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2021年:労災認定基準が見直し「過労死ライン」に企業はどう対応する?

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サンポナビ編集部

2021年9月、労災認定の基準が約20年ぶりに改正され、いわゆる「過労死ライン」の見直しが行われました。

 

2020年は新型コロナウイルスの流行によって働き方にも大きな変革があり、リモートワークでの過重労働対策も課題になっています。

 

過労死を防ぐために個人・企業が知っておきたいことをまとめました。

 

「過労死」の現状と定義を知る

 

過労死にまつわる現状

厚生労働省の公表(※)によると、過労死等に関連した2020年度の労災請求の件数は2,835件で、2019年度に比べ161件減少しています。

 

しかし、支給決定は802件と、依然として多くの労災が発生している現状があります。

 

また、過労死等に関する死亡(自殺含む)の件数は148件(2020年度)発生しており、企業における対策が喫緊の課題となっています。

 

過労死の発生は、働く方やその周囲の人だけでなく企業にも大きなダメージがありますので、適切な対策を講じてください。

※出典:厚生労働省「令和2年度版 過労死等の労災補償状況」

 

そもそも「過労死」とは何か―厚生労働省の定義

過労死とは、仕事上の過重な負荷による脳血管疾患による死亡。

 

あるいは、仕事における強い心理的な負荷による精神障害を原因として自殺・死亡(過労自殺)してしまうことといわれています。

 

つまり、仕事が原因で死亡(あるいは自殺)してしまうことを指します。

 

なお、厚生労働省では「過労死等の定義」を次のように定めています。

 

●過労死等の定義

 

・業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡

・業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡

・死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害

出典:厚生労働省リーフレット「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ」

 

2021年の新基準は?「過労死ライン」とその対策

 

 

残業は何時間で「過労死ライン」?

長時間労働は過労死の最も重要な要因と考えられています。

 

「長時間にわたる残業が常態化している」

 

「休日を返上して働いている従業員が多い」

 

このようなケースがある企業では、特に注意が必要になります。

 

よって、いわゆる「過労死ライン」として考えられてきた労働時間数をまずは知っておきましょう。

 

旧来の脳血管疾患の労災認定基準では「(発症前1か月間ないし6か月間にわたって)1か月間あたりの時間外労働がおおむね45時間を超え、時間外労働の時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価される」とされていました。

 

そして「業務と発症の関連性が強い」と評価されるのが、いわゆる「過労死ライン」と呼ばれるもので「(発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月月間ないし6か月間にわたって)1か月間あたりの時間外労働がおおむね80時間を超える労働が認められる場合」と定められています。

 

長時間労働と健康被害のリスク関係については以下の図で確認しておきましょう。

 

図の出典:厚生労働省リーフレット「過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ」

 

2021年9月改正:労災認定の新基準

2021年9月に改正された脳・心臓疾患の労災認定、新しい基準では、以下がポイントとされていますので確認しておきましょう。

 

<脳・心臓疾患:労災認定基準の要点>

 

■長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化

■長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し

■短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

■対象疾病に「重篤な心不全」を追加

出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」

 

新基準における「過労死ライン」労働時間だけでは判断されない

改正された労災認定の基準では、単純に労働時間数のみで過重労働を評価するわけではなく、他の要因も含めることが挙げられています。

 

前述した「過労死ライン」の労働時間数を超過していない場合でも、その水準に近い時間数の労働であること、そして、一定の労働時間以外の負荷がある場合では、業務と発症との関連が強いと評価されます。

 

例えば、勤務間のインターバルとして、終業から次の始業までの時間数が11時間未満である場合や、勤務が連続しているケース、身体的な負荷といった要因がありますので、労災認定の新基準について確認しておくことをおすすめします。

厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の 認定基準について」

 

勤務間インターバル制度の適切な運用を

長時間労働・過重労働を減らすことが、過労死防止の対策につながります。

 

そこでまず大切になるのが、従業員の労働時間を適正に把握すること。

 

そして、働き方を見直し、ワーク・ライフ・バランスを実現することが求められています。

 

対策方法としては「勤務間インターバル制度」を適切に導入・運用することが大切です。

 

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また、精神障害の対策には職場のハラスメントを防止することも重要になります。

いわゆる「パワハラ防止法」は2020年の6月からスタートしていますので、確認しておきましょう。

 

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コロナ禍の過労死防止対策。専門家の活用を

 

 

リモートワークで「隠れ長時間労働」が増えている?

2020年は新型コロナウイルスの流行により、リモートワークの普及が進みました。

 

在宅勤務による業務の効率性に注目が集まっていますが、一方水面下では「子どもが寝てからじゃないと仕事ができない」や「コミュニケーションに時間がかかり、スムーズに仕事ができない」という悩みもあるようです。

 

リモートワークでは、働く人個人だけでなく、企業もこうした「隠れ長時間労働」に注意を払うことが重要です。

 

労務管理ツールやストレスチェックを活用し、いち早く従業員の変化に気づくことが大切になります。

 

過労死を防ぐために、専門家を活用する

自分が「過労死ライン」を超える可能性がある。あるいは、過重労働が心配される従業員がいる―そうした場合には、専門家へ相談することが大切になります。

 

過重労働に関する相談窓口は、国や民間の団体が運営しているものが多数ありますので、ぜひ活用でください。

 

また、会社で産業医などの産業保健スタッフを選任している場合には、心強い相談先になるはずです。

 

こうした資源を有効活用して、過労死・過重労働の対策を行いましょう。

 

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サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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