健康経営優良法人のメリット・デメリットを解説|中小企業でも認定取得する意味はある?
片桐はじめ


健康経営®優良法人の認定取得を検討しているものの、「具体的なメリットがわからない」「手間がかかるのでは…」とためらっていませんか?
本記事では、健康経営優良法人の認定を取得するメリット・デメリットから、申請プロセス、2026年の変更点までを網羅的に解説します。
認定取得の価値や、今から取り組むべき内容を把握するための参考にしてみてください。
〈編集部注〉申請期間や認定の基準等については記事作成時点での情報です。必ず経済産業省などのホームページにて確認してください。
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目次
健康経営優良法人とは?

健康経営優良法人認定制度は、経済産業省が主導し、日本健康会議が認定する制度です。
従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて戦略的に実践する「健康経営」に取り組む優良法人を「見える化」することを目的としています。
2025年には、大規模法人部門で3,400法人、中小規模法人部門で19,796法人が認定されました。
※健康経営優良法人認定制度(METI/経済産業省)を編集して作成
大規模・中小規模の区分
健康経営優良法人の認定は、企業の規模に応じて二つの部門にわかれています。
大規模法人部門と中層規模法人部門のどちらに該当するかは、業種と常時使用する従業員の人数、資本金または出資金額によって決まります。
会社や士業法人においては、以下の基準で区分がわかれます。自社がどちらに当てはまるか、事前に確認しておきましょう。

出典:健康経営優良法人についてよくある質問(経済産業省)
※他業種の申請区分は「ACTION!健康経営」(株式会社 日本経済新聞社)の「申請について」をご確認ください。
ホワイト500・ブライト500・ネクストブライト1000の区分
大規模・中小規模部門の中でも、とくに優れた取り組みを実践している法人は上位層として顕彰されます。
大規模法人部門では上位500法人が「ホワイト500」として、中小規模法人部門の上位500法人が「ブライト500」として認定されます。
さらに、2024年度からはブライト500に次ぐ上位層として「ネクストブライト1000」が新設されました。
健康経営銘柄との違い
健康経営銘柄は、東京証券取引所の上場企業の中から、原則として1業種1社が選定される制度です。健康経営に優れた企業を選定し、企業価値向上を重視する投資家への紹介を行う目的があります。
健康経営優良法人が非上場企業も含む幅広い法人を対象とするのに対し、健康経営銘柄は上場企業に限定されている点が異なります。
健康経営優良法人の認定取得による5つのメリット

健康経営優良法人の認定取得は、企業にさまざまなメリットをもたらします。具体的なメリットは、以下の5つです。
- 企業の価値やブランドイメージの向上
- 人材の確保と定着
- 従業員の生産性向上と組織活性化
- 金融機関からの融資優遇・金利引き下げ
- 補助金採択や公共入札での優遇措置
1.企業の価値やブランドイメージの向上
健康経営優良法人の認定を受けると、公式ロゴマークの使用が許可され、ホームページや求人広告、名刺などに掲載することで、社外へ効果的にアピールができます。
また、経済産業省の公式サイトに認定法人として社名が掲載されるため、従業員、取引先、消費者など、ステークホルダーへの企業の信頼性向上にもつながるでしょう。
近年では、ESG投資の観点からも企業の健康経営への取り組みが重視されているため、投資家からの評価を高める要因にもなります。
2.人材の確保と定着
健康経営優良法人の認定は、ハローワークの求人票にも記載可能です。就職活動中の学生や転職者に対し、働きやすい職場環境であることを客観的に示せます。
認定を取得している企業は、全国平均と比較して離職率が低い傾向にあります。
2021年における全国の一般労働者の離職率が11.1%に対して、健康経営優良法人2023の認定企業における離職率は4.6%でした。
また、就活生及び転職者に対するアンケートでは、約6割が「企業が健康経営に取り組んでいることが就職先の決め手になる」と回答しています。
健康経営の推進は、採用・研修コストの削減や、組織力の維持にもつながるでしょう。
※健康経営の推進について(経済産業省)を編集して作成
3.従業員の生産性向上と組織活性化
健康経営に取り組むことで、何かしらの不調を抱えながら働くことによって生産性が低下する状態であるプレゼンティーイズムの改善に有効です。
つまり、従業員がより健康になることで、生産性の低下を防ぐことができます。
さらに、企業が従業員の健康を気遣う姿勢を示すことは、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を大きく高めます。
このエンゲージメントの向上は、結果として組織全体の活性化やイノベーションの創出につながり、企業価値の向上に貢献すると期待されます。
4.金融機関からの融資優遇・金利引き下げ
金融機関によっては、健康経営優良法人の認定企業に対して融資金利の引き下げといった優遇措置を行っています。
健康経営優良法人の認定により、銀行から「事業の安定性が高く、リスクが低い」と評価されやすくなるためです。資金調達の条件がよくなり、企業のさらなる成長につながります。
5.補助金採択や公共入札での優遇措置
国の「ものづくり補助金」をはじめとする各種補助金制度において、認定企業は審査で加点措置を受けられる場合があります。
補助金の採択率が向上し、新規事業の展開や設備投資がしやすくなる点がメリットです。
さらに、地方自治体による公共工事の入札参加資格審査において、認定企業に対して加点評価がされるケースもあります。
特に、建設業など公共事業の受注が重要となる業種では、他社との競争優位性をもたらします。
【意味ない?】健康経営優良法人の3つのデメリットと対策

健康経営優良法人の認定はメリットが多い一方で、いくつかデメリットもあります。認定取得を目指す企業が直面しがちなデメリットは、以下の3つです。
- コストや手間・時間がかかる
- 効果がみえにくい
- 社内への浸透が難しい
1.コストや手間・時間がかかる
健康経営優良法人の認定取得のためには、申請準備や施策の実行に人的・金銭的なコストが生じます。
申請書作成や、認定に必要な健康増進イベントの運営など、担当者には相応の負担がかかるでしょう。
対策として、健康経営の取り組みに関連して利用ができる、助成金や補助金がないか探してみましょう。働き方改革推進支援助成金や、キャリアアップ助成金などがあります。
また、自社だけで全てを担うのではなく、産業医や外部のコンサルティングサービスに相談し、専門的な知見やリソースを活用し効率化するのも有効な手段です。
2.効果がみえにくい
生産性向上や離職率低下といった健康経営の効果は、すぐには表れにくいものです。そのため、かけたコストに対して効果が実感できず「意味がない」と感じてしまうケースも少なくありません。
効果を可視化するためには、具体的なKPIを設定することが不可欠です。
例えば、「特定保健指導の実施率」「ストレスチェック後の高ストレス者率」などを目標に設定します。
KPIを設定することで、費用対効果の可視化につながるとともに、社内で目標達成に向けた行動を共有しやすくなります。
3.社内への浸透が難しい
健康増進のための施策が、全ての従業員に受け入れられるとは限りません。従業員によっては「業務時間外のイベントには参加したくない」などの不満の声が上がる可能性もあります。
特に、若い従業員が多いスタートアップ企業では、従業員が自身の健康に課題を感じていないため、制度や施策の必要性を理解してもらえない場合があります。
一方で、長く経営を続ける企業では、従業員の高齢化に伴う健康課題への対応や生産性維持への危機感から、健康経営への関心は高い傾向にあります。しかし、すべての従業員がその意義を理解し、取り組みを「自分ごと」として捉え、積極的に活用するようになるまでには時間がかかります。
従業員に健康経営の必要性を理解してもらうには、経営トップが自らの言葉で健康経営の重要性を繰り返し発信することが大切です。
また、施策を一方的に押し付けるのではなく、アンケートなどで従業員の意見を吸い上げ、ニーズに合ったプログラムを企画することが、社内へのスムーズな浸透につながります。
健康経営優良法人の申請フローと認定要件
健康経営優良法人の認定を取得するためには、決められた手順で申請を行い、認定要件を満たす必要があります。認定までの申請フローと主な認定要件を解説します。
大規模法人部門
1.「ACTION! 健康経営」ポータルサイトの申請申し込みページへアクセス。
2.「健康経営度調査票」をダウンロードし、回答する。
(健康経営度調査とは:健康経営の取り組み状況を把握し、健康管理体制や具体的な施策内容を回答する資料)
3.回答した調査票をアップロードして提出。
中小規模法人部門
1.まずは加入している協会けんぽなどの保険者が実施する「健康宣言」事業に参加する。
(健康宣言とは:健康経営への取り組みを社内外に発信し、保険者と連携して健康増進に取り組む)
2.「ACTION! 健康経営」ポータルサイトの申請申し込みページへアクセス。
3.「健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定申請書」をダウンロードし、回答する。
4.回答した申請書をアップロードして提出。
調査票・申請書の提出後、認定委員会による審査が行われます。審査を経て、日本健康会議によって「健康経営優良法人」として認定されます。
2026年度の申請期間と費用は以下の通りです。

認定要件
認定要件は、「経営理念」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令遵守・リスクマネジメント」の5つの大項目で構成されています。

5つの大項目には、健康診断の実施やストレスチェックの実施など具体的な取り組み内容が含まれています。部門ごとに必須項目が設定されており、要件を満たすためには計画的な準備と実行が不可欠です。
※令和7年度健康経営度調査(素案)(経済産業省)、健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)認定申請書(素案)(経済産業省)を編集して作成
健康経営優良法人2026で変更された認定要件
健康経営優良法人2026で変更された認定基準の重要ポイントを解説します。
選択要件の追加と基準の引き上げ
多様な人材が働きやすい職場づくりを推進するため、新たな評価項目が追加され、認定に必要な選択項目の基準が引き上げられました。
新たな評価項目として、大規模・中小規模法人部門のいずれにも「性差・年齢に配慮した職場づくり」が追加されました。「育児・介護と仕事の両立支援」や、「高年齢従業員の健康や体力の状況に応じた取り組み」が含まれます。
評価項目の変更に伴い、認定に必要な選択要件の達成数が以下のように変更されます。
- 大規模法人部門:16項目中13項目以上→17項目中14項目以上
- 中小規模法人部門:15項目中7項目以上→17項目中8項目以上
経営層が関与する機会の強化
健康経営の理解を促進するため、経営トップがどのような取り組みを行っているかを問う質問内容が追加されました。
大規模法人部門では、健康経営推進方針や方針を踏まえた目標・KGI、推進計画などを社内に発信していることが設問に追加されました。さらに、健康経営推進方針の議論が行われている会議体を確認する設問も追加されています。
中小規模法人部門では、文書や朝礼、研修などを通じた健康経営の方針の理解促進に加え、理解の浸透状況を確認する質問が盛り込まれています。大規模法人部門と同様に、健康経営推進方針や組織体制、KGI設定に対する経営層の関与も重視されます。
いずれの点も、大規模法人部門はホワイト500、中小規模法人部門はブライト500の認定要件・設問です。経営層が積極的に関与する健康推進体制が求められています。
「プレコンセプションケア」への対応
さまざまなライフステージの変化に従業員自身が対応しやすくなるよう、「プレコンセプションケア」に関する項目が新たに追加されました。
プレコンセプションケアとは、性別を問わず将来の妊娠・出産を見据えた健康管理を支援することです。適度な運動習慣や適正体重を守ることなど、妊娠前から健康状態を整えるケアを指します。
企業には、従業員が将来のライフプランを前向きに考えられる健康維持をサポートする仕組みが求められます。
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健康経営優良法人に関するQ&A

健康経営優良法人制度に関するよくある疑問と回答をまとめました。疑問点を解消して、自社で何に取り組むべきかを具体化しましょう。
Q.中小企業でも取り組むメリットはありますか?
A.中小企業にとっても大きなメリットがあります。地方銀行の融資優遇や公共事業の入札加点といった直接的な経済的メリットは、経営の安定につながります。
また、人材不足が課題となりがちな中小企業にとって、採用力の強化や人材の定着もメリットです。
まずは、コストを抑えて始められる健康情報の定期的な発信やウォーキングイベントの開催などから検討するのがおすすめです。
Q.ホワイト500やブライト500に選ばれるには?
A.ホワイト500やブライト500は、健康経営優良法人認定よりも高い基準が設定されています。加えて、認定基準を満たすだけでなく、健康経営度調査の結果が他の申請企業よりも高い水準にあることが必要です。
特に、自社の健康経営に関する取り組み状況や成果を社外へ積極的に情報開示しているかどうかが、評価項目の一つとして重視されます。上位認定を目指す場合は、戦略的な情報発信も意識しましょう。
Q.健康経営優良法人認定取得後の注意点はありますか?
A.認定取得をゴールにするのではなく、「いかに活用して企業の成長につなげるか」が重要です。プレスリリースの配信や自社サイトでのアピールなど、社内外への広報活動を積極的に行いましょう。
また、認定を維持するためには、取り組みを継続しつつ、毎年申請する必要があります。担当者の異動があっても取り組みが形骸化しないように推進チームを設置するなど、運用体制を整えておくことが大切です。
専門家のサポートで戦略的な健康経営の第一歩を
健康経営優良法人の認定は、企業の価値向上につながる多くのメリットをもたらします。一方で、申請準備には手間がかかり、継続的な取り組みも不可欠です。
2016年に経済産業省より公表された健康経営ガイドブックをベースに、健康経営優良法人認定事務局では、2025年3月、10年ぶりに健康経営ガイドブックの改訂がおこなわれました。健康経営の実践手順や、健康経営戦略マップの作成方法がまとまっているので、認定取得を目指す企業はぜひ「健康経営ガイドブック2025」(ACTION!健康経営)をご確認ください。
ガイドブックで概要は理解ができたけれど、実行に移すにはハードルが高いという場合には、コンサルティングの活用がおすすめです。
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