産業医になるには?資格の取り方と必要な研修、登録までの流れを解説
片桐はじめ


医師としてのキャリアを積む中で、ワークライフバランスの確保や働き方の多様化を背景に、セカンドキャリアとして産業医への注目が高まっています。しかし、具体的にどのような研修をどの程度受ければよいのか、わかりにくいと感じることも多いのではないでしょうか。
本記事では、産業医資格を取得するための3つのルートや具体的な研修内容、登録手続きから仕事の探し方までを解説します。
資格を取得し、産業医としてのキャリアをスタートさせるための流れを確認しましょう。
目次
産業医になるには「医師免許+指定の要件」が必要

産業医になるには、医師免許に加えて労働安全衛生規則に定められた指定の要件を満たす必要があります。
産業医は労働者が健康で安全に働けるよう、専門的な立場から指導や助言を行います。そのため、労働安全衛生法・労働安全衛生規則などの労働衛生関連法規に加え、作業環境管理といった産業保健特有の専門知識が不可欠です。
具体的な要件は「労働安全衛生規則第14条第2項」に定められており、主に以下のいずれかを満たす必要があります。
- 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会や産業医科大学など法人に限る)が行う所定の研修を修了した者
- 産業医科大学など、厚生労働大臣が指定する大学でにおいて労働衛生に関する正規の課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)に合格した者
- 大学において労働衛生を担当する教授、准教授、常勤講師の職にある、またはあった者
- 上記の他、厚生労働大臣が定めるもの(2026年1月現在指定なし)
産業医になるには、医師免許に加えて、指定の研修や講座、労働安全衛生コンサルタント試験の合格などの要件を満たす必要があります。
産業医の資格を取得する3つのルート

これから産業医を目指す医師にとって、資格を取得できるルートは以下の3つです。
- 医師会の産業医学基礎研修
- 産業医科大学などの集中講座
- 労働安全衛生コンサルタント試験の合格
ご自身の勤務状況やスケジュールに合わせて最適な方法を選択しましょう。
医師会の産業医学基礎研修
最も一般的な方法は、日本医師会ならびに都道府県医師会が実施する「産業医学基礎研修」を受講し、所定の50単位を取得するルートです。
この方法は週末に開催される研修会が多く、普段の臨床業務と並行して単位を集めやすいことが特徴です。
基礎研修で取得が必要な50単位の内訳は以下の通りです。
- 前期研修(14単位以上):総論、健康管理、メンタルヘルス対策など8項目の基礎知識
- 実地研修(10単位以上):職場巡視の実地研修や作業環境測定実習など
- 後期研修(26単位以上):地域の特性を考慮した実務的・専門的な内容
資格取得の流れとしては、まず都道府県医師会から「産業医学研修手帳」の交付を受けます。その後、研修会に参加して単位シールを集め、50単位に達した段階で申請を行います。
期間は数か月から1年程度かかることが一般的です。スケジュールに余裕を持って進めましょう。
参考:認定産業医の手引│日本医師会
産業医科大学などの集中講座
短期間で集中的に資格を取得したい場合に適しているのが、集中講座を受講するルートです。
代表的なものとして、産業医科大学(福岡県北九州市)が開催する以下の講座があります。
- 産業医学基本講座:約2か月間かけてじっくり学ぶコース
- 産業医学基礎研修会集中講座:6日間程度で50単位分のカリキュラムを網羅するコース
特に6日間の集中講座は最短で資格が取れるため人気が高い傾向にあります。
開催年度の4月上旬頃から申し込みが開始されますが、抽選制となることが多く、必ず受講できるとは限らない点に注意が必要です。
また、産業医科大学以外にも以下の大学で集中講座が行われることもあります。
| 開催地 | 時期・期間の目安 | 公式情報・申し込み |
| 東京科学大学
(東京都文京区) |
8月に7日間連続 | 東京科学大学医師会 |
| 帝京大学
(東京都八王子市) |
夏季(3日間)・冬季(4日間) | 帝京大学医師会 |
| 獨協医科大学
(栃木県下都賀郡壬生町) |
8月〜9月の週末で計6日間実施 | 獨協医科大学同窓会 |
| 岡山大学
(岡山県岡山市) |
7月、9月に計6日間実施 | 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野 |
| 東北大学
(宮城県仙台市) |
11月〜1月の間で計6日間実施 | 東北大学大学院医学系研究科産業医学分野 |
※開催時期や費用、定員は年度によって異なります。必ず開催する大学の公式ホームページで最新情報をご確認ください。
労働衛生コンサルタント(保健衛生)試験の合格
3つ目は、国家試験「労働衛生コンサルタント」に合格するルートです。
試験区分には「保健衛生」と「労働衛生工学」がありますが、産業医要件を満たすには「保健衛生」区分で合格しなければなりません。
試験は筆記試験と口述試験で構成されています。医師免許を保持している場合、筆記試験の一部(健康管理概論など)が免除されますが、労働衛生関係法令などの科目は受験が必要です。
合格率は約30%程度とされ、他のルートと比較して難易度は高いですが、取得すれば産業医としての専門性を高く評価される資格です。
労働衛生コンサルタント試験の合格証をもって、産業医資格の証明となります。
産業医資格取得から実務開始までのステップ

産業医に必要な研修を受講した後、実際に産業医として活動を開始するまでの流れを解説します。
ここでは、医師会の研修や産業医科大学などの集中講座を受講した場合の流れを紹介します。具体的な流れは以下のとおりです。
- 都道府県医師会への申請と登録
- 産業医としての求職活動
- 5年ごとの資格更新
都道府県医師会への申請と登録
必要な研修単位(50単位)を取得したら、所属する都道府県医師会(または勤務地の医師会)を経由して日本医師会へ申請を行います。
申請時には、産業医学研修手帳または修了認定書のコピーと、申請書・審査・登録料などが必要です。
都道府県医師会による審査と日本医師会による認定を経て、「認定産業医」の認定証が交付されます。
認定証が手元に届いて初めて、日本医師会認定産業医として活動できます。
産業医としての求職活動
産業医の求人は、一般の病院やクリニックの医師求人とは異なるルートで募集されることが多くあります。
知人の紹介で就職するケースもありますが、近年では産業医専門の紹介サービスを利用するのが効率的です。
紹介サービスに登録すると、自身の希望に合った企業を紹介してもらえるほか、契約条件の交渉などのサポートも受けられます。
特に初めて産業医を務める場合は、サポート体制が整っている紹介サービスを選ぶと安心です。
5年ごとの資格更新
産業医資格は一度取得すれば永久に有効なものではなく、5年ごとの更新が必要です。
認定証取得後の5年間で「産業医学生涯研修」を20単位以上受講し、更新手続きを行わなければ資格は失効します。
更新に必要な20単位の内訳は以下の通りです。
- 更新研修:1単位以上(労働衛生関係法規など)
- 実地研修:1単位以上(職場巡視や保護具の選択方法などの実務的な研修)
- 専門研修:1単位以上(地域特性を考慮した実務など)
研修を通じて、常に最新の労働衛生知識をアップデートし続けることが、質の高い産業医活動には求められます。
医師が産業医資格を取得する3つのメリット

医師が産業医資格を持つことは、キャリアや働き方においてさまざまなメリットがあります。具体的なメリットは以下の3つです。
- ワークライフバランスが整えやすくなる
- 臨床以外の安定した収入源になる
- 予防医学で働く人の健康を支えられる
ワークライフバランスが整えやすくなる
産業医の業務は、原則として緊急の呼び出しや当直がありません。
企業の就業時間に合わせて活動するため、土日祝日が休みで、平日も契約時間内で業務が終了することが多いです。
そのため、子育てや介護との両立を目指す医師や自身のワークライフバランスを改善したい医師にとって働きやすい仕事といえます。
臨床以外の安定した収入源になる
臨床業務とは異なる収入源を持つことで、体力的な限界を感じた際のセカンドキャリアやリスク分散につながります。
特に「嘱託産業医(非常勤)」としての募集は多く、月に数回、数時間の訪問から始められます。そのため、現在の臨床業務を続けながら副業として収入を確保しやすいでしょう。
予防医学で働く人の健康を支えられる
病院での臨床業務は「病気になった患者」を治療することが主ですが、産業医は発症や重症化を未然に防ぐ役割を担います。
具体的には、ストレスチェックの実施者や高ストレス者への面接指導を担い、メンタルヘルス不調の未然防止に関わるような業務です。
また、近年では「健康経営」に取り組む企業が増えており、医師の専門的知見が企業の経営課題解決につながる場面も増えています。
臨床とは異なる視点で社会に貢献できる点に、大きなやりがいを感じる医師も少なくありません。
産業医の資格取得に関するよくある質問(Q&A)

産業医の資格取得に関してよくある疑問や質問をQ&A形式で紹介します。
Q.研修情報の効率的な探し方や予約のコツは?
A.日本医師会のホームページや、各都道府県医師会のサイトで研修スケジュールを確認できます。
短期間で研修を修了できる集中講座は、例年3月上旬〜4月頃に募集要項が公開されます。人気が高いため、申し込み開始と同時に枠が埋まることもあります。事前にスケジュールを確認し、受付開始直後に申し込めるよう準備を整えておきましょう。
また、キャンセル待ちの制度が設けられている講座もあります。定員に達していても、キャンセル待ちに登録できる場合があるため、諦めずにこまめに申し込み状況を確認することをおすすめします。
Q.研修医でも産業医の資格は取れますか?
A.研修医であっても、医師免許を持っていれば産業医研修を受講し、資格を取得することは可能です。研修医のうちに資格を取得しておき、後期研修終了後などに実務を開始するというキャリアプランも有効です。
ただし、実際に企業から選任される際には、一定の臨床経験が求められる可能性があります。また、研修受講の時間を確保できるかもポイントです。
ご自身のキャリアプランや研修医としての勤務状況を考慮して、産業医資格を取得するか検討しましょう。
Q.産業医になるには最短で何日かかりますか?
A.最も期間が短いのは、産業医科大学などが実施する集中講座で、最短6~7日間で必要な単位を取得できます。
ただし、受講後に認定証が発行されるまでには審査期間がかかります。受講期間だけでなく、申請から認定完了までのタイムラグも考慮してスケジュールを組みましょう。
Q.産業医になるための研修はオンラインでも受講可能ですか?
A.一部の研修についてはオンラインでの受講が認められている場合がありますが、産業医資格取得に必要な研修は対面での研修がほとんどです。
一方で、産業医の更新に必要な研修は、更新要件の20単位のうち5単位まで、Web研修会による取得が可能です。
理想の産業医キャリアをスタートさせるために
資格取得はゴールではなく、産業医としてのキャリアの第一歩にすぎません。「自分に合った企業で活躍できるだろうか」という期待と不安を抱えている先生方も多いのではないでしょうか。
当サイトでは、これから一歩を踏み出す先生方をサポートするために、2つの入り口をご用意しています。
①資格取得後のキャリアイメージを具体化したい方へ
まずはどのような産業医募集があるのか、勤務条件や報酬、求められる役割などの実例をチェックして、ご自身の将来像を具体的に描いてみてください。
②未経験からのスタートに不安を抱えている方へ
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