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特殊健康診断とは?一般健診との違いや必要な実施回数について解説!

2023/11/14 (更新:2023/11/14)

サンポナビ編集部

特殊健康診断は一般健診と異なり、対象となる労働者が複数に分類され、実施要項も異なります。そのため、法律通りに正しく実施できているか不安を抱える担当者も多いのではないでしょうか。

 

また2023年(令和5年)4月1日以降、特定の条件を満たすと、特殊健康診断の実施回数を年2回から年1回へと緩和できることになりました。

 

本記事では、法律の条文や公的資料をもとに、特殊健康診断の対象者や実施時期、緩和の要件について詳しく解説します。

 

 

特殊健康診断とは

 

特殊健康診断とは、有害な業務に従事する労働者や特定の物質を扱う労働者に対して行われる健康診断です。『労働安全衛生法』第66条第2項・第3項では、特殊健康診断について次のように定められています。

 

事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
引用:労働安全衛生法 第66条第2項

事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。
引用:労働安全衛生法 第66条第3項

 

特殊健康診断の種類

特殊健康診断では、それぞれの有害な業務ごとに受けるべき健康診断が定められており、次の3種類に分けられます。

 

  • 特殊健康診断
  • じん肺健診
  • 歯科医師による健診

 

それぞれの健康診断について、対象となる労働者や実施時期について解説します。

 

特殊健康診断を受けるべき労働者

 

労働安全衛生法内の各種規則において、特定の業務に従事する労働者には特殊健康診断を実施することが義務付けられています。該当する7つの業務名と対応する労働安全衛生法は、次のとおりです。

 

業務名 労働安全衛生法(健康診断の記載部分)
高気圧業務 高気圧作業安全衛生規則(第38条)
放射線業務 電離放射線障害防止規則(第56条)
特定化学物質業務 特定化学物質障害予防規則(第38条)
石綿業務 石綿障害予防規則(第40条)
鉛業務 鉛中毒予防規則(第53条)
四アルキル鉛業務 四アルキル鉛中毒予防規則(第22条)
有機溶剤業務 有機溶剤中毒予防規則(第29条)

 

実施時期については、雇い入れ時や配置替えの際、6か月以内に1回の間隔で健康診断を実施することが義務付けられています。

 

じん肺健診を受けるべき労働者

 

じん肺健診を受けるべき労働者と頻度については、じん肺法の第8条1項において次のとおりに定められています。

 

  • 粉じん作業に従事する労働者は、3年に1回の健診を受ける
  • 粉じん作業に従事しており、じん肺管理区分が管理2や管理3に該当する労働省は、1年に1回の健診を受ける
  • 粉じん作業に従事させたことのある労働者で、現在は粉じん作業以外に従事していても、じん肺管理区分が管理2である労働者(厚生労働省令で定める労働者を除く。)の場合は、3年に1回の健診を受ける
  • 粉じん作業に従事させたことのある労働者で、現在は粉じん作業以外に従事していても、じん肺管理区分が管理3である労働者(厚生労働省令で定める労働者を除く。)は、1年に1回の健診を受ける

出典:じん肺法の第8条1項

 

じん肺管理区分については、じん肺法で次のように示されています。

 

じん肺管理区分 じん肺健康診断の結果
管理一 じん肺の所見がないと認められるもの
管理二 エックス線写真の像が第一型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの
管理三

イロ

エックス線写真の像が第二型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの

エックス線写真の像が第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの

管理四 (1) エックス線写真の像が第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一を超えるものに限る。)と認められるもの

(2) エックス線写真の像が第一型、第二型、第三型又は第四型(大陰影の大きさが一側の肺野の三分の一以下のものに限る。)で、じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるもの

引用:じん肺法 第4条第2項

 

またエックス線写真の第1型から第4型については、次のとおりに定められています。

 

エックス線写真の像
第一型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの
第二型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの
第三型 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの
第四型 大陰影があると認められるもの

引用:じん肺法 第4条第1項

 

粒状影や不整形陰影、大陰影はレントゲンで肺を撮影した際に確認できる陰影を分類したもので、陰影の状態によって肺疾患の進行度を判断できます。

 

歯科医師による健診を受けるべき労働者

労働安全衛生法施⾏令第22条第3項によると、有害ガスや蒸気、粉じんを発散する場所で働く労働者には、歯科医師による健康診断を受けさせることが義務付けられています。具体的な有害物質は次のとおりです。

 

  • 塩酸
  • 硝酸
  • 硫酸
  • 亜硫酸
  • フッ化水素
  • ⻩りん

 

その他にも、⻭や歯の支持組織に有害な状況下で労働者を働かせる場合も、歯科医師による健康診断を受けさせる必要があります。該当者としては、メッキ工場やバッテリー製造工場などの化学工場で働く労働者が考えられます。

 

労働安全衛生規則第48条には、歯科医師による健康診断は、雇い入れ時や配置替えの際、6か月以内に1回の間隔で健康診断を実施しなければならないと定められています。

 

特殊健康診断と一般健康診断の違い

 

 

特殊健康診断と一般健康診断には、検査項目と賃金の支払いに関して違いがあります。

 

検査項目の違い

特殊健康診断と一般健康診断における検査項目の違いについて解説します。

 

特殊健康診断の検査項目

 

特殊健康診断は、前項の「特殊健康診断を受けるべき労働者」で示した7つの業務内容によって検査項目が異なることが特徴です。たとえば、高気圧業務と放射線業務を例に、検査項目を紹介すると次のとおりです。

 


Ⅰ 高気圧業務

1 既往歴及び高気圧業務暦の調査

2 関節、腰若しくは下肢の痛み、⽿鳴り等の⾃覚症状又は他覚症状の有無の検査

3 四肢の運動機能の検査

4 ⿎膜及び聴⼒の検査

5 ⾎圧の測定並びに尿中の糖及び蛋白の有無の検査

6 肺活量の測定

 

二次健康診断項目

1 作業条件調査

2 肺換気機能検査

3 心電図検査

4 関節部のエックス線直接撮影による検査


Ⅱ 放射線業務

1 被ばく歴の有無(被ばく歴を有する者については、作業の場所、内容及び期間、放射線障害の有無、⾃覚症状の有無その他放射線による被ばくに関する事項)の調査及びその評価

2 白⾎球数及び白⾎球百分率の検査

3 ⾚⾎球数の検査及び⾎⾊素量又はヘマトクリット値の検査

4 白内障に関する眼の検査

5 皮膚の検査

引用:労働安全衛生法第66条第2項、3項の政令で定める有害な業務について(特殊健康診断、歯科検診)|厚生労働省

 

一般健康診断の検査項目

 

一般健康診断は次の5つに分けられます。

 

  • 雇入時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 給食労働者の検便

 

なかでも「雇入れ時の健康診断」や「定期健康診断」は、すべての労働者が受診対象となる健康診断です。業務内容に関わらず、次のとおりに検査内容が統一されています。

 

引用:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~|厚生労働省

 

雇い入れ時の健康診断と定期健康診断に関する詳しい内容については、次の記事で解説しているので、参考にしてください。

 

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賃金の支払いに関する違い

特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間とみなされるため、会社は労働者に賃金を支払う必要があります。

 

その一方で一般健康診断の場合は、健診自体にかかった費用については会社が負担する必要がありますが、賃金については労使間の協議で決まります。ただし受診を円滑に進めるためにも、一般健康診断に要した時間についても賃金が支払われることが望ましいです。

参考元:厚生労働省のホームページ

 

特殊健康診断の実施回数

 

 

通常であれば、特殊健康診断の実施回数は6か月に1回の間隔で行う必要があるため、1年以内に2回実施する必要があります。しかし一定の条件を満たすと、1年に1回の実施に緩和できます。

 

特殊健康診断は年1回にすることも可能

特殊健康診断の対象となる7つの業務のなかでも、特定化学物質や鉛、四アルキル鉛、有機溶剤を扱う業務については、要件を満たすと年2回の健康診断を年1回に緩和できます。ただし、特定化学物質については特別管理物質などを除くことには注意しましょう。

 

特別管理物質については、「特定化学物質障害予防規則の物質ごとの規制早見表」で確認できます。(同資料内に記載されている「特別管理物質」の項目に丸印が付けられている物質が特別管理物質に該当します。)

 

それぞれの労働安全衛生法にも、特定の要件を満たすと年1回の実施へと条件を緩和してよいことが記載されています。

 

業務名 労働安全衛生法(健康診断の記載部分)
特定化学物質業務 特定化学物質障害予防規則(第39条第4項)
鉛業務

鉛中毒予防規則(第53条第4項)

四アルキル鉛業務
有機溶剤業務 有機溶剤中毒予防規則(第29条第6項)

 

年1回に減らすための要件

以下の区分1の要件を満たすと、特殊健康診断を年1回に減らせます。

 

区分1の要件
①当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されたこと。
(※四アルキル鉛を除く。)
②直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見がないこと。
③直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がないこと。

引用:労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等(第146回安全衛生分科会資料)|厚生労働省

 

「第一管理区分」とは、労働安全衛生法の第65条で定められている作業環境測定を行い、その結果に基づいて振り分けられる分類の1つです。

 

第1~3管理区分があり、第1管理区分は作業環境管理が適切であると判断される状態を指します。各区分の評価基準については、厚生労働省の「作業環境評価基準」に示されています。

 

区分2に該当する場合は、従来通りに年2回の特殊健康診断の実施が必要です。区分1の要件を満たさない場合に、区分2に分類されます。

 

特殊健康診断を適切に実施しよう

 

 

特殊健康診断は、労働安全衛生法やじん肺法で定められる健康診断です。指定された7つの業務に従事する労働者や有害ガスおよび蒸気、粉じんが発散する場所での業務を担当する労働者が受けることが義務付けられています。

 

2023年4月1日以降は特殊健康診断の対象となる業務の一部について、特定の要件を満たすと年2回から年1回の実施へと緩和できます。特殊健康診断を適切に実施するためにも、対象となる労働者や実施要項を正確性格に把握しておきましょう。

 

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