企業におけるプレコンセプションケアとは?健康経営推進に欠かせない理由を解説
片桐はじめ


近年、健康経営への関心が高まる中で「プレコンセプションケア」が注目されています。
特に、健康経営優良法人の認定取得を目指す企業にとって、理解と対策が不可欠です。
健康経営度調査に項目が追加されたものの、「具体的に何をすればよいのか」「デリケートな話題をどう伝えればよいか」など具体的な実行方法について課題を感じている担当者の方も多いでしょう。
本記事では、プレコンセプションケアの基礎知識から、企業が取り組む意義、具体的な施策までを解説します。
健康経営推進の新しい取り組みとして、参考にしてみてください。
目次
プレコンセプションケアとは?
プレコンセプションケアとは「妊娠前の健康管理」を指し、WHO(世界保健機関)では「妊娠前の女性とカップルに医学的、行動学的、社会的な健康介入を行うこと」と定義しています。
WHOの調査では、不妊症のうち男女双方に原因があるケースが24%、男性のみに原因があるケースも24%とされており、不妊に悩むカップルの約半数は、男性にも原因があることが分かります。
妊娠を希望する女性だけでなく、性別を問わず若い世代が自身の健康に関心を持ち、将来のライフプランに備えるための取り組みです。
企業経営の視点では、個人のウェルビーイングと組織の生産性向上をはかるものとして、健康経営推進に重要な取り組みとして注目されています。
※ 「「プレコンセプションケア」をみんなの健康の新常識に」(厚生労働省)、「男性不妊について」(こども家庭庁)を編集して作成
日本におけるプレコンセプションケアの現状
日本では、若年層の「やせ」や生活習慣病リスクのある肥満、晩婚化・晩産化など、妊娠・出産におけるリスクが課題となっています。20代から30代女性の約2割が「やせ」の状態にあり、低出生体重児の増加の一因とされています。
こうした背景をうけ、政府は2018年以降、プレコンセプションケアを重要方針に組み込み始めました。「こども未来戦略」(令和5年閣議決定)では、男女を問わず正しい知識を普及させ、健康管理を促す方針が明確に示されています。
プレコンセプションケアを重視する動きは地方自治体にも広がっており、東京都では講習受講を条件に検査費用の助成を行っています。若年層の健康問題を背景に、妊娠前から出生リスクを考える動きが日本全体で広がりつつあるといえるでしょう。
※プレコンセプションケア推進5か年計画(こども家庭庁・プレコンセプションケアの提供のあり方に関する検討会)を編集して作成
企業がプレコンセプションケアに取り組む意義
企業がプレコンセプションケアに取り組むことには、従業員と企業双方にメリットがあります。
- 従業員の健康意識向上と不妊予防
- 生産性向上と人材確保
従業員の健康意識向上と不妊予防
若い世代の従業員は、「若いからまだ大丈夫」と考え、体調管理を後回しにする傾向にあります。しかし、若い頃の健康状態が将来の妊娠・出産に影響することがあるため、注意が必要です。
例えば、無理なダイエットによる「やせ」はホルモンバランスを乱します。
その結果、月経不順や排卵障害を招き、将来の不妊の原因となる可能性があります。
プレコンセプションケアは、性別を問わず、身体や将来のライフプランについて考えるよいきっかけとなります。早い段階から健康意識を高めることで、不妊の予防につながります。
※やせ | 女性特有の健康課題(働く女性の心とからだの応援サイト)を編集して作成
生産性向上と人材確保
従業員の健康は、企業の生産性と切り離せない課題です。特に、女性特有の健康課題による生産性低下(プレゼンティーズム)は、経済産業省の試算でも社会全体で年間約3.4兆円と顕著な経済損失とされています。
プレコンセプションケアは、全従業員の健康リテラシーを向上させ、労働損失を未然に防ぎます。また、従業員のライフプランに寄り添う企業の姿勢は、「働きやすい企業」としてのブランドイメージを高め、人材確保につながるでしょう。
※女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について(経済産業省)を編集して作成
健康経営優良法人認定における重要性の高まり
経済産業省が実施する「健康経営度調査」において、プレコンセプションケアに関する設問は、「健康経営優良法人2025」(2024年度調査)で大規模法人部門を対象に新設されました。
続く「健康経営優良法人2026」(2025年度調査)では、中小規模法人部門にも認知度を問うアンケートが拡大され、大規模法人部門では具体的な取り組み内容を問う設問が追加・深化しています。
この流れからも、健康経営優良法人の認定を目指す企業にとって、プレコンセプションケアへの取り組みは、今後必須の戦略として重要性が増していくといえるでしょう。
※令和7年度健康経営優良法人認定事務局の活動及び申請認定に関するご報告(経済産業省)を編集して作成
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企業におけるプレコンセプションケアの具体的取り組み4選
企業全体でプレコンセプションケアに取り組む際の具体的な施策として、以下の4つが挙げられます。
- セミナーや研修によるリテラシー向上
- プライバシーに配慮した相談体制の構築
- 婦人科検診などの経済的支援
- 休暇制度の導入
1.セミナーや研修によるリテラシーの向上
全従業員を対象としたセミナーや研修を実施し、プレコンセプションケアの認知度とヘルスリテラシーの向上を図りましょう。
例えば、「いつまでも自分らしく働くための健康術」や「女性の健康課題とチームで支え合う職場づくり」など、性別やライフステージに関わらず参加しやすいテーマが考えられます。
全従業員を対象とすることで、男女がともに正しい知識を持ち、お互いをサポートし合える職場環境につながります。
予算や人員が限られる中小企業では、地域の保健所や健康保険組合が提供するセミナーを活用するのも有効です。
2.プライバシーに配慮した相談体制の構築
従業員が安心して悩みを相談できる環境の整備も重要です。デリケートな情報であるため、プライバシー保護には注意を払いましょう。
具体的な方法としては、産業医や保健師による相談窓口の設置が挙げられます。
また、社内では相談しにくい内容に対応するため、外部のEAP(従業員支援プログラム)サービスを導入するのも有効です。
匿名で利用できるオンライン相談などは、利用のハードルを下げます。
3.婦人科検診などの経済的支援
健康管理や治療にかかる経済的負担を軽減する支援も効果的です。法定の健康診断項目に加えて、婦人科検診の費用を補助する制度などが考えられます。
例えば、子宮頸がん検診や乳がん検診、AMH検査(※)などの費用を企業が一部または全額補助するものです。
経済的な負担を軽減することで従業員の早期受診を後押しし、病気の重症化予防と長期的な健康維持につながります。
※AMH検査:血液中のAMH濃度を測定し、卵巣内に残っている卵子の数を推測する検査
4.休暇制度の導入
仕事とライフイベントを両立しやすい、柔軟な働き方を実現する環境整備も欠かせません。
定期的な婦人科検診や体調管理のための通院など、従業員が自身の健康と向き合う時間を確保しやすくする配慮が求められます。
既存の年次有給休暇を1時間単位で取得できる制度を導入・徹底するだけでも、柔軟な働き方を支援できます。従業員は自身の健康管理を計画的に行いやすくなるでしょう。
プレコンセプションケア推進を成功させるための3ステップ
プレコンセプションケアの推進を成功させるためには、計画的なアプローチが重要です。ここでは、施策実施から定着までの3つのステップを解説します。
- STEP1:経営層の理解を得る
- STEP2:従業員への周知
- STEP3:効果測定と改善の仕組みづくり
STEP1:経営層の理解を得る
新しい施策を実施するには、経営層の理解が不可欠です。プレコンセプションケアが、単なるコストではなく「投資」であることを論理的に説明する必要があります。
経営層への説明のポイントは、生産性向上や離職率低下といった具体的なメリットを提示することです。経済産業省のデータから健康課題による経済損失の大きさを説明し、同業他社の改善事例があれば同時に示すとよいでしょう。
具体的な予算要求のコツとしては、スモールスタートを提案することです。まずは低コストで実施可能なセミナーから始め、効果を測定した上で、本格的な制度導入を段階的に検討する計画を提示します。
STEP2:従業員への周知
プレコンセプションケアはデリケートな側面を持つため、従業員への伝え方には工夫が求められます。
「不妊」や「病気」などの言葉を強調するのではなく、「キャリアとライフプランを両立させるための支援」のように、ポジティブな言葉で語ることが大切です。
また、告知物で「相談内容やサービスの利用状況は会社には伝わらない」「プライバシーは厳守される」ことを強調し、従業員の安心感を醸成しましょう。
STEP3:効果測定と改善の仕組みづくり
施策が「やりっぱなし」で形骸化するのを防ぐため、効果測定と改善の仕組みを構築することが重要です。
まず、セミナー参加率や満足度、相談窓口の利用件数などのKPI(重要業績評価指標)を設定します。定期的にデータを収集・分析し、施策の効果を評価します。
評価結果に基づき、「セミナーのテーマを見直す」「休暇制度の利用を管理職から働きかける」など、次期の改善アクションにつなげていきましょう。
プレコンセプションケアの取り組みを行うための注意点
プレコンセプションケアは、社会的な認知度がまだ低いという課題があります。そのため、企業で推進する際にはいくつかの問題が起こり得ます。
以下のプレコンセプションケアに関する注意点と具体的な対策を理解しておきましょう。
- 性別に限らず全ての従業員の課題として捉える
- 制度を利用しない従業員との不公平感をなくす
- 従業員へのプレッシャーにならないように配慮する
1.性別に限らず全ての従業員の課題として捉える
プレコンセプションケアを女性従業員だけの問題と捉えると、『なぜ特定の性別だけが特別な対応や学習を求められるのか』という女性従業員からの不満や、男性従業員の無関心を助長しかねません。
対策として、「全ての従業員の健康とキャリアのため」という一貫したメッセージを発信することが重要です。セミナーなどの案内も、性別を限定せず全従業員を対象とすることで、誰もが当事者であるという意識につながります。
2.制度を利用しない従業員との不公平感をなくす
特定の健康課題への支援制度を導入すると、対象でない従業員から「一部の人だけが優遇されている」といった不公平感が生じるおそれがあります。
不公平感を避けるため、制度設計には工夫が必要です。例えば、特定の目的の休暇だけでなく、全従業員が自身の健康維持や自己啓発のために利用できる「ウェルネス休暇」のような、より包括的な制度を設けることが考えられます。
3.従業員へのプレッシャーにならないように配慮する
企業の意図とは裏腹に、プレコンセプションケアの推進が従業員に対する「妊娠・出産への無言の圧力」と受け取られてしまうリスクがあります。
出産を希望しない従業員や不妊に悩む従業員が疎外感を覚え、エンゲージメントの低下を招く可能性があります。
対策としては、施策の目的を「従業員一人ひとりが、自身のキャリアとライフプランを自らに描くための健康支援」と位置づけることが重要です。「将来の妊娠・出産のため」に限定せず、制度利用は任意であり、個人の選択を尊重する姿勢を伝え続ける必要があります。
プレコンセプションケアを根付かせるには専門家のサポートが必要
プレコンセプションケアは、従業員のウェルビーイングに貢献し、企業のイメージや生産性向上につながります。一方で、デリケートなテーマであるため、「社内での伝え方が難しい」などの悩みが生じやすいでしょう。
特に、プレコンセプションケアは社会全体では認知度がいまだ低く、企業の取り組み事例も少ない状況です。「何から手を付ければよいかわからない」と困りやすいといえます。
効果的な施策の企画や実行、従業員への適切な情報提供には専門的な知見が必要です。保健師や臨床心理士などの専門家が介入することで、施策の価値は高まります。
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