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従業員のメンタルヘルス不調は休職や離職につながり、企業の生産性低下や法的リスクを招く可能性があります。そのため、メンタルヘルスケアの意識を高め、早期に対応するためのメンタルヘルス研修が重要視されています。
しかし、「研修を実施したいが、どのような内容が効果的か」「対象者別にどうプログラムを組むか」など、具体的な進め方で迷う人事労務担当者も多いでしょう。
本記事では、メンタルヘルス研修の目的や種類、具体的な内容、企業事例までを解説します。自社の課題に合った研修を企画し、働きやすい職場づくりを推進するための参考にしてください。
目次
メンタルヘルス研修の目的は、従業員が心身ともに健康で働ける職場環境を作り、組織の生産性を維持・向上させることです。
メンタルヘルス対策の基本には、以下のように「3つの予防」があります。メンタルヘルス研修は、「3つの予防」を組織全体に浸透させ、従業員が具体的に実践できるようにするために行われます。
メンタルヘルス研修では、「3つの予防」の全てのフェーズに対応できる知識とスキルを、対象者別に習得します。
メンタルヘルス研修のメリットについて、従業員と組織の2つの側面に分けて解説します。
不調を抱え込まないようストレスをうまく管理するスキルを身に着けることで、人間関係の改善やモチベーションの向上が期待できます。
社員一人ひとりの力を最大限に引き出し、風通しの良い組織を作ることで、離職率の低下や企業価値向上などが期待できます。
メンタルヘルス研修は、全従業員向けや管理職向けなど、対象者や目的にあわせて内容が異なります。主な研修の種類は以下の5つです。
メンタルヘルス対策にあたって、従業員の健康状態に大きな影響を与える「ハラスメント対策」と、不調発生時の「組織的な対応と制度づくり」は必要不可欠です。
そのため、「ハラスメント研修」と「人事労務向け研修」の2つは厳密にはメンタルヘルス研修とは異なりますが、企業のメンタルヘルス対策を実効性のあるものとするために密接に連携し、あわせて実施されるべき重要なテーマとしてご紹介します。
全従業員を対象とし、従業員自身がストレスのメカニズムを理解し、不調に早期に気づき、自ら対処できるスキルを身につけることを目的とします。
代表的な研修テーマとして以下のような例が挙げられます。
研修では、まずストレスが心身に与える影響を学びます。あわせて、自身のストレス状態に気づくためのチェック方法や、ストレスを感じたときに実践できる対処法を習得します。
特にマインドフルネスや呼吸法は、職場ですぐに実践できるリラクゼーション方法として有効です。また、社内にどのような相談窓口があり、どう利用すればよいかを具体的に周知することも重要な内容です。
セルフケア研修は、全従業員が自身の健康を守るための基礎知識を学ぶ、「メンタルヘルス対策の入り口」といえます。
管理職を対象とし、部下のメンタル不調を未然に防ぎ(一次予防)、早期に対応する(二次予防)スキルを習得することが目的です。部下の変化に気づき、職場環境を調整する能力を養うため、組織的な対策において重要な研修です。
ラインケア研修での代表的なテーマは以下のとおりです。
研修では、法的責任などの知識に加え、実践的なスキルを重視します。特に「傾聴」は、部下との信頼関係を築くためには欠かせない技術です。
また、管理職が陥りやすい「不調が疑われる従業員の放置」や「不適切な叱咤激励」などのNG対応を知り、リスクを回避する方法を学びます。
全従業員および管理職を対象とします。ハラスメントの定義、影響、防止策を理解し、お互いに配慮した適切な言動を学びます。これにより、心理的安全性の基盤を築き、職場環境を改善します。
ハラスメント研修での代表的なテーマは以下のとおりです。
管理職向けには、ラインケア研修と統合し、アンガーマネジメントやアサーションなどのコミュニケーション方法をあわせて学ぶことで、ハラスメント防止にさらに有効です。
全従業員を対象とし、困難やストレスに直面した際の回復力や適応力を習得することが目的です。特に、環境変化が大きい新入社員や若手社員を対象に、不調を未然に防ぐ一次予防として導入されています。
具体的には、以下のように感情のコントロール方法やポジティブな考え方を身につけ、失敗や挫折を乗り越える力を習得します。
人事・労務担当者や産業保健スタッフを対象とし、不調者や休職・復職者対応の実務知識を深めるとともに、「メンタルヘルス不調者をケアする支援者自身の負担軽減」(二次疲労予防)を目的とします。
人事労務担当者向け研修の代表的なテーマは以下の通りです。
研修の実施形式や学習方法にはいくつか種類があります。それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自社に最適なメンタルヘルス研修を実施しましょう。
以下では、3つの実施形式と4つの学習方法を解説します。
研修の実施形式は、主に「e-ラーニング」「オンライン」「対面(集合研修)」の3つに分けられます。それぞれにメリットとデメリットがあり、コストや学習定着率が異なります。
| 実施形式 | メリット | デメリット |
| eラーニング | ・時間や場所を選ばず受講できる ・コストを抑えやすい ・知識のインプットに適している |
・実践(ロールプレイ)が困難 ・受講者のモチベーション維持が難しい |
| オンライン研修 | ・場所の制約がない ・グループワークや質疑応答が可能 ・対面よりコストを抑えられる |
・場所の制約がない ・グループワークや質疑応答が可能 ・対面よりコストを抑えられる ・通信環境に左右される ・対面より一体感や緊張感が薄れやすい |
| 対面研修 | ・ロールプレイングなど実践的な演習に最適 ・受講者の集中力が高まり、一体感が生まれやすい ・行動変容を最も促しやすい |
・会場費や交通費などコストが高い
・日程や場所の調整が必要 |
研修の学習方法は、「座学」による知識習得から「ロールプレイ」などの実践的な演習まで多岐にわたります。目的に応じて、学習方法を使い分ける必要があります。
| 学習方法 | メリット | デメリット |
| 座学(講義) | ・知識(法的義務、理論など)を体系的にインプットできる。 | ・受講者が受け身になりやすい。
・実践的なスキルが身につかないことがある。 |
| グループワーク | ・他の受講者の視点に触れられる。
・自社の課題発見や、コミュニケーション活性化につながる。 |
・ファシリテーター(進行役)の技量によって成果が左右される。 |
| ケーススタディ | ・現実に起こりうる問題を疑似体験できる。
・知識をどう使うかの応用力が養われる。 |
・適切な事例設定が難しい。 |
| ロールプレイ | ・「傾聴」や「声がけ」のスキルを実践的に習得できる。
・受講者自身のクセや課題に気づける。 ・行動変容に直結しやすい。 |
・受講者の心理的ハードルが高い場合がある。
・フィードバックできる専門家が必要。 |
メンタルヘルス研修は、座学だけで終わらないことが受講者の行動変容につながります。
特に管理職向けのラインケア研修では、座学で「NG対応(例:不適切な叱咤激励)」のテーマを学んだ後、「ケーススタディ」や「ロールプレイ」を取り入れると効果的でしょう。
部下への声がけや傾聴の技法を体験し、講師からフィードバックを受けることで、現場で使えるスキルとして定着します。
また、e-ラーニングと対面研修を組み合わせる方法も効果的です。例えば、「ストレスの仕組みや法的義務などの基礎知識はe-ラーニングで事前に学習し、対面研修当日はロールプレイに集中する」という組み合わせです。
研修の目的や自社の働き方などを加味して、最適な形式を選びましょう。
多くの企業が、自社の課題解決のためにメンタルヘルス研修を導入しています。テレワークの普及に伴う管理職の不安解消やストレスチェック結果の活用、ハラスメント防止など、目的はさまざまです。
メンタルヘルス研修を実施している企業の導入事例を紹介します。
株式会社小田急フィナンシャルセンターは、ストレスチェックの結果を単なる法令対応で終わらせず、従業員の健康維持・改善に繋げるため、メンタルヘルス・ヘルスケア研修を強化しています。
管理職向けには、ラインケアの重要性や1on1ミーティングの実践方法など、具体的な知識に焦点を当てた研修を実施。従業員向けにはセルフケアをテーマとし、「ストレスは誰にでも起こりうる」という共通認識と安心感を醸成しました。
また、研修でのグループワークが、従業員同士の対話と共感の機会にもつながっています。参加者からは「悩んでいるのは自分だけではないと安心した」という声が上がり、ストレスを「自分ごと」として捉え、ポジティブに向き合う意識が育まれました。
※「声が届くオフィス」で安心して働ける職場へ│小田急フィナンシャルセンターが目指す心理的安全性の向上(健康経営トータルサポート)を元に編集して作成
磐梯町役場は、ストレスチェックの集団分析結果に基づき、職員の課題に合わせたメンタルヘルス・ハラスメント研修を実施しています。
特に注力しているのがハラスメント研修です。管理職と一般職でテーマを分け、当初オンライン予定だった研修を、より理解度を深めるために対面実施に変更しました。
管理職向け研修では、「部下への具体的な声かけの良い例・悪い例」を紹介し、日々の業務にかかわる内容を中心に盛り込みました。
結果、研修後アンケートでは管理職から「自分の言動が意図せずハラスメントになり得ると気づいた。今後のコミュニケーションで注意したい」という具体的な声が上がるなど、組織全体の意識改善につながっています。
※時代にあわせた価値観のアップデート│磐梯町役場が目指す風通しの良い職場づくり(健康経営トータルサポート)を元に編集して作成
メンタルヘルス研修は、行動が変化することで真に実効性のある取り組みとなります。メンタルヘルス研修を成功させるためには、以下の3つのポイントを意識して計画しましょう。
メンタルヘルス研修のよくある失敗は「やりっぱなし」で終わることです。研修の内容を理解し、日々の実践につなげてもらうことが真の目的といえます。
「やりっぱなし」で終わらせないためには、研修効果を測定する指標を「研修への満足度」ではなく「行動変容」に設定することが大切です。具体的には、研修3か月後に上司や部下へアンケートを行い、行動の変化を測定します。
また、研修で学んだ傾聴などのスキルをOJTや人事評価の項目に組み込むなど、現場での実践を促す仕組み作りを不可欠とすることで、研修内容の定着を図ります。
従業員が問題意識を持ちやすい課題に合わせて、テーマ設定をしましょう。現場のニーズを無視したテーマは、従業員の関心を得られません。「めんどくさい」「面白くない」という印象を抱かれ、理解度も半減してしまうでしょう。
組織課題に応じたテーマ設定のためには、ストレスチェックの集団分析結果を活用することが有効です。「どの部署が高ストレスか」「要因は何か」を分析し、自社の実態に合わせたテーマを設定すると、従業員が関心を持ちやすいでしょう。
メンタルヘルス研修を実践的なものにするには、外部委託も選択肢の一つです。研修をストレスチェックや面談対応などと連動させることで、実効性が高まります。具体的には、以下のように連動させることが可能です。
選定時には、講師の専門性や研修後のフォローアップ体制が十分かを重視しましょう。研修後の効果測定や担当者とのミーティングなど、学んだことを現場で定着させる支援策があるかを確認することで実効性が高まります。
メンタルヘルス研修は、メンタルヘルス不調の予防だけでなく生産性向上や心理的安全性の醸成にもつながる取り組みです。
重要なのは、研修効果を測定する指標目的を参加者の満足度に置かず、従業員の行動変容や職場環境の改善に設定することです。そのためには、ストレスチェックや面談から得られた現場の課題にもとづき、実践的な研修を設計することが求められます。
株式会社エムステージでは、企業の課題に合わせたメンタルヘルス研修サービスを提供しています。ストレスチェック結果や現場の状況にもとづいて、最適な研修テーマの設定が可能です。また、研修実施後の効果測定も行い、テーマや実施形式を相談しながら進められる継続的なフォロー体制も充実しています。お気軽にお問い合わせください。
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