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<産業医コラム>ストレスチェックをきっかけに、セルフケア意識を高めよう

(更新:

木村沙織

2015年12月から義務化されているストレスチェック、毎年この秋冬の時期に実施する企業さんも多いのではないでしょうか。

 

ストレスチェックは、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べるための検査で、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としています。

 

受検者に占める高ストレス者の割合は、大半の事業場で5~20%と言われており、高ストレス者と判定された場合は、医師の面接指導を受けるなど、次のステップが用意されています。

 

では、高ストレス者でなければ結果を受け取っておしまい、で良いのでしょうか?

 

答えはNOです。

 

事業場におけるメンタルヘルス対策は実施主体ごとに以下の4つに分類されており、ストレスチェックはそれぞれに対して下記のような役割を持っています。

 

・セルフケア:個々人のストレスへの気づき
・ラインケア:集団分析結果を活用した職場環境等の把握と改善
・事業場内産業保健スタッフなどによるケア:結果に基づく健康相談への対応、集団分析結果などを活用した職場環境改善の支援
・事業場外資源によるケア:結果に基づく健康相談への対応(EAPやかかりつけクリニック等)

 

今回はこのうち、セルフケアに焦点を当ててお話ししたいと思います。

 

ストレスチェック結果には、自分がどういったところにストレスを感じている傾向があるのか、どのような症状があらわれているのか、などが点数やグラフで示されています。

 

せっかく受けたストレスチェック。これをきっかけに自分のストレスと向き合い、セルフケアの意識を高めることで、今後の人生がより良いものになるでしょう。

 

セルフケアの3つのステップをご紹介しますので、参考にしてみてください。

 

1.セルフケアのステップその1

 

ストレス反応の種類を知る⇒自分に起きているストレス反応に気づく!

ストレス反応というのは、ストレッサーに対して身体面、心理面、行動面に生じる様々な反応のことで

 

  • 身体面:体のふしぶしの痛み、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、動悸や息切れ、胃痛、食欲低下、便秘や下痢、不眠
  • 心理面:活気の低下、イライラ、不安、抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)
  • 行動面:飲酒量や喫煙量の増加、仕事でのミスや事故、ヒヤリハットの増加

 

などが挙げられます。

ずっと続いている症状だと、それが”当たり前”になってしまい意識できていないこともあります。「もしかしてストレス反応かも?」と気づくことによって、以降のステップに取り組むモチベーションも上がるはずです。

ストレスチェック結果にも「心身の反応」という項目がありますので、併せて確認してみてください。

 

2.セルフケアのステップその2

 

ストレスの原因(ストレッサー)に目を向ける⇒ストレスの発生源を減らす!

ストレス反応が出るときには複数のストレッサーが関与していることも多く、すべてには気づけていないこともあります。

下記、ストレッサーの種類とそれぞれへの対策例を参考に、何ができそうか考えてみてください。

 

①心理・社会的なストレッサー:人間関係、経済状況の変化、仕事上の問題、家庭の問題など

 

  • ストレッサーとなる人や物、イベントとの接触を減らす
  • 状況と向き合い情報収集をし、考える時間を確保することにより、漠然とした不安を減らす(ファイナンシャルプランニング、自分の人生観の見直し等)
  • 解決の糸口になりそうな相談先に相談する(上司や公的機関の窓口など)

 

『ストレス』をイメージした際に真っ先に浮かぶのがこの種のものではないでしょうか。この種のストレッサーは、取り除くことは困難でも上記の取り組みによって軽減できる可能性があります。

他のストレッサーの種類も見てみましょう。

 

②物理的なストレッサー:暑さや寒さ、騒音、混雑など

 

  • 冷暖房などを節約しすぎていないか?冬場の加湿はできているか?など自宅の環境を見直す
  • 通勤時の満員電車を避ける(時間の変更、ルートの変更)
  • 温湿度に合わせて調節しやすい服装で活動する
  • 耳栓やノイズキャンセリングのイヤホンなどを使用する

 

③生理的・身体的なストレッサー:ホルモンバランス、花粉症などのアレルギー反応を引き起こすもの、感染、その他の健康障害、疲労、睡眠不足など

 

  • 花粉症シーズンは症状が出始める前から通院する、生理周期に伴う不調は婦人科で相談する、などの対策が可能な症状の洗い出しと対策をする
  • 疲労がたまっている時や体調が悪い時には、最低限のやるべきこと以外を後回しにして休養を優先させる勇気を持つ
  • 最低6時間以上、できれば7時間以上の睡眠を毎日とれるように、日頃のスケジュールの見直しをする

 

④化学的ストレッサー:たばこの煙、強いにおいを発するもの、その他有害物質

 

  • 原因と距離を取る、接触量を減らす(通勤ルートの見直し、席替え、マスクの着用等)
  • 原因への働きかけをする(喫煙する家族と家庭内喫煙ルールを設ける等)

 

ストレス対策というと①に意識が向きがちですが、意外と他のストレッサーが当たり前になってしまっている方も多いのではないでしょうか。

電気代がもったいないので寒くても/暑くても我慢している、花粉症は症状に困るレベルになってから受診している、頭痛や肩こりはいつもあって当たり前、などは面談でもよく伺う話です。

日々のストレスを減らし、心地よい1日が過ごせるように、できるところから対策をしてみましょう。

 

3.セルフケアのステップその3

 

ストレス解消法を実践する⇒発生してしまったストレスを減らす!

次は発生したストレスを減らす方法を考えてみましょう。

代表的なストレス解消法をいくつか記しましたので、ヒントにしてみてください。

 

①リラクゼーション

 

特別な道具なしにできる手軽な方法ですと呼吸法(腹式呼吸)や瞑想、ヨガなどがあげられます。Youtubeなどにレクチャー動画も多く上がっていますので、参考にしてみると良いでしょう。

お気に入りの入浴剤を入れて湯船に浸かる、あったかいハーブティを飲む、好きな音楽を聴くなど、リラクゼーションの方法は無限大です。『ゆるむ』という感覚を大事にしてください。

 

②ストレッチ

 

長時間同じ姿勢でいると筋肉は緊張してしまいます。また、仕事の量が多い、人間関係のストレスがある、などの状況でも筋肉は緊張していきます。

筋肉の緊張をゆるめて血行を促し、物理的にほぐしていきましょう。デスクワークの人は特に凝り固まってしまいやすいので、毎日決まったタイミングで行うよう意識してみることをおすすめします。まずは昼休憩時と寝る前の1日2回、ストレッチをしてみませんか?

 

③適度な運動

 

ストレス発散のために運動をする場合は、義務や競争と感じず「楽しむ」ことができているかを重視してください。手軽にできること、楽しい環境でできること、筋力トレーニングでもダンスでもウォーキングでも身体を使うゲームでもなんでも良いので、自分に合った運動のかたちを見つけることが継続のコツです。

 

ストレスを感じない範囲で数値目標や大会出場など明確な目標を立てて、モチベーションをupさせることもお勧めです。

 

④快適な睡眠

 

起きたときに気持ちがいい睡眠、日中に眠くならない睡眠が理想です。

日中に身体を動かす、夕方以降のカフェイン・アルコールを控える、夜に湯船に浸かる、就寝前はPC・スマホ・テレビなどの刺激をなくすなど、睡眠に良いとされる習慣を取り入れるようにしましょう。

睡眠環境(音・光・室温・寝具等)にも問題がないか見直してみてください。私は寝るときに熟睡できるよう、遮光カーテン、遮光アイマスク、耳栓を使用しています。ラベンダーなどのアロマや、お気に入りの香水を使うこともあります。

適切な睡眠時間には個人差がありますので、スマホアプリや、ウエアラブルデバイスでの測定を活用し、自分の睡眠サイクルを知ることもお勧めです。

また、15分程度の昼寝は仕事の効率アップにもつながります。午後に眠くなってしまう方は昼休憩での昼寝も試してみてください。

生活リズムを崩さないことを優先し、『寝だめ』はせず、平日も土日も起床時間が大きく変わらないようにしましょう。

 

⑤親しい人たちとの交流・誰かと話す

 

友人や知人、家族と話をするなど、楽しい時間を過ごすだけでもストレス発散効果があります。話すことで不安やイライラした気持ちが整理され、自ずと解決策がみえることも。

親しい人にも話しづらい悩みがある場合は、EAPサービスなども有用です。

 

⑥笑う

 

笑って楽しめる事をしてみましょう。何も浮かばない場合、まずは笑顔の練習をするだけでもOKです。

もし、何をしても笑えない、笑う自分がイメージできない、以前楽しめていたことが楽しめなくなっている、といった状況の場合は、医療機関受診や産業保健職への相談を検討してください。

 

⑦仕事から離れた趣味

 

仕事上のストレスが多い方は、仕事から解放されている実感ができる趣味も良い発散になります。どんなものでもいいので、『自分のための時間を過ごしている』という実感が持てると良いでしょう。

仕事とは全く関係のない人々との趣味を介した交流は、孤独感や疎外感を緩和し、ストレス発散だけでなくストレス発生防止にもつながります。

日常的にできる趣味と休日にしかできない趣味、外での趣味と家での趣味など、みんなで楽しむ趣味と一人で楽しむ趣味、複数の趣味で幅を持たせることができれば、もうあなたはストレス発散マスターです!

ストレス解消法を列挙してみましたが、いかがでしたでしょうか。

 

4.まとめ

 

最後に、間違ったストレス解消法をしていないかの確認をしましょう。

 

  • ストレス解消のための喫煙
  • ストレス解消のための飲酒(習慣的であったり量が多かったりする場合)
  • 夜更かしを伴う趣味(生活に影響のない範囲でコントロールできていない場合)
  • 体調に悪影響を及ぼすことが明らかなもの(身体を傷つける行為を含む)
  • 義務的に感じるストレス解消法、後悔をしてしまうストレス解消法

 

こういったものは健康状態を悪化させたり、ストレスを増幅させたりして逆効果となってしまうため、気を付けてください。
今回はストレスチェックをきっかけにセルフケアを意識していただくために、セルフケアの3つのステップ(ストレス反応の種類を知る、ストレスの原因に目を向ける、ストレス解消法を実践する)とヒントをお伝えいたしました。

皆さまご自身の参考になるだけでなく、ストレスを抱えていそうな方、友人知人同僚ご家族の方にも、ぜひ『セルフケア』の意識を広めていただけたら幸いです。

文章出典:人事・総務向け「ウェルビーイング経営」サポートメディア「ウェルナレ」専門家記事より寄稿

 

この記事の著者

木村沙織

木村沙織

日本医師会認定産業医 合同会社産業医オフィスプルメリア 代表 都内を中心に、これまでITコンサルティング、サービス、人材、製造、流通、小売、その他各種事業(コーポレート機能)等様々な企業の産業医を務める。 得意分野はオフィスワーカー・在宅ワーカーのメンタルヘルス対策、休復職支援、健康経営施策等。

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