ストレスチェックでの産業医の役割は?実施の流れと産業医選びのポイントを解説
(更新: 2025/08/07)
片桐はじめ


ストレスチェックを適切に運用するためには、産業医との連携が欠かせません。しかし、産業医にどのような役割を依頼すればよいのか、どう連携すれば効果的なのか悩むこともあるでしょう。
本記事では、ストレスチェックにおける産業医の3つの主要な役割、連携した実施フロー、そして自社に合った産業医を選ぶためのポイントを解説します。ストレスチェックを形骸化させず、従業員のメンタルヘルス不調の防止につなげるための参考にしてみてください。
目次
ストレスチェックとは

ストレスチェックとは、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした検査です。常時50人以上の従業員を使用する事業場では、年1回以上の実施が労働安全衛生法で義務付けられています。
ストレスチェックは、従業員自身のストレス状態に気づくきっかけになります。また、企業側は高ストレス者面談や集団分析を通じた職場環境改善などに取り組みます。
ストレスチェックの対象者や具体的な実施手順については、以下の記事で解説していますので、参考にしてみてください。
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ストレスチェックにおける産業医の3つの役割
ストレスチェックにおいて、産業医は産業保健の専門家として中心的な役割を担います。主な役割は、以下の3つがあります。
- ストレスチェックの実施と高ストレス者の選定
- 高ストレス者への面接指導
- 集団分析や職場環境改善
1.ストレスチェックの実施と高ストレス者の選定
産業医は、ストレスチェックの実施者としての役割を担います。実施者とは、ストレスチェックの計画策定から、結果の評価や高ストレス者の選定までを行います。
保健師や、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師などでも実施者になれますが、職場の状況を日頃から把握している産業医を実施者とすることが推奨されています。
ストレスチェックに盛り込む設問設定や実施時期など、計画段階から産業医が参加し、衛生委員会などで審議を行います。
特に大切な役割が高ストレス者の選定基準設定です。厚生労働省が示す基準をベースに、企業が抱える課題や業務内容を考慮した適切な基準設定を行います。
計画段階から実施、評価までに参画し、より実態に即したストレスチェックを目指す役割があります。
※労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(厚生労働省)を編集して作成
2.高ストレス者への面接指導
ストレスチェックの結果、高ストレス者に判定された従業員への面接指導を行います。高ストレス者への面接指導は、労働安全衛生法第66条の10で事業者に実施が義務付けられており、メンタルヘルス不調の未然防止を目的に行うものです。
面接指導では、心身の状況や勤務状況を確認し、ストレスの原因を特定します。さらに、セルフケアの方法を助言したり、必要に応じて専門医療機関への受診を勧めたりする場合もあるでしょう。
面接指導の後、産業医は事業者に対し、労働時間の短縮や業務内容の変更など、就業上の措置について具体的な意見を述べます。
メンタルヘルス不調予防のために、面接指導を通して従業員個人と職場にアプローチする役割があります。
※医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル(厚生労働省)を編集して作成
3.集団分析や職場環境改善
産業医は、集団分析や職場環境改善を通して、組織全体の課題解決にもかかわります。集団分析とは、ストレスチェックの結果を部署や職種ごとに集計・分析し、ストレス要因を特定することです。例えば、「営業部」「昇進1年以内の管理職」など属性を限定してストレス傾向を分析し、課題の抽出につなげます。
そして、集団分析結果から具体的な職場環境改善策を事業者に提案します。また、衛生委員会で分析結果を報告し、専門的な立場から助言することも役割の一つです。
産業医がストレスチェックに関与するメリット

ストレスチェックに産業医が関与することは、従業員と企業の双方にメリットがあります。産業医が中立的な立場から関与するため、従業員は守秘義務のもと安心して相談でき、企業は実情に合った実行可能な職場環境改善策を得られます。
個人と組織の2つの側面から、産業医がストレスチェックに関与するメリットを解説します。
【個人】メンタルヘルス不調者に直接アプローチ可能
産業医が高ストレス者への面接指導を行うことで、不調の兆候がみられる従業員へ直接的なアプローチができます。産業医には守秘義務が課せられているため、従業員は不利益な扱いを心配せず、安心して自身のストレス状況を報告・相談できます。
「こんな相談をしたら評価に響くかもしれない」という懸念から話しにくい相談も、産業医が把握し解決に導くことが可能です。中立的な立場からアプローチすることで、メンタルヘルス不調者への効果的な対応ができます。
【組織】納得感のある職場環境改善策を実施しやすくなる
産業医が関与することで、集団分析の結果にもとづく職場環境改善が可能になります。産業医は従業員の健康を守る視点だけでなく、企業の経営状況も理解する視点も併せ持っています。
そのため、企業の現状を踏まえた実行可能な改善策を提案してもらえるでしょう。例えば、長時間労働が課題なら業務プロセスの見直しや人員配置の最適化などから取り組めそうな対策を一緒に考えます。
実行可能な改善策が明確化され、組織全体の納得感を得ながら施策を推進しやすくなるでしょう。
産業医と連携したストレスチェック実施の流れ

ストレスチェックを効果的に実施するためには、産業医と連携して計画的に進めることが不可欠です。ストレスチェックの流れについて、以下の6つのステップに沿って一連の流れを解説します。
- 1.ストレスチェック方針と計画の決定
- 2.ストレスチェックの実施と評価
- 3.結果の通知と面接指導の勧奨
- 4.高ストレス者への面接指導実施と就業上の配慮
- 5.集団分析の実施
- 6.労働基準監督署への報告
※労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(厚生労働省)を編集して作成
1.ストレスチェック方針と計画の決定
ストレスチェックの準備として、まずは基本方針の決定が必要です。衛生委員会で実施体制、実施方法、評価方法、高ストレス者の選定基準などを協議し、決定します。
計画段階で産業医の助言を得ることで、ストレスチェックの実効性が高まります。企業の状況に適した評価方法や選定基準についてアドバイスをもらいましょう。
2.ストレスチェックの実施と評価
計画にもとづき、従業員に調査票を配布・回収し、ストレスチェックを実施します。その後、結果の評価と高ストレス者の選定を行い、面接指導の対象者を抽出します。
調査票の配布や回収、データ入力などの事務作業に関しては、必ずしも実施者が行う必要はありません。実施事務従事者が補助することが認められており、人事権を持たない担当者が従事可能です。
3.結果の通知と面接指導の勧奨
ストレスチェックの結果は、実施者または実施事務従事者から、遅滞なく従業員本人に直接通知します。結果通知の際にはセルフケアに関する助言や、面接指導の申し出窓口その他の相談窓口に関する情報も提供します。
プライバシー保護のため、結果は封筒や電子メールなどで通知することが一般的です。
4.高ストレス者への面接指導実施と就業上の配慮
高ストレス者から面接指導の申し出があった場合、概ね1か月以内に産業医による面談を実施します。企業は面談前に、対象者の労働時間や業務内容などの情報を産業医に提供することが必要です。
面談後、産業医から就業上の措置に関する意見を聴取し、企業は必要に応じて労働時間の短縮や業務内容の変更などの措置を講じます。
5.集団分析の実施
ストレスチェックの個人結果を、部署や職種などの単位で集計・分析します。集団分析の実施は努力義務ですが、職場環境の課題を把握するために実施が推奨されています。
集団分析を行う際は、個人の特定につながらないよう、10人未満の部署の取扱いには注意が必要です。例えば、ストレスチェック評価点の総計の平均値を求めるなどの対応が求められます。
職場環境の課題把握に適した分析対象設定やプライバシーを配慮した実施方法について、産業医を含めて衛生委員会で話し合っておくことが大切です。
※ストレスチェック制度関係Q&A(厚生労働省)を編集して作成
6.労働基準監督署への報告
ストレスチェックと面接指導の実施状況について、「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を作成し、所轄の労働基準監督署へ報告する義務があります。
報告書には、検査を実施した者として産業医などの記名が必要です。以前は押印が必要でしたが、法改正により現在は記名のみで提出可能となっています。
ストレスチェックや面接指導に適した産業医選びのポイント

ストレスチェック制度を有効に機能させるためには、自社に合った産業医を選ぶことが大切です。産業医選びのポイントとして、以下の3つが重要です。
- 自社の課題に理解があるか
- オンライン対応に慣れているか
- 守秘義務と報告義務のバランス感覚があるか
1.自社の課題に理解があるか
産業医を選ぶ際は、臨床経験や専門分野だけでなく、自社の業種や特有の健康課題に対する理解度も重要です。ストレスチェック結果をただ評価するだけでなく、背景にある職場環境を理解し、具体的な改善策を提案できる産業医が望ましいといえます。
例えば、以下のようなポイントを産業医選びの際に参考にしてみましょう。
- 業種への知見:IT業種の長時間労働や、製造業の身体的負荷など、自社の業種特有の健康リスクを理解しているか。
- 専門性の一致:メンタルヘルス不調者が多い職場なら、精神科領域に強い産業医を選ぶなど、自社の課題と専門性が合致しているか。
- 具体的な提案力:「この部署のストレスが高いのはなぜか」を分析し、改善方法まで具体的に提案できるか。
自社の課題に関心を持ち、積極的に関与してくれる産業医を選ぶことで、より実効性のあるメンタルヘルス対策が期待できます。
2.オンライン対応に慣れているか
テレワークの普及などに伴い、オンラインでの産業医面談の需要が高まっています。高ストレス者面談をオンラインで実施するケースも増えているため、情報通信機器の扱いに慣れている産業医を選ぶことが重要です。
円滑なコミュニケーションとプライバシー保護を両立できる、オンライン対応に精通した産業医であれば、多様な働き方にも柔軟に対応できます。
3.守秘義務と報告義務のバランス感覚があるか
産業医には守秘義務がありますが、一方で企業への報告義務もあります。従業員のプライバシーに配慮しつつ、企業に適切に情報共有できるバランス感覚が求められます。
例えば、面談でハラスメントなどの重大な問題が判明した場合、個人の同意を得ながら、加害者名を伏せて状況を企業側に報告するなど、柔軟な対応が必要です。
中立的な立場から、従業員と企業双方のメリットとなるような解決策を模索できる人材が望ましいでしょう。
外部のストレスチェックサービスを利用し効率的に産業医と連携
ストレスチェックの実施や、産業医との連携を人事労務担当者が一人で抱えてしまうと、業務が煩雑になり負担が大きいでしょう。効率的な実施のためには、外部のストレスチェックサービスの活用も有効です。
例えば、ストレスチェック結果を万全なセキュリティ環境のもとで管理でき、産業医とも安心してデータを共有可能です。また、Webやマークシートなど形式が異なる結果データも一元化されるシステムであれば、情報共有がスムーズになります。
集団分析レポートの作成やストレスチェック結果にもとづく研修支援など、事後措置のサポートを受けられるサービスを選ぶことで、より実効性のある職場環境改善へとつなげられます。
ストレスチェックの効果を最大化する産業医選びはエムステージへ
ストレスチェックは、産業医と連携して実施することで実効性を高めることが可能です。しかし、実際に自社の課題を深く理解し、職場環境改善まで具体的に提案できる産業医を見つけるのは、簡単ではないかもしれません。
株式会社エムステージでは、全国7,000名以上の登録産業医から、企業の課題に最適な産業医をご紹介します。産業保健の専門知識を持つスタッフが、企業のニーズを丁寧にヒアリングし、最適なマッチングを実現します。
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