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片桐はじめ


建設業や造船業の現場において、従業員の安全を守るために必要なのが安全衛生責任者です。
しかし、「職長との違いがわかりにくい」「どの現場で選任が必要なのか判断に迷う」などで頭を悩ませる人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、安全衛生責任者の法的な定義から選任要件、具体的な職務内容、必要な講習内容までをわかりやすく解説します。
現場の安全管理体制を適切に構築するために、ぜひ参考にしてください。
目次

安全衛生責任者とは、建設業や造船業などの特定事業の現場において、下請け事業者(関係請負人)が選任すべき安全担当者です。
労働安全衛生法第16条にもとづき、現場の労働災害防止を目的として設置されます。
主な職務は、現場全体の安全を管理する元請け(特定元方事業者)との連絡調整です。
安全衛生責任者は、元請けからの指示を自社の作業員に伝え、現場の安全ルールを遵守させる役割を担います。

安全衛生責任者はすべての現場で必要なわけではありません。以下では、選任要件と必要資格について説明します。自社に安全衛生責任者の選任が必要かどうかを理解しましょう。
安全衛生責任者の選任義務は、労働安全衛生法第15条・第16条にもとづき、元請けが統括安全衛生責任者を選任している現場で発生します。
具体的には、以下の要件に該当する場合です。
現場の規模や工事の種類によって選任の要否が定められています。着工前に元請け(特定元方事業者)に選任の必要性を確認しましょう。
安全衛生責任者になるために、特別な免許や国家資格は必要ありません。
しかし、職務を遂行するための知識として、初任時に後述の「職長・安全衛生責任者教育」を修了していることが求められます。
また、厚生労働省では、技術の進歩や機械設備の更新に対応するため、大規模な設備変更時や概ね5年ごとに「能力向上教育」を受けることも推奨しています。

安全衛生責任者の具体的な仕事は、労働安全衛生規則第19条に規定されています。
安全衛生責任者の職務内容は以下のとおりです。
安全衛生責任者は元請けと現場をつなぐ橋渡し役です。現場の状況を正確に伝え、指示を徹底させることが労働災害防止には欠かせません。
※混在作業:建設現場などで元請けの作業員と複数の下請け業者の作業員が同じ場所で作業を行うこと。

安全衛生責任者と混同しやすい労働安全衛生関連の役職について、その違いを解説します。
職長と安全衛生責任者は、どちらも下請け側で選任されます。
職長は、部下である作業員を指揮監督するリーダーです。作業手順の決定や人員配置を行い、自社の作業員に直接指示を出す役割を果たします。
一方で、安全衛生責任者は元請けの統括安全衛生責任者や他の関係請負人との連絡調整を行う役割が主です。元請けから指示されたルール変更や注意事項などを自社作業員へ周知し、他の下請けと連絡調整を行います。
職長と安全衛生責任者は法律上は別の役割ですが、建設業などの混在作業現場では兼務するのが一般的です。これは、元請けとの調整結果を自社の作業員へ伝えるには、兼務している方がスムーズだからです。分業してしまうと、情報の誤解やタイムラグが生じ、思いがけない事故のリスクが高まります。
| 役職 | 職長 | 安全衛生責任者 |
| 選任義務がある者 | 下請け(関係請負人) | 下請け(関係請負人) |
| 主な役割 | ・作業手順の決定
・人員配置
・教育指導や監督指示 |
・元請けの統括安全衛生責任者との連絡や計画の調整
・他の下請けとの連絡調整
・自社の実施管理 |
| 主な対象 | 自社の作業と作業者 | 自社および自社の下請け |
統括安全衛生責任者は元請けによって選任され、現場全体の安全管理を指揮する「司令塔」です。全社が参加する協議会の運営や、混在作業による事故防止を統括します。
対して安全衛生責任者は下請けが選任し、自社の責任者として元請けとの連絡調整を担う「窓口」です。元請けの決定事項を自社作業員へ徹底させ、自社の下請けとの作業間の連絡調整をする役割を担います。
| 役職 | 統括安全衛生責任者 | 安全衛生責任者 |
| 選任義務がある者 | 元請け(特定元方事業者) | 下請け(関係請負人) |
| 主な役割 | ・協議組織の設置及び運営・作業間の連絡及び調整
・労働災書を防止するために必要な事項 |
・元請けの統括安全衛生責任者との連絡や計画の調整
・他の下請けとの連絡調整
・自社の実施管理 |
| 主な対象 | 現場全体(全社の混在作業) | 自社および自社の下請け |
安全管理者は作業場を巡視し、設備や作業方法の危険性を調べた上で労働災害の防止策を講じる役割があります。
衛生管理者は、健康診断の管理や職場環境の衛生管理が主な役割です。安全管理者・衛生管理者は常時50人以上の従業員がいる事業場で選任が必要です。
どちらも、本社や支店、工場などの事業場単位で選任される役職であり、現場ごとに選任される安全衛生責任者とは異なります。
| 役職 | 安全管理者 | 衛生管理者 | 安全衛生責任者 |
| 選任義務がある者 | 事業者
(本社・工場など) |
事業者
(本社・工場など) |
下請け
(関係請負人) |
| 主な役割 | ・会社や工場の設備の安全管理
|
・会社や工場の設備の安全管理
|
・元請けの統括安全衛生責任者との連絡や計画の調整
・他の下請けとの連絡調整
・自社の実施管理 |
| 主な対象 | 自社の設備や従業員 | 自社の設備や従業員 | 自社および自社の下請け |
※安全管理者について教えてください(厚生労働省)を編集して作成

安全衛生責任者に必要な講習として、初任時に受けるべき「安全衛生責任者教育」と、継続的な能力向上のための教育について解説します。
建設業では職長と安全衛生責任者を兼務することが多いため、両方の内容を網羅した「職長・安全衛生責任者教育」を受講するのが一般的です。
なお、造船業については独自のカリキュラム規定はなく、実務上は建設業向けと同じ内容や共通の講習で実施されます。講習機関によっては「建設業のみ」と限定している場合もありますので、事前に確認しておきましょう。
【カリキュラムの概要(計14時間)】
| 科目名 | 具体的な内容 | 時間 |
| 作業方法の決定及び労働者の配置 | ・作業手順の定め方
・労働者の適切な配置方法 |
2時間 |
| 労働者に対する指導又は監督の方法 | ・指導および教育方法
・作業中における監督および指示方法 |
2.5時間 |
| 危険性又は有害性の調査およびその結果にもとづき講ずる措置 | ・危険性または有害性等の調査方法
・調査結果にもとづき講ずる措置 ・設備や作業等の具体的改善方法 |
4時間 |
| 異常時等における措置 | ・異常時における措置
・災害発生時における措置 |
1.5時間 |
| その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動 | ・作業にかかる設備および作業場所の保守管理方法
・労働災害防止についての関心の保持および労働者の創意工夫を引き出す方法 |
2時間 |
| 安全衛生責任者の職務等 | ・安全衛生責任者の役割と心構え
・労働安全衛生関係法令等の関係条項 |
1時間 |
| 統括安全衛生管理の進め方 | ・安全施工サイクル
・安全工程打合せの進め方 |
1時間 |
出典:建設業における安全衛生責任者に対する教育及び職長等教育講師養成講座等のカリキュラムの改正について(基発第0512004号平成18年5月12日)│中央労働災害防止協会安全衛生情報センター
初任時の講習後も法改正や技術の発展に対応するため、厚生労働省は概ね5年ごとの再教育(能力向上教育)を推奨しています。
【再教育の概要(計6時間弱)】
| 科目 | 範囲 | 時間 |
| 職長等及び安全衛生責任者として行うべき労働災害防止に関すること | ・建設業における労働災害発生状況
・労働災害の仕組みと発生した場合の対応 ・作業方法の決定及び労働者の配置 ・作業に係る設備及び作業場所の保守管理の方法 ・異常時等における措置 ・安全施工サイクルによる安全衛生活動 ・職長等及び安全衛生責任者の役割 |
120分 |
| 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること | ・労働者に対する指導、監督等の方法
・効果的な指導方法 ・伝達力の向上 |
60分 |
| 危険性又は有害性等の調査等に関すること | ・危険性又は有害性等の調査の方法
・設備、作業等の具体的な改善の方法 |
30分 |
| グループ演習 | 以下の項目のうち1つ以上について実施すること。
・災害事例研究 ・危険予知活動 ・危険性又は有害性等の調査及び結果に基づき講ずる措置 |
130分 |
出典:建設業における職長等及び安全衛生責任者の 能力向上教育に準じた教育について(基発0220第3号平成29年2月20日)│厚生労働省
安全衛生責任者の講習は、以下の機関や形式で行われています。
現場の状況や受講者のスケジュールに合わせて、最適な受講方法を選びましょう。とくに、現場が繁忙期の場合は、移動時間のかからないオンライン講習を活用するのも効果的です。受講漏れがないよう、余裕を持った計画を立てておきましょう。

安全衛生責任者に関して、よくある質問や疑問についてまとめました。
A.安全衛生責任者は、日々の調整を行うため現場への常駐が原則です。旅行や病気、事故などのやむを得ない事情で不在になる場合は、あらかじめ代理者を選任する必要があります(労働安全衛生規則第20条)。
あくまで一時的な措置であり、不在が常態化しないように注意しましょう。
A.安全衛生責任者を選任しても、労働基準監督署への届出は不要です。
ただし、元請け(統括安全衛生責任者)への通報義務があります(労働安全衛生法第16条第2項)。安全衛生責任者の名称をもとに、元請け業者は各業者の責任や役割を示す安全衛生管理組織図を作成します。
請負契約が成立した後、速やかに元請けへ報告することが推奨されていますので、忘れないようにしましょう。
※元方事業者による建設現場安全管理指針について(厚生労働省)を編集して作成
A.労働者を雇わない一人親方は、法的に「安全衛生責任者」の選任義務はありません。
しかし、2023年4月の法改正により、元請け事業者は一人親方に対しても自社の従業員と同様の安全確保を講じることが義務付けられました。そのため、元請け側は「適切な安全教育を受けた一人親方」を優先して契約する傾向が強まっています。
自身の身を守る知識を習得し、仕事の受注チャンスを広げるためにも、受講しておくことが強く推奨されます。
※建設業の一人親方等のための安全衛生教育テキスト(公益社団法人全国労働基準関係団体連合会(厚生労働省))を編集して作成
安全衛生責任者は、建設現場などで働く人々の命を守るために必要不可欠な存在です。
法令にもとづき、安全衛生責任者を適切に選任し、必要な教育を受けさせることで、現場の労働災害リスク低減につながります。また、元請けとのスムーズな連携が実現すれば、生産性の向上も期待できます。
現場の状況に合わせて適切な配置と教育を行い、安全な職場づくりを推進していきましょう。
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