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片桐はじめ


スーパー、コンビニ、百貨店、ドラッグストアなど複数の店舗を展開する小売業の企業にとって、従業員の健康管理は頭を悩ませる課題のひとつではないでしょうか。
「パートやアルバイトを含めると50人を超える店舗が出てきたが、産業医の選任は必要なのか」
「店舗での転倒事故が多発している」
「カスタマーハラスメント(カスハラ)による離職をどう防げばいいのか」
といったことで困ることもあるでしょう。
本記事では、小売業における産業医の選任基準や産業医に求められる役割、実際に産業医との連携に注力する企業の事例を解説します。法令を遵守し、従業員が安心して長く働ける店舗づくりを実現するためのヒントとして、ぜひお役立てください。
目次

小売業における産業医の選任義務は、企業全体の従業員数ではなく、店舗ごとの人数によって判断されます。具体的には、以下の3つの点を押さえておきましょう。
産業医の選任義務は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」に課せられています(労働安全衛生法第13条)。ここで注意が必要なのは、企業全体の人数ではなく、店舗や営業所といった「事業場」ごとの人数で判断される点です。
例えば、全従業員数が1,000人を超える企業であっても、店舗の従業員数が50人未満であれば、その店舗には産業医を選任する法的な義務はありません。
小売店を全国展開する企業A(従業員数:1,000人)の場合
| 事業場 | 従業員数 | 産業医選任義務 |
| 店舗B | 45人 | なし |
| 店舗C | 55人 | あり |
小売業の場合、本社や大規模な物流センター、ショッピングモール内の大型店舗などでは50人以上の要件を満たすケースが一般的です。
ただし、50人未満の事業場で選任義務がないから「従業員の健康管理は不要である」とはなりません。企業には人数規模にかかわらず、従業員が安全に働くための「安全配慮義務」が課せられています。
例えば、健康診断後の就業判定で医師の意見を聴取することは、すべての事業場で必要な対応です。
そのため、複数の小規模事業場を一人の産業医がまとめて担当するなど、企業全体で包括的な産業保健体制を構築することも重要です。
産業医選任基準となる「常時使用する労働者」の数え方にも注意が必要です。ここには正社員だけでなく、パートやアルバイト、派遣労働者なども含まれます。
週の労働時間数や出勤日数にかかわらず、継続して雇用されている実態があれば、1人としてカウントされます。例えば、以下の働き方をする従業員も「常時使用する労働者」の対象です。
常時使用する労働者に含まれる例
小売業はパートやアルバイトの比率が高い業種ですが、正社員以外の従業員も含める必要があります。「正社員は少ないから大丈夫」と判断せず、実際に働いている総人数で確認しましょう。
※事業場の規模を判断するときの「常時使用する労働者の数」はどのように数えるのでしょうか。(厚生労働省)を編集して作成
生産拠点や物流拠点を抱える小売業などで、その事業場の規模が大きくなると、産業医の選任形態やその他の管理体制にも異なる基準が適用されます。具体的には以下の通りです。
【大規模事業場における専属産業医の選任基準】
小売業では、深夜業や寒冷な場所での業務、重量物を取り扱う業務などが有害業務に該当します。大型スーパーのセントラルキッチンや大型冷蔵庫を要する大規模な物流センターなどが当てはまるでしょう。
なお、1,000人以上(業種により300人以上)の大規模事業場では、総括安全衛生管理者の選任も必要になるので注意が必要です。総括安全衛生管理者は、安全管理者や衛生管理者を指揮し、産業医と連携して事業場全体の安全・健康管理を統括する役割を担います。

小売業では、店舗運営の実態に即した対応が特に重要視されています。特に期待される産業医の役割は、以下の3つです。
顧客からの理不尽なクレームや言動、過剰な要求による「カスタマーハラスメント(カスハラ)」は、従業員のメンタルヘルス不調や精神疾患の原因となり休職や離職にもつながるなど、経営リスクに直結しています。
カスタマーハラスメントが社会的に問題視されるなか、令和7年に成立した労働施策総合推進法の一部改正により、事業主にはカスハラ防止のために雇用管理上必要な措置が義務付けられました。
従業員の健康を守り、企業としての責務を果たすため、カスハラ対応を念頭に置いたメンタルヘルス対策は必要不可欠です。
医学的知見を持った産業医が関与することで対策の実効性を高められるでしょう。
産業医によるメンタルヘルス対策の例は、以下の通りです。
産業医は、個人のケアだけでなく組織としての対応体制づくりにも関与し、従業員の心の健康を守る役割を担います。
企業に求められるカスハラ対応の詳細については、関連記事をご覧ください。
※労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等(厚生労働省)を編集して作成
小売業では、品出しやレジ業務などの立ち仕事、バックヤードでの荷物の運搬などにより、腰痛や転倒事故が発生するリスクがあります。厚生労働省の調査では、小売業における労働災害(休業4日以上の死傷者の事故)のうち「転倒」が35%、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が14%とこの2項目で半数を占めています。
産業医は労働災害を防ぐために、作業環境や作業方法のリスクを評価し、改善策の提案や指導することが役割の一つです。
具体的な対策例は以下の通りです。
特にシニア層の就労が増加するなかで、2026年4月から高年齢者の労働災害防止対策が努力義務化されるなど、現場での実効性ある対策が強く求められています。
高齢の従業員は、加齢に伴う身体機能の低下により、わずかな段差でも転倒しやすく、重症化するリスクも高まります。こうした背景を考慮したうえで産業医が助言を行うことで、安全管理の実効性を高められるでしょう。
※職場の危険の見える化(小売業、飲食業、社会福祉施設)実践マニュアル(厚生労働省、中央労働災害防止協会)を編集して作成
産業医は毎月1回(要件を満たせば2か月に1回)職場巡視を行い、現場の衛生状態や作業環境を確認します。店舗を巡回し、以下のような点をチェックします。
| チェック項目 | 具体的な確認内容 |
| 休憩室の環境 | ・従業員が十分に休息を取れるスペースが確保されているか ・体調不良時に横になれる設備(休養室など)があるか |
| 温熱環境・空気循環 | ・搬入口や厨房付近など、温度変化が激しい場所での熱中症対策 ・店内の換気状況(CO2濃度) |
| 深夜勤務への対応 | ・仮眠室や休憩スペースの衛生環境、防犯体制の確保 ・6か月に1回の「特定業務従事者健康診断」の実施状況 |

産業医を検討する際には、その業種に関する課題に理解があり、課題解決を推進するノウハウを持つ医師を選任することが大切です。小売業の現場にマッチした産業医を探す際には、以下の5つを確認しておきましょう。
小売業は土日祝日の営業を含むシフト制勤務が一般的であり、年末年始などの繁忙期には業務負荷が高まります。そのため、シフト制に伴う睡眠障害や生活習慣病のリスクに精通し、現実的な業務調整のアドバイスができる医師が望ましいでしょう。
また、現場の負担にならないよう繁忙期に配慮しつつ、柔軟な日程で面談を設定できる産業医が適しています。
多店舗展開している企業の場合、複数の拠点を効率的に巡視できるフットワークの軽さが求められます。
また、物理的に訪問が難しい遠隔地の店舗で緊急性の高い面談が発生するケースも想定されます。産業医面談のオンライン実施は、令和2年11月から可能となりましたが、実施にあたってはセキュリティの確保や運用上の一定の条件を満たす必要があります。
そのため、セキュリティに配慮したオンラインツールの適切な操作や、画面越しでも従業員の表情や不調のサインを読み取れるかといった、ITリテラシーと対応力も確認しましょう。
さらに、多店舗展開する企業では、安全衛生管理を現場まかせにせず、組織全体で一貫性のある体制を構築することが求められます。
こうした体制を実現するうえで産業医には、企業の方針を理解し、各拠点の巡視や面談状況を的確にフィードバックする連携力が欠かせません。現場の状況を正しく本部・本社へつなぐ役割も、あわせて求められています。
小売業の現場は、正社員やパート、アルバイトといった多様な働き方に加え、高齢者や外国人従業員も多く、極めて多様な人材によって構成される現場です。
日本語の習熟度が異なる外国人や身体的リスクが高い高齢者、育児や介護などで勤務時間に制約のあるスタッフもいるでしょう。
専門用語を使わずに誰にでもわかりやすい言葉で指導できるコミュニケーション能力や、異なる文化的背景を持つ外国人スタッフにも配慮できるダイバーシティな対応力が必要です。
従業員の多様性を理解し、誰もが安全に働ける環境かを評価できる産業医が求められます。
現場の状況を無視した理想論だけの改善提案は、店舗運営を混乱させる可能性があります。
例えば、バックヤードが狭い店舗で「片付けを習慣化しましょう」と提案するだけでは、「片付ける場所がなくて困っているのに」と現場の困惑を招くでしょう。
現場の苦悩に共感しつつ、「商品を積み上げる高さに一定の制限を設ける」「動線確保は死守する」など、店舗の構造的な制約を理解した上で、現実的な改善策を提案できる産業医を選びましょう。
店長は、本社からの目標達成へのプレッシャーと、現場スタッフのマネジメントの板挟みになりやすく、孤独やストレスを感じやすい立場です。特に、パート・アルバイト従業員よりも社歴の浅い従業員が店長に昇進するケースもあり、経験不足からプレッシャーを感じやすくなります。
そのため、昇進や異動に伴う「環境変化によるメンタルヘルス不調」への知識が豊富で、若手管理職特有の悩みに寄り添える産業医であれば心強いでしょう。
管理職向けの研修や面談を積極的に提案してくれる産業医であれば、組織全体の安定にも寄与します。

実際に産業医を導入し、従業員の健康管理や職場環境の改善に取り組んでいる企業の事例3つを紹介します。
自転車の販売・修理を行うイオンバイク株式会社では、重量のある自転車を扱う店舗スタッフの身体的負担や繁忙期における心身の健康管理が課題でした。
そこで、産業医と連携し、自社の課題に合わせたテーマで衛生講話を実施する取組を開始。産業医と担当者が密にコミュニケーションを取り、「今、従業員に伝えたいこと」をテーマに選定することで、現場のニーズに即した健康教育を実現しています。
参考:産業医と二人三脚で従業員の健康意識向上へ|全国展開するイオンバイクが取り組む健康経営とは│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
株式会社バイク王&カンパニーでは、オートバイの買取・販売・整備を扱う中で、拠点ごとに労働災害や健康課題が異なるという課題を抱えています。
その中で、出張買取査定においては移動時間を含めた労働時間の適正化を推進する制度を整えてきました。また、整備現場での有機溶剤使用については、健康診断に加え、使用量のチェックや従業員教育等を徹底しています。
継続的に産業保健活動に取り組む同社では、労働衛生に詳しい産業医を本社に配置し、コンタクトセンターにはメンタルヘルスケアの知見を持った産業医を配置し、全拠点の安全衛生体制を強化。従業員が安心して働ける環境を整えています。
参考:「従業員が能力を最大限発揮できるよう安全で健康的な労働環境を」バイク王&カンパニーが取り組む産業保健活動とは│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
全国に500以上の店舗を展開するケーズデンキグループでは、店舗によって産業保健活動の質にばらつきがあることを課題にし、グループ全体での健康経営の底上げに注力してきました。
この課題を解消するために全国対応の産業医の選任だけでなく、全国の店舗をカバーできる総合的な産業保健体制を整備。資料の統一やクラウド型システムの活用により、情報の管理を一元化し、業務効率を向上させるとともに、どの店舗でも一定水準の産業保健活動が行える環境を構築しています。
参考:エムステージが提供する『産業保健トータルサポート』ケーズデンキグループ 導入スタート│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
小売業における産業医の選任は、単に法令を守るためだけのものではありません。転倒などの労働災害やメンタルヘルス不調を未然に防止し、従業員が安心して長く働ける店舗をつくるための不可欠な取組といえます。
しかし、多店舗展開による管理の複雑さや産業医探しにかかる手間は、人事労務担当者にとって大きな負担となることも多いです。
質の高い産業保健体制を効率的に構築したいとお考えの方は、専門的なノウハウを持つサービスへ相談するのも一つの手でしょう。
株式会社エムステージでは、産業医紹介サービスを提供しています。
小売業の実情に合わせた産業医のマッチングに加え、全国に展開する複数拠点を一元管理する体制構築の支援も行っていますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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