雇用保険法等の改正に伴う企業の対応を解説|2025年4月施行も
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2024年5月に雇用保険法等の改正法が成立し、2024年10月から段階的に施行されています。雇用保険の適用拡大や給付制度の新設などの対応事項が多く、「何をいつまでに準備するべきか?」と悩む人事労務担当者も多いでしょう。
本記事では、雇用保険法等の改正について、施行時期ごとの改正内容と企業の対応を解説します。具体的に何から始めるべきかお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
2024年5月に成立した雇用保険法等の改正とは?
雇用保険法は、1974年に制定されて以来、時代の変化に合わせて何度も改正されてきました。今回の改正では、短時間労働者への適用拡大や教育訓練支援の充実などの制度変更が盛り込まれています。
また、2024年6月には「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が制定され、共働き推進のための新たな育児給付制度の創設が決定しました。多様な働き方を推進することを念頭に、雇用保険法の大幅な改正がなされています。
改正の背景と目的
2024年5月に成立した雇用保険法等の改正法は、雇用のセーフティネット構築と「人への投資」の強化を目的としています。
①雇用のセーフティネット構築
副業やフリーランス、短時間勤務など多様な働き方が広がっています。しかし、改正前の雇用保険制度は週20時間以上の労働者を対象としており、短時間労働者の多くが含まれていませんでした。
今回の改正では、週の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の労働者を新たに加入対象とし、多様な働き方を支えるセーフティネットを構築します。
②「人への投資」の強化
デジタル化などの技術革新によって求められているのが、労働者の「学び直し」です。労働人口の減少が加速する状況下で、政府は「人への投資」を成長戦略の柱と位置づけ、労働者のリスキリングを促進しています。
雇用保険法等の改正では、教育訓練給付金の拡充や教育訓練休暇給付金の創設など、能力開発を促進する制度が導入されます。
「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要を編集して作成
「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容
「雇用保険法等の一部を改正する法律」では、雇用保険の適用拡大や、教育訓練・リスキリング支援、育児休業給付の財源強化が盛り込まれています。
改正点①週10時間~20時間未満の労働者への適用拡大【2028年10月施行】
雇用保険の適用範囲が拡大され、週20時間未満の短時間労働者も加入対象となります。
出典:「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(厚生労働省)
上記の図のように、週20時間未満の労働者数が増加する背景を踏まえ、週10時間以上の労働者にも適用範囲が拡大されました。
また、労働時間の条件変更に伴い、以下の基準も現行の2分の1に変更されます。
※「①を毎月勤労統計の平均定期給与額の変化率を用いて毎年自動改定した額」と②を毎年比較し、高い方を賃金日額の下限額として設定
「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(厚生労働省)をもとに当社作成
改正点②教育訓練・リスキリング支援の強化
労働者が自発的にリスキリングができるよう、教育訓練に関する給付金の拡充と制度新設が実施されます。
【2024年10月施行】教育訓練給付金の拡充
特定一般教育訓練及び専門実践教育訓練の、教育訓練給付金の給付率上限が引き上げられました。
給付種類 | 給付率上限 | 主な資格・講座例 |
専門実践教育訓練給付金 | 70%→80% | 社会福祉士、介護福祉士、保育士、看護師、理学療法士、データサイエンティスト講座、専門職大学院など |
特定一般教育訓練給付金 | 40%→50% | 運転免許関係(大型自動車第一種免許など)、介護職員初任者研修など |
ただし、給付率の引上げ対象となるのは、追加支給部分のみです。追加支給とは、専門実践教育訓練給付金は受講後の資格取得時と賃金上昇時、特定一般教育訓練給付金は受給後の資格取得時に支給されるものです。
追加支給の要件を満たさない場合は、引上げ対象になりません。
「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(厚生労働省)をもとに当社作成
【2025年4月施行】自己都合退職者の給付制限見直し
労働者が安心して再就職活動ができるよう、給付制限期間が2か月から1か月に短縮されます(5年以内に3回以上受給している場合は3か月)。さらに、離職期間中や離職前の1年以内に、教育訓練を自ら受けた場合、給付制限が解除されます。
出典:「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(厚生労働省)
【2025年10月施行】教育訓練休暇給付金の創設
就業中の労働者が教育訓練のために休暇(無給)を取得、かつ被保険者期間が5年以上である場合、賃金の一定割合を支給する制度が新たに導入されます。
被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかの期間、離職した場合に支給される基本手当と同じ額が支給されます。
働きながら本格的に学び直すには、一定期間仕事を休む必要があるケースも少なくありません。休暇中の経済的な保障を行うことで、労働者の学び直しを促進する目的で創設されました。
改正点③育児休業給付を支える財政基盤の強化
育児休業の取得者数が増えたことを背景として、育児休業給付の支給額が年々増加傾向にあります。
支給額の増大に対応できるよう、財政基盤の強化が行われます。具体的な見直しは以下の通りです。
- 令和6年度から国庫負担割合を1/80から1/8に引き上げ
- 当面の育児休業給付の保険料率は現行の0.4%に据え置きつつ、令和7年度から0.5%に引き上げる改正を行うとともに、実際の料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整
※改正された段階では雇用保険料の引き上げが見込まれていましたが、2025年4月からの雇用保険率は、8年ぶりに0.1%引き下げられます。
雇用情勢の改善に伴い、失業等給付の積立金が増えてきたことに伴う引き下げです。今後も財政状況を勘案しながら調整されるため、動向をチェックしておきましょう。
令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内(厚生労働省)
財政運営について(厚生労働省)を編集して作成
その他の雇用保険法等の改正点
その他の改正点として挙げられるのは、就業促進手当の見直しです。現行制度の就業手当が廃止され、就業促進定着手当の上限が40%から20%に引き下げられます。
また、雇い止めによる離職者への基本手当の給付日数にかかる特例措置も2年間延長されます。引き続き、倒産・解雇による離職者と同じ90~330日で、基本手当が給付されることとなります。
「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(厚生労働省)を編集して作成
「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」による改正内容
少子化に歯止めをかけるべく、労働者の「共働き・共育て」を推進する施策として、新たな給付制度が創設されます。
【2025年4月施行】出生後休業支援給付制度の創設
現在の育児休業給付金は、休業開始から180日までは賃金の67%、181日以降は50%が支給されています。しかし、経済的な理由から男性の育児休業取得が進まないという課題がありました。
今回の改正では、夫婦の「共働き・共育て」を実現するため、出生後休業支援給付金が新設されます。14日以上の育児休業を取得した場合、以下の通り給付が拡充されます。
母親:育休開始後28日間は給付率80%へ
父親:出産後28日間は給付率80%へ
※給付率は出生育児休業給付金または育児休業給付金と合わせたもの
給付率80%は手取りの10割に相当するため、休業中の保障につながります。経済的理由で育休取得をためらっていた男性の育児参加を促進し、子育て世帯の負担軽減をはかります。
【2025年4月施行】育児時短就業給付制度の創設
育児と仕事の両立を支援するため、時短勤務を選ぶ労働者の補償制度として、育児時短就業給付制度が新設されます。
対象者:2歳未満の子を養育し、時短勤務制度を利用する労働者
給付率:時短勤務中に支払われた賃金額の10%
子どもの成長に合わせた柔軟な働き方を推進する制度であり、労働者の仕事と育児の両立をサポートします。
「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要」(厚生労働省)を編集して作成
雇用保険改正による企業への影響と対策
雇用保険法の改正は、従業員のキャリア選択や育児との両立、企業の人件費など、さまざまな面で影響を及ぼします。以下の3つの影響を理解し、適切な対策を行いましょう。
- 人材定着率の低下
- 育休取得ニーズの増加
- 雇用保険負担の増大
1.人材定着率の低下
自己都合退職者の基本手当(失業給付)制限が緩和されるため、従業員が転職に踏み切りやすくなります。特に、スキルアップを目指す意欲的な人材や、転職市場で需要の高い専門職など、人材定着率の低下が生じやすくなるでしょう。
定着率の低下を防ぐには、自社内でのキャリアアップ支援を充実させることが重要です。具体的には、社内公募制度の拡充や適切な評価、処遇制度の整備などが求められます。
また、2025年10月より施行される教育訓練休暇給付金を活用できる体制づくりも検討しましょう。リスキリングのための休暇制度を整備し、従業員が働きながらスキルアップできる環境づくりが必要です。
2.育休取得ニーズの増加
出生後休業支援給付金により、収入減を理由に育休取得をためらう従業員からのニーズが増える可能性があります。育休取得ニーズに対応するため、業務の見直しや代替要員の確保などを計画的に進める必要があります。
また、男性からのニーズが特に増える可能性があるため、男性が育休取得しやすい職場風土づくりも重要です。育休取得者の事例紹介や管理職向け研修の実施、育休取得が昇進に不利にならない制度の整備などを行いましょう。
3.従業員の雇用保険加入に伴う負担
2028年10月より、週10時間以上の労働者が雇用保険の適用対象となります。雇用保険料の負担や、手続きにかかる人事労務担当者の負担が増大します。具体的には、新たに加入対象となる従業員の割り出しや改正の周知、新規加入手続きが必要となります。
「2028年より開始」と、他の改正点に比べて猶予期間はありますが、早めに準備して対応しましょう。
雇用保険改正への対応で従業員が働きやすい組織づくりを
段階的な施行に備えて、企業は就業規則の見直しや従業員への周知など、計画的な対応が必要です。
雇用保険法の改正は、従業員のキャリア形成や育児との両立支援を通して、職場環境を改善する機会でもあります。従業員が安心して働き続けられる環境づくりは、企業の持続的な成長につながります。適切な対応で従業員の満足度向上と人材定着をはかりましょう。
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