ストレスチェックの集団分析とは?開示範囲や見方、活用事例を解説
(更新:2025/07/11)
片桐はじめ


「毎年のストレスチェックは実施しているものの、集団分析まで手が回らない…」と悩む人事労務の方も多いのではないでしょうか。
集団分析を活用することで、職場のストレス要因を特定し、具体的な職場環境改善のポイントが明確化されます。
本記事では、ストレスチェックの集団分析の目的や具体的な分析結果の見方、職場環境改善への活用方法を解説します。
\\職場改善と人材開発のためのストレスチェック//
目次
集団分析の目的

集団分析は、部署やチームなどの集団単位のストレス傾向を把握し、職場の課題を特定することが目的です。
令和6年に開催された厚生労働省のストレスチェックに関する検討会では、以下のように集団分析や職場環境改善を合わせて行うことが推奨されています。
「国は、ストレスチェック制度について、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止する一次予防の効果が得られるものであり、集団分析及び職場環境改善まで含めた一体的な制度であることを、事業者や労働者に対して明確に伝えることができるような方策を検討し、関係者の理解を図っていくべきである」
出典:ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会中間とりまとめ(厚生労働省)
ストレスチェックが義務化された平成27年は、集団分析は一般的ではなかったことから、実施は努力義務とされていました。
しかし、集団分析や結果にもとづく職場環境改善が労働者のストレス要因の軽減につながっていることから、重要視されつつあります。
令和5年度の労働安全衛生調査(実態調査)によると、ストレスチェック後に集団分析を行った事業所は69.2%でした。
集団分析はメンタルヘルス不調の予防に重要な施策であると、多くの企業が認識しているといえます。
※ストレスチェック制度 の実施状況(令和5年)(厚生労働省)を編集して作成
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集団分析はどうやる?結果の見方と解釈方法

厚生労働省が推奨している「職業性ストレス管理調査票」を使用している場合、集団分析には、仕事のストレス判定図を用いる方法が一般的です。
仕事のストレス判定図は、『量-コントロール図』と『職場の支援判定図』の2つにわけられます。2つの判定図から「総合健康リスク」を算出し、平均値と見比べることで、自社が抱えるストレス状況を相対的に理解できます。
以下では、一般的な仕事のストレス判定図を用いた結果の見方と解釈方法を解説します。
1『量-コントロール判定図』から業務上のストレスを把握

出典:ストレスチェック制度導入ガイド(厚生労働省)
『量-コントロール判定図』は、仕事上のストレス状況を把握するものです。上記の図のように、横軸に「仕事の量的負荷」、縦軸に「仕事のコントロール」の集団平均得点をプロットします。
「仕事の量的負荷」、「仕事のコントロール」とは、次のようなストレス要因を指します。
| 判定の要素 | 説明 | ストレスチェックでの項目例 |
| 仕事の量的負荷 | 業務の負担度 |
|
| 仕事のコントロール | 業務を自分でコントロールできる程度 |
|
『量-コントロール判定図』の分析で重要なのは、2つの側面のバランスです。
仕事の量的負荷が高いにもかかわらず、仕事のコントロールが低い状態は高ストレス状態につながる可能性が高いでしょう。
例えば、「毎日残業しなければならないほどの業務量だが、納期を自分で調整できない」ような状況です。
上記の判定図では、右下に位置するほど健康リスクが高くなり、対象となる部署が高ストレスであることをあらわします。
仕事の量的負担が多ければ業務量や人員配置の適正化を、仕事のコントロールが低ければ裁量権の拡大を行うなど、改善策の検討につなげます。
2.『職場の支援判定図』から上司や同僚のサポートの程度を判断

出典:ストレスチェック制度導入ガイド(厚生労働省)
『職場の支援判定図』は、上司や同僚からどの程度のサポートが得られているかを評価します。職場内の人間関係やコミュニケーションがストレスに影響していないかを判定するものです。
横軸に「上司の支援」、縦軸に「同僚の支援」の集団平均得点をプロットします。
左下に位置するほど、上司と同僚からのサポートが低く、高ストレスのリスクが高いと判断します。具体的には、それぞれの高低によって以下のように解釈します。
| 項目 | 抱えている可能性のある課題 |
| 「上司の支援」が低い |
|
| 「同僚の支援」が低い |
|
3.2つの判定図から「総合健康リスク」を算出
『量-コントロール判定図』からわかる仕事のストレスと、『職場の支援判定図』から得られる周囲のサポート状況を組み合わせた、総合健康リスクを算出します。総合健康リスクは、以下の計算式で求められます。
総合健康リスク=(量-コントロール判定図の値)×(職場の支援判定図の値)÷100
全国平均に比べて、何倍の健康リスクがあるかを示す値です。例えば、総合健康リスクが120であれば、全国平均よりも約1.2倍健康障害が生じやすい状態です。
数値としてリスクを算出できるため、職場環境改善の必要性を明確な根拠を持って示せます。総合健康リスクを部署間で比較し、リスクの高い部署から優先的に対処するなど、中長期的な計画にも役立つでしょう。
集団分析を効果的に活用するためのポイント

集団分析を実効性のある職場環境改善につなげるためには、結果の質を高め、正しく解釈することが求められます。集団分析を効果的に活用するためのポイントは、以下のとおりです。
- 分析対象の集団を適切に設定する
- 数値結果だけを鵜呑みにしない
- ストレスチェックの受検率を高める
1.分析対象の集団を適切に設定する
課題を明確にするために、分析対象とする集団を適切に設定することが重要です。分析の切り口があやふやだと、問題点が明確化されなかったり、解釈を誤ったりする可能性があります。
例えば、対象とする集団の人数が多すぎると、個別の部署が抱える課題が平準化されてしまい、本質的な課題が見えづらくなります。
具体的には、以下のような切り口で集団を設定するとよいでしょう。
- 部署
- 職種(営業職、技術職、事務職など)
- 在籍年数(新入社員、中途社員、ベテラン社員など)
- 勤務形態(正社員、契約社員、パートタイム従業員など)
- 特定のプロジェクトチーム別
対象の集団は、現場から聞かれる意見や悩みなどを考慮し、仮説を立てて設定しましょう。
「1年以内に離職者が多い職種」「長時間労働が多い部署」など、具体的な懸念にもとづいた集団設定を行うことが大切です。
2.数値結果だけを鵜呑みにしない
集団分析結果は客観的なデータですが、数値を鵜呑みにせず、対象集団の特性や実情を考慮して結果を解釈しましょう。同じ数値であっても、集団の置かれた状況によって解釈が異なるためです。
例えば製造業の場合、工場勤務者は一人で作業を行うことが多いでしょう。他業種の場合、一般的には上司と同僚からのサポートが多いことが望ましいとされていますが、工場勤務でサポートが多いと「現場スタッフでは対応しきれず、上司の介入が多い」という可能性もあります。つまり、現場の対応力に課題があるということです。
「職場の支援判定図のリスクが低いから大丈夫」と判断すると、本質的な課題を見落としかねません。職種の特性や平均的な特徴を把握した上で、結果を解釈するとよいでしょう。
3.ストレスチェックの受検率を高める
集団分析の精度と信頼性を高めるためには、ストレスチェックの受検率を高く維持することが大切です。受検率が低いと、分析結果が職場全体の傾向を正確に反映していない可能性が高まります。
厚生労働省によると、集団分析の妥当性確保のためには60%以上の受検率が推奨されています。以下のように実施時期や周知方法を工夫し受検率を高めましょう。
- 定期健康診断の実施時期と合わせる
- 受検勧奨のメールは従業員の業務が落ち着いている時間帯や自席にいるときに送る
- 経営層からストレスチェックの重要性をメッセージとして発信する
※これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~(労働者健康安全機構・厚生労働省)を編集して作成
集団分析結果の開示範囲

集団分析結果は、従業員のプライバシー保護を考慮した取扱いが求められます。特に、結果を社内のどこまで共有するかは慎重に検討しましょう。
個人情報保護の観点から、集団分析の対象とする規模は、原則として10人以上にすることが推奨されています。
人数が少なすぎると、従業員一人ひとりの回答内容が推測されやすくなり、匿名性が損なわれるリスクがあるためです。
やむを得ず10人未満の集団について分析を実施する場合、個人が特定されないような配慮が不可欠です。例えば、以下のような対策が考えられます。
- 結果の表示方法を工夫する(具体的な数値ではなく、「高・中・低」のような段階表示にする)
- 開示範囲を限定する(部署の管理職と人事労務担当、産業医のみにするなど)
従業員が安心してストレスチェックを受けられるよう、個人情報保護に配慮した社内ルールを決め、周知することが大切です。
集団分析結果を職場環境改善につなげる4つのステップ

集団分析は、結果を出して終わりではありません。分析結果をもとに、具体的な職場環境改善につなげることが本来の目的です。集団分析結果を職場環境改善につなげるための4つのステップを解説します。
- STEP1:社内全体での方針周知
- STEP2:分析結果の報告
- STEP3:職場環境改善策の立案
- STEP4:効果検証と改善
STEP1:社内全体での方針周知
まず最初に、「ストレスチェック結果を有効活用して、職場環境改善に努める」という方針を全社的に示しましょう。ストレスチェック指針の中に職場環境改善に活用することを明確に盛り込みます。
方針の周知は、経営層が主導して社内に浸透させることが大切です。経営層から方針が示されることで、従業員の意識が高まり、職場環境改善を進めやすくなります。
そのためには、経営層をうまく巻き込むことが欠かせません。集団分析結果から健康リスクの高い部署を具体的な数値で示すと、問題意識を持ってもらいやすくなります。可能であれば、リスク発生による損失額や他社の成功事例なども伝えると説得しやすいでしょう。
STEP2:分析結果の報告
次に、集団分析結果を関係各所に報告します。明らかになった課題を組織全体で共有し、現場の実情に見合った対策を検討するために、結果の報告が重要です。
集団分析結果を経営層や管理職、一般従業員など立場や役割に応じた形でわかりやすく報告します。特に、衛生委員会などの場で報告し、審議することも必要です。
STEP3:職場環境改善策の立案
高ストレス状態の職場に対して、どのような対策が有効かを検討します。以下のようなヒント集やチェックリストを活用し、結果に応じた具体的な改善策を立案しましょう。
- これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~(労働者健康安全機構・厚生労働省)
- 新職業性ストレス簡易調査票アクションリスト2019(東京大学大学院・株式会社富士通ソフトウェアテクノロジーズ)
例えば、「新職業性ストレス簡易調査票アクションリスト2019」では、集団ごとの結果にもとづき、以下のように改善策を検討できます。
- 「仕事の量的負担」が高い:業務負担を見直す、無駄な作業や会議を減らす
- 「仕事のコントロール」が低い:仕事の進め方について意見をいえる機会を設ける
- 「上司の支援」が低い:上司が部下の努力や成果を認める言葉をかける
- 「同僚の支援」が低い:チームで協力して仕事を進める体制をつくる
職場環境改善のツールは、あくまでヒント集として活用し、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが重要です。ワークショップや意見交換会などを行い、従業員の声を積極的に吸い上げましょう。
STEP4:効果検証と改善
改善策を実施した後は、効果を定期的に検証し、改善を重ねていく必要があります。よりよい状態を目指して継続的に取り組むことで、職場環境改善の成果を高められるでしょう。
そのために、ストレスチェック結果を経年変化で比較し、施策により改善がみられたかを検証します。その他にも、残業時間や有給休暇、離休職者数、現場のヒアリングなどの情報も加味して効果を検証しましょう。検証の結果、見直しが必要であれば原因を分析し、対策を立てます。
効果検証や検証は、継続的な取り組みが難しく、立ち消えてしまうケースも少なくありません。職場環境改善で目指す目標を決めておき、担当者を決めて報告する機会を設定しておくことが大切です。
※これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~(労働者健康安全機構・厚生労働省)を編集して作成
集団分析の活用事例:スバル用品株式会社
実際に集団分析を活用して職場環境改善に取り組んでいる企業の事例として、スバル用品株式会社のケースを紹介します。
スバル用品株式会社は、自動車メーカーSUBARUの用品事業を担う企業です 。コロナ禍に伴う在宅勤務の広がりから、従来の紙ベースの運用から、ウェブベースのストレスチェック「Co-Labo」へ切り替えました。
Co-Laboの導入により、集団分析結果がボタン一つで即座に表示されるようになり、自社の課題を把握しやすくなりました。対人関係ストレスの数値がやや高いことがわかり、コミュニケーションの改善など具体的な改善策が明確に。
さらに、ストレスチェック結果は全管理職が参加する報告会で共有され、健康課題や改善方法が明確化されたことが高く評価されました。
集団分析結果から具体的な改善策が明確になり、社内に周知することで改善活動を行いやすくなるといえるでしょう。
参考:「ストレスチェックデータの活用で課題が明確に」柔軟な働き方を推進するスバル用品の健康課題とは (健康経営トータルサポート)を編集して作成
「集団分析から具体的な改善施策を」ストレスチェックCo-Laboの特徴
自社内で集団分析をすることも可能ですが、専門の外部業者へ委託することで、人事労務の負担が大幅に削減できます。
負担軽減だけでなく、専門職による質の高い分析や客観的なフィードバックが見込めるため、より具体的な改善施策に取り組むことができるでしょう。
ストレスチェックCo-Laboは、集団分析結果を多角的に可視化し、課題の特定から改善策の提案までをサポートします。
1.独自尺度から課題の根拠を数値化
Co-Laboでは、厚生労働省が推奨する57項目の標準設定に加え、独自の尺度を用いて課題の根拠を数値化できる点が特長です。
- プレゼンティーズム(出勤しているが不調により生産性が低下した状態)
- アブセンティーズム(欠勤や休職)
- コーピング(ストレスへの対処行動や認知傾向)
- コーピングの資源(ソーシャルスキルや周囲のサポート度)
特に、プレゼンティーズムは企業の生産性を示す指標として近年注目されています。
Co-Laboでは、プレゼンティーズムの経済的損失額まで算出可能です。メンタルヘルス対策の経営的な意義が説明でき、社内の理解を得るのに効果的でしょう。
2.部署や職種などさまざまな切り口で結果を見やすく表示
集団分析結果を、部署や職種、年齢層、勤続年数などさまざまな切り口で、視覚的にわかりやすく表示する機能を備えています。
ボタンを押すだけで即座に分析結果を表示でき、グラフやチャートを用いて直感的に把握できます。
複雑なデータ分析に悩まされることなく、効率的に課題の本質を把握し、具体的な対策を検討しやすくなるでしょう。
3.専門家による分析結果や報告会で課題を見える化
オプションサービスとして、専門家による解釈のサポートや報告会も提供しています。
報告会では、分析結果や改善提案を経営層や管理職、衛生委員会などの関係者にわかりやすく伝えます。
社内への周知を含めて依頼できるため、職場環境改善活動への協力を得やすくなるでしょう。
株式会社エムステージでは、大手から中小企業まで幅広くご活用いただいているストレスチェックサービス「Co-Labo」を提供しています。資料請求は無料で行っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※Co-Laboは、株式会社ヒューマネージが運営・開発、株式会社エムステージが販売する健康管理システムです。

