企業のメンタルヘルスケアの取り組み事例を紹介!基本やメリットも解説
(更新:2025/09/11)
片桐はじめ


生産人口減少や高齢化に伴い、人手不足や採用難などの課題を抱える企業が増えています。
従業員の確保や生産性の向上を図る手段の1つとして、メンタルヘルス対策の重要性を認識しつつも、何から手をつければいいかわからない人事労務担当の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、企業のメンタルヘルスケアの基本から具体的な対策、失敗しないためのポイントを解説します。企業事例も紹介しますので効果的な取り組みのヒントを探してみてください。
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目次
企業が実施するメンタルヘルスケアとは?

企業が行うメンタルヘルスケアは、従業員の心の健康を保ち、いきいきと働ける職場をつくる取り組みです。
メンタルヘルスケアにおいて重要な「3つの予防段階」と「4つのケア」、メンタルヘルスケアが注目される背景について解説します。
3つの予防段階
メンタルヘルスケアは、問題の発生段階に応じて3つに分類されます。3つの各段階で適切な対策を講じることで、効果的なケアにつながります。
| 段階 | 目的 | 具体的な取り組み例 |
| 一次予防 | メンタルヘルス不調の未然防止 | ・ストレスチェックの実施
・長時間労働の是正 ・コミュニケーションの活性化 ・職場環境改善 |
| 二次予防 | メンタルヘルス不調者の早期発見・迅速な対応 | ・管理職による部下の変化への気づき、相談対応
・専門家へつなぐ相談窓口の設置 ・長時間労働や高ストレス者への医師による面談 |
| 三次予防 | 休職した従業員の職場復帰支援と再発防止 | ・職場復帰支援プランの作成
・試し出勤制度の導入 ・復職後の継続的なフォロー |
問題の発生段階によって対象となる状態や目的が異なるため、各フェーズに応じた予防策を講じることが効果的なメンタルヘルスケアにつながります。
厚生労働省が推奨する4つのケア
厚生労働省は、企業がメンタルヘルスケアを推進するために、以下の4つのケアを推奨しています。
| ケアの種類 | 主な担い手 | 内容 |
| セルフケア | 従業員自身 | 自身のストレスに気づき、対処する |
| ラインによるケア | 管理職 | 部下の変化に気を配り、相談対応や環境整備を行う |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医、保健師、心理職など | メンタルヘルスケア全体の企画立案や、組織における他のケアの支援を行う |
| 事業場外資源によるケア | 社外の専門機関・専門家(EAPなど) | 社内の相談体制を補完し、専門的なサポートを提供する。 |
4つのケアが適切に行われるように企業内の関係者が連携することで、メンタルヘルスケアの実効性を高めます。
※労働者の心の健康の保持増進のための指針(厚生労働省)を編集して作成
メンタルヘルスケアが重視される背景
近年、企業におけるメンタルヘルスケアの重要性が高まっています。背景には、社会的な要因や法的義務が関係しています。
社会的な要因としては、働く人のメンタルヘルス不調者の増加が原因の一つです。精神障害による労災請求件数は2018年度より6年連続で増加しており、従業員のメンタルヘルスが経営に及ぼす影響が大きくなっています。
また、2015年からは従業員50人以上の事業場でストレスチェックが義務化されました。企業には従業員のストレス状態を把握し、職場環境の改善に努めることが法的に求められています。
さらに、企業は従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を遵守しなければなりません。安全配慮義務を怠り、従業員がメンタルヘルス不調に陥った場合、企業が損害賠償責任を問われるリスクがあります。
従業員のメンタルヘルスを守ることは、経営面からも損失やリスクを避ける取り組みとして重要な取り組みです。
※「精神障害」の労災支給決定件数が6年連続の増加 ――厚生労働省の2024年度「過労死等の労災補償状況」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)を編集して作成
企業がメンタルヘルスケアに取り組むメリット

メンタルヘルスケアへの取り組みは、法的義務の遵守やリスク回避だけでなく、企業の成長を支えるメリットがあります。具体的には以下の3つです。
- 生産性の向上
- 離職率の低下と人材確保
- トラブルに対するリスクマネジメント
生産性の向上
従業員の心身のコンディションが改善されることは、生産性の向上に直結します。メンタルヘルス不調の従業員は、出社していても集中力や意欲が低下し、本来のパフォーマンスを発揮できない状態(プレゼンティーズム)に陥りがちです。
メンタルヘルスケアを通じて従業員のコンディションを健康に保つことで、パフォーマンス低下による隠れたコストを削減し、組織全体の生産性を高めます。
離職率の低下と人材確保
メンタルヘルスケアを通じて働きやすい職場環境を提供することで、離職率の低下や人材確保につながります。特に、若手社員はメンタルヘルス不調による休職から、そのまま退職してしまうケースが少なくありません。パーソル総合研究所が行った調査では、メンタルヘルス不調で休職した20代の社員の45.7%が休職後に自主退職していました。
新入社員や若手社員が安心して働ける環境を構築することで、早期離職を防止し、長期的な人材確保につながります。
また、メンタルヘルスケアに積極的に取り組む姿勢は、「従業員を大切にする企業」として社会的に評価されます。採用市場での競争力が高まり、優秀な人材の確保にも有利に働くでしょう。
参考:若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査│パーソル総合研究所
トラブルに対するリスクマネジメント
企業が安全配慮義務を怠った結果として、従業員がメンタルヘルス不調に陥った場合、従業員から損害賠償請求されるリスクがあります。例えば、メンタルヘルス不調の原因となる長時間労働が常態化しているにもかかわらず、企業が問題を放置し、対処しなかった場合などです。
従業員の不調を見逃さず、適切なメンタルヘルスケアにつなげることで、法的リスクの低減につながります。
また、従業員の不注意による事故は、メンタルヘルスの不調が背景にあるケースも少なくありません。集中力の低下などが原因で起こる労働災害を防ぐ観点からも、メンタルヘルスケアは有効なリスクマネジメントです。
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企業ができるメンタルヘルスケアの具体的な対策5選

メンタルヘルスケアを効果的に進めるためには、多角的なアプローチが必要です。企業が取り組むべき具体的な5つの対策を解説します。
- ストレスチェックの実施と職場環境改善
- 管理職や従業員への研修
- コミュニケーションを活性化させる仕組みづくり
- 相談しやすい窓口の設置と周知
- 産業医や外部EAPなど専門家との連携
ストレスチェックの実施と職場環境改善
ストレスチェックは、従業員自身のストレス状態への気づきを促すことに加え、組織の課題を可視化するために重要です。実施するだけでなく、部署や年代ごとの結果を集計・分析する「集団分析」を活用することで、より効果的なメンタルヘルスケアにつながります。
集団分析の結果から、特定の部署でストレスが高い傾向がみられた場合、原因を探り、具体的な職場環境の改善策を検討します。例えば、業務量の調整や人員配置の見直し、コミュニケーションの活性化などが考えられるでしょう。
管理職や従業員への研修
管理職が部下の異変に気づいて対応するラインケアや、従業員自身がストレスに対処するセルフケアの研修を行いましょう。
ラインケア研修では、管理職向けに、部下とのコミュニケーション方法や傾聴のスキル、相談を受けた際の対応方法などのテーマを学べると効果的です。
セルフケア研修では、ストレスマネジメントやリラクゼーションなどを学ぶ研修を提供し、従業員のストレス対処能力を高めます。
いずれの研修でも現場に即した課題をグループワークとして取り入れるなど、従業員が「自分ごと」と捉えられるような工夫が重要です。自分ごととして捉えることで、従業員が日常業務の中で学んだことを自主的に実践できます。
コミュニケーションを活性化させる仕組みづくり
職場の人間関係は、従業員のメンタルヘルスに影響します。風通しのよい職場環境を育むためには、コミュニケーションを活性化させる仕組みづくりが不可欠です。
上司と部下が定期的に1対1で対話する「1on1ミーティング」は、信頼関係の構築やメンタルヘルス不調の早期発見につながります。
その他にも、フリーアドレス制の導入や休憩スペースの設置など、部署を超えたコミュニケーションが生まれるようなレイアウトの工夫も有効です。テレワーク環境下では、雑談専用のチャットツールを設けるなど、孤立を防ぐための取り組みも重要です。
従業員同士のコミュニケーション機会を増やすことで、メンタルヘルス不調の兆候に気づきやすい環境が整います。
相談しやすい窓口の設置と周知
従業員が安心して悩みを打ち明けられる相談窓口の設置も必要です。社内に窓口を設けるだけでなく、プライバシーへの配慮から外部のEAPサービスに委託する方法も多く活用されています。
EAPとは「Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)」の略で、事業場外資源によるケアの一つです。外部のEAPサービスには24時間365日対応のものもあり、従業員が安心してすぐに相談できる点がメリットといえます。
窓口を設置する際は、相談内容の秘密保持や相談によって不利益な扱いを受けないことを伝え、従業員に周知します。ポスターや社内報、イントラネットなどを活用し、相談したいときにすぐアクセスできるようにしておくとよいでしょう。
産業医や保健師など産業保健スタッフとの連携
メンタルヘルスに関する問題は、専門的な知見が必要です。人事労務スタッフでは対応が難しい場合は、産業医や保健師などの産業保健スタッフと積極的に連携しましょう。
産業医からは、ストレスチェック後の高ストレス者面談や休職・復職時の意見など、医学的な見地からの助言を受けられます。また、管理職が部下の不調に気づいたときなど、初期対応の相談先として、まずは保健師と連携することも効果的です。
産業医や保健師などの産業保健スタッフが社内にいない場合は、外部の専門職相談サービスに委託することも選択肢の一つです。
企業のメンタルヘルスケアで失敗しないためのポイント
メンタルヘルスケアに取り組む一方で、施策が形骸化してしまう「やってるつもり」の状態に陥ることも少なくありません。メンタルヘルスケアを継続的に実行するためには、以下の3つのポイントが大切です。
- 「一次予防」に重点を置いた対策を行う
- 「心理的安全性」を高めて相談しやすい組織にする
- 「費用対効果」を示して経営層を巻き込む
「一次予防」に重点を置いた対策を行う
メンタルヘルスケアは、不調者が出てからの対応(二次予防)や休職者の復帰支援(三次予防)に目が行きがちです。しかし、問題が発生してからでは、本人への負担はもちろん、周囲の従業員や組織全体のコストが大きくなります。
効果的な対策として、そもそも不調者を発生させない「一次予防」に重点を置きましょう。
長時間労働対策やハラスメントが起きにくい職場風土づくりなど、ストレスの原因を取り除く取り組みにリソースを割くことが大切です。
「心理的安全性」を高めて相談しやすい組織にする
相談窓口を設置しても利用されなかったり、研修で学びが現場で生かされなかったりする背景には、組織の「心理的安全性」の低さがあります。心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。
心理的安全性が低い職場では、従業員は「弱みを見せると評価が下がる」「相談しても無駄だ」と感じ、問題を一人で抱え込んでしまいます。
個別の施策を導入する前に心理的安全性を醸成することで、メンタルヘルスケア施策の効果を高められます。
「費用対効果」を示して経営層を巻き込む
メンタルヘルスケアを全社的な取り組みとして推進するためには、経営層の理解とコミットメントが欠かせません。経営層に「従業員のために必要だ」と訴えるだけでは単なるコストとみなされ、積極的な関与が得られない可能性があります。
経営層を巻き込むために重要なのが、メンタルヘルスケアを「投資」として捉え、その費用対効果を定量的に示すことです。
例えば、プレゼンティーズム改善による生産性向上や、離職率低下による採用・育成コストの削減などを具体的な数値で説明します。経営層がメンタルヘルスケアが「経営戦略として重要だ」と理解できることで、全社的な取り組みへとつながります。
企業におけるメンタルヘルスケアの取り組み事例

実際にメンタルヘルスケアに先進的に取り組んでいる企業の事例を5つ紹介します。自社の課題解決のヒントとして活用してみてください。
株式会社小田急フィナンシャルセンター
株式会社小田急フィナンシャルセンターでは、オフィス移転を機にフリーアドレスやABW(ActivityBasedWorking)を導入し、働きやすい環境を整備しました。レイアウト変更は、従業員の積極的に取り入れることで、組織全体の「風通しのよさ」が高まりました。また、単に制度を導入するだけでなく、研修を通じて新しい働き方のメリット・デメリットを丁寧に周知し、従業員の理解を促進しています。
また、ストレスチェックの結果を部署ごとにフィードバックし、結果の見方をレクチャーする研修を実施。グループワークを取り入れることで、従業員同士のコミュニケーションを活性化させ、組織全体の課題解決につなげています。
参考:「声が届くオフィス」で安心して働ける職場へ│小田急フィナンシャルセンターが目指す心理的安全性の向上│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
AREホールディングス株式会社
AREホールディングス株式会社では、従業員が人事部門を介さずに直接保健師へ相談可能な「社内保健室」を設置しました。相談への心理的なハードルを下げ、メンタルヘルス不調の初期段階から、専門職が介入しやすい体制を整えています。
さらに、ストレスチェックを活用し、属性ごとのストレス傾向を詳細に分析。特にストレスレベルが高い部門には個別のフィードバックを行い、現場の管理者と直接対話することで、具体的な課題の把握と改善策の検討を進めています。
参考:一人ひとりの心身の健康こそが企業の財産|AREホールディングスの健康経営への想いとは│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
磐梯町役場
福島県磐梯町役場では、従業員の相談しやすい体制構築に重点を置いています。メンタルヘルス不調者に関して、相談のハードルを下げるために匿名のWebフォームを設置し、誰もが声を上げやすい環境を整備しました。
加えて、管理職向けと一般職員向けに階層別のハラスメント研修を実施。特に、管理職向けの研修では、具体的なシチュエーションや発言のよい例・悪い例を紹介するなど、現場で実践しやすいテーマ設定が特徴的です。
それぞれの立場に応じた知識と対応スキルを身につけることで、ハラスメントの未然防止と、発生時の適切な対応を目指しています。
参考:時代にあわせた価値観のアップデート│磐梯町役場が目指す風通しの良い職場づくり│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
株式会社テルミック
女性活躍推進に注力する株式会社テルミックでは、コミュニケーション活性化のためのユニークな福利厚生制度を導入しました。
例えば、定時退社した社員3名以上が社内で食事会を行う場合に費用を補助する「イートインテルミック」制度は、部署を超えた交流を促進しています。
コミュニケーションを促進する取り組みに加え、定期的な面談やカウンセリング体制を整えることで、従業員のメンタルヘルスを支えています。
参考:女性従業員の活躍を推進する株式会社テルミックが取り組む健康経営とは│株式会社エムステージ 健康経営トータルサポート
メンタルヘルスケアで従業員がいきいきと働ける職場環境を
メンタルヘルスケアは、単なる福利厚生の一環やリスク管理のためだけのものではありません。組織の生産性を向上させ企業の持続的な成長を支える、経営面でも重要な取り組みです。
紹介したポイントや事例を参考に、自社の課題に合ったメンタルヘルスケアを推進し、従業員がいきいきと働ける職場環境を実現しましょう。
「何から手をつければいいかわからない」「専門家のサポートが欲しい」とお考えの人事労務担当者の方は、ぜひ一度、エムステージの健康経営トータルサポートにご相談ください。ストレスチェックから研修、復職支援まで、企業の課題に合わせたメンタルヘルス対策を提案します。お気軽にお問い合わせください。

