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過労死の前兆は?過労認定される目安時間やリスク要因、事例を紹介

2024/02/06 (更新:2024/11/08)

サンポナビ編集部

過労死に至る主な疾患として、脳血管疾患や心臓疾患、精神障害などが挙げられます。過労死を予防するためには、前兆が見られる従業員に対して速やかな医療機関の受診や産業医への相談を促すことが大切です。そのためにも、過労死に至る疾患についての理解を深めましょう。

 

また、過労死の基準となる労働時間の目安である過労死ラインを上回らないように、労働時間をコントロールしたり、安全衛生活動を推進したりすることも重要です。

 

本記事では、過労死の前兆や疾患の症状、過労死ラインについて詳しく解説します。過労死に認定された事例も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

 

 

過労死とは

 

過労死について、法律では次の通りに定義されています。

 

「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

引用:過労死等防止対策推進法(第二条)

 

過労死とは、過度な長時間労働や残業などのストレスによって、脳血管疾患や心臓疾患、精神疾患などを発症し死亡することです。前兆として疲労感や胸痛、冷汗、息切れ、手足のしびれ、頭痛、全身のだるさなどが現れることがあります。

 

 

過労死の主な原因

 

 

過労死の主な原因は、次の3つです。

 

  •  睡眠不足
  • ストレス
  • 長時間労働や残業

 

過労死を予防するためには、まずは原因を把握することが大切です。各項目については以下で解説します。

 

睡眠不足

睡眠時間が不足すると疲労が蓄積して過労死に至るケースがあります。睡眠不足で極度の疲労状態になり、精神的に緊張して眠れなくなると睡眠障害や精神疾患を患う可能性があるため注意が必要です。「眠りたいのに眠れない」状態はうつ病の兆候とも言われています。

また疫学調査では、睡眠時間が5~6時間以下になると脳血管疾患や心臓疾患などのリスクが高くなると言われています。(※1)

(※1)参考:神戸大学保健管理センター

 

ストレス

睡眠不足や仕事の人間関係による過度なストレス蓄積も、過労死の要因となることがあります。

人間は過度なストレスを抱えると、コルチゾールやアドレナリンなどの血液循環に影響を与えるホルモンが分泌されます。これらのホルモンは血圧を上げたり、血液中の脂肪分を増やしたりする働きがあるため、過度に分泌されると循環器疾患を患う可能性が高まります。

 

長時間労働や残業

長時間労働や残業時間の増加は睡眠不足やストレス、疲労の蓄積に繋がり、過労死のリスクを高めます。

労働時間には、実務以外の時間も含まれるケースがあることがポイントです。厚生労働省は労働時間の考え方について次のように定めています。

 

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

引用:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン|厚生労働省

 

例えば研修や教育訓練の受講、学習などの実務以外の業務も、使用者の指示の元で実施される場合は労働時間に含める必要があります。

 

長時間労働についてはスライドを準備していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

 

【スライド】長時間労働について | Sanpo Navi

 

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過労死ラインの目安

 

過労死ラインとは、健康障害のリスクが高まるとされる時間外労働の時間を指す言葉です。長時間労働が病気や死亡、自殺に繋がった場合に、因果関係を示す基準の1つと言われています。

過労死ラインについては明確な基準が存在するわけではありませんが、厚生労働省が発表した次の文章が参考になります。

 

発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし、6ヶ月にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外・休日労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。

引用:STOP!過労死|厚生労働省

 

また、同資料には時間外労働時間が月45時間を超えると、過労死との関連性が徐々に強まるとも記載されています。そのため上記の引用で示した時間を超えない場合であっても、長時間労働と過労死の因果関係が認められる可能性もあります。

 

また長時間労働でなかった場合でも、業務の過重性や労働時間以外の負荷要因を含めて総合的に判断した結果、過労死が労災認定されるケースもあります。

 

過労死ラインを守っても過労死の可能性をなくすことはできないので、前兆を察知して早めに対策を講じることが大切です。

 

 

過労死の前兆

 

過労死の前兆は、脳血管疾患や心疾患、精神疾患などの疾患によって異なります。前兆を事前に把握するための手段として、自覚症状をチェックしてもらう方法が考えられます。

 

厚生労働省が発行する「過労死等を防止するための対策BOOK」には、次のチェックシートが掲載されています。

 

引用:過労死等を防止するための対策BOOK|厚生労働省

 

このチェックシートを用いると、従業員がメンタルヘルス不調の兆候を自分でチェックして自覚症状を評価できます。例えば、次のような症状がチェックリストに掲載されています。

 

  • イライラする
  • 不安だ
  • 落ち着かない
  • ゆううつだ
  • よく眠れない など

 

下記のパンフレットを従業員に渡しチェックしてもらうことで、過労死の予防に役立つでしょう。

過労死等を防止するための対策BOOK|厚生労働省

 

 

過労死に繋がる主な疾患

 

過労死に繋がる主な疾患は、次の通りです。

 

  • 精神障害
  • 脳血管疾患
  • 心臓疾患
  • メタボリックシンドローム
  • 高血圧
  • 睡眠時無呼吸症候群

 

各疾患の症状を把握すると、従業員に症状が現れた際に早い段階で医療機関に繋げられます。それぞれの疾患の特徴や症状については以下で解説します。

 

精神障害

精神障害とは、脳の器質的変化や機能障害により、精神症状や身体症状、行動の変化などが見られる状態です。

精神障害の中でも、従業員はうつ病になるケースが多いです。うつ病になると、気分の低下や意欲低下、生命力低下などが見られます。

 

【気分低下】

  • 憂うつ、元気が出ない
  • わびしい感じがする
  • 不安になる
  • イライラする
  • 罪悪感がある
  • 非現実感がある
  • 過去や現在、未来のことについてくよくよ考える

 

【意欲低下】

  • 集中力が低下する
  • 決断力が低下する
  • 何をするにも億劫に感じる
  • 仕事の能力が低下する
  • 対人関係を避ける
  • 社会的関心が低下する

 

【生命力低下】

  • 睡眠障害が起こる
  • 倦怠感や頭重感がある
  • 体重が減少する
  • 吐き気がする
  • 性欲が減退する
  • 頻尿になる
  • めまいや失神などの身体障害が現れる

 

脳血管疾患

脳血管疾患には、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などがあります。脳梗塞は脳の血管が詰まった状態です。脳出血は、脳の細い血管が破れて脳内で出血が起きている状態です。くも膜下出血になると、脳を覆うくも膜と呼ばれる膜の下で出血が起きます。

それぞれの疾患で現れる症状は以下の通りです。

 

【脳梗塞の症状】

  • 半身の麻痺
  • 口の中のものをこぼす
  • ろれつが回らなくなる
  • 感覚が無くなる
  • 視野が欠けたり、物が二重に見えたりする

 

【脳出血の症状】

  • 頭痛
  • めまい
  • 悪心や嘔吐
  • 半身の麻痺やしびれ
  • 手足の麻痺やしびれ

 

【くも膜下出血の症状】

  • 突然の激しい頭痛
  • 悪心や嘔吐
  • 意識の消失

 

※前触れがなく突然起こることも多いです。

 

心臓疾患

過労死に繋がる心臓疾患としては、狭心症や心筋梗塞などが考えられます。

 

狭心症になると、胸の痛みや締め付けられるような圧迫感があります。

 

しばらく安静にすると治まることも多く、放置されることがあるため注意が必要です。狭心症が進行すると心筋梗塞になる可能性もあるため、早めに病院を受診することが大切です。

 

心筋梗塞は、心臓に栄養や酸素を運ぶ血管が詰まって心臓の筋肉が壊死する病気です。心筋梗塞になると狭心症と同様に、胸の痛みや圧迫感が現れます。

 

なお、従業員に脳血管疾患や心臓疾患に関する詳しい情報を共有したい場合は、次のスライドが役立ちます。過労死リスクのある疾患について理解を深めてもらうためにも、ぜひご参考ください。

 

【スライド】脳・心臓疾患について | Sanpo Navi

 

 

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームとは、腹部の周りの脂肪が過剰に蓄積した状態で、内臓脂肪型肥満とも呼ばれます。放置すると脳血管疾患や心臓疾患に繋がり、過労死に至るリスクがあるため注意が必要です。

 

ほとんど自覚症状がないため、食事や運動を見直して日頃から予防に努めることが大切です。

 

次のスライドは、メタボリックシンドロームについて従業員に教育するための資料としてお役立ていただけます。

 

【スライド】メタボリックシンドロームについて | Sanpo Navi

 

高血圧

高血圧とは収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の状態を指します。

 

収縮期血圧とは、心臓が収縮して血液を送り出すときの血圧で一般的には最高血圧と呼ばれます。一方で拡張期血圧とは、心臓が膨らんで血液が心臓内に貯められているときの血圧で、一般的には最低血圧と呼ばれます。

 

高血圧にはほとんど自覚症状は見られませんが、血圧が過度に高くなった際に頭痛やめまい、肩こりを感じることがあります。

 

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時に空気の通り道が塞がれて息ができなくなる状態です。睡眠中と起床時、昼間など時間帯によってさまざまな症状が現れます。

 

【睡眠中】

  • いびきが激しい
  • 呼吸が止まる
  • 何度も目を覚ます

 

【起床時】

  • 眠った感じがしない
  • 口が渇いている
  • 頭がボーっとする

 

【昼間】

  • 運転中に眠くなる
  • 会話中に眠くなる
  • 集中できない

 

 

過労死を防ぐポイント

 

 

過労死を防ぐポイントは次の通りです。

 

  • 従業員の労働時間をチェックする
  • 医療機関の受診を勧める
  • 労働基準法・労働安全衛生法を遵守する

 

過労死を防ぐためには、日頃から労働時間を管理したり、産業保健に力を入れたりすることが大切です。

 

従業員の労働時間をチェックする

従業員の労働時間は、疲労の蓄積を把握するための客観的な基準の1つです。長時間労働を続けると、疲労やストレスが蓄積されて過労死に繋がります。

 

先述した過労死ラインを参考にして、まずは長時間労働を是正することが過労死を防ぐために大切です。

 

医療機関の受診を勧める

過労死に繋がる可能性のある脳血管疾患や心臓疾患、精神障害などの症状が従業員に見られる場合は、医療機関の受診を促すことが大切です。

 

過労死のリスクを抱えた従業員が仕事に集中して自覚症状を見逃したり、忙しくて症状を放置したりするケースもあります。上司や同僚などが過労死の兆候を察知したら、病院を受診するように勧めましょう。

 

労働基準法・労働安全衛生法を遵守する

過労死を防ぐためには、労働基準法や労働安全衛生法を遵守することが重要です。これらの法律は、健康で安全に働くために必要な最低限の労働環境を定めた法律です。

 

労働安全基準法が労働条件の最低ラインを定めているのに対して、労働安全衛生法は労働者の安全や健康を確保することを目的に制定された法律です。

 

過労死予防のために健康的に働ける職場を目指すためには、労働安全基準法だけではなく労働安全衛生法も守る必要があります。下記の記事では、労働安全衛生法について詳しく解説しているので、参考にしてください。

 

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過労死に関する事例

 

最後に、うつ病と心筋梗塞を発症して過労死に至った事例を紹介します。

 

うつ病を発症した事例

長期にわたる残業で24歳の従業員がうつ病の発症後に、自殺に至った事例があります。本事例によると、その従業員は入社当初から長時間残業が常態化していたようです。

 

残業が続くような働き方に対して、上司らは有効な手だてを打たなかったため、状況は次第に悪化します。

 

従業員の睡眠不足が続き、疲労困憊の状態に陥り、健康状態も悪化してうつ病を発症しました。その後、出張から帰宅した際に風呂場で自ら命を絶った状態で見つかりました。

 

企業側は裁判にて安全配慮義務を尽くしていたことなどを主張しましたが、結果的に1億円以上の損害賠償が命じられたと報告されています。

 

心筋梗塞を発症した事例

トラック運転手が心筋梗塞を発症して過労死した事例です。この事例では、トラックの運転手が発症前2カ月で月に約71時間の時間外労働を行っていました。

 

発症前6カ月の仕事による拘束時間は、発症前1カ月から順に、216時間、302時間、278時間、266時間、219時間、291時間に及びました。

 

トラック運転手は配送先の物流センターで製品の積み込み中に倒れ、病院に搬送されましたが、心筋梗塞による死亡が確認されました。

 

本事例では、労働時間数で判断した限りでは、業務と病気の発症に強い因果関係は見られないとされました。しかし、労働時間以外の負荷要因を考慮した場合に、業務と発症との関連性が強いと評価され労災認定されました。

 

 

安全衛生活動で過労死を予防しよう

 

過労死として認定される基準として、過労死ラインが参考になります。しかし過労死ラインに至らない場合でも、労働時間以外の負荷要因を加味して過労死が認定されることもあります。

 

そのため、労働時間をコントロールするだけではなく、過労死の兆候を見つけて早めに対処することも大切です。さらに日頃から安全衛生活動に努め、過労死を予防する取り組みを継続させることも欠かせません。

 

 

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