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【労基署の元署長が解説】衛生委員会を有効活用するためのヒント

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【労基署の元署長が解説】衛生委員会を有効活用するためのヒント

(更新:

村木宏吉

企業が衛生活動を進めて行く上で、衛生委員会はその活動の主軸となる重要な機能を持っていますが、有効活用されていないケースもあるようです。

 

労働基準監督署長のご経歴を持ち、現在は労働衛生コンサルタントとしてご活躍されている村木宏吉先生に、衛生委員会の意義や有効活用のポイントについて解説していただきました。

 

監督署の立入調査が入れば、衛生委員会の議事録が必ずチェックされる

 

衛生委員会の法的基準をあらためて確認する

労働安全衛生法第18条と労働安全衛生法施行令第9条により、事業の種類(業種)を問わず、常時使用する労働者数が50人以上の事業場では、衛生委員会を設置し毎月1回以上開催し、衛生に関する一定事項を審議しなければならないこととされています。

 

「衛生」とは、労働衛生のことであり、労働者の健康管理に関する事項をいいます。

 

製造業、交通運輸業、建設業などのほか、各種商品卸売業・小売業や旅館・ホテル業等の業種では、常時使用する労働者数により安全委員会も設置しなければなりません。このような業種では、以下の「衛生委員会」を「安全衛生委員会」として読み替えてください。

 

労働基準監督署の立入調査を受けた際には、必ずといってよいほどこの委員会の議事録が確認され、委員会の委員構成やどのような活動をしているか委員会での審議内容がチェックされます。

 

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委員構成に当たっての注意点

衛生委員会は、当該事業場の事業を統括する方(社長、支店長、工場長等)若しくはこれに準ずる方が議長となります。

 

それ以外の委員は、衛生管理者、安全管理者、産業医のうちから事業者が指名します。衛生管理者(安全管理者が選任されている場合は安全管理者も)は、最低1名は必ず委員に指名しなければなりません。

 

また、これら以外の委員としては、「当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者」を任命します。

 

これら委員のうち半数は、当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合があればその労働組合の推薦に基づき指名します。このような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者の推薦に基づき指名します。

 

議長以外の委員の数は原則として偶数(労使半々)となります。これは、議決事項については、最終的に議長がこれを決するためです。

 

最も少ない構成だと、議長のほか労使の委員が1名ずつということもあり得ます。

 

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業務上災害で被災者が出れば、労働基準監督署の立入調査が行われる

 

 

衛生委員会は業務上災害を防止する観点で取り組む

筆者が労働基準監督署に勤務していた時ですが、「何をしていいのかわからない」という事業主に時々会いました。労働者の健康管理に関する事項といっても、抽象的でわかりにくいようです。

 

たとえば、冬場はインフルエンザとノロウイルスによる感染症が流行しがちであり、職場が感染源となることがあります。夏場は、食品の腐敗に関する食中毒があります。職場で感染したことが明らかとなれば、労災保険の業務上災害となります。

 

被災者が3人以上だと労働基準監督署は重大災害として立入調査をし、厚生労働省に報告書を提出しなければならないことになります。

 

医療機関や介護施設などの社会福祉施設で働く労働者が感染症に罹患すると、業務上の疾病として扱われる可能性が高いものです。

 

また、社員食堂で提供した食事や職場でまとめて注文した仕出し弁当等による食中毒も、業務上の疾病となる可能性が高いものです。いずれも1人だけですむとは限りません。

 

なお、集団感染により事業の運営に支障をきたすこともありますから、これらの予防対策は事業継続のためにも重要です。

 

そこで、それらの流行しやすい時期に入る前に、それぞれの対象に合わせて産業医などから予防対策等に関する事項を聞き出して委員会で審議し、職場に周知することが衛生委員会の仕事の一つになります。

 

衛生委員会では、職場の問題解決に向けた審議を行う

季節に関係しないものとしては、メンタルヘルス対策、心とからだの健康づくり計画に関する事項や熱中症の予防があります。

 

また、健康診断の100パーセント実施のため、日程とその周知に関する事項も審議することになります。その後は、健康診断の結果に関する事項が議題となります。

 

以上のほか、職場特有の問題として、職場環境(気温、湿度、騒音、気流、換気、照度、有害物の気中濃度等)や、腰痛や頚肩腕症候群などの職業性疾病に関する事項も審議の対象になります。

 

委員会の運営に関する事項も重要な審議事項の1つです。

 

活性化のためにも、委員に安全衛生の知識を持ってもらうこと

 

 

 

衛生委員会を活用するために欠かせない「委員の資質向上」

労働安全衛生法は、事業場が職場における労働者の健康を害する要因を自主的になくすよう求めています。そのためには、委員の資質向上が欠かせません

 

筆者の経験では、労働組合推薦の委員が、単に労働組合の役員であることだけで委員に推薦され、安全衛生に関する何の資格も有していないという例をときどき見ております。

 

衛生推進者や安全衛生推進者の養成講習を受講させるとか、有害業務のある職場であれば当該業務に関する作業主任者技能講習を修了させるなど、安全衛生に関する知識をある程度持たせるための取組みが必要でしょう。

 

労働衛生に関する事項は、家庭でも役立ちます。そのため、男性よりは女性のほうが衛生委員会での発言等は積極的だと感じることがあります。委員の人数によりますが、できるだけ女性の委員を参加させるとよいでしょう。

 

最近、厚生労働省では、がんなどの病気に関し「治療と職業生活の両立支援」についての取組を進めています。精神障害等も同様です。該当者が出る前に、職場においてその対応を検討しておく必要があるでしょう。

 

また、委員会の最後に次回の日程と議題の確認をすることが一般的です。その際、議題の一部について委員に担当を割り振ることで、事務局の負担を減らすとともに、委員が知識を深めるきっかけにもなります。

 

まとめ

事業場全体にわたる労働衛生に関する事項を審議する衛生委員会は、労働者の健康を守るという点で労使双方に利益のある活動です。それだけに、マンネリ化を防ぎ、より活性化することが求められます。

 

そのような活動としては、たとえば、最寄りの消防署に依頼して年に1回消火訓練と救急法の講習会を開催するとか、職場環境に関する測定(作業環境測定)に委員が同行するといった取組みが上げられます。

 

メンタルヘルス対策の一環としてのカウンセリング手法について、保健師や産業医からレクチャーを受けるとか、過労死等の予防として生活習慣の改善に関する講習を実施するなどの行事もあるでしょう。

 

衛生委員会の委員だけが参加するよりは、人数の制限があっても委員以外の労働者が参加できる催しも企画したいものです。

 

労働衛生管理に職場全体で取り組む、そのきっかけ作りとして衛生委員会を活用することが重要です。

 

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この記事の著者

村木宏吉

村木宏吉

(むらき・ひろよし)昭和52年(1977年)に旧労働省に労働基準監督官として採用される。北海道労働基準局(当時)や東京労働基準局(当時)と神奈川労働基準局(当時) の各労働基準監督署に勤務後、同局管内各労働基準監督署及び局勤務を経て、神奈川労働局労働基準部労働衛生課の主任労働衛生専門官を最後に退官。元労働基準監督署長。著書には『すぐに使える 衛生委員会の基本と実務』(労務行政)がある。

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