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安全衛生教育とは?実施時期や対象者、義務となる教育の種類を解説

片桐はじめ

安全衛生教育とは
安全衛生教育とは

安全衛生教育は、従業員の安全と健康を守るために欠かせない取組です。しかし、具体的な実施方法に悩む人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。

いつ、誰に、どのような教育を行えばよいのか、判断に迷うこともあるでしょう。

 

本記事では、労働安全衛生法にもとづく安全衛生教育の種類や対象者、業種別の具体例をわかりやすく解説します。

自社の状況に合った教育体制を整えるために、ぜひ参考にしてみてください。

 

安全衛生教育とは?

 

安全衛生教育で学んだ内容を実施する現場のイメージ

 

安全衛生教育とは、労働安全衛生法にもとづき、労働災害を防止するために安全や衛生に関する知識・技能を従業員へ習得させることです。

事業者には、従業員の雇入れ時や作業内容の変更時など、定められたタイミングで実施する義務があります。

 

具体的には、以下の内容を教育します。

 

  • 機械や設備の危険性
  • 取り扱う化学物質等の有害性
  • 適切な作業手順
  • 保護具の正しい使用方法 など

 

また、安全衛生教育は企業の安全配慮義務を果たす上でも欠かせません。安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められた、従業員が安全に働けるように必要な配慮を行う法的義務のことです。

 

万が一、労働災害が発生し損害賠償請求がなされた場合、「企業が十分な教育を行っていたか」が争点となりやすいため、安全衛生教育の適切な実施と記録が求められます。

 

安全衛生教育の種類

 

安全衛生教育を受講する従業員のイメージ

 

労働安全衛生法で定める安全衛生教育は、7種類です。

これらは「法的義務」と「努力義務」に大別されるため、その違いを正しく理解して計画的に対応する必要があります。

 

法的義務

以下の4つは、法律で企業に実施が義務付けられています。実施を怠ると、是正勧告や罰則(50万円以下の罰金など)の対象となる可能性があります。

 

  • 雇入れ時の教育
  • 作業内容変更時の教育
  • 特別教育
  • 職長等への教育

 

努力義務

以下の3つは、厚生労働省の指針などで「実施するように努めなければならない」とされています。罰則はありませんが、労働災害防止やリスク低減のために、自主的な実施が強く求められます。

 

  • 能力向上教育
  • 危険有害業務従事者への教育
  • 健康教育

 

雇入れ時、作業内容変更時の教育

対象者 全ての労働者
実施時期 雇入れ時、配置転換などで作業内容が変更された時
教育内容 1. 機械や原材料の危険性・有害性、およびその取扱い方法
2. 安全装置や有害物抑制装置、保護具の性能および取扱い方法
3. 作業手順
4. 作業開始前に行う点検
5. 当該業務で発生するおそれのある疾病の原因および予防
6. 整理、整頓および清潔の保持
7. 事故発生時等の応急措置および退避
8. 1~7以外で、安全または衛生のために必要な事項
根拠法令 ・労働安全衛生法第59条第1項、2項
・労働安全衛生規則第35条

 

令和6年4月の法改正により、以前は一部の業種(オフィスワーク等)で認められていた教育項目の省略規定が廃止されました。現在は全業種において、原則として全項目の実施が必要であるため、漏れなく行いましょう。

 

特別教育

対象者 アーク溶接や高所作業車の運転、クレーンの運転、フォークリフトの運転(最大荷重1トン未満)など、危険または有害な業務に従事する労働者
実施時期 対象となる業務に初めて従事する時
教育内容 ・使用する機械の種類及び構造並びにその取扱い方法に関する知識
・使用する機械の取付方法及び試運転の方法に関する知識
・関係法令
根拠法令 ・労働安全衛生法第59条第3項
・労働安全衛生規則第36~39条

 

特別教育とは、危険または有害な業務に従事する労働者に対して実施が義務付けられた教育です。学科と実技で構成され、それぞれの業務ごとに規定された時間数の受講が必要です。

 

企業内での実施も可能ですが、講師は教育科目に関して十分な知識と経験を有していることが条件となります。

特別教育を行っている機関については、一部の都道府県労働局で、パンフレットやホームページで紹介しています。都道府県労働局一覧から、管轄の労働局のホームページを確認してみましょう。

 

また、特別教育を実施した際には、受講者や科目等の記録を作成し、3年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第38条)。特別教育の実施後は忘れずに記録の保管を行いましょう。

 

参考:労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など(厚生労働省)を編集して作成

 

職長等への教育

対象者 建設業や製造業などの特定の業種の職長
実施時期 ・その職務に初めて就く時
・一定期間(約5年)ごと
・機械設備などに大幅な変更があった時
教育内容 1. 作業方法の決定および労働者の配置
2. 労働者に対する指導または監督の方法
3. リスクアセスメントの実施
4. 異常時等における措置
5. その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動
根拠法令 ・労働安全衛生法第60条
・労働安全衛生規則第40条

 

職長とは、作業中の従業員を直接的に指導したり監督したりする役割を担い、リーダーや班長などの名称で呼ばれる担当者です。

学科を中心に、計12時間以上のカリキュラムで実施されます。

 

職長教育の対象となるのは、以下の業種です。

 

  • 建設業
  • 製造業(繊維工業、紙加工品製造業など一部を除く)
  • 食料品製造業(うま味調味料製造業および動植物油脂製造業を除く)
  • 電気業
  • ガス業
  • 自動車整備業
  • 機械修理業
  • 新聞業・出版業・印刷物加工業

 

※2023年4月の法改正により、食料品製造業(一部除く)や新聞業・出版業・印刷物加工業が新たに対象業種に追加されました。

 

なお、建設業では職長と安全衛生責任者を兼任することが一般的であるため、両者の内容を盛り込んだ講習を受けると効率的です。安全衛生責任者については、関連記事もご覧ください。

 

能力向上教育

対象者 ・安全管理者
・衛生管理者
・安全衛生推進者
・衛生推進者
・作業主任者
・元方安全衛生管理者
・店社安全衛生管理者
・その他の安全衛生業務従事者
実施時期 ・初任:その業務に初めて従事する時
・定期:一定期間(約5年)ごと
・随時:機械設備などに大幅な変更があった時
教育内容 ・初任:当該業務に関する全般的な事項
・ 定期及び随時:労働災害の動向、社会経済情勢、事業場における職場の変化等に対応した事項
根拠法令 ・労働安全衛生法第19条の2
・労働安全衛生規則第24条

 

安全衛生業務に携わる従業員の能力向上を図るための教育です。

能力向上教育は努力義務ですが、労働環境の変化や法改正に対応し、事業場の安全衛生水準を向上させるためには欠かせません。

 

労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育に関する指針(厚生労働省)を編集して作成

 

危険有害業務従事者への教育

対象者 ・特別教育の対象者
・就業制限業務従事者
・特別教育の対象者または就業制限業務従事者に準ずる危険有害な業務に従事する者
実施時期 ・一定期間(約5年)ごと
・機械設備などに大幅な変更があった時 など
教育内容 ・労働災害の動向、技術革新の進展等に対応した事項
・取り扱う機械設備等の運転操作方法のほか点検整備等の実技 など
根拠法令 ・労働安全衛生法第60条の2
・労働安全衛生規則第40条の2

 

すでに危険有害業務に従事している従業員に対して、知識を最新の状態にアップデートするために行う教育で、努力義務です。

 

過去に特別教育を受けた作業者であっても、長期間経過すると自己流の作業方法が定着したり、最新の法令知識が欠落したりする可能性があります。こうした慣れによる油断を防止し、新しい技術に対応するために実施されます

 

例えば、フォークリフト運転業務従事者(労働安全衛生規則第36条第5号の業務)の場合、「最近のフォークリフトの特徴」「取扱いと保守」「災害事例・関係法令」など、計5時間のカリキュラムを学びます。

 

危険又は有害な業務に現に就いている者に対する安全衛生教育に関する指針(平成元年05月22日指針公示第1号)(厚生労働省)を編集して作成

 

健康教育

対象者 全ての労働者
実施時期 随時
教育内容 ・メンタルヘルス教育:セルフケア(従業員向け)やラインケア(管理監督者向け)の研修
・生活習慣病予防:食事や運動、睡眠に関するセミナーの開催
・喫煙対策:禁煙に向けた知識提供やサポート
根拠法令 労働安全衛生法第69条 など

 

健康教育とは、従業員の健康保持増進を図るために、随時実施する教育のことです。努力義務ですが、従業員のパフォーマンス向上や健康経営推進に直結するため、欠かせない安全衛生教育の一つです。

 

とくにメンタルヘルス対策については、「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針〜(厚生労働省)」にもとづき、計画的に教育研修の機会を設けることが求められています。ストレスチェック制度とあわせて実施することで、より効果的な職場環境改善につながるでしょう。

 

安全衛生教育の対象は「事業場で働く全ての従業員」

 

安全衛生教育は、従事する業務や役割に応じていくつかの種類に分けられますが、対象は正社員だけではありません。

パートタイムやアルバイト、派遣社員、契約社員など雇用形態にかかわらず、「その事業場で働くすべての従業員」が対象となります。

 

ただし、派遣社員については、教育の種類によって派遣元と派遣先のどちらに実施義務があるかが異なるため、注意が必要です。具体的には、以下のように雇入れ時や派遣開始時(派遣先の変更)は派遣元に、特別教育や派遣先での作業内容変更時は派遣先に実施義務があります。

 

【表】派遣労働者に対する安全衛生教育について

出典:派遣労働者に対する安全衛生教育について(厚生労働省)

 

雇用形態によって「誰が実施するか」が異なるものの、安全衛生教育で目指すのは現場で働くすべての人が安全知識を身につけている状態です。自社の従業員はもちろん、派遣社員なども含めた対象者リストを作成し、教育の実施漏れがないように管理しましょう。

 

雇入れ時安全衛生教育の具体例【業種別】

 

安全衛生教育を実施するイメージ

 

雇入れ時の安全衛生教育の内容について、業種別の具体例を紹介します。

 

製造業・建設業

製造業や建設業では、重機や機械設備を扱うことが多く、労働災害のリスクが高い環境にあります。

そのため、以下のような内容を重点的に教育します。

 

  • 機械設備の取扱い:掃除・点検時は必ず運転を止める、回転部には触れない

 

  • 保護具の着用:ヘルメット、安全靴、保護めがね等の正しい着用ルールの徹底

 

  • 4Sの徹底:安全通路の確保や、床の汚れ除去など、4S(整理・整頓・清掃・清潔)の実施

 

特に、初めて建設業や製造業に従事する従業員に対しては、危機意識が十分でない傾向があります。基本動作が定着するまで繰り返し教育を行いましょう。

 

製造業向け 未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル(厚生労働省)を編集して作成

 

事務職・ITなどオフィスワーク

オフィスワーク中心の業種では、PCなどの情報機器作業(旧VDT作業)による健康障害防止やメンタルヘルス対策が重要です。特にテレワークを導入している場合、自宅などの作業環境が安全衛生の基準を満たしているか確認し、適切な環境整備を促す教育が必要です。

 

  • 作業環境の整備:適切な照明(机上で300ルクス以上)、温度・湿度の調整、換気の実施

 

  • 作業姿勢と設備:無理のない姿勢を保てる椅子や机の配置、PCディスプレイの輝度調整

 

  • メンタルヘルスケア:コミュニケーション不足への対処、相談窓口の周知

 

また、自宅での転倒や火災を防ぐため、電源コードの整理や配線の安全確認についても注意喚起を行いましょう。

 

テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】(厚生労働省)及び自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備(厚生労働省)を編集して作成

 

飲食・小売業

接客業や店舗運営では、狭いバックヤードでの作業や火気・油等を伴う作業に関連する安全教育が必要です。

 

  • 調理場の危険性:包丁やスライサーの安全な取扱い、フライヤー(高温油)による火傷防止

 

  • 転倒防止:床が濡れているときの対応、滑りにくい靴の着用、整理整頓による通路の確保

 

  • 重量物の取扱い:商品の搬入・陳列時の腰痛予防、脚立の正しい使用方法

 

特に転倒や腰痛などの行動災害は発生件数が多いため、日々の作業手順に無理がないか定期的に見直す必要があります。

 

職場の危険の見える化(小売業、飲食業、社会福祉施設)実践マニュアル(厚生労働省、中央労働災害防止協会)を編集して作成

 

安全衛生教育の実施方法

 

安全衛生教育で習得した内容を現場で実施する従業員のイメージ

 

安全衛生教育を効果的に実施するためには、以下の流れで行いましょう。

 

  • 対象者の洗い出しと教育計画の策定
  • 教材準備と実施形式の決定
  • 安全衛生教育の実施と記録保存

 

対象者の洗い出しと教育計画の策定

まずは、誰にどのような教育が必要かを整理します。

入社時や配置転換時、新たな機械の導入時など、教育が必要となるタイミングを洗い出し、年間計画に落とし込みます。

 

対象者リストには、正社員だけでなくパートやアルバイト、派遣社員も含め、漏れがないように管理しましょう。

 

教材準備と実施形式の決定

教育内容に合わせて、適切な教材と実施形式を決めます。実施形式には、以下のように自社実施と外部委託、e-ラーニングによる方法があります。

 

  • 自社実施:現場の実情に合わせた教育ができる。一方で、労働安全衛生コンサルタントなどの安全衛生業務に精通した講師が必要であり準備に工数がかかる。

 

  • 外部委託:専門的な内容を学べるが、費用がかかる(※条件を満たせば「人材開発支援助成金」などを活用し、経費の一部助成が可能)。

 

  • e-ラーニング:時間や場所を選ばず受講できるが、実技教育には向かない場合がある。

 

教材については、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」などで公開されている無料のマニュアルや動画教材を活用するのも一つの方法です。

 

安全衛生教育の実施と記録保存

教育計画にもとづいて教育を実施します。

講義だけでなく、ヒヤリハット事例の紹介や理解度テストなどの工夫を凝らし、受講者の意識を高め、マンネリ化を防ぐことが大切です。

 

また、教育実施後は必ず記録を残しておきましょう。特に特別教育の記録は3年間の保存義務があります。

その他の教育についても、労働基準監督署の調査対応や、万が一の労災発生時の証明として教育記録が役立ちます。

 

効果的な安全衛生教育には体制づくりが不可欠

 

安全衛生教育は、法律を守るためだけでなく、従業員が安心して働ける職場を作るために不可欠な取組です。

 

しかし、教育を形骸化させず、現場の安全意識の向上につなげることは容易ではありません。加えて、法改正への対応や、現場でのヒヤリハット事例の反映など、アップデートし続ける「仕組み」も必要です。

 

この仕組みを構築するには、産業医との密な連携による産業保健体制が欠かせません。

例えば、定期的な職場巡視による現場のリスク精査や、産業医の知見を借りた教育内容のブラッシュアップによって、現場に即した安全衛生教育にしていくことが求められます。

 

自社の課題に合った教育を継続的に実施し、安全を大切にする文化を醸成していきましょう。

 

株式会社エムステージでは、産業医の紹介から業務サポート、健康管理システムの提供まで、企業の産業保健活動をトータルで支援しています。

弊社が提供する産業保健業務管理クラウド「Sanpo360」(※)では、安全衛生教育用のスライド資料や動画など、現場でそのまま活用できるコンテンツ配信も定期的に行っています

安全衛生教育の実施体制や産業医の活用にお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

※「Sanpo 360」は産業医紹介・産業保健師紹介の一部サービスとして、ご利用いただけます。

 

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この記事の著者

片桐はじめ

片桐はじめ

公認心理師・臨床心理士
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。

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