メンタルヘルスとは?意味や定義、職場の対策方法を簡単に解説
片桐はじめ


職場のメンタルヘルスを良好に保つことは、企業の成長に欠かせない要素です。
一方で、ストレスチェックの実施やメンタルヘルス不調者への対応など、人事労務担当者が担う役割は複雑化しています。休職や離職を防ぐために、企業として何をすべきか悩むこともあるでしょう。
本記事では、メンタルヘルスの意味や企業に求められる法的義務、具体的な対策である「4つのケア」をわかりやすく解説します。従業員がいきいきと働ける職場づくりの参考にしてください。
目次
メンタルヘルスとは?
メンタルヘルスとは、直訳すると「精神的健康」や「心の健康」を意味します。
世界保健機関(WHO)は、「人々が日々のストレスに対処し、自分の能力を発揮し、よく学び、よく働き、自身の所属するコミュニティに貢献することができる、精神的なウェルビーイングが保たれている状態」と定義しています。
つまり、メンタルヘルスとは精神的な病気や不調がない状態だけを指すものではありません。意欲的に仕事に取り組み、能力を発揮できる状態がメンタルヘルスが良好だといえます。
出典:世界保健機関(WHO)職場のメンタルヘルス対策ガイドライン(厚生労働省)
メンタルヘルスが注目される背景
現代の日本において、メンタルヘルス対策は企業における経営課題の一つです。
メンタルヘルスが重要視される背景には、メンタルヘルス不調者の増加や法的責任の遂行、生産性への影響があります。
1.メンタルヘルス不調者の増加
メンタルヘルス不調によって1か月以上の休職、もしくは退職をした従業員の割合は、令和6年の発表では12.8%です。以下のグラフのように、令和2年~5年までは年々増加傾向にありました。

※「 労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 (令和2年~6年)」(厚生労働省)をもとに編集して作成
また、令和6年度の発表では、精神障害の労災認定件数(支給決定件数)は1,055件に達し、令和2年度から年々増加し続けています。

出典:業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況(厚生労働省)
2.企業に求められる法的義務
労働契約法第5条にもとづき、企業には従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があり、メンタルヘルス対策も含まれます。
仮に、長時間労働やハラスメントを放置し、従業員が精神疾患を発症した場合、企業は義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
安全配慮義務を果たすためにも、労働安全衛生法で定められたストレスチェックの実施などのメンタルヘルス対策を講じることが不可欠です。
※職場のメンタルヘルス│使用者の安全配慮義務(東京都労働相談情報センター)を編集して作成
メンタルヘルスを悪化させる3つの要因
メンタルヘルスの悪化は、単一の要因ではなく複数の要因が重なって起こります。メンタルヘルスを悪化させる要因は、主に以下の3つです。
- 業務上のストレス
- 対人関係
- 仕事以外の出来事
1.業務上のストレス
業務の負荷は、メンタルヘルスに影響を与える大きな要因です。業務の忙しさや難易度だけでなく、裁量権や評価のバランスが影響します。
<仕事の要求度>
仕事の要求度とは、仕事の量や精神的・身体的な負担の程度を指します。厚生労働省の調査でも、強くストレスを感じる内容として「仕事の量(43.2%)」が挙げられており、代表的なストレス要因です。
「納期が厳しい」「責任が重い」「長時間労働が続く」などの仕事の要求度が高い状態は、メンタルヘルス不調の原因となります。
※令和6年度労働安全衛生調査│個人調査(厚生労働省)を編集して作成
<仕事の裁量>
自分のペースや手順で仕事が進められるかどうかは、ストレスに影響します。裁量権が少なく、上司の指示通りにしか動けない状況は、やりがいを感じにくくさせます。一方で、能力に見合わない簡単な作業ばかりが続くことも、モチベーション低下の原因となります。
<努力と報酬のバランス>
自分の努力と貢献が、昇進や昇給、周りからの評価などの報酬に見合っていないと感じる状態もストレスの原因となります。「頑張っても報われない」という状況は、仕事への意欲を損なう可能性があります。
2.対人関係
職場での人間関係は、メンタルヘルスに直接影響します。上司や同僚とのコミュニケーションが円滑で、困ったときに互いに助け合える良好な関係は、職場のストレスを和らげる緩衝材として役立ちます。
一方で、職場内でのパワーハラスメントは従業員に極めて大きな心理的負荷となります。精神障害の労災認定理由においても、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」(224件)が最も多い結果となっています。
※業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況(厚生労働省)を編集して作成
3.仕事以外の出来事
メンタルヘルス不調の原因は、職場内だけとは限りません。私生活での大きな変化や出来事が引き金となることもあります。例えば、以下の様な家族関係や経済問題に関する要因が挙げられます。
【人間関係】家族との不和、介護問題、近親者の不幸
【経済問題】ローンや借金
【その他】自身の病気やケガなど
職場環境だけでなく、従業員が私生活の課題を抱えている可能性も理解しておくことが、不調の早期発見には重要です。
メンタルヘルス不調のサインと症状
メンタルヘルス不調は、本人も周囲も気づきにくいことがあります。しかし、不調が続くと「いつもと違うサイン」としてあらわれます。
メンタルヘルス不調のサインは、「こころ」「からだ」「行動」の3つの側面で現れることが特徴です。具体的な症状は以下のとおりです。
| こころのサイン | ・気分が落ち込む、憂うつ
・不安感やイライラが続く ・何事にも興味や関心がわかない ・集中力や思考力が低下する |
| からだのサイン | ・寝つきが悪い、夜中や早朝に目が覚める(不眠)
・食欲がない、または食べ過ぎる ・体がだるい、疲れやすい ・動悸、めまい、頭痛、肩こり |
| 行動のサイン | ・遅刻、早退、欠勤が増える
・仕事のミスや能率低下が目立つ ・周囲とのコミュニケーションを避ける ・服装や身だしなみが乱れる ・飲酒や喫煙量が増える |
管理職や人事労務担当者は、不調が疑われるサインがないか、従業員の「いつもと違う」変化に気づくことが必要です。特に「疲れているのに眠れない」「以前は好きだったことが楽しめない」という状態が続く場合は、注意が必要です。
メンタルヘルスが関連する代表的な精神疾患
メンタルヘルス不調を放置すると、精神疾患を発症する場合があります。職場でみられやすい代表的な精神疾患として、以下の5つを紹介します。
- うつ病
- 適応障害
- 社交不安障害
- パニック障害
- 睡眠障害
1.うつ病
持続的な気分の落ち込みや、喜び・興味の喪失を主な症状とする精神疾患です。食欲不振や不眠、疲労感など身体的な症状も伴います。
約100人に6人が生涯で一度、うつ病を経験するとされており、誰にでも起こりうる病気です。
※うつ病|こころの情報サイト(NCNP精神保健福祉研究所)を編集して作成
2.適応障害
職場環境の変化や負荷が大きな特定の業務、対人関係など、はっきりとしたストレス原因によって生じる精神疾患です。
うつ病に似た気分の落ち込みや不安感がみられますが、原因となるストレスから離れると、症状が改善する傾向があるのが特徴です。
3.社交不安障害
人前で注目を浴びる場面での強い不安感や恐怖を感じ、動悸や発汗、声のふるえがみられる不安障害の一つです。
例えば、会議での発表や電話対応など、他人と話す場面に強い恐怖を感じます。次第に恐怖を感じる状況を避けるようになり、業務に支障が出ることがあります。
4.パニック障害
突然、動悸や息苦しさ、めまい、強い恐怖感などにおそわれる「パニック発作」を繰り返すものです。
発作が収まっていても、「また起きるのではないか」という不安が強くなり、以前は問題のなかった電車や人混みを避けるようになってしまいます。
5.睡眠障害
「寝付きが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「朝早く目が覚める」などの不眠症状が続く状態です。
不眠に伴い、日中の眠気や集中力の低下を引き起こし、業務に支障をきたす場合があります。
メンタルヘルスにおける「4つのケア」
厚生労働省は、職場でメンタルヘルス対策を効果的に進めるために「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことを推奨しています。
「4つのケア」とは以下のとおりです。
- セルフケア(従業員自身)
- ラインケア(管理職)
- 事業場内産業保健スタッフによるケア(産業医・保健師など)
- 事業場外資源によるケア(外部EAPなど)
厚生労働省が推奨する「4つのケア」について、内容と実施のポイントを解説します。
1.セルフケア(従業員自身)
従業員が自分自身でストレスに気づき、対処することです。企業は、従業員がセルフケアを行えるよう支援する役割があります。従業員のセルフケアを推進するための取り組みとして、ストレスチェックや研修の実施が挙げられます。
ストレスチェックは、従業員のストレス要因や生じている症状の程度、周囲のサポートを数値化し、ストレス状態を把握する手法です。
研修では、十分な睡眠や運動、リラクゼーション法、ストレス対処などの方法を学ぶ機会を提供します。
企業としては、従業員が自身のメンタルヘルスケアを大切にする意識を持てるよう、積極的に働きかけていくことが求められます。
2.ラインケア(管理職)
ラインケアとは、管理監督者(部長や課長などの管理職)が部下のメンタルヘルス不調にいち早く気づき、対応することです。ラインケアの主な活動内容としては、以下の4つが挙げられます。
- 部下の変化への気づき:遅刻やミス、様子の変化など「いつもと違うサイン」を察知する。
- 相談対応:部下からの相談があったときに対応する。部下の話を遮らずに聴き、安全に話せる雰囲気づくりが求められる。
- 職場環境の改善:長時間労働や業務負荷が過重になっていないか把握し、調整する。
- 休職者の復職サポート:休職した部下が職場復帰する際に、本人の健康状態を配慮して業務量や役割などを調整する。
管理監督者が部下の変化にいち早く気づくことで、メンタルヘルス不調が深刻化する前に対処できます。
3.事業場内産業保健スタッフによるケア(産業医・保健師など)
セルフケアやラインケアが効果的に実施できるよう、産業医や保健師などの専門家が従業員や管理職を支援することです。
具体的には、ストレスチェックの実施や高ストレス者面談、ラインケアを行う管理職への助言を行うなど、専門的な立場から対策を支えます。
また、セルフケアやラインケアをテーマとして研修を行い、従業員のメンタルヘルスケアの意識向上を図る教育的役割もあります。
4.事業場外資源によるケア(外部EAPなど)
メンタルヘルス対策に関して専門的な知識がある社外の機関やサービスを利用することです。社内のリソースだけでは対応が難しい場合や、専門的な支援が必要な場合に活用します。
特に、専門スタッフの確保が難しい中小企業にとって、EAP(従業員支援プログラム)などの外部相談窓口の設置は有効な手段です。従業員が会社に知られることなく、カウンセラーに匿名で相談できるメリットがあります。
また、各都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、50人未満の事業場でも無料で相談や研修が受けられます。
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メンタルヘルス対策の具体的な進め方
メンタルヘルス対策を進める上で行うべき具体的な取り組みとして、以下の4つが挙げられます。
- ストレスチェックの実施と活用
- 相談窓口の設置と周知
- 管理職・従業員への研修
- 休職者の職場復帰支援体制の構築
1.ストレスチェックの実施と活用
ストレスチェックは、従業員のセルフケアを促す重要な役割を持ちます。また、個人の健康維持に加え、集団分析を通じて職場環境改善につなげ、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことが実施目的です。
ストレスチェック結果を部署や年代などの集団単位で分析することで、「どの部署のストレスが高いか」「ストレス要因は何か」を客観的に把握できます。分析結果を衛生委員会などで議論し、具体的な職場環境改善につなげることで、メンタルヘルス対策の実効性が高まります。
2.相談窓口の設置と周知
従業員が不調を感じたときに、安心して相談できる体制を整えることが重要です。産業医や保健師などが対応する「社内窓口」のほか、外部のEAPを導入し、相談のハードルを下げることも有効です。
相談窓口を設置する際は、相談内容や相談した事実が本人の許可なく共有されることはないことを周知しましょう。プライバシーが守られることを全従業員に伝えると、利用促進につながります。
3.管理職・従業員への研修
メンタルヘルス対策を組織の文化として根付かせるには、継続的な教育が不可欠です。対象者の役割に応じて、研修内容を変えて実施しましょう。
管理職向けには「ラインケア研修」が重要です。部下の不調サインの気づき方、正しい声のかけ方(傾聴)、ハラスメント防止など、管理職としての具体的な対応スキルを学びます。
一般社員向けには「セルフケア研修」が有効です。自身のストレス状態への気づき方、ストレス対処法(コーピング)、リラクゼーション法、社内外の相談窓口の利用方法などを周知し、自ら健康を維持する意識を高めます。
4.休職者の職場復帰支援体制の構築
メンタルヘルス不調による休職者がスムーズに復職し、復帰後の再発を防ぐためには、事前にルールを決めておくことが重要です。場当たり的な対応は、本人への過度な負担や現場の混乱を招く原因となります。
厚生労働省の手引きを参考に、主治医の診断書だけでなく、産業医の意見も聞いた上で復帰可否を判断するプロセスを具体的に定めましょう。
また、復帰後の業務内容や時間を段階的に調整する「職場復帰支援プラン」を作成します。本人と管理職、人事労務担当者、産業医が連携し、復職者の状態を共有しながらサポートする体制が求められます。
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従業員のメンタルヘルスケアを行う上での注意点
メンタルヘルス対策を進める上で、従業員に配慮すべき点は以下の2つです。
- 個人情報として厳格に管理する
- 不利益な取扱いがないよう配慮する
1.個人情報として厳格に管理する
従業員のメンタルヘルスに関する情報は「要配慮個人情報」に当たり、取り扱いには細心の注意が必要です。
情報の取得や、産業医・主治医との情報共有には、原則として本人の同意が欠かせません。情報へのアクセス権限を最小限に絞り、保管場所の施錠管理やパスワード設定を徹底するなど、厳格な管理体制を整備しましょう。
2.不利益な取扱いがないよう配慮する
企業が行うメンタルヘルスケア施策を受けた、もしくは受けなかった場合に、不当な取扱いをしないように十分配慮しましょう。例えば、以下のことを理由とした不利益な扱いが該当します。
- ストレスチェックを受検しなかった
- 高ストレス者として面談指導を申し出た
- 社内・外部の相談窓口を利用した
- メンタルヘルス不調を理由に休職した など
不利益な取扱いには、解雇、降格、不当な配置転換はもちろん、減給や退職勧奨なども含まれます。こうした行為は従業員の相談・申告を妨げる原因にもなるため、十分に注意して対応しましょう。
従業員のメンタルヘルスを守るには「実効性のある連携体制」が重要
メンタルヘルス対策は、不調の予防から早期発見、復職支援などと必要な対策が多岐にわたります。従業員本人だけでなく管理職、産業医、外部機関など多くの関係者が関与するため、取り組みをバラバラに行うのではなく実効性のある体制構築が不可欠です。
エムステージの「健康経営トータルサポート」は、産業保健体制の構築からストレスチェック、研修、復職支援まで、企業が抱える健康課題をワンストップで支援します。法令対応から不調防止の仕組みづくりまで、企業の状況に合わせた解決策を提案します。お気軽にお問い合わせください。

