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<産業医コラム>働く世代の歯科口腔保健

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<産業医コラム>働く世代の歯科口腔保健

髙橋 真里奈

歯ブラシと歯の模型
歯ブラシと歯の模型

皆さんは最後に歯科健診を受けたのはいつでしょうか。「痛くなってから歯医者に行く」という方も少なくないかもしれません。

子どものころは学校で毎年歯科健診がありましたが、社会人になるとその習慣が途切れ、いつの間にか定期健診を受けなくなってしまった、という方もいるのではないでしょうか。

 

1.働く世代にアプローチが必要な理由

 

労働安全衛生法に基づく定期健康診断には、一般的な歯科健診は含まれていません。

歯科口腔保健は法体系上、学校の歯科保健や高齢者の口腔ケアに制度化されてきましたが、その中間に位置する働く世代は、公衆衛生的に“支援が途切れる層”となりやすいのが現状です。

 

小児のむし歯は年々減少している一方で、歯周病については減少傾向がみられません。

成人における罹患率は7割とも推測されており、特に最近では30代での歯周病の進行度が加速しています。

 

しかし「過去1年に歯科健診を受けた者」の割合を見ると、特に男性の30~50歳未満で低い傾向があります。

この世代にこそアプローチが必要にもかかわらず、実際にはケアが後回しにされやすい状況となっていることが分かります。

 

歯科健診を受けない理由を訪ねた別の調査では、「時間がない」という回答が半数を占め、次いで「必要性が不明」という結果になっています。

仕事に忙しい働く世代は、自覚症状がないと歯医者に行くきっかけを見つけにくいのかもしれません。

 

2.歯を失う最大の要因「歯周病」

 

歯を失う要因として最も多いのは、むし歯ではなく歯周病です。
歯周病とは、歯の表面についた細菌の塊である歯垢(プラーク)が原因となり、歯肉が炎症を起こす病気です。

 

初期の段階である歯肉炎では、歯と歯の間の歯肉が腫れる、歯ブラシなどの刺激で出血する、といった症状が現れます。

進行して歯周炎になると、口臭が気になる、歯肉を押すと血や膿が出る、歯がグラグラしてものが噛みにくい、といった症状が現れます。

ただし歯周病はsilent diseaseとも言われ、痛みが出にくく静かに進行してしまい、気付いた時には重症化しているケースも少なくありません。

 

また、歯周病は糖尿病や動脈硬化とも関連性があることが明らかになっています。

日本医師会の報告でも、「歯周病がある人は糖尿病のコントロールが悪化しやすい」と指摘されています。

歯周病治療によって血糖値が改善する例もあり、全身の健康のためにも歯周病の予防や治療が大切なのです。

 

「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動はご存知でしょうか。

自分の歯を残すことが、将来の健康に繋がります。自身の歯が多い人は、寿命・健康寿命が長く、要介護でいる期間が短いという研究があります。

 

また、歯がほとんど無く義歯を使用していない人は、20本以上歯を有する人と比較して、認知症発生のリスクが高まるという報告もあります。

 

3.セルフケアとプロフェッショナルケアで予防を

 

予防の基本は、毎日のセルフケアと定期的なプロフェッショナルケアです。

歯磨きのポイントは、歯と歯肉の境目に歯ブラシの毛先を当て、5mm程度の幅で横に小刻みに動かすことです。力を入れすぎずに小さく動かすのがポイントです。

 

歯ブラシだけでは取れない歯間の汚れには、デンタルフロスを活用しましょう。セルフケアだけで除去しきれない部分については、歯科医院で定期的にプロフェッショナルケアを受けましょう。

 

4.歯科口腔保健に取り組むメリット

 

歯科口腔保健は、社員個人の健康を守るだけではありません。

企業にとっても多くのメリットがあります。口腔トラブルによるプレゼンティーイズムやアブセンティーイズムを抑制し、結果として生産性の向上につながります。

 

「食べる」「話す」「笑う」といった行動は心身の健康に欠かせないものであり、それを支えるのが口の健康です。歯科口腔保健への取り組みは、生き生きとした職場づくりにもつながるものと言えるでしょう。また、口腔内を清潔に保つことは、風邪やインフルエンザなどの感染症予防にもつながります。

 

介護施設を対象とした研究では、専門的口腔ケアの実施によりインフルエンザの発症率が約10分の1に抑えられたという報告もあるのです。

 

5.まとめ

 

「痛くないから大丈夫」「忙しいから後回し」と思ってしまうと、症状が進行し、結果として多くの治療時間と費用を費やすことになります。

 

“今の10分のケア”が、“将来の数十時間の治療”を防ぐための投資となります。これを機に、ぜひ社内でも歯科健診の受診促進や口腔ケアの啓発に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

 

<引用文献>

・日本歯科医師会 https://www.jda.or.jp/

 

文章出典:​​​​​​​人事・総務向け「ウェルビーイング経営」サポートメディア「ウェルナレ」専門家記事より寄稿

 

 

この記事の著者

髙橋 真里奈

髙橋 真里奈

日本医師会 認定産業医
労働衛生コンサルタント(保健衛生)

 

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