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「船員向け産業医選任」の義務内容・ルールとポイントを紹介

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「船員向け産業医選任」の義務内容・ルールとポイントを紹介

(更新:

サンポナビ編集部

2023年4月より船員向けの産業医選任とその適切な活用が義務化されました。

 

船員という働き方は、陸上で働く人に比べ、様々な健康リスクが高い傾向にあり、適切な働き方改革をしていくことが求められています。

 

本記事では、法律によって義務化された内容と対応について、ポイントを紹介しています。

 

船員の健康課題と新たな義務化の背景

 

船員の健康課題とその現状

船内という特殊な環境下で就労している船員は、陸上の労働者と比べ、疾病の発生率が高いとされています。

 

国土交通省海事局公表している「船員の健康確保の現状について」よれば、船員の年代別疾病発生率は~29歳で0.57%、30~39歳で0.48%、40~49歳で0.72%、50~59歳で0.97%、60歳以上で1.43%となっています。

 

これは、陸上労働者の疾病発生率が~29歳で0.5%、30~39歳で0.3%、40~49歳で0.27%、50歳~59歳で0.35%、60歳以上で0.8%であることを考えると、すべての層で疾病発生率が高いことが分かります(詳細は下図)。

 

海上労働者が健康に課題を抱えてしまう背景には、運動不足や不規則になりがちな睡眠・食生活があるとされており、船員の疾病のうち約半数が生活習慣病という高い水準となっています。

 

また、船員の疾病による死亡者の約9割が生活習慣病に関連する疾患によるものであります。

 

実際に、船員のメタボリックシンドロームの割合は陸上労働者と比べて10%以上も高く、喫煙者の割合も10%以上高いことが分かっています。

 

そして、船員は製造業に次いで高ストレス者の割合が高く、人間関係を高ストレスの要因としている労働者が多いとされています。

 

出典:国土交通省海事局「船員の健康確保の現状について」

 

2023年度から船舶所有者にとって新たに義務となる4つのこと

前述した背景を踏まえ、2023年度より船舶所有者には、船員の健康確保に関する新たな義務が発生することになりました。

 

その内容は船員労働安全衛生規則(昭和39年運輸省令第53号)では、船舶所持者に対し新たに次の4つの義務を課すことになりました。

 

  • ①船員向け産業医制度
  • ②健康検査結果に基づく健康管理
  • ③過重労働対策
  • ④メンタルヘルス対策

 

なお、義務化の対象となるのは船舶所持者が常時使用する船員の人数によって異なります。①船員向け産業医制度、③過重労働対策、④メンタルヘルス対策については、常時使用する船員が50名以上いる場合に、船舶所持者の義務が発生します。

 

一方で、常時使用する船員が50名以下の場合、①③④の実施は努力義務となり、船員の健康確保の実施に努めることが求められています。

 

なお、②健康検査結果に基づく健康管理については、常時使用する船員の人数にかかわらず実施する義務が発生します。

 

船員向け産業医選任の義務化について

 

 

船員の健康確保に関する新たな義務の詳細

続いて、前述した①から④の詳細について取り上げますので、船舶所持者の方は確認しておきましょう。

 

なお、これらの健康確保に関する活動については、産業医が中心人物となって推進していくことが求められています。

 

①船員向け産業医制度

産業医による船内巡視や衛生状態の把握を行い、健康障害の防止措置を行います。そして、健康検査結果に基づき、問題がありそうならば保健指導が行われます。そのほか、長時間労働者や高ストレス者に対しては面接指導などを行います。

 

②健康検査結果に基づく健康管理

健康検査に関する診断結果の提出および結果の記録・保管を行う必要があります。また、健康検査結果について、医師から意見聴取を行うことや、場合によっては事後措置を実施することが義務化されました。

 

③過重労働対策

長時間勤務している船員に対し、産業医など医師による面接指導が行われ、面接指導の結果は記録・保存する必要があります。また、面接指導結果の医師からの意見聴取や、就業場所の変更。乗船期間の短縮などといった事後措置を行わなければなりません。

 

④メンタルヘルス対策

メンタルヘルス対策については、まずその基本とされるストレスチェックの実施が必要となります。また、ストレスチェック結果の記録および保存も義務となっています。また、検査結果の分析を行うことや、高ストレス者に対しては面接指導も実施します。そして、場合によっては事後措置を行うことも義務とされています。

 

船員向けに選任が義務となった「産業医」の職務内容

常時使用する従業員が50名以上在籍している企業(事業場)では、産業医を選任し健康の保持・増進活動に取り組むことが義務となっています。

 

船員についてもおおむね同様の活動が求められており、常時使用する船員が50名以上であれば産業医を選任・活用していく必要があります。

 

なお、船員向け産業医はいわゆる「専属産業医」である必要はないことと、医師であっても疾病の診断・治療行為を行うわけではないことに注意しましょう。

 

また、船員における産業医の職務内容は以下のものが挙げられています。

 

  • ①健康検査結果に基づく船員の健康の保持
  • ②長時間労働の船員への面接指導の実施
  • ③ストレスチェックおよび高ストレス者への面接指導
  • ④作業環境の維持管理(※1)
  • ⑤作業の管理(※2)
  • ⑥上記①~⑤以外の船員の健康管理(※3)
  • ⑦健康教育、健康相談
  • ⑧衛生教育
  • ⑨船員の健康障害の原因調査および再発防止措置

 

船員向け産業医を選任した後の手続きと探し方のポイント

 

 

船員向け産業医の要件と選任のルール・タイミング

次に、船員向け産業医の要件と選任に関するルールについてです。

 

産業医の要件については一般的な企業と同じく、働く人の健康管理等を行うために必要な医学的知識と以下の資格等を有している医師ということが定められています。

 

・厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者

・産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者

・労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者

・大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師またはこれらの経験者

出典:国土交通省海事局「船員の健康確保の現状について」

 

 

ちなみに、人事権等を有する人物が産業医の職務を行うことはできませんので、その点に注意が必要です。

 

具体的には、船員の所持者が法人の場合のその代表者や、船舶所持者が個人である場合はその所持者、船舶にて行う事業実施の統括者は、上記の要件を満たしていても、産業医として選任することはできません。

 

また、船員向け産業医の選任タイミングについても一般的な企業と同じであり、常時使用する船員が50名以上になった際、14日以内に選任する必要があります。

 

なお、産業医の選任後は「産業医選任報告書」を地方運輸局長へ遅滞なく提出することも忘れないようにしましょう。

 

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船員向け産業医を選任した後の手続きについて

前述したように、船員向け産業医を選任したら、地方運輸局への届け出が必要となりますが船舶所持者は船員に対して①産業医の選任を周知する、そして、②産業医に対する情報提供も実施することが求められます。

 

船員に対して周知する内容とその方法については以下のようになっています。

 

①産業医の選任周知について

●周知すべき内容

・産業医の業務の具体的な内容

・産業医に対する健康相談の申出の方法

・産業医による船員の心身の状態に関する情報の取扱方法

 

●周知の方法

・船員が見やすい場所へ常時掲示する(または備置き)

・船員へ書面を交付する

・内容を常時確認できる電子機器(パソコン等)の船内設置

※いずれかの方法を実施

 

②産業医に対する情報提供とそのタイミング

産業医に対し、船舶所有者は以下の情報を提供することが義務付けられています。

 

・健康検査の診断結果、長時間労働にかかる面接指導結果、高ストレス者への面接指導結果に応じて講じた(講じる)就業上の措置の内容(措置を講じない場合はその理由)

※情報提供のタイミング:上記措置に関する医師からの意見聴取を行った後、遅滞なく提供

 

・長時間労働の船員への面接指導に係る長時間労働の基準に該当した船員の氏名及び当該労働時間に関する情報

※情報提供のタイミング:上記労働時間の算定を船舶所有者が行った後、速やかに提供

 

・上記のほか、船員の業務に関する情報であって、産業医が船員の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

※情報提供のタイミング:産業医から当該情報の提供を求められた後、速やかに提供

出典:国土交通省海事局「船員の健康確保の現状について」

 

 

船員向け産業医の探し方のポイント

本記事に掲載した内容の他、船員向け産業医の選任やそのほかの義務内容については国土交通省海事局「船員向け産業医 選任・活用マニュアル」に詳しく記載されていますので、船舶所有者等の方は必ずチェックしておきましょう。

 

また、同マニュアルでは、船員向けの産業医の探し方についても触れられており、産業医選任の際には、産業医紹介を行っている医師会や、医師の人材紹介を行っている企業に依頼することが一般的とされてます。

 

産業医の探し方や相談先については、一般的な企業における方法とおおむね同じものになりますので、以下の記事も参考にしてみてください。

 

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陸上で働く人と比べ、船員という働き方は健康課題に直面する場面も多いため、適切な健康管理を行うことが求められるようになりました。

 

基本的な活動については、労働衛生の専門家である産業医とともに推進することが求められています。よって、選任がまだの場合、まずは産業医の選任を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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この記事の著者

サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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