者の接触を防止するため、フォークリフト作業エリアを固定策や鍵付きの門扉などで囲ったり、バック走行時はブルーライトを点灯させたりと、フォークリフトと人を分離させる「歩車分離活動」を実施しています。
※労働災害防止のための安全管理活動好事例集 第2集(一関労働基準監督署)を編集して作成
【小売業】株式会社平和堂
総合スーパーを展開する株式会社平和堂では、小売業特有のリスクに着目した対策を実施しています。特に休業災害の約6割を占める「転倒災害」に特化したヒヤリハット活動を展開しました。活動により、冷蔵ケースの冷気から生じる床の結露といった、現場ならではのリスクを発見し、改善につなげています。
また、約150ある全店舗に安全衛生委員会を設置し、産業医を選任しています。健康サポートセンターによる店舗巡視も行い、現場レベルでのきめ細やかな安全衛生活動を徹底している点が特徴です。
※~ 今!お客様の満足は 従業員の安全・安心・満足から ~(厚生労働省)を編集して作成
【運輸業】神戸新交通株式会社
エムステージの産業紹介サービスを導入している神戸新交通株式会社では、年3回、本社や駅の他、司令所・車両基地・変電所などを含む全事業場で、大規模な安全衛生パトロールを実施しています。
火事が起こりやすい状況になっていないか、地震が発生した時にケガをしないかなど、医学・労働衛生の専門家ならではの視点から産業医がチェックすることで、不安全行動の誘発を防止しています。
※「産業医面談で把握できた女性従業員の声|神戸新交通株式会社が取り組む職場環境改善の事例 (株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート 導入事例)を編集して作成
産業医との連携で実効性のある安全衛生管理体制の構築を
不安全行動をなくすには、従業員個人の意識向上も必要ですが、組織的な対策が不可欠です。KYTやヒヤリハット報告、職場巡視、安全教育などの取り組みを継続的に改善していくことが大切です。
より実効性の高い対策のためには、安全衛生に関する専門家の活用が欠かせません。
「安全衛生の観点から的確な助言をしてくれる産業医が見つからない」といったお悩みがある場合は、ぜひ一度エムステージの産業医紹介サービスにご相談ください。全国47都道府県すべてのエリアで7,000名以上(※2025年4月時点)の産業医から、自社に最適な人材を専門スタッフがマッチング。ご相談は無料で承っていますので、お気軽にご相談ください。

