産業保健の「知」を共有するメディア

総合トップ / コラムトップ / /

「禁煙研究の専門家」に聞いてみた!改正健康増進法に職場でどう...

産業保健ニュース・コラム 産業医・保健師・企業の人事担当者など産業保健に携わるすべての人が使えるナレッジを共有できるサービスです。

「禁煙研究の専門家」に聞いてみた!改正健康増進法に職場でどう対応する?

(更新:

2020年4月、タバコに関する新しいルールとして、ついに「改正健康増進法」がスタートします。

 

そして、企業には「望まない受動喫煙」を職場から無くすことが求められていますが、適切な対応はできていますか?

 

職場で「受動喫煙対策」に取り組む際、注意すべきポイントについて禁煙研究」の第一人者であり、テレビなどにも登場する産業医科大学の大和浩教授にお話を伺いました。(取材:サンポナビ編集部)

 

「禁煙」に関する研究の第一人者、大和浩先生にお話を聞いた

 

最初に、ご略歴について教えていただけますでしょうか

産業医科大学 産業医生態科学研究所 健康開発化学研究室 教授の大和浩(やまと・ひろし)と申します。

 

主にタバコに関する健康被害や受動喫煙防止などを専門に研究しており、多くの企業や自治体で講演をしています。

 

また、コメンテーターとしてテレビに出ることもあります。

 

最近では、2018年3月にNHKの「あさイチ」にも出ています(笑)。

 

「タバコ」や「受動喫煙」について研究されようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか

産業医科大学を卒業後、呼吸器内科に勤務しておりました。また、大学ではアスベスト代替繊維の吸入曝露の研究で学位を取っています。

 

実を言うと、36歳の時に禁煙するまで、私はもともとスモーカーだったのです。

 

専攻がアスベストや粉じんについての研究でしたので、当時は研究の傍ら、自分専用の局所排気装置に頭を突っ込んでタバコを吸っていたほどニコチンに依存していました(笑)。

 

そして、禁煙には7回失敗していまして、8回目でやっと成功しているんです。

 

「禁煙しよう」と考えたきっかけについて教えていただけますか

禁煙のきっかけになった事柄はいくつかあります。

 

当時、私の上司が労働省の「職場における喫煙対策のガイドライン」の策定委員長になりまして、その下で助手をしていた私がタバコを吸える状況ではなくなったことですね。

 

もう一つは、嘱託産業医をしていた企業で「タバコの害」について衛生講話を依頼されたことでした。

 

まさか喫煙者が「タバコの害」について講話するわけにもいかず…(笑)。

 

そうした事柄をきっかけに「もうタバコをやめよう」と強く考えました。

 

その後、禁煙してからは「タバコの害」や「受動喫煙」にまつわる研究に着手してきました。

 

 

改正健康増進法で2020年から大きく変わる「タバコ」のルール。企業・オフィスではどのように対応すべきか

 

 

2020年4月からは健康増進法もスタートしますし、東京オリンピックも控えていますので「タバコの害」や「受動喫煙」にはものすごく大きな注目が集まっていますね

そうですね。

 

とはいえ、海外と比較すると、日本のタバコに関するリテラシーは“まだまだ低い”というのが現状です。

 

喫煙者の数はここ数年で減少傾向にありましたが、現在では横ばいの状態が続いています。

 

タバコが吸える場所もどんどん減っていますが、職場での対応は遅れ気味です。

 

「健康日本21(第二次)」で示されたように、喫煙は日本人の死因の第1位です。

 

企業の方は社員の健康管理として「タバコの健康被害」や「受動喫煙」に関する情報をもっと知るべきです。

 

さらに言えば「タバコの無い社会」がSDGsにも貢献できます。

 

まずはそういった情報を企業と従業員のそれぞれが知っておくことが大切になります。

 

職場の受動喫煙対策で、企業は具体的にどのような対応をすればよいのでしょうか

今年(2020年)は、改正健康増進法の施行により、行政機関等は原則敷地内禁煙、一般企業は原則屋内禁煙、と大きな変革が求められていますので、企業でも「喫煙」に関する考え方と対応を変える時期に突入しています。

 

取組みをすすめるポイントとして、ハードとソフトの両面から受動喫煙の対策を行っていくことが重要になります。

 

施設・設備といったハード面ですが、一言でいえば「分煙」や「喫煙室を作る」という考えはもう捨てて「完全禁煙」にするべきです。

 

その理由は、新たにオフィスに喫煙室を作ったり、既存の喫煙室を改善したところで、根本的な受動喫煙の問題解決にはならないからです。

 

喫煙室を整備しても、企業で完全な「分煙」は難しいということでしょうか

喫煙スペースや喫煙室から漏れ出る煙、喫煙後の呼気に含まれる煙について、私は長年にわたって研究してきました。

 

研究の結果から、喫煙室の扉を開け閉めする際には「ふいご」の効果によって煙は室外に押し出されるため、完璧な分煙は実現できないことがわかっています

 

そして、肺に残っている煙が喫煙後の呼気に約2分間、吐き出されますので、すぐに自席に戻れる場所で喫煙すると受動喫煙が発生しますし、煙が吐き出され終わった後も口臭や衣服のタバコ臭による三次喫煙による被害が続きます。

 

まず、ハード面として“喫煙スペースの廃止”が必要です。

 

 

では、ソフト面ではどのような企業の対応方法があるのでしょうか

ソフト面では、勤務中や休憩時間や出勤途中、営業先で喫煙できる場合、三次喫煙の被害はなくならないので、それらを禁止することです。

 

少なくとも「勤務中はどこに居ても禁煙」というルールが必要です。

 

その上で、従業員の禁煙を企業が支援することが大切になってきます。

 

これだけ「吸いづらくなった世の中」で、今でも吸い続けている人たちは、もうイヤというほど「タバコの害」について聞かされていると思います。それでもタバコをやめていないわけです。

 

つまり、まだタバコを吸っている人たちは、言ってみれば「自力では禁煙できないスモーカー」なんです。

 

ですので、単にタバコの害を説明するだけではなく、禁煙補助薬と内服薬で苦しまずに禁煙できること、禁煙することによって多くのメリットが得られることを伝えることで、禁煙する気持ちを促し、禁煙治療費を会社が援助することが必要です。

 

その際には、産業医や看護職の衛生講話なども有効に活用していくと効果的です。

 

やはり、喫煙は企業にとって多数の「リスク」があるため、ソフト・ハードの両面から支援していくことが大切になるのです。

 

職場の喫煙は「コスト」と「リスク」の根源。適切な対策が求められている

 

企業が抱える「喫煙のリスク」とはどのようなものでしょうか

企業にとってリスクになるのは、企業全体の健康レベルが下がることだけでなく、喫煙者の労災リスクや、非喫煙者からの訴訟リスクがあります。

 

喫煙者は、体内のニコチン濃度が下がることによって、集中力が低下します。その際に、労災、つまりケガや事故の危険性が高まるという研究結果があります。

 

また、職場の受動喫煙によって他の従業員に健康被害が出た場合だけでなく「タバコのニオイで気分不良」でも、従業員から会社が訴えられることだって実際にあるのです。

 

こうしたリスク回避のためにも、職場の禁煙対策が重要となるのです。

 

その他にも、リスクとは異なりますが、喫煙スペースを維持することにも多くのコスト(費用)が掛かります。

 

まず、床面積(地面)に対する家賃。そして、喫煙室から換気扇で冷暖房された空気を排気することで大量の電力を消費します。

 

私達の試算では1つの喫煙室で年間10〜20万円の電気代が浪費されます。さらに、清掃業者に支払うコストもかかります。

 

経理的な観点からも企業・オフィスの喫煙スペースは無くしたほうが良いのです。

 

 

産業保健と衛生担当者からは、どのようなアプローチが求められていますか

禁煙サポートには、人事部と産業医が連携して進めることが良いと思います。

 

そのためには、企業の衛生担当者がタバコについて情報収集することも大切です。

 

私が制作に携わっているものも多いのですが、今では禁煙に関する有用なテキスト(※)が数多くありますので、そういった資料を活用して、企業の方には理解を深めてほしいですね。

 

また、経済産業省の認定制度「健康経営優良法人」の認定基準にも「受動喫煙対策」は必須項目になっています。

 

最近の高校生、大学生は吸わないことが当たり前の世代ですから「スモークフリーな職場」でないと新入社員が確保できにくくなると考えています。

 

2020年は節目の年になりますので、この流れに乗り遅れないようにしていただきたいです。

 

※参考URL

T-PEC株式会社「禁煙の教科書」

厚生労働省「禁煙支援マニュアル(第二版)

 

最後に、企業の経営者、衛生担当者、喫煙者の方へメッセージをお願いします

職場の喫煙問題の解決に必要なことは、受動喫煙が発生しないための環境づくりです。

 

繰り返しになりますが、第一歩は、思い切って職場から喫煙スペースを無くしてしまうことです。

 

つまり、タバコが吸える環境を無くしてしまうことで「禁煙企図」が高まり、その結果、禁煙の支援になります。

 

例えば「東京オリンピック・パラリンピックの期間だけでも喫煙所を閉鎖」してみてはどうでしょう。

 

その期間だけでもトライしてみて、支障がなければそのまま喫煙スペースを無くしてしまうのも手でしょう。

 

そして喫煙者の方に知ってもらいたいのは「禁煙は、何歳からでも遅くない」ということです。

 

「もう長年タバコを吸ってきたから、今さら…」という方も多いですが、禁煙をはじめた瞬間からリスクは減少していきます。

 

禁煙して10年で心血管系疾患への影響はなくなり、15年経過すると肺がんのリスクも非喫煙者と差がなくなります。

仮に失敗しても、あきらめずに何度でもトライしてください。

 

かく言う私も禁煙には7回失敗していますが、こうして禁煙に成功しています。禁煙の最大のコツは「成功するまでトライする」ことです。

 

最後になりますが、私のホームページでは、タバコの害や禁煙に関するデータ、研究成果などを多数掲載しています。

 

企業の方の情報収集だけでなく、禁煙チャレンジ中の方にも有用な情報がたくさんありますので、ぜひご覧になってみてください。

 

※参考URL:大和浩先生の公式ホームページはこちら

 

〈大和浩先生がおすすめする図書、DVD〉

 

●書籍

・JT、財務省、たばこ利権  松沢成文  ワニブックス

・タバコ規制をめぐる法と政策  田中謙  日本評論社

・本当のたばこの話をしよう  片野田耕太  日本評論社

・喫煙社員ゼロの時代へ  荒島英明  PHPエディターズグループ

・新型タバコの本当のリスク 田淵貴大 内外出版社

・悪魔のマーケテイング  切明義孝・津田敏秀・上野陽子  日経BP社

・頑張らずにスッパリやめられる禁煙  川井治之  サンマーク出版

・禁煙外来へようこそ  高橋裕子  遊タイム出版

・それでもタバコを吸いますか?  松沢成文・笹川陽平  幻冬舎

・やめたくてもやめられない人の完全禁煙マニュアル  高橋裕子・三浦秀史  PHP研究所

 

●DVD

・受動喫煙も有害です タバコの煙の害のない社会環境づくり   (株)映学社

・赤ちゃんの成長に影響します!タバコの煙で起こる健康被害  (株)映学社

 

 

〈プロフィール〉

 

大和浩(やまと・ひろし)

 

昭和61(1986)年、産業医科大学医学部卒業

専門:喫煙・受動喫煙・三次喫煙対策

浪人時代に喫煙を始め、7回の禁煙に失敗し、8回目の禁煙を23年間継続中。

「ニコチン依存症」から「タバコ対策依存症」となり、日本の空気の改善をライフワークとして発信中。

 

●研究内容

・    職域の包括的な喫煙対策
(建物内・敷地内禁煙、勤務中の禁煙、三次喫煙、禁煙治療)

・   医・歯学部、官公庁の禁煙化の敷地内禁煙化

・   鉄道、タクシー、飲食店等のサービス産業の禁煙化

・   多忙な勤労者が運動習慣を獲得・維持する職場環境と指導法

医学博士、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会指導医

※参考URL:大和浩先生の公式ホームページはこちら

 

あわせて読みたい関連記事

この記事の著者

大和浩

大和浩

(やまと・ひろし)産業医科大学教授。昭和61(1986)年、産業医科大学医学部卒業 専門:喫煙・受動喫煙・三次喫煙対策。浪人時代に喫煙を始め、7回の禁煙に失敗し、8回目の禁煙を23年間継続中。「ニコチン依存症」から「タバコ対策依存症」となり、日本の空気の改善をライフワークとして発信中。

関連記事