<セミナーレポート>“わかる・できる・広がる” 健康経営 -健康経営ガイドブックの解説から実践現場のリアルまで-
片桐はじめ


2025年8月、佐川アドバンス株式会社、株式会社ニチレイ、株式会社エムステージの三社共催によるオンラインセミナー「“わかる・できる・広がる”健康経営® -健康経営ガイドブックの解説から実践現場のリアルまで-」が開催されました。
本セミナーでは、2025年3月に改訂された「健康経営ガイドブック」のポイント解説から、経営層や従業員を巻き込むための具体的な取り組み事例まで、健康経営推進で直面する課題解決に役立つ内容が解説されました。
当日のセミナー内容をレポートします。
目次
株式会社エムステージ「健康経営ガイドブックの活用法と2026年度認定に向けた主な改訂点」
株式会社エムステージからは、産業保健事業部メンタルヘルスソリューショングループマネージャーの横山氏より、2025年3月に改訂された健康経営ガイドブックの活用ポイントと2026年度認定に向けた改訂点を解説しました。
継続的な施策実行に生かす「健康経営ガイドブック」の活用ポイント
「健康経営ガイドブック」は、健康経営を継続的かつ効果的に実践するための手順やその効果を可視化するためのツールです。健康経営の定義から実践のポイント、進め方などがまとめられています。
健康経営ガイドブックをうまく活用するためのポイントは3つです。
ポイント①:PDCAサイクルで取り組みを継続・改善する
健康経営を効果的に実践するには、PDCAサイクル(目標設定→施策実施→効果検証→改善)を回し続けることが重要です。
これから始める企業は目標設定から、すでに取り組まれている企業は現状の施策を棚卸しすることから始め、一度きりで終わらせず継続していくことが求められます。
健康経営ガイドブックには、継続するための細かいヒントが多数掲載されているので、参考にしながら進めてみてください。
ポイント②:健康経営戦略マップで取り組みを「見える化」する
「健康経営戦略マップ」は、健康投資がどのようなプロセスを経て経営課題の解決につながるのかを可視化するツールです。
経営課題と健康課題を結びつけ、最終目標(KGI)と中間指標(KPI)を具体的に設定することで、取り組みの方向性が明確になります。
2026年度においては、KGIやKPIの定義の整理や経営層の関与が問われるようになっており、健康経営戦略マップの活用は経営層のコミットメントを示す上でも重要です。
ポイント③:「健康風土」を醸成する
施策の効果を最大化するには、健康に関する考え方や行動様式を生み出す「健康風土」の醸成が不可欠です。
経営トップが自ら旗振り役となり、その方針を従業員に浸透させることが、形だけではない健康経営の実現につながります。
2026年度認定の改訂ポイント
個別設問は以下のような改訂がありました。
- 経営トップによる理解促進に関する設問の修正
- 組織風土の効果検証に関する設問の新設
- 仕事と「介護」「治療」の両立支援に関する設問の修正
- 「多様な働き手への健康支援」に関する項目の新設
認定要件についても、いくつか変更点があります。
あくまでも健康経営ガイドブックは参考書のようなものであり、ご自身で自社に必要な取り組みを考え、推進していくことが重要です。
佐川アドバンス株式会社「全従業員施策とハイリスク者支援でつくる健康経営の好循環」
佐川アドバンス株式会社の榎本氏より、従業員の健康意識を高めるための具体的な取り組み事例が紹介されました。同社では「全従業員を対象とした健康施策」と「ハイリスク者への個別支援」の両面から健康経営を推進しています。
イベント参加率が7.4%アップ!全従業員を巻き込む3つのステップ
従業員の運動習慣の定着を目的に、同社では毎年アプリを活用したウォーキングイベントを開催していますが、継続的な取り組みの中で参加率の低下が課題となっていました。
これに対し、以下の3つのステップを実施することで、参加率は前年比7.4%増の78.1%まで向上しました。
- 従業員の声を聴く:各拠点の健康推進委員から参加しやすい形式をヒアリング。「個人戦よりチーム戦の方が意識的に歩ける」「ランキングを見るのが楽しみ」という声を受け、チーム戦を採用。
- 事前告知の徹底:アプリ登録説明会を複数回開催し、動画や資料をイントラネットで共有。アプリ登録が苦手な従業員には個別フォローを行い、参加を促進。
- イベント中の盛り上げ:チームや個人のランキングの発表など、楽しみながら参加できる工夫を凝らし、継続的なモチベーションを支援。
従業員の声を積極的に取り入れ、巻き込むことが、参加率向上につながったと同社は振り返っています。
また、健康づくりを日常的に取り入れる工夫として、人事主導で「15時のストレッチ」を実施。
決まった時間にストレッチを行い、その様子をTeamsでライブ配信することで、全国の拠点からも気軽に参加できる環境を整えています。
こうした取り組みに加えて、従業員一人ひとりの生活習慣に応じたe-ラーニングの提供など、楽しみながら主体的に取り組める仕掛けを通じて、健康意識の向上と行動変容を後押ししています。
一方で、楽しさの追求と同時に戦略的な施策設計にも力を入れています。
参加率や満足度、健診結果、アンケートなどの定量データをもとに効果検証を行い、その結果を健康経営戦略マップ上のKPIに反映。成果の「見える化」を図ることで、次年度の施策立案や予算配分の根拠として活用しています。
ハイリスク者支援で大切にしている3つの姿勢
二次検査等が必要な従業員への個別支援においては、以下の3つの姿勢を大切にしています。
- 伝える:受診の重要性を、従業員の状況に配慮しながら、丁寧に繰り返し伝える。
- 傾聴する:受診に至らなかった背景や従業員の思いに耳を傾け、不安や迷いを受け止めながら対話を重ねる。
- 声かけをする:検査結果の提出時には、安心感を与える言葉を添え、継続的な受診・健康管理を促す。
これらの姿勢の積み重ねにより、毎年、二次検査受診率100%を達成。現在では「受診するのが当たり前」という意識が職場全体に浸透しています。
また、かつてハイリスク者だった従業員が、現在では健康経営の推進役として全社的な取り組みにも積極的に参加し、周囲への働きかけなども行っています。
全従業員を対象とした施策とハイリスク者支援を両輪で進めたことで、社内に好循環が生まれ、健康意識が組織全体に広がってきたと実感されています。
株式会社ニチレイ「経営層を巻き込み、従業員の行動を変える実践例」
最後に、9年連続で「ホワイト500」に認定されている株式会社ニチレイの園田氏より、経営層を巻き込み、従業員の行動変容を促してきた実践例が紹介されました。
全国300近くの事業所へ行き届く産業保健体制を構築
同社では2005年の持株会社化以降、従業員の健康管理の責任主体が不明確になり、2012~2014年頃、私傷病を事由とした、従業員の死亡が継続的に発生するという、とても残念な結果を招いていました。
適切な健診受診と事後措置をしていれば救えた命だった可能性があると、経営が重く受け止め、2015年に『「働きがいの向上」は従業員の健康がベースにある』という考え方のもと、ニチレイグループ従業員の健康の保持・増進に経営課題として取り組むようになりました。
まず、事業所毎に契約をしていた産業医の業務を平準化するため、依頼業務を整備し、契約主体を持株会社の健康推進センターへ変更するなど、管理体制を整えました。
また、全国に300近く点在する事業所の中には、産業医を配置していない小規模な拠点も多数ありました。そうした事業所にも同水準の健康推進サービスを提供すべく、全国を7つのエリアに分けて保健師を配置しました。
当初は「忙しい」などの理由で保健師との面談を敬遠する声もありましたが、事業所の要望に合わせた訪問スケジュール調整などを重ねるうちに連携がしやすくなり、従業員の行動変容につながりました。
事業規模にかかわらず、全従業員が質の高い産業保健サービスを受けられる基盤を整えています。
ヘルスリテラシー向上とフィジカルヘルスへの取り組み
2016年度より体験型健康支援プログラム「ニチレイ健康塾」を継続開催し、従業員のヘルスリテラシー向上に努めています。
生活習慣病予備軍の従業員に対し、血圧・血糖・脂質をテーマに保健師や栄養士、理学療法士を講師としたセミナーを開催しました。
健康課題のある従業員にも参加してもらうため、任意参加のセミナーから必須受講のeラーニングへの変更や、事業所ごとのイベント開催も進めています。
また、健診結果に課題がある従業員の中には、受診勧奨をしても受診しなかったり、通院を中断してしまったりするケースがありました。
そこで、健康回復を最優先に考えた「就業上の措置に関する基準」を制定しました。
該当者に対し、時間外労働、休日労働、出張を禁止する運用を開始。従業員の中に「就業制限で職場の同僚へ負担をかけたくない」という意識が芽生え、治療へつながる行動変容が起きました。
その結果、対象者の7割以上が改善し、健康状態の全体的な向上につながったと振り返っています。
役職者が主体的に動くメンタルヘルス対策「COCOサポ育成制度」
全国に小規模な事業場が多数点在する中、役職者が一人で悩みを抱え込んでしまうという課題がありました。
そこで、ラインケア強化のため、2023年度からグループ全役職者を対象とした研修「COCOサポ育成制度」を開始しました。
従来の知識提供型の研修に加え、保健師が対応した事例検討やロールプレイングなど、実践型の研修を特徴としています。修了者を「COCOサポ」と認定し、専用チャットで情報交換できる環境も提供。役職者が主体的にラインケアを担う風土醸成を目指しています。
役職者のメンタルヘルス対策の理解が深まり、ラインケアのスキル向上を実感できる人が増えているという声も上がっています。研修後には保健師へ個別相談する役職者もおり、専門家との連携もスムーズになりました。
「働きやすさ」を支える両立支援と女性の健康推進
従業員が安心して働ける環境づくりの一環として、「治療と仕事の両立支援」を推進しています。
匿名で想いを共有できる「みんなのつぶやき部屋」といった施策を通じて、相互理解のある職場風土の醸成を進めています。
また、経営層からのメッセージ発信が重要との考えから、役員向けに「がん対策は経営課題」と題したセミナーを開催するなど、経営トップの理解促進にも力を入れています。
さらに、女性の健康課題にも着目しています。
全従業員へのアンケートで、女性の6割以上が月経や更年期で悩み、7割以上がパフォーマンス低下を感じている一方、男性管理職の半数以上が「(部下の不調に)気づいていない・困っていない」と回答するなど、男女間の認識の差が明らかになりました。
こうした背景から、2022年度にはオンライン診療を導入しました。
低用量ピルの処方などにより月経に起因するプレゼンティーズムが改善し、年間人件費の損失額で4,800万円の改善という成果も出ています。
今年度からは男性更年期のオンライン診療も開始予定であるほか、性別を問わず利用できる「ヘルスケア休暇」を制定するなど、支援を拡充していく見込みです。
両立支援と女性の健康推進をはかる施策を通じて、多様な人材が活躍できる職場環境を整えています。
まとめ
今回のセミナーでは、健康経営推進を成功させる秘訣として、以下の点が共通して重要だといえます。
- 経営トップの強いコミットメントと、その方針の社内浸透
- 従業員の声を聴き、主体性を引き出す施策設計
- データに基づいた効果検証と、PDCAサイクルによる継続的な改善
- 個人の健康支援だけでなく、組織全体の「健康風土」や「働きやすさ」の醸成
健康経営は一朝一夕に成果が出るものではありませんが、継続的な仕掛けと従業員に寄り添った施策を重ねることで着実な変化が生まれるでしょう。
ただ、健康経営推進施策を立案しても「これでうまく行くのだろうか」と心配になることも少なくありません。
現状の把握から課題の整理、健康経営推進方針の決定など、全てのプロセスを自社だけで行うのは大変な工数と労力がかかります。
株式会社エムステージでは、健康経営優良法人の認定取得を一からサポートする「健康経営コンサルティング」を提供しています。
「健康経営に取り組みたいけど何から始めればわからない」という企業様に向けて、現状把握から課題の整理、申請までをトータルでサポート。ぜひお気軽にご相談ください。

