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緊急事態における産業医の“役割”と“重要性”~新型コロナウイルス感染症の企業対策とBCP

(更新:

連日報道される感染情報や事業所の封鎖など、新型コロナウイルス感染症にまつわる企業の対応は、もはやBCP(事業継続)のフェーズに突入したと言っても過言ではない。

 

また、感染症の対策を行う上で欠かせないのが、企業における医療専門職の「産業医」である。

 

本稿では、産業保健だけでなく、企業経営・事業継続の視点から、緊急事態における「産業医の役割・重要性」について、各方面の専門家によるコメントや、行なったインタビューについて掲載する。

 

緊急時における産業医の役割

 

産業医育成機関「産業医アドバンスト研修会」の見解

 

「産業医アドバンスト研修会」は産業医科大学産業衛生教授であり、グローバル企業にて統括産業医として活躍する浜口伝博氏らによって設立された「プロフェッショナルな産業医」を育成する機関である。

 

先日、理事の立道昌幸氏(東海大学医学部公衆衛生学教授)からは、新型コロナウイルス感染症に関する企業の対応として、産業医との連携が重要になることが公表された。

 

産業保健活動の真価が問われる今こそ、産業医は医学誌などから適切に情報を収集・提供し、企業の活動継続にコミットメントした役割を果たすことが重要であるという。

 

〈以下引用〉

 

(中略)企業では、このような感染症対応については産業医が中心的な役割を持ちます。

 

BCP事業継続計画(Business Continuity Plan)は、2009年の新型インフルエンザの時に大体の企業は策定していますが、それを今見直しているところだと思います。

 

そのためには、まずは、正確な情報を産業医が理解し、わかりやすく会社に説明することが求められます。

 

そして、どのような対応が必要なのか、企業に即しての対応が求められます。

 

(中略)

 

随時、情報は更新されますが、ベースにしっかりとした知識が求められます。

〈引用終了〉

 

このように、今後、企業としてはBCP(事業継続)を視野に入れた対策を行っていくことが大切であり、それを支援する産業医には中心的な役割として活動することの重要性が述べられている。

 

本稿では、最先端で活動する専門家へのインタビューをもとに、新型コロナウイルス感染症における産業医の役割と企業の対応について述べる。

産業医アドバンスト研修会公式ホームページ

 

 

※編集部注:適切な情報収集には以下のサイトが有用です。

 

・日本産業衛生学会「新型コロナウイルス感染症情報」

 

・日本渡航医学会「新型コロナウイルス情報~個人と企業に求められる対策~」

 

・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」

注意:情報は常に最新のものを入手するよう心がけてください。

 

BCPのフェーズを視野に入れた、経営的判断における産業医の必要性

 

小島玲子氏(株式会社丸井グループ執行役員・統括産業医)

 

株式会社丸井グループは「健康経営銘柄2020(経済産業省)」にも認定されているヘルスリテラシーの高い企業である。

 

同社の執行役員であり、統括産業医でもある小島玲子氏は、経営と健康の双方を先陣で推進する存在だ。

 

小島玲子氏は新型コロナウイルス感染症の企業対応について「今後のフェーズでは、BCPの観点から経営的な判断が必要であり、そのためには産業医との連携が不可欠」だと語る。

 

また、企業活動については「今回の新型コロナウイルス感染症の対応として、企業活動のすべてを“自粛する”という形で対応することに対しては慎重になるべきだと考えます。その理由は、企業が正常に機能しなくなってしまえば、社会における経済活動や人々の生活に、必要以上に大きな影響を及ぼしてしまうからです。産業医は最新の医学的情報の収集に努め、企業は産業医から医学的エビデンスとそれに基づく見解を提供してもらい、衛生委員会など様々なチャネルを通じて職場で必要な情報を共有することが必要です」と話す。

 

そして「企業の経営層や各事業の責任者等は、産業医の知見を取り入れ、さらには就業などに関する判断についても連携して行い、BCPの視点からさまざまな問題に対応していくことが大切」と続けた。

 

昨今では、企業名・事業所名とともに感染情報が報道され、企業活動に大きなダメージを与えている。

 

感染者の発生による事業場の閉鎖、企業の活動停止という事態を避けるため、また、被害を最小限に抑えるためには、経営の視点からも新型コロナウイルス感染症に対応していく必要があることは間違いないだろう。

 

株式会社丸井グループ公式ホームページ

 

新型コロナウイルス感染症対策における産業医の実務

 

予防医学専門医師(株式会社エムステージ所属産業医)

 

株式会社エムステージに所属し、現在複数の企業にて産業医を担当している予防医学の専門医師によれば「新型コロナウイルス感染症の対応時こそ、日頃行っている産業医の活動が効果を発揮する」といい、産業医の役割について次のように語った。

 

例えば、衛生講話を通じた保健活動。産業医が新型コロナウイルス感染症に関する最新情報を提供することや、手洗い・うがい・マスクの使用法など、個人における予防法を正しく伝えることが効果的である。

 

また、 “新型コロナウイルス感染症が今後どのような状況になっていくのか”という不安を抱える企業に対し、医療専門職である産業医から“今後の予測”について衛生委員会を通じて情報提供することが大切になる。

 

そして、職場巡視も新型コロナウイルス感染症の対策では欠かせない活動だ。

 

職場巡視では換気の状態、従業員の密集レベル、気温・湿度が適切かどうかといった判断を産業医が行い、企業に適切な改善策を提示する役割がある。

 

こうした日頃の産業医業務を通じて企業と連携することや、産業医が保健活動の相談先となることは企業の不安の緩和にもつながり、今まさに求められている産業保健活動である。

 

こうした事態が発生している際には、企業として迅速な対応・判断が求められるため、決裁権限を持つ経営層が衛生委員会に参加し、産業医と連携することが対策の近道となる。

 

今後の企業対応としては、BCPの策定も課題となってくることが予想されるが、2009年に発生した新型インフルエンザに対応するBCPをバージョンアップしつつ、適応させていくことも有効であるという。

 

そして、新型コロナウイルス感染症の対応に関する一連の対応について、産業医と連携して乗り越えることができれば、企業と産業医の信頼関係も強固なものになり、収束後の産業保健活動にも良い効果を表すことになるだろう。

 

新型コロナウイルス感染症の対応を求めて、企業からは産業医の活動に関する相談が増加している

 

株式会社エムステージ 取締役 産業保健事業部長 鈴木友紀夫

 

企業の産業保健活動を包括的に支援している株式会社エムステージには、顧客関係にない企業から新型コロナウイルス感染症に関する問い合わせが殺到している。

 

相談の内容は、新型コロナウイルス感染症により、突如として産業医から企業への訪問がキャンセルになる例が出ており、その対応についての相談だという。

 

一連の相談対応について、産業保健事業部長であり取締役の鈴木友紀夫氏は次のように語る。

 

「企業では新型コロナウイルス感染症の対応が急務になっていますが、肝心の産業医が訪問をキャンセルするケースが増えているようです。そういった理由から、当社への相談や対応依頼が増えています。相談内容としては、感染症の専門医はいないか?テレワークで働く従業員の健康管理に詳しい産業医はいないか?といったものが特に増えています。」

 

そして「連日報道されるニュースやSNSなど、情報が錯綜する昨今だからこそ、適切な対応策や情報を持つ産業医の存在へのニーズが高まっています。今、まさに企業・産業医の意識に関して真価が問われているため、支援が行き渡るよう尽力したい。まずそのために株式会社エムステージでは、今後CSRの一環として、新型コロナウイルス感染症対策に関する衛生講話の資料を無料で提供する予定です(※)。」と語った。

 

※2020年3月13日追記

 

このたび、株式会社エムステージでは、職場において新型コロナウイルス感染症対策を行う際に有用となる資料の提供を開始しました。

 

以下のリンクでは、すぐに使える「衛生委員会」「衛生講話」の資料が無料でダウンロード可能になっています。

 

資料の制作は産業保健師が監修しています。ぜひ、企業の皆さまの産業保健活動にお役立てください。

 

>>>衛生委員会・衛生講話用の資料ダウンロードページはこちら

 

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